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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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懺悔



 ルシアは相変わらず俯いたままだ。

 そうしてテーブルに肘を乗せ、そっと両手を組み合わせる。

 まるで祈るかのような姿勢だった。


「すまない……その、ボクはきみを殺そうとしていた」


 そうして吐き出された声はまるで懺悔でもするかのようで。


「あ、うん」


 けれどもウェズンとしてはその情報は既に知っているもので。

 えぇっ!? と驚いてやるべきだっただろうか、と思ったのは返事をしてしまった直後の事だった。

 いやしかし、ルシアが自分の事を殺そうとしている、というのを知った時点で一応驚きはしているのだ。しかももうそれ結構前の話であって。

 今改めて驚き直すというのも何というか微妙な話だ。


 あまりにもあっさり相槌を打たれて、ルシアはしばし沈黙した後、


「え……?」


 と、いや今自分何言ったっけ? ちゃんと相手に伝わってる? とか言いたそうな顔をして俯いていた顔を上げた。


「それは知ってる。それで?」

「え?」


 ウェズンとしては何で殺そうとしていたのか、とかそういう犯行動機を聞いた方がいいのかなと思って先を促したに過ぎないのだが、しかしルシアはそうではなかった。


 知ってる? え? 知 っ て る ?


 あまりにもあっさりと言われて思わず混乱する。

 えっ、えぇと、今本当に自分は一体何を口走ったのだろう。あ、あれかな。この世界に蔓延している瘴気はとっても身体に悪いんだよとか言ったんじゃないかな。それなら大体常識だから知ってるって言われても……と軽く現実逃避をしてしまったけれど、しかしそんな事を口走った覚えもない。

 言わなければならない事を言うためにこうしてやって来たのに、そんなどうでもいい話をするはずもないのだ。


「え、いつから……?」

「そうだな、大体旧寮あたりかな」

「え……っ?」


 さらっと答えられたそれに、ルシアは呼吸の仕方を一瞬忘れた。

 大分最初の方である。

 一番最初から気付いていたわけではなさそうだけれど、それでもかなり最初の方である。

 暗殺チャレンジのほとんど最初から気付いていたと言われてしまえば、そりゃあ驚くのも無理はなかった。


 これでも一応殺意は隠してきた。

 そもそもルシアはウェズンに対して別に個人として恨みだとかは持ち合わせていない。思う部分がないわけではないけれど、それはウェズン本人に向けるものではないので。


 ルシア個人としては殺す必要なんてない相手だけれど、それでも殺さなくてはならなかった。


 元はと言えばあいつのせいで……という思いがなかったわけではなかったのだ。


 ただ、それでもどうしてもいざ殺そうとなると駄目だった。

 人間だ。

 魔物ではない。

 殺したらすぐに消えて死体も残らないような魔物と違って、殺せばその場に死体が残る。

 死体すら残さない殺し方をすればともかく、今までルシアがやろうとした殺し方なら間違いなく死体は残る。


 殺した後の事を想像するとどうしても身体が上手く動いてくれなかった。


 そうするしかない、これでいい。そう思いながらも、けれども、死んだ後の虚ろな目だとか、冷たくなっていく身体だとか、そういったものを想像するとどうしようもなく身体が竦む。

 そうして自覚するのだ。自分に人殺しは向いていないのだと。

 ワイアットだったら今頃きっともうとっくに……なんて思う事もあったけれど、同時にアレと同じになっていない事に安堵もした。

 けれど、いつまでも実行しないわけにもいかないとわかっていたのだ。

 ルチルの事もあった。


 もっとも、今となってはもうルチルはいないのだけれど。

 ワイアットの言葉が実は冗談で本当は生きてるなんて可能性はそれこそたった今神が世界滅ぼすのやめると言い出すくらいの確率だ。つまりは、有り得ない。


 ルチルの死を確認しに行こうにも、そう簡単に戻れるわけでもない。

 というか恐らく戻ったら最後だ。

 戻れば、きっと自分はそこで死ぬ。


 何も成せないまま。


 躊躇って躊躇ってどうにかやるしかないと自分の心に喝を入れて、いい加減遊んでいる暇はないぞと追い詰めるように思い詰めてウェズンを殺そうとしていたというのに。

 けれど、ルチルが死んだと聞いてしまって。


 なんだかもうどうでもよくなった。


 自分が頑張る意味ってなんだろう……頑張っても意味なんてないんじゃないかな。

 そんな風に思ってしまえば、ウェズンを殺す事とかももうどうでもよくなってしまって。


 恐らくそのうち故郷から連絡が来て、そうしてその時には帰らなければならない。束の間の自由行動時間は終わりを迎える。今戻っても戻らなくても、遅かれ早かれ結果は同じ場所へ辿り着く。


 元老院がルシアの事を役立たずと罵ったところで、本当にもうどうでも良かったのだ。

 ちっぽけな自分にできる事なんてたかが知れていて、それでもどうにか張り詰めてあった糸はルチルの死でぷつんと切れてしまった。

 けれど、今までウェズンの事を殺そうとしていた事実が消えてなくなるわけではない。行動に出ようとしたもののそのほとんどが失敗だとか未遂で終わっているとはいえ、殺そうとしていたのは本当なのだから。


 知らないうちに殺されそうになっていた、なんて言われてもウェズンだって困るだろうなと思いながらも、それでも黙ったままでいるのはルシアの意に反した。知らなければ、何もなかったことにして今までみたいに同じクラスの友人面したままでいられるけれど、それってでも、どうなんだろうと思うわけで。


 ウェズンを殺すために、彼の近くにいてもおかしくない立場を狙おうとしてウェズンの妹の方に近づいて、妹の友人ポジションにおさまって。要するに利用したのだ。血の繋がらない妹を。

 きっと、そうじゃなければイアと仲良くする事なんてなかった。


 考えれば考える程、何もなかった振りをして何食わぬ顔で今までのようにいるのは自分が許せなかった。


 だからこそ、今日、こうして懺悔をするべくやって来たというのに。


 知ってた。


 なんてあまりにあっさり返されるとは思っていなかったのだ。

 気付いたのが割と最近だった、とかならまだわかる。

 けれども気付いていたのがかなり前。つまりは、今までルシアが悩みながらもどうにかウェズンを殺そうと四苦八苦していたという事実を知っていたというわけで。

 苦悩や葛藤までは気付けとは言わないが、知っていながら――


「そのままにしてたのか……」

 自分を殺そうとしている相手だ。だったら、何らかの手段を講じるべきだろうに。

 けれどもウェズンはルシアに対して何かを仕掛けた事はない。ルシアが気付いていないだけ、とかではないだろう。身近に自らの命を脅かす存在がいるのなら、そして何らかの手段を講じようとしていたのなら。

 今こうしてルシアがここにいるはずがない。


「あー、えぇと、まぁ、そうなるね」


 ウェズンとしては原作とやらでも命を狙われているらしいと聞いてはいたけれど、最終的に解決するとも言われていた。それが例えばルシアを殺して解決したとかならともかく、そうではないらしいのでそれならば流れに身を任せておいた方がいいだろうと思っただけだ。そもそも原作内容知らんので何をしてもしなくても原作から外れる可能性は普通にある。下手に考えすぎて余計な事をしでかすよりは、普段通りに生活して何かあってもその時自分が取りうる手段で解決を目指した方が自然な展開だろうし、その方が原作に近い終わり方ができるのではないか、と思ったのもある。


 正直今からキャラ変更して何かしようとする方が色々と物事失敗する可能性があった、とも言う。


 そりゃあ確かにルシアは不意打ちで事故を装って殺そうとしていたけれど、そのどれもが不発に終わっているのだ。

 多分だけど、いっそ正面から堂々とお前を殺す! とか言いながら襲い掛かってきたほうがまだ成功確率高かったのではなかろうか、ともウェズンは思っている。

 確率的に3%くらいは上がるんじゃないかなぁ……真正面からそう宣言されて攻撃されたら一瞬ぽかんとして隙はできると思うし……という、とてもちっぽけなものだが。

 ただ、隙を狙って背後から……とかやろうとして何か良心の呵責に苛まれて……みたいな感じで躊躇していたりするくらいなら、正面突破の方がいっそ吹っ切れてしまうのでは、と思うのもまた事実。殺せなくても一撃入れる事ができれば次からはもう遠慮とかしないだろうとも思うわけで。


 ルシアのウェズン暗殺チャレンジがいつ終わるのかは知らないままだったが、こうして懺悔に来たという事は一応終わりを迎えたと言っていいのだろう。


「それで犯行動機は何。たまたま目についたから、とかそういう通り魔的犯行ではないんだろ? 一応そこら辺聞かせてくれるんだよな」


 殺そうとしてました。ごめんね☆

 でルシアが済ませるはずはないと思っている。

 いや、それで済ませたらそれはそれでウェズンも「え?」と背後に宇宙と猫を背負うだろうけれども。


 ルシアもそんなノリで済ませるつもりはないらしく、とても神妙な顔をしたまま頷いて実は、と口を開く。



 ドドドドドドン!



 と、それを遮るようにドアがノックされた。

 ノックというかもうビートを刻んでいる。


「えっ?」

「誰だろ……ちょっと出ていいか?」

「あ、うん」


 折角話そうとしたところを妨害されたようなものだが、しかし居留守を使うにしてもこれだけ騒々しくドアを叩いてくる相手だ。すぐに立ち去るとは思えない。

 なおもドンドコ叩かれているドアへ近づいて、はいはいどちらさまー? とか言いながらドアを開ければ。


「言い忘れていた事がある」

「よう、邪魔するぜ」


「え、ちょっと!?」


 そこにいたのはジークとイフである。


 二人はウェズンの返事も待たずにするりと室内に入り込んで――


「そういや竜種の血を引いた奴がいるなと思っていたのだが……もしかしてお前が兄上を殺そうとしていた奴か?」

「えっ!?」


 ジークの目がルシアに向けられる。

 今しがた懺悔をしようとしていた内容をずばりと言われ、最近学園にやってきた人が何で知ってるんだとばかりにルシアも声を上げた。


「あぁ、そいつで間違いない。オレも見てたし」


 何で知って……? とか聞く前にネタバラシをされて、ルシアは思い出す。そういやこの人と会ったのも旧寮だったよな……と。


「もしかして」

「あぁうん、狙われてたっていうのはイフから聞いて」


 ルシアがウェズンに問いかければあっさりと頷かれる。


 殺そうとしても大体失敗か未遂で終わって本人に気付かれるような事なんてなかったはずなのに知っていたとなれば、つまり襲おうとしていたところを目撃していた誰かが忠告したという可能性はルシアにもすぐに思い浮かんだ。


 そして、確かに旧寮でルシアはウェズンを事故に見せかけて階段から突き落として運が悪かったら死ぬんじゃないかなぁ、なんて思っていたので。

 その直後に確かイフが攻撃を仕掛けてきたのだったのだから、まぁそりゃルシアがやろうとしていたのを知っていてもおかしくはない。


 けれども。


 こんな暴露はあんまりではなかろうか。

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