表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

240/465

ただの与太話



 ウェインは言う。

 現実と物語とは別だと。

 それはウェズンもイアも理解はしている。

 物語みたいに現実は優しくないし、途中で色々な困難があったとしても物語であれば最後はハッピーエンドだけれど、現実はそうとは限らない。

 わかっている。

 わかっているのだ。



「……まぁ、物語で言えば勇者というのはどういう立場か。

 それを考えると少なくとも勇者を選ぶという選択肢は当時の私たちにはなかったな」


「物語とは違うけど、物語で言うところの立ち位置……?」

 ふむ、とウェズンは考える。


 テラプロメの話の時とは違い、これは与太話だとウェインは言った。

 つまりは、真剣に捉えずとも良いという意味だと受け取る。


 勇者、と言われてウェズンが瞬時に浮かぶのはどうしたって前世のゲームだとかである。

 魔王に限った話じゃないが、とりあえず世界を救う主人公。

 そういう認識が強い。


 そしてイアも、前世で見た作品からウェズンと似た認識であった。


 だがしかし、ふとウェズンの表情が曇る。


「……全ての物語に限った話じゃないけれど、それでも勇者って特別な力を持った場合が多いよな。

 なんて言うか、こう、神様のご加護がある感じだとか」


 血筋、というだけならまだしも。

 ある日神託を受けて、特殊な力を授けられるだとか。


 世界の命運は貴方にかかっているのです、とか言われて旅立つオープニングが容易く想像できる。


「あぁ、割といい線いってる」

「神の尖兵……つまりそういう事?」

「それもある」


 神の代理人、なんて立場もあった気がするが、少なくともこの世界の価値観では違うだろう。

 一時でも神の代理を務めるのであれば、その隙に世界を救うイカサマみたいな手段があるかもしれない。そう都合よく存在しているとも思わないが。


 だが、よくよく考えてみれば勇者というのは地上に干渉できない神が、勇者という代理に世界を救う役目を与えているようなものだ。

 何故地上に干渉できないか、は作品ごとに異なるが神の国での決まり事だとか、はたまた事前に力を消耗するような何かがあって今の自分では以前のように力を使えないだとか。


 少なくともこの世界に神の国とやらは無いような気がする。

 もし神前試合の時にしかお目にかかれない神とやら以外にも別の神がいたとして。

 それがどれくらいいるかはわからないが、満場一致で世界滅ぼすと決めたならそれこそ神が総力を結集してとっくに世界を滅びに向かわせている。


 この世界の神は複数はいないと思えた。


 事前に力を消耗して、という可能性も考えるが、それはよくわからなかった。

 単純に自分がかける手間を省きたいとかそういう感じがする。



 世界を滅びからどうにかしたい状況であるというのに、勇者という立場はそういう意味では確かにどうかと思えてくる。

 神側。世界を滅ぼす事に同意している側と受け取られてもおかしくはない。

 いや、学院の生徒たちは流石にそう思っているわけではないだろう。

 もしかしたらそういう考えの者も中にはいるかもしれないが、しかしそれにしたって全員がそう、とは限らない……はずだ。


 けれども確かにそう言われてみれば、神の陣営と見る事ができる勇者を選ぼう、とは思うはずもない。



 テラプロメの思惑というか、そういう意味で考えればウェインはテラプロメの言いなりになってやるつもりはこれっぽっちもないけれど、しかしだからといって神の側につくような真似をするつもりもなかった。

 事前に学園か学院か、どちらに身を寄せた方がよりファムが安全であるかを考慮した時に、神前試合で勝利した場合、神が褒美を与えるその気まぐれが発動しやすいのはどちらか、というのもできる範囲で調べた。

 結果として、やはり自分の側と思えるべき勇者に比率は若干傾いていたようではあるけれど、しかし魔王側に褒美が与えられる事がないわけでもなく。



 であるならば、あとは己の行動次第というわけか……と思ってウェインは躊躇う事なく学園を選んだに過ぎない。

 それに――


「もう一つ、学園を選んだのには理由がある」

「どんな?」

「当ててみろ」


 さっさと正解を言えばいいだろうに、とウェズンは内心で思いつつも、もしかして久々に子供と話してテンションでも上がってんのかな……ととても冷めた事も思った。

 普段ロクに家族と接してないとたまの接点無駄に引き延ばそうとする人はそれなりにいるもんな、とどこまでもドライである。


 まぁ仕方ない。これも一種の親孝行と考えて、ウェズンは少しだけウェインの戯れに付き合う事にした。


「それってやっぱりさっきみたいな感じの理由?」

「そうと言えなくもない」

「……ふぅん」


 隣のイアを見ればイアはさっぱりわからないのか、うんうん唸って悩んでいる。


 イアも一応前世でいくつか、剣と魔法の世界が舞台のファンタジー作品を見ているとはいえ、そのすべてを覚えているわけでもないし、ましてやそこからヒントを得ようにも足りないピースの方が多いのだろう。


 ウェズンとしては何となく想像がついてしまった。

 それというのも王道ジャンルが派生しまくってひねくれた解釈の話が増えた挙句、そういった作品をこよなく愛する前世の弟や妹たちのおかげである。


「言い方、というか見かたをずらすとさ、勇者って殺し屋だよね」

「ほう」


 そんなある意味捻くれているとしか思えないウェズンの言葉に、ウェインの目がパッと輝く。


「物語やお伽噺にありがちな勇者物語って、あれ結局人間目線で語ってるからいかに魔王が人類にとって脅威であるか、倒さねばらなぬ存在であるかが前面に出るけど、そういった種族間の事を抜きにして単なる人間同士の争いってところに型を落とし込んだらさ。

 敵国同士の戦争に精鋭を派遣した、ってだけの話にまでなるよね。


 要するに邪魔な他国の王様を殺すための暗殺者として選ばれた。

 それを勇者って言葉で誤魔化してる……とも受け取れる」


 王様から依頼されて魔王を倒してこいと言われる勇者の図は、ちょっと立場を変えれば隣国の王を暗殺してくるように依頼された暗殺者にも通じる。


 物語にありがちな、何故軍勢を率いて魔王を倒しに行かないのか、はそもそもその時点で軍勢を率いて攻め入るだけの戦力が失われた後か、はたまたあまりにも大仰な行動に出てこちらの動きを悟られると困るから。

 そういう意味では少数精鋭で暗殺者放った方が成功率が上がると考えられての結果である……と言われれば、まぁ、納得できなくもない。

 まぁそれでも戦力があるならその時点で戦争吹っ掛けた方がまだマシに見えるという考えは確かにあるのだけれども。


「暗殺者養成学校、なんて言葉だととても後ろ暗い感じしかしないから、勇者って言葉のオブラートで包めば体裁はとても整うよね」

「おにい冴えてる……!」


 その発想はなかった、みたいな顔をされてイアに見られても、正直あまり嬉しくはない。

 その理屈でいくと物語の魔王って敵国の王族とかならまだいいが、最悪蛮族みたいな扱いを受けかねないので。


 まぁ侵略者という立場である事には変わりはないような気もするが。



「で、父さんが学園を選んだ理由だったっけ。

 詳しくは聞いてないけどテラプロメでレッドラム一族の監視って立場だったんだよね?

 あぁ、じゃあ、学院の方が今までのやり口と似てるからやりやすくはあるだろうけれど、でも同じようなのに埋もれるよりかは……敵対している学園の方が相手の手口もわかりやすく対処がしやすい?」


 魔王だとか勇者だとかで考えず、殺し屋あたりで考えてみればとてもわかりやすかった。


 学院は学園の生徒を倒すために定期的に強襲イベント授業が起きるようだし、そういう意味では確かに暗殺にやって来たと言われても間違ってはいない。

 ウェインならそちらの方がやり方というかやり口的にもそう躊躇う事もなくすんなりと馴染んで好成績を出しただろう。けれども、同じような連中の中でちょっと成績が良いだけでは。

 仮に神前試合に選ばれて、同じような仲間と共に参加して、しかしそこで神の目に留まる事が果たしてあっただろうか……? と考えると微妙である。


 既に過去の話で成功例みたいに言われているからまだしも、当時のウェインにとっては先の話などまさに未知数。

 ファムを守るためにテラプロメの干渉をどうにか回避しなければならない。

 神前試合で神を倒す事ができればいい。生徒同士の殺し合いの後、その機会が訪れればそこで事態は解決できる。けれどもそうでなかった場合、あとはもう神の目に留まりどうにか褒美をくれてやろうという方向に持ち込まなければテラプロメからの追跡も刺客も止まらない。


 再び学園に在籍し続けるにしても、一度既に神前試合に出た以上、次の機会には余程人材がいないとかではない限りこの舞台に立つのは難しい。


 結果的に三度、ウェインは神前試合に参加したけれど、しかし当時はそんな先の話などわかるはずもない。

 一発限りの勝負。


 そうして考えるならば。


 暗殺者として育てられる学院よりも、防衛――守りに徹する側に回った方がまだマシに思えたのだろう。

 テラプロメで自分がやってきたような戦い。学院の生徒たちのやり口は恐らくそれと大差ない。

 であれば、既にどういう仕掛け方をしてくるか、ウェインには考えるまでもなくわかりきった事で。


 最初からわかっている攻撃を対処する事など、造作もないのだ。


 敵として戦う側の手口がわかりきっていれば、そりゃあ楽もできようというものである。

 まぁ、それでもそれなりに相手側は実力者だったが。

 けれどもどういった戦闘スタイルでくるかもわからない相手よりは、難易度が大きく下がっていたのも事実なのだ。



 とはいえ、常人であれば間違いなく一人で相対すれば負けは確実だっただろうけれど。


 そして結果は――


 神を殺す事はできずとも、ウェインにとってはある種の目的が達成できたと言えよう。



 そういう部分もあってウェインが学園を選んだ、というのをウェズンは成程ね、とようやく腑に落ちた気がした。


 大体勇者と魔王という言葉から選ぶのであれば、世間一般は勇者側を選択しそうではあるのにどうして魔王側だったのか。

 ウェインの言い分を聞いて、そして今更のように確かにこの世界の神様はこの世界を滅ぼそうとしているし、そういう意味では敵なんだよなぁ……と改めて確認する。

 勇者なんて話によっては神の手駒も同然だ。そこに気付いた者であれば、選ぶはずがない。

 この世界を滅ぼそうという共感者でもない限りは。


 ……とはいえ、まぁ。


 学院の生徒たちのほとんどはそこまで考えてはいないんだろうな、とも思う。

 そこまで深読みしてるのは、ある程度そういった事情に詳しい一族とか、伝承を受け継いでるとかのそこそこ裏事情を知っていそうな者たちくらいだろう。


 イアの反応からして多分ここら辺原作とやらには一切かすっていないんだろうな、とは思うものの。

 それでも。


 ウェインがあえて魔王養成学校を勧めた理由は判明した。


 これがもし原作にもある展開であったとするならば。

 原作のウェズン少年はここでギスギスしていた親と和解する事になったのだろうか……なんて。


 ウェズンは原作を知らないなりにそんな風に考えたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ