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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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実際の関係はさておき



「ともあれ、一度目の神前試合。私は一人で勇者側の連中と戦う事になった。結果は……知っているだろう?」

「一人で全部倒したんだっけ? 父さん強いんだね」

「はっは、もっと褒めてくれてもいいぞぅ」


「でも神様は倒せなかった、と」

「攻撃できる隙がなかった。忌々しいことにな」


 息子の褒め言葉にパッと表情を明るくさせたが次の瞬間にはチッと舌打ちでもしそうなガラの悪い表情に変わる。うわぁ、僕の父さん表情筋凄いな、とウェズンは他人事のようにそれを見ていた。


 一度たりとも失敗できない、となれば確実にいけると思わない限り攻撃はできないだろう。

 万一失敗した場合、攻撃を仕掛けた相手だけが死ぬならまだしも、神に対する叛意あり、と見なされて世界まるごと一気に滅亡したらそれこそ洒落にならない。

 文字通り世界を背負う選択である。


「とはいえ、一人で全員倒しただけあって神は面白い余興だったと言ってな。何か一つ願いを叶えてやろうと言われたんだ。

 だからこそ、私は私とファム、そしてその先に生まれてくるであろう子孫含めてテラプロメとの関係を断ち切りたいと願った」


「うん……うん?」


 大真面目な表情で言われたものの、つまりどういう事なんだ? とウェズンはすぐに理解できなかった。


 テラプロメの本来の目的が世界中を移動して、どうにか神前試合の時にのみ行けるらしき神がいる空間を探す事、であるのは今しがた理解した。

 都市を空中に浮かせて移動させるくらいだ。相当な技術が用いられているだろうし、都市を維持するための魔道具も相当数あるのだろう。それ故に、神を見つけられずともそれ以外であれば探しものは大抵見つける事ができる。どこかの未知の空間に引きこもっているならまだしも、普通にこの世界の大陸のいずれかにいるだけなら脱走者の発見などそう難しい事ではないのだろう。


 見つかれば、連れ戻されていたのだとはわかる。

 それを避けるために両親は学園に入り、神前試合への参加を勝ち取った。

 万が一そこで神を倒せるのであれば、都市にとっても悲願達成だ。

 様子をみられていた、というのはわかる。


 これで実力も大したことがなくて神前試合に参加できる権利すら得られなかった、とかであったならあっさりと連れ戻されていた事だろう。


「あれ、でも最初は父さんだけだったんだよね。母さんは? その時参加してなかったなら連れ戻されても」

「テラプロメの使者に父さんが啖呵切った。俺一人で充分だと。神の前に行く機会すら得られてない雑魚はすっこんでろとも言ったな」

「わぁ」


 微妙に想像できるのがアレだった。


「そもそもその時点での母さんはまだちょっと情緒的にも不安定だったから参加させたくなかったという私の我儘もあった」

「成程」


 詳しい事情はわからなくとも、そういう事だったのかと頷く事にする。


「それで、神様の願い事を叶えてくれるってやつが?」

「あぁ、そうする事でテラプロメは私たち一家に手を出せなくなった。私を罰する事も、ファムを連れ戻し贄として使う事も」

 はっ、と鼻で嗤う父に、あぁ、だから……とウェズンは何となく納得しつつあった。


 神の願いを叶えて進ぜよう、って言葉がどこまでできるものかはわからないが、確かテラも自分の別荘だかをもらうだとかで神は新たに土地一つぽんと作ってたようだし、それくらいはできる事なのだろう。


 神がどこまで気付いているかはわからない。

 テラプロメが神を捜し出し見つけ次第神を殺すための兵を差し向けるのだとして、であれば神からすればテラプロメは自分の周囲を飛び回るハエ程度には鬱陶しい存在だろう。

 潰そうと思えば潰せるが、しかしそこまでの手間をかける気もない。本当に目障りであるならとっくにどうにかしているだろうけれど、そうしないというのはつまり、テラプロメがやっている事は徒労であると神が思っている可能性はとても高い。


 空中移動都市なんてどれだけの魔道具を使ってるかもわからないし、魔法だとかも沢山使われているだろう。

 レッドラム一族というのがいても、都市が発生させる瘴気の量はいずれレッドラム一族の犠牲をもってしても追いつかなくなるかもしれない。

 もしそうなって、都市が堕ちたとして。


 その時世界にどれだけの瘴気が増えるか。


 もしそうなったなら、神からすれば世界が崩壊にまた一歩近づく事になるのだ。

 自分に危害が及ばないとわかっているなら泳がせるだろう。


 むしろそうやって自分たちのミスで世界を崩壊に導いてくれた方が神からすれば手間が省けるといったところなのかもしれない。


「とはいえ。それはあくまでもこちらもテラプロメに干渉しないという双方の不可侵条約のようなものだ。私やファムがテラプロメに対して何かしない限りは向こうも手出しはしてこない。

 だが、こちらから関わった場合は……」


 そこで一度言葉を止めて、ウェインはどこか心配そうにウェズンを見た。


「聞けばクラスメイトにレッドラム一族がいるのだったか。そしてジークからテラプロメとレッドラム一族についても聞いてしまった。

 お前、どうするつもりだ?」

「どう、って」


「何も知らないままだったら、もしそのクラスメイトをテラプロメの使者が連れ帰るとなった時、単純に家族か親族が迎えにきたのだなと思って何もしないだろう」


 言われて考える。


 確かに、学校を途中でやめて実家に帰る、と言われたならば寂しくなるけど元気でな、と送り出しただろう。

 事情を知らなければ恐らくそうする。

 ここで「えーっ、お前がいなくなるとか寂しいし嫌だよ残れよ」なんて言ったところで、家庭の事だ。他人が口を出したところでその望みが叶うわけがない。


 どういった事情で実家に帰るのか、にもよるが例えば金銭面で学費が払えない、だとかなら、口出しした奴が全額負担してやるよ、とか言って実際に実行したならまだしも、それができないなら他人の家庭の懐具合にまで口を出せるはずもないし、ましてやそれ以外の理由であったとしても、その理由を解決できるだけの事ができないのであればやはり口を出したところで……といった話である。


 仮に、もし金銭面での事情だったとしてもそこで肩代わりして全額支払ったとしても。

 その場合今までと同じような人間関係が築けるとも限らない。

 家族に支払ってもらっているならまだしも、いくら仲が良くても他人である友人にそんな事をされたら間違いなく引け目に思うし遠慮もする。今までと同じ人間関係のままではいられなくなるだろう。



 下手に家庭の事情に深入りするのもどうかと思うだろうし、そうなればウェズンは何も知らないままであったならそのままルシアを見送って、あいつ今頃元気にやってるかなぁ、とふとした時にそう思うくらいになっていただろう。


 そのルシアが、テラプロメでとっくに死んでいたとしてもその事実に気付くことなく。


 けれども今はもうある程度の事情を知ってしまっている。


 その上で、ルシアがテラプロメに戻るとなったなら。


 …………まぁ、死にに行くとわかっているのだ。止める、とは思う。

 大体ルシアにとって大事だったらしいルチルという人物はとっくにテラプロメで殺されたらしいし、そうなればルシアが素直に戻るはずもない。

 ウェズンにとっては一切被害がなかったから「きみを殺そうとしていた」と言われても「そっか」で終わるくらい軽い話だけれど、テラプロメにもう一切何の未練もなければむしろ恨みしかないだろうルシアをそのまま連れていかせるのはな……とは思うのだ。


 どうにかしてルシアだけでも助けられないだろうか、と考えるだろうし、もし実行できそうなら手を貸すかもしれない。

 ルシアが戻らない事で他のレッドラム一族が代わりに犠牲になるとウェズンもわかってはいる。


 わかってはいるけれど。



 顔も名前も何も知らない赤の他人が犠牲になる、と言われても正直ピンとこない。

 ウェズンは別に聖人君子でもないので、見知らぬ誰かが死ぬと言われても自らの身を投げうって助けようとは思わないし、犠牲になるのがそれなりに仲良くやれてる知っている人物だから助けたいと思うだけだ。

 これでルシアの事が最初から最後まで気に食わないと思うような状態だったなら、助けようとは思わないだろう。



 例えば道に迷っている者がいたとして。

 その人の行先が自分が知っている、そして案外近くであったなら、こっちだよと案内するくらいはするだろう。

 けれどももし、その人が行きたいという場所があまりにも遠く、また自分にもわからない場所だったなら。

 一緒に探すまではしないと思うのだ。ごめんねわからないや、で終わる。


 見知らぬ人間であっても助ける場合、それは自分の手に負える範囲だ。それを超えてまで何かしようとは、正直あまり思っていなかった。


「……できる範囲だと判断したら、ルシアに手を貸すかもしれない」


 ウェズンは知ってしまった。

 ルシアの事情を。

 大事だった人が死んで、もうどうにでもなーれ、と自棄になってる部分がある事を。

 もしテラプロメに戻ったとして、ルシアはきっと大人しく死んでなんかやらないだろう。

 抵抗するとは思う。


 けれども。


 その抵抗が通じるかどうかは未知数だ。


 抵抗が抵抗にならないまま死んでしまうかもしれない。


 それは……もしそうなったとしたら、あまりにもあんまりかな、と思うわけで。


 テラプロメと関わる事で自分が危険な目に遭うかもしれない、とも思ってはいる。

 だから堂々と関わろうとは思わないが、それでも無関係を貫こうとも思えなかった。


 顔だけがやたらと美少女ヅラして、体力とかほとんどなくて。

 細かい作業は得意らしいけど根気がそこまであるわけでもない。

 でも、それでも自分にできる努力はしていたのだ。


 暑いのも寒いのも痛いのも苦しいのも苦手で、お前今までどうやって生きてきたの? と言いたくなる部分もあったけれど。


 それでもそんなルシアの事をウェズンは嫌っているわけではなかった。


 打算ありきでのお近づきであろうともイアとは親しくしていたし、なんだかんだ妹は親切にされていた。


 イアとルシアの間に恋愛感情があるとは勿論思っていない。

 けれども、今はそうでもいつかもしかしたらそうなる可能性はゼロではなかった。

 そう考えると、将来的に義理の弟になる可能性もあるんだよな……なんて一瞬でも考えたわけで。



 それも含めて、ウェズンの中でルシアはなんだかんだ手のかかる弟のように思っていたのだ。


「あぁ、いや。

 手を貸すっていうよりは、嫌がらせで手を出すかもしれない」


 だからこそ、割としっかりした口調でウェズンは父にそう告げたのである。


 大体母がレッドラム一族でルシアもそうなら、親戚みたいなものだろう。

 他の顔も名前も知らん親戚に関しては知らん、と言い切れるけれどウェズンは既にルシアの為人を知ってしまっている。そう考えれば、黙って見捨てるのはできそうになかった。

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