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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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寒さ耐性 低



 ――さて、課外授業当日である。


 学園に存在する神の楔によっての転移で基本的に目的地またはその周辺に一瞬で行ける事もあって、生徒たちの大半は案外気軽であった。

 ウェズンのいるクラスとは違う教室の生徒たちも同じく課外授業らしく、見知らぬ顔がそこかしこにいたけれどやることはそこまで変わらないようだ。


 ちなみに、武器に関しては一度部屋に戻った時にナビが家から届いていたと言って渡してくれた武器を使う事にした。どうやら父が用意してくれたらしい。

 武器の良し悪しなど勿論前世血生臭い職業についていなかったウェズンにわかるはずもないので、親が見て多分これなら……といった感じで用意してくれた武器ならそこそこ安心だろう。確認したところイアの所にも同じように武器が届けられていたらしい。


 レンタル申請する前で良かった。


 前日は図書館で魔法書をいくつか読みふけり、簡単なやつなら覚えられた気がする。

 実践してないので本番で失敗する可能性はあるけれど、もし失敗しても一応浄化魔法があるのでそこまで酷いことにならないと思いたいところであった。


「それじゃあイア、気を付けるんだぞ」

「おにいも、頑張ってね」


 そんな風にお互い言葉を交わして、神の楔の転移にてそれぞれの目的地へと向かう。


 ここまでは、何も問題はなかったと言える。



 ウェズンたちの目的地であるセルシェン高地――の程近くにあった神の楔に転移して最初に浮かんだ感想は思っていたより殺風景だな、であった。

 荒野とまではいかないが、所々に荒れ地が目立つ。草木が全く生えていないわけではないから、課題でもあるカミリアの葉の採取に関しては問題なさそうだが、正直ここでわざわざ薬草を採取する意味はあるのだろうか、と思えるような、そんな場所だった。

 ざっと見まわす限りでは、今のところ近くに魔物らしき存在はいない。


 ついでに言うと人の姿も特に見当たらなかった。もしかしたら同じ場所で別の課題をするかもしれない生徒がいるかと思ったが、どうやらそういう事にはならなかったようだ。


「は、くしゅっ……! 結構冷えるな」

「え? そう?」


 ずっ、と鼻をすする音を立ててルシアが言う。

 確かに学園と比べれば多少涼しいとは思うが、冷える、という程ではないと思う。実際ヴァンを見ればこちらは特に寒そうにしていないどころか平然としている。


「正直あまり長居したい感じじゃないし、さっさと課題終わらせようか。うあ、さっむ」

 ぶるりと身を震わせてルシアは無造作な足取りで先へ進んでいく。今は魔物の姿が見えないとはいえ、流石にそれは無防備すぎやしないだろうか。


 セルシェン高地に出るらしき魔物を事前に調べた結果、そこまで強そうなのはいなかった。だからこそなのかもしれない。もしもっと油断できそうにない場所であればこんな風にはしていなかっただろう。


「あ、あれじゃないかカミリア。群生してる、ラッキーだな」

 少し先を行く事で目的の薬草が見えたらしく、ルシアは振り返りざま「ほらあれ」とばかりに指を前方に向けて指し示した。

 離れたところに点々と生息されるよりは、確かに纏まって生えてる方が採取する時に楽と言えばそうなのでルシアの言い分もわからなくはない。

「流石に根こそぎ採っちゃうと次から生えなくなるかもしれないから、そこは気をつけろよ」

「わかってる」


 もしまた次に同じような課題をやらなければならなくなった時に根こそぎ採った後だったら、苦労するのが目に見えている。その苦労するのが自分たちでない可能性もあるけれど、前回ここで採取してった奴誰だよ、なんて話になれば無駄に恨みを買いかねない。


 ルシアが群生しているカミリアの方へと進んでいったので、ウェズンとヴァンもまた視界からそれぞれの姿が見える範囲で他の場所を探し始める。

 ルシアが向かった群生している場所から数メートル離れた先に、点々と生えているのを見つけてウェズンはそちらで採取する事にした。


 どれくらいの量を採ってくればいいのだろうか、と疑問に思っていたものの、ここに来る直前にテラから袋を渡されたので恐らくはそれ一杯になるまで、という事なのだろう。

 渡された袋の大きさは精々スーパーで買い物をした時の物に近い。特大サイズじゃないだけ助かったが、それでもLサイズ表記されるであろう大きさだとウェズンは判断していた。


(これに一杯、となると何十枚、とかじゃないな。何百枚単位になりそう……)


 そう思いながら周囲を見回す。


 果たして、それだけの量があるだろうか。

 更にこの奥の方まで行く事も覚悟しておいた方がいいだろう。


 学園の方は晴れていたが、こちらは生憎の曇天模様だ。

 雨が降ると採取も手間取りそうだし、できるだけ早く終わらせたい。


 魔物も出るという話だし、採取ばかりにかまけていられないというのもあって、逸る心を抑え周囲を警戒しつつもウェズンは葉を丁寧に摘み取り始めた。



 ふぇっくしょん!!


 というくしゃみが聞こえてきたのは果たして何度目だっただろうか。離れた位置にいるとはいえ、視界に映る範囲にいるルシアのくしゃみはウェズンが覚えてる限りでそろそろ二桁に突入するところであった。


 ウェズンはあまり群生していない場所から葉を採取しているので、少し取っては移動し、また少し採っては移動しを繰り返していたのでそこそこ身体も温まっていたが、群生している場所にいるルシアはほぼ動く必要がない。動くにしてもある程度採ったら一歩か二歩分ずれるだけで、ほぼその場にいるも同然だ。

 となれば、ここに来た時点で寒いと言っていたのだから、なおの事冷えるだろう。


 見れば時々二の腕をさするようにしているが、まぁ大した効果はなさそうだ。それでも時々少し動かして、寒さを誤魔化しつつ採取しているらしい。だがしかし、寒さで動きが鈍っている感すらあった。


 視線を移動させればルシアから更に離れた向こう側にヴァンの姿が見えた。とはいえ、あちらも採取している真っ最中なのかしゃがみ込んでいるので、ウェズンがいる場所からは彼の頭と白衣がちらちら見えるだけだ。どれくらい採取できたかまではここからではわからなかった。


 ちなみにウェズンはあまり密集していない部分でちまちま採取しているのもあって、まだ袋の三分の一程度しか採れていない。


 場所を移動するべくウェズンは立ち上がり、一度ルシアの元へ行く事にした。二人がどれくらい採取できたのか気にもなったし、結果次第ではウェズンももっと本気出して採取しなければならなくなる。あえて少ない場所を選んでいるので遅くなるのは当然だが、二人の進捗次第では自分ももう少し密集して生えているところに狙いを定めるべきだろう。


 そう思いながらも、ルシアのいる場所へ近づいていって。

「……大丈夫か?」

「大丈夫じゃない。凍え死にそう」

 近づいてわかったが、ルシアは小刻みに震えていた。葉を摘もうとしている指先などガクガク震えていて手元がとても覚束ない状態である。見ればルシアの手元にある袋はウェズンと同じくらいしか入っていない。群生している場所にいるのだから、てっきりもう八分目くらいまで採っていてもおかしくないくらいだったのに。


 何というかこのまま放置していたら、雪山で遭難した人みたいになるのではないか。そう思ってしまったのでウェズンはひとまずリングからコートを取り出した。制服と同じく学園から支給されている物だ。

「とりあえずこれ羽織りな」

「うぅ、すまない……」

「ルシアはコート持ってこなかったのか?」

「そもそも持ち合わせていない」

「いや、これ学園支給だぞ。制服と同じで」

「そう、なのか……?」

「あぁ、コートとあとマントもあったな」


 元々この制服の上にコートとか身動きとりにくそう、と思えなくもなかったし、見た目で言えばマントの方がよりゲームキャラっぽい感じはしたものの、こんなんいつ使うんだろうと思っていた。

 いたのだが、まぁこうして野外で活動するのであれば、マントもあれば雨とか降った時に一応頭の方にかざしつつとかできるんだろうなとは思っていた。傘持ってない時に降ってきた雨を鞄で凌ぐようなノリで。


 それになんだかんだナビが一応持って行く事をお勧めしますと言って渡してきたので、リングに収納する余裕はたっぷりあったし、わざわざ反抗する必要もないなと思って持ってきたのだ。


 だがしかしルシアの様子を見ると制服はともかくコートにマントといった物の存在は把握していなかったようだ。


「部屋の世話係っていうか管理人みたいにしてもらってる子から聞いてない?」

「そんな話とかした事ない」

 羽織ったコートをがっしりと握りしめ言うその様子から、本当にたった今知ったという感じだった。


 ウェズンなど武器が実家から届いた、と渡してくれたナビに課外授業でセルシェン高地に行く事になった、なんて言ったらあのあたり魔物は強くないけど気を付けて下さいねとまで言われたというのに。

 ついでにお弁当の用意までしてくれたというのに。


「あ」

「なんだよ」

 お弁当で思い出したウェズンはリングからポットとカップを取り出した。

「甘いの平気?」

「え、あ、うん」

「温かいココアあるからとりあえず飲むといいよ」

「何でそんなの準備してきてるんだよ!?」

「え、世話係が用意してくれたけど」

「面倒見良いなお前のとこの世話係」

 は? 何それうちと全然違う、とか言い出しかねない反応をされたが、とりあえずカップを手渡す。そこに程よい温度のココアを注げば、ルシアは解せぬ、みたいな顔のままそれでもココアを口にした。


「あったかい……生き返る……」

 少しだけ飲んで、両手はしっかりとカップを握り締めるようにしている。完全にホッカイロ扱いだった。


「すまないこのコートもうしばらく借りてていいか?」

「いいよ。帰りに返してくれれば。僕は別にそこまで寒くないし」

 正直今返してもらっても着るつもりもない。充分温まってもう必要ない、というのならまだしも、そうじゃないなら無理に返されてもこちらも困るくらいだ。


 少し温まれば採取速度も上がるだろう。

 もう一つカップを取り出して、ついでとばかりにウェズンは自分もココアを飲むことにした。ココア以外の飲み物も用意されていたけれど、他のを取り出すのは面倒だった。


「何簡易茶会してるんだ。僕も誘えよ」


 離れていたはずのヴァンもこちらが二人でいるのを見て、何事かと思って戻ってきたのだろう。手にしていた袋には半分ほどカミリアの葉が入っていた。


「ココアでいい?」

「あぁ。しかし用意がいいな」

「え、そっちの部屋の世話係もそこまで面倒見てくれないタイプ?」

「初日に挨拶してそれっきりだな」


 わぁ、とウェズンはなんともいえない反応をするしかなかった。


「そっちは思った程採取してないんだな」

「仕方ないだろう。寒くてロクに動けないんだ」

 ずず、と音を立ててココアを啜るルシアに、ヴァンは僅かに眉を跳ね上げた。行儀が悪いとでも思ったのかもしれない。

 実際ヴァンはカップを手にしてココアを口にするまでの一連の流れがやたら洗練されていた。

 それを見て何となくウェズンは確信する。あ、この人いいとこの生まれのお坊ちゃんだな、と。


 ココアを飲んだ後は、カップを回収してついでにカミリアの葉をサクサクと回収していく。

 群生していた部分なので特に移動する必要もない。とはいえ、根こそぎ採るわけにもいかないのでそれなりに残すようにしてはいたが。


 そうしてヴァンの袋が一杯になり、ルシアとウェズンの袋も半分以上が埋まったあたりで、

「他の場所を探そうか」

「そうだな。もう少し先に進めばまだあるだろうし」

 これ以上採るのはどうかと思ったために、移動しようかと言えばルシアもすんなりと頷いた。

 だが――


「待て……囲まれてないか、これ」


 何かに気付いたらしきヴァンが、潜めるような声で告げる。

 魔物が出る、とは聞いていた。いたけれども今の今までそれらしき気配は何も感じられなかった。

 だからこそ油断していたのかもしれない。


 ヴァンの言葉にあからさまな反応をしないよう注意深く周囲の気配を探れば。


「何で気付かなかったんだろうな……」


 確かに囲まれていたのである。

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