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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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いかにも序盤



「準備、と言われてもな……」

「そもそも課外授業だろ? 学外に出る、ってのはさておきどこに行かせるつもりなんだろうな」


 同じグループを示す紙を持った状態で、ルシアとヴァンは困惑したように口にだしてそれぞれ顔を見合わせた。

 学園に入ってまだ間もない。だからこそいきなりゲームでいうところのラスダンへ行けとかは言われないと思う。そもそもラスダンどこだよって話になるけど。


 学園の外、この島のどこかであればまだいい。

 けれどもそれはないだろう。島内であるならわざわざ精霊と契約させて浄化魔法を覚えてからでなくても問題ないはずなのだから。

 という事は島の外。どこか別の場所であると考えられる。


「グループを作ったわけだけど、そもそも全員行先が同じかも不明だよね。神の楔の転移で移動できるなら、それぞれのグループの行先全部違う可能性ありそう」


 もし行先が同じ方向であるなら他のグループと手を組むだとかもできるかもしれないが、その可能性はとても低いように思える。


「……そもそも日帰りで終わると思うか?」


 難しい顔をしてヴァンが言う。


「……日帰りだとも泊まりになるとも言われていないな。ただ準備をしろと言われただけで、どういう準備が必要なのかもわかっていない。

 ……そこら辺含めて成績にかかわるのかもしれないが、あまりにも情報がなさすぎる」


 普通の学校であるならば課外授業は大抵日帰りだ。

 林間学校だとか修学旅行なら泊まりもあるだろうけれど。

 けれどもここは魔王を養成するための場所で、普通の学校と同じように考えてはいけない気がする。

 大体死んでも自己責任とか言うところだ。この時点で普通の学校と同じ扱いはしない方がいいに決まっている。


 何となく周囲に耳を澄ませてみれば、他のグループも困惑した様子だった。どこに行くんだろう。何を用意すればいいの。武器のレンタルしないとだっけ? 食料とかも持ってった方がいいかもしれない。

 それより図書室で他の魔法覚えた方がいいんじゃない?


 そんな言葉があちこちから聞こえてくる。


 ウェズンは何となく気になってイアの方へ視線を向けたが、彼女はぽかんとした様子で同じグループになったレイとイルミナを見上げているだけだった。口が半開きになっていてその表情はとても間抜けに見える。

 ついでにレイを見ると、えぇ、こいつと組むのかよ……とか言い出しそうな顔をしていたし、イルミナは自分と組むことになった相手に特に不満を持っているような感じではなかったが、それでも戸惑っている様子なのはわかった。


 ついでに他の生徒にも目を向けるが、大体戸惑いだとか困惑だとかが強い。


 そもそもまだこのクラス全員が精霊と契約を結べたわけではないのだ。先に契約できた者たちだけでグループを作ったからこそ、何というか偏りが酷い。


 女性三人のところと男性三人のところとかはまだ何というか、余計な気を使う事がなさそうだなと思えるのだが、もし力仕事が必要になるような課題であれば女性三人のところは厳しそうだなとも思える。どう見てもあまり体力がありそうには見えなかったので。

 ウェズンの所も野郎三人ではあるけれど、ルシアがどう見ても美少女顔なので一瞬アレ? これ野郎だけのメンバーだよな……? と脳が軽率におバグり申し上げていた。


 どうしよう一先ず先に武器だけでも借りてくる……? なんていい加減ここで困惑しっぱなしの状況をどうにかしようとした誰かの声が聞こえてきた。

 武器は必ず持っておけ、と言われていたもののいかんせんまだ学園に来て日も浅い。武器を用意するような余裕があるはずもなかった。買うか作るかしろ、金がなきゃバイトで稼げ、とか言われていたが大体バイトに手を出す程まだここの生活に慣れたわけでもない。


 恐らくはこのクラスのほとんどがまだマトモに武器を所持していないだろう。


 貸し出すにしろ、どれくらい武器があるかもわからない。それを考えると早いうちに行って選べる余裕があるうちに借りるのは確かに重要な事に思えた。


 ただ――


 ウェズンはふと思い立って、グループを決める事になった紙を見た。そこには数字しか記されていない。

 けれども、その紙に意図的に魔力を込めてみる。

 精霊との契約書と同じかはさておき、手触りは似ていたからだ。

 意味があるかどうかはわからない。ただ、本当になんとなく。物の試しに、といった気持ちでやらかした事だ。


「あ」


 だがしかし、その行為は正解だったようだ。

 数字が書かれていた周囲の余白部分にうっすらと文字が浮かび上がる。古代文字などではなく、こちらは普通にウェズンにも読める文字だ。


「どうした?」

「いや、目的地表示された」

 ほら、とばかりに紙を見せれば、ヴァンもルシアも目を見開いて凝視している。


「一体何をしたんだ?」

「いや、精霊との契約書と似た紙質だったから、試しに魔力を」


 ウェズンがこたえれば、二人も自分が持っていた紙に魔力を流したのだろう。じわじわと文字が浮かび上がっている。


 周囲もウェズンたちの様子を見て、各自で紙に魔力を流し始めた。

「不親切にもほどがあるだろ」

 そうのたまったのは誰だったか。

 これ気付かなかったらどうなっていたんだろうな、と思うので不親切という部分は否定しない。


 ウェズンの持っていた紙には目的地が。

 ヴァンが手にしていた紙には課外授業の目的が。

 ルシアの紙には追加課題が記されていた。


 追加課題に関しては余裕があればやっておけ、という物らしく、そちらはクリアできなくても問題がないらしい。そう書かれていても課題の難易度がまずわからない。


 他のグループもそれぞれ似たようなものらしく、え、ここどこ? だとか聞きなれない名称の素材を口にして何これ……? だとかのやはり困惑しっぱなしな声が聞こえてきた。


「とりあえずまずは地図でこの行先確認した方がいいんじゃないかな」

 ウェズンが言えばヴァンもルシアも特に反対する理由もない。こくりと頷いて早速図書室へと向かう事にした。



 ウェズンたちが行く事になった場所はセルシェン高地。課外授業の内容はそこでカミリアの葉を多めに採取するというものだった。追加課題は周辺に出る魔物について調べておくこと。


 内容としてはそこまで難しい感じはしない。ゲームならまぁ序盤に出されるクエストとしてよくある感じだ。だがしかし、セルシェン高地とやらがどこにあるのかがわからない。

 どのみち神の楔で転移するからどこだろうとどうでもいいような気もするが、滅茶苦茶暑いか寒いかするような場所の可能性もある。気温だけなら最悪魔法とかでどうにかできるかもしれないが、天候が常に荒れているような場所であったなら、一応事前準備はしておくべきだ。

 風が強すぎて砂ぼこりが常に舞ってる、なんて場所なら間違いなく目を保護するものを用意しないとロクに身動きもとれなくなるかもしれない。


 ウェズンはセルシェン高地なんて地名たった今知ったし、ヴァンとルシアの反応を見る限り二人も詳しく知らないらしい。

 だからこそ図書室で地図が置かれている一画でそもそもどこだよ……なんて言いながら複数の地図を見比べていた。


 世界地図は細かな地名など表記されていないし、それぞれの大陸などの地図から目的の場所を探すにしてもあまりにもアナログすぎて時間がかかる。そうこうしているうちに他の面々も地図を求めてか図書室は途端人が増え始めた。



「あ、ここじゃないか。これ」


 大体どの大陸にあるのかもわからないような状況で、探すだけでも一苦労。学園内の敷地とかではないのは確かなのでそこを除いた地図をあれこれ引っ張り出していたが、全部を出すまでいく前にどうにか目的地を見つける事ができた。


 学園から見て北東に位置する大陸。そこに確かにセルシェン高地という文字が記されていた。

 その近くに特に町や村がありそうな感じはしない。


「この近くに神の楔があればいいが、そうじゃなかったらどこから移動する感じになるんだろうな……」

「もう少し詳しく載ってる地図探すか。とはいえ神の楔の位置まで記されてるものはないだろうけど」


 ウェズンとヴァンが手分けして地図を見ていく中で、ルシアだけは一人離れた場所で別の書物を手に取っていた。別にサボリではない。

 確か薬草だったと思うけど具体的にどんなのかわからないから、カミリアの葉の写真付きで載ってる図鑑があれば探してほしいと頼んだのだ。薬草であれば探す場所もそれなりにハッキリしているので、世界のどこにあるかもわかってない地名を探すよりは手早く済むと思っての事だった。


 実際一人でもそう時間をかけずに見つける事ができたらしく、ルシアが図鑑を手に戻ってきた時にはどうにかウェズンたちも詳しい地図を見つける事ができた。


 神の楔の位置にもよるが、場合によっては日帰りが難しい気がする場所。そこがセルシェン高地だった。

 そしてルシアが持ってきた図鑑を見るに、カミリアの葉は傷薬に使われる薬草らしい。鎮痛効果があると記されていた。

 葉の形はそこまで特徴があるわけでもないので、他に似た葉があると間違えてしまいそうだが薬草として使えるものは基本的に花が咲いてからになると書かれている。であれば花がついていない葉だけのものは手を付けない方がいいだろう。花は小さな赤いものが集まったような感じで咲いているらしいが、植物分布図を見る限りセルシェン高地で他にカミリアと似た植物は無いようなので素人が採取するとしても特に問題はなさそうだった。


「意外と簡単そうだな」


 目的地も課題内容も何もわからなかった時と比べるとあまりにも簡単そうで、拍子抜けしてしまう。

 けれども追加課題でこのセルシェン高地に出る魔物について調べる、というのもある。


「一応魔物図鑑というのもあったけど、中をさらっと見る限りあまり役に立つ感じじゃなかった」


 ルシア曰く。

 どこそこの地域にこういう魔物の目撃情報がありました、とかこういうのが出ます、といった程度でそれ以上詳しい情報はなかったとの事。

 弱点だとか、どういう攻撃仕掛けてくるだとか、そういうのないのか……とウェズンは内心で思ったが、そういえば瘴気をため込んでいる魔物を気軽に解剖したりもできないと言われていたし、無駄に時間をかけて対峙して調べるにしても、最悪死ぬ可能性があるなら早々に倒した方がいい。そうなるとあまり詳しい情報がなくても仕方がないような気がした。


 一応その魔物図鑑を見る限り、セルシェン高地に出るとされる魔物はそこまで強くないようだし、図鑑に載ってないような情報を得る事ができれば追加課題も問題なくクリアできるのではないか。


 そこまで難しい内容じゃなさそうで、ウェズンたちはホッと安堵の息を吐いた。


「初っ端から死にそうな内容じゃなくて助かったな」

「本当にね。いやだよ初っ端から死にかけるのとか」

「そうだな。ただ、簡単すぎる気がするのが気がかりだ。何か仕掛けられてる可能性はないか?」

「……疑り深い、と言いたいけど一応警戒だけはしておいた方がよさそうだね」


 ヴァンが本当にこんな内容でいいのか……? と納得のいかない表情をしたし、それについては考えすぎだと言いたいがしかしそれが本当に考えすぎであるとも言い切れない。


「採取した物に関してはリングに収納できるからいいとして、魔物が出るなら武器は必要。念の為他の魔法とか覚えられそうなら覚えておくのもありだよね」

「そうだな。目的地も目的も把握したし、じゃあ後は各自で準備をするって事でいいか?」

「構わない」

「うん。いいよ」

 ヴァンの言葉に頷いて、三人は手早く広げていた地図を片付ける。


 出発は明後日。

 明日は丸一日準備期間と言われているし、武器に関してはともかく一日あれば魔法書から簡単な魔法の一つくらいは覚えられるのではないだろうか。

 そう思いながら、ウェズンは二人と別れたのである。

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