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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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訪れたのは



 そうして気付けばウェズン達は一年生から二年生へと進級した。

 前世であれば当たり前のようなそれも、しかしこの世界ではそうではない。

 なんだったら新入生の段階で命を落とした者もいるし、昨日まで仲良く話していた奴が明日にはもういないなんて事、そりゃあ前世でもその可能性はあったけれどこっちと比べれば段違いなのだ。


 三年の終わりごろには神前試合がある。


 それまでに、知った顔がいくつ消えるかと考えると恐ろしい話だが、その消える奴の中に自分が入らないように気を付けなければならない。


 学園の外でやってた課題の魔物退治だとかも、一年の時と比べて魔物の強い地域へ行く機会も増えるだろうし、より一層気を引き締めなければならないのだ。


 とは言うものの、進級したばかりとはいえ何か変わったかと言われるとそこまでの変化はないように見える。

 クラス替えがあるでもなく、担任だってテラのままだ。

 副担任としてジークが増えたし転入生としてアレスとファラム、ウィルが学院から来たけれど、それ以外でわかりやすい変化は特にない。


 それでもってテラの態度があまりにもゆるっとしていたから、本当に進級したのかどうか不安に思えてくる。

 いや、確かに進級したのだけれども。


「あー、正直今回はまだ本格的な授業とかないんだわ。ほら、お前らも去年覚えがあると思うんだけども新入生があれこれわちゃわちゃしてただろ。その浮かれた空気に水差さないようにする事以外は特に注意事項もねぇ。

 あぁ、とはいえ一つ連絡があったな」


 思えば新入生も上級生も同じクラスになる事があるというのに、こういう時上級生はどうしているのだろうか、とふと疑問に思う。ウェズン達のクラスには新入生が来なかったので今までと同じ雰囲気ではあるけれど、そうじゃないクラスはどうなっているんだろうか。


 上級生が自習して、新入生にある程度基本的な授業でもするんだろうか。


 それとも上級生だけ講堂とかで他クラスと合同座学授業でもするのだろうか。


 多分そうなんだろうな、と雑に納得する。実際がどうであれ今のところウェズン達には関係のない話だ。

 来年、もしこのクラスに新入生が入ればわかるだろう。来るかどうかはわからないが。


「連絡事項は図書室あるだろ。お前ら二年になったから、閲覧図書が増える、ってか増えた」


 その言葉に一同ふぅん、みたいな反応だった。

 学園の図書室はそれなりに広い。

 空間拡張魔法のせいもあるけれど、思った以上に広いので調べものをするのにクラス全員で押し掛けたとして、他のクラスの生徒も同じように入ったとしても窮屈さは感じられない。


 一年の時もそこそこ図書室を利用していたけれど、学年で閲覧できる本があるとは思わなかった。

 特にそういった本があるとも聞いていなかったし、ましてや読もうと思った本がそうだった、という事もなかったので。


「閲覧できる本だが、まぁ魔導書とかだな。割と大半そんなだから、読んで損はないと思う。まぁその知識を活かせるかどうかってのはあるけど」


 そう言われてしまえばふぅんで済ませるわけにもいかない。

 もし自分にとって必要になるだろう魔法に関する知識を得る事ができるのであれば。

 仮にその場ですぐに役に立たなかったとしても。

 それでも、いつかどこかで使えるかもしれないのだ。


 魔導書、と言われれば大仰な感じもするけれど、要するにとてもざっくり言えば技術書だとか専門書みたいなものだ。


 これは……なんというか放課後あたり図書室の人口密度が増えそうだなとウェズンは即座に察した。

 他の生徒も気になっているらしく、そわそわしつつ早速放課後行ってみようかな、なんて呟きが聞こえてきたが、同時に凄く混雑しそうだから様子見た方がよくない? なんて声も聞こえた。


 聞こえてきた内容のどっちが正しいとかではない。


 確かに新年度を迎えて進級した生徒が殺到しそうではある。だからこそ、もうちょっと落ち着いてからでもいいんじゃないか、という考えはそこまで否定するものでもないが、しかしあまりに後になってから行くと目ぼしい本は貸し出された後、なんて可能性もある。

 それもあるから混雑するだろうとわかっていながら尚今のうちに……と思う者が出るのも何もおかしな話ではなかった。



 とはいえ。



 急いで行ったところで必ずしも今自分に必要な魔導書が見つかるわけでもない。

 というか、明確にこういった内容の本を探している、とかであればともかく、何となく閲覧図書が増えたという理由だけで言っても自分にとって最適な一冊とやらがみつかるとも思えない。



 だからこそ、自分はもうちょっと後でいいかな。


 なんて。


 ウェズンは早々に後回しにしようと結論付けたのである。



 だからこそ、放課後は早々に寮へと戻り自室で結局休みの間にできなかったリング内の整理整頓でもしようと思い立ったのだが。


 モノリスフィアからピコンと音が鳴る。

 通話ではなくメッセージの方か、と思い確認してみれば、それはテラからだった。



 至急職員室へ来られたし。


 とても簡素な一文。


 どうやら今回も整理はできそうにないなと諦めて、ウェズンはそのまま部屋を出る。戻って間もなくの事だったので、せめてもうちょっと早く連絡が来てくれればまだ学舎の中にいただろうにとも思う。


 とはいえ、今更だ。


 だからこそウェズンはナビに「ちょっと行ってくる」と声をかけて部屋を出た。


 そうして職員室へ行く途中、イアとも遭遇した。どうやらイアもまたテラに呼び出されたらしい。


「なんだろね? おにい」

「さぁ。授業に関する事ならわざわざ呼びだす必要もなさそうだし……」


 わざわざ呼びだしてまで、という部分にどうにも引っかかりを覚える。

 ロクでもない事じゃなきゃいいんだけど……なんて言いながら、職員室の中に足を踏み入れれば、近くにいた教師に奥を示された。

 ずらりと並んだデスクの奥、パーテーションで区切られたそこは来賓……いや、来客と言った方がいいだろうか、ともあれ、そういった誰かを応対する場として用意されていた。


 空間拡張魔法だとかで内部の空間を広げているのだから、応接室があってもおかしくないのに、あえて職員室なんだ……とウェズンはどこか不思議に思えた。


 コーヒーの香りが漂っていて、これでもうちょっと煙草のにおいだとか煙だとかがあったなら前世の学校の職員室そのものだな、とも思えるのだがしかし煙草の煙もにおいもなく、すぐにわかる匂いといえばコーヒーくらいのものだ。

 ちら、と見渡せば紅茶を飲んでるらしき教師もいるので全員がコーヒーというわけでもないらしい。

 まぁ、紅茶よりはコーヒーの方が確かに匂い強いもんな……と思う。



「来たか」


「あ、はい」


 パーテーションで区切られているそこは現在四方を塞がれてるような状態だった。その手前にテラが立っている。

 その表情はどこか硬く、同時にげんなりしているようにも見えた。


「まず、この中での会話は基本的に防音魔法がかかっているから外には漏れない。

 とはいっても、たとえばモノリスフィアで外部と通話をしている場合は伝わる。

 現時点でモノリスフィア起動しっぱなしとかではないな?」

「それは、はい」


 わざわざ通話状態にして第三者に会話を聞かせる、という方法は確かに前世のドラマだとかで見た覚えがある。主に刑事が出るタイプのドラマで。

 とはいえ、ここで誰と何の話をするのかもウェズンにしてみればわかっていないのに、あらかじめそんな事をして誰かにここでの会話を聞かせるなど、まずしようと考える事もなかった。


「話の途中でモノリスフィアから連絡がきてそれを受けた時も場合によっては、となるが……まぁその状態でなおここで会話を続ける事はそうないだろう。とはいえ、モノリスフィアを通じて外部に会話が漏れる事はあるとだけ理解しろ」


 まぁ確かに誰かと話をしている途中でスマホとかに連絡来て、通話してたらこっちの周辺の物音が向こうに聞こえるなんて事は普通にあったのでテラの言う事はわからんでもない。

 ただ、通話している相手と会話をしている時は基本的にその場で話をしていた相手は一時的に黙っているだろうし、会話内容が筒抜けになるという事はそう無いように思える。


 とはいえ、イアもこの場にいるのでウェズン宛にかかってきた通話でウェズンが相手と話している時にイアがこの中にいるだろう誰かと会話をしていたら聞かれる可能性はあるという事か。


 そう理解はするけれど、しかしそこまで気にするような事でもない気がした。


「あとはそうだな……この中で話した内容は外に出た時にあまり言いふらさない方がいい、とかか?

 まぁわざわざ人に言って回る事もないだろうとは思うが」

「内容次第では?」


 もし、誰かに何か聞かれてそれがここで話した内容に答えがある、とかであれば話すかもしれない。

 と言ってもだからこの中で何を話すんだって話ではあるのだが。


「ま、あとは当事者同士でって事だな。使用制限時間とかそういうのはないけど、だからってあんま長引かせんなよ」


 言ってテラは四方を囲っているパーテーションの一つを少しだけずらして人が中に入れるよう隙間を作る。

 その隙間から見えた人物に、ウェズンもイアも「え?」と思わず声を上げたが、いつまでも突っ立っているわけにもいかない。

 ウェズンとイアが入ればテラはずらしたパーテーションを戻すつもりなのだろう。目がとっとと入れと言っている。


 仕方なしに二人は速やかにその中に滑り込むように入って。


 ほとんど同時にパーテーションで塞がれた。

 とんだ人力自動ドアである。



「……えぇと、久しぶり、父さん」

「あぁ」


 手紙やモノリスフィアで多少やりとりはしていたが、実際ほぼ一年は会っていなかった。

 一応どこかで暇を見つけて一時帰宅するくらいはできたかもしれないが、そこまでする必要性を感じなかったから、というのもある。


 聞きたいことはそれなりにあった。

 けれども、結局なんだかんだはぐらかされてきたようなものだし、聞きたいことの大半は恐らく聞いてもマトモに答えがくるかもわからないと思ってしまっていたので。

 わざわざ家に戻って問いただそう、だとか思わなかったのだ。



 次に両親と顔を合わせるのは、最悪神前試合に参加が決まった場合その手前かなとも思っていた。

 負けるつもりはないけれど、それでも何が起きるかわからないのだ。

 最後になるかもしれない、と思ったならウェズンはその時点で両親に挨拶に行くくらいはしただろう。



 座り心地だけはとても良さそうな革張りのソファに腰かけているウェインは、まぁ座れと向かいを顎で示した。

 ウェズンもイアもウェインと向かい合うようにソファに腰掛ける。


「で、何しに来たの?」

「……っ」


「おにい」

「え、何イア」


 単刀直入に疑問を口にすれば、ウェインはわかりやすいくらい表情を引きつらせた。

 ウェズンの制服の裾をちょい、と引いてイアが小声で話しかける。


「ダディ流石に傷ついてるからもうちょっと優しく聞こ?」

「えっ、傷つくような繊細な心を持ち合わせてるの? 父さんが?」


「ほら、胸元手で押さえて蹲りかけてるでしょ」

「年だから色々身体にガタがきているだけでは?」


「違うよおにい。おにいのあまりにも他人行儀な態度に心凹んでるんだよあれは」

「そんなわけないと思うけど」

「おにいってなんで他の人にはそれなりに気配りできるのに、ダディ相手だと途端に辛辣な態度になるの?」

「えっ? そうかな、普通だと思うけど」


 ウェズンからすればどうしてイアにそんな事を言われるのか本当に理解できなかった。


 大体、これが母親ならもうちょっとこう、元気にしてた? とか最近困ったこととかない? とか聞いたかもしれない。

 けれども父親相手にそれを聞く必要はこれっぽっちも感じられなかったし、今まで連絡した時に話を煙に巻くような感じだったのに今になってわざわざ学園にやって来たという事は、何らかの事情があるにしてもだ。


 長ったらしい時候の挨拶だとかから入るような無駄な時間はないだろうし、だったらさっさと用件を聞くに限る。

 職場の上司とかならそりゃあ面倒でも一応それなりの挨拶をしなければならないが、相手は父親で身内だ。

 そんな時間の無駄は省いても構わないだろう。


 ウェズンとしてはそういう考えだった。


 身内経営で父も自分も役職についていてそういった場であったならそりゃあ一応体裁は整えただろうけれど、そんな格式ばった物も何もあったものじゃない。

 ウェズンとしてはウェインの事はきちんと自分の父親として認識しているし、そういった扱いをしているつもりなのでどうしてこんな風にイアに言われるのかもわからなかった。

 そして、何故父が精神的に傷ついているのかすらも。



 ウェズンはこの時点ですっかり忘れていたのだ。

 ウェズンが前世の記憶を思い出したばかりの幼少期に、家にまったくいなかったが故に我が家は母と自分の母子家庭なのだと思い込んでいた頃を。母も全く父の事を話題に出してこなかったから、離婚か死別かなのだろうなと勝手に納得していた結果、後になって父親と魔導具によって顔を合わせて話をする事になってもその時点で父と思わず、元気一杯自己紹介をした事を。


 挙句に「おじ……おにいさんは誰ですか?」などという、いらん気遣いまで発揮した事を。


 ウェズンからすれば言われれば「確かにそんな事あったっけ……?」レベルの軽い過去である。

 あー、あったあった、で済む話。


 しかしウェインにとってはそんな軽い話じゃなかった。


 まぁ事情を細かく説明できない部分もあったとはいえ、それでも仕事して稼ぎを家に仕送りしたりしていたのに、肝心の我が子に存在を認識すらされていないという事実。

 その後はどうにか家に戻ってこれるようになったからウェズンと関わる時間も増えていたけれど、しかしイアを引き取ってからはウェズンはイアの世話をしていた。物分かりの良い子供でうちの子賢い、とか親ばかっぷりを内心発揮しつつ、勉強だとかあれこれ面倒見ていたけれど。


 家庭内でウェズンがよく関わるランキングは妹母父の順である。つまり父親は最下位だ。


 決して蔑ろにされているわけではないが、それでも何故だか一線引かれてる気持ちになっていたのである。

 そんな息子からたまに手紙やモノリスフィアで連絡が来て頼られているとは思っても、しかし事情があって全部を明かせないというジレンマ。


 もし今ウェインが死んだという連絡が来てもウェズンは「あ、そうなんですね」で済ませてしまう気がしてウェインとしてはとても悲しいのである。号泣しろとまでは言わないがせめて葬儀が終わった後にでもちょっとくらい泣いて死を悲しむくらいはしてほしい。

 だがしかし、困ったことにウェインはウェズンがそうする姿を全く想像できないのだ。


 うちの息子ドライすぎる……と思うわけで。



 なのでまぁ、淡い願望ではあるのだけれど。

 こうして訪れた時にせめてもうちょっと嬉しそうな反応とかしてくれたらな、とほんのり期待はしていたのだが。


 結果はこれだ。


 ウェインの現在の心境としては、家庭を顧みなかったばかりに気付いた時には家族からも家族としてみなされていないような――そんな、家庭内で孤立しているかのような気持ちだったのである。



 普段ウェズンはイアの事をたまに何かぶっ飛んだ事しても、でもこの子前世エイリアンみたいなものだしなぁ、で済ませているが故に、イアがあまりにも父に寄り添った事を言っているのも謎であった。

 そこまでしてやる必要ある? という本音は、一応口に出してはいないけれど。


 イアに対する感想も口に出していないけれど、もし出していたとして。

 そうであったならイアに、

「おにいもたまに人の心失うよね」

 とか返されていた事だろう。


 イアにそう言われたら恐らくウェズンもウェインが傷ついている時と似たような体験ができたかもしれない。


 とはいえ、ウェズンは余程の事でもない限りそんな事言うつもりもないので。


 ウェズンがウェインの心境を理解するまでには恐らく相当長い道のりが存在しているのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そらウェズンからしたら厄介事持ってくる上にそれの説明しないおじさんだもの。前世なしのプレーンなウェズンでも同じかそれ以上に塩な対応するよ。
[良い点] ドラゴンの血を引いてたり駆け落ちして逃げてきてたり… 色々事情はあるんだろうけどぶっちゃけ子供にそんな事は関係ないので、仕方ないんじゃないかなw
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