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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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転入生



 決行から実際に行動に移るまではあっという間だった。


 故にちょっと理解が追い付いていない部分があった、とウィルは思っている。


 リィトとレイを残して先に戻って来たあの日。

 レイは大丈夫だろうかと気を揉んでいたけれど、あの後イアからモノリスフィアで連絡が来て一応無事であった事を知ってそこでようやく安心できたのだ。


 とはいえ、学院に戻って来たリィトが本当に何もしないか、というのは疑わしい部分もあったので日々警戒はしていたのだが。


 とはいえ、リィトも学院に戻ってきたとはいえ、そこからしばらくの間何もなかった。

 ワイアットにこちらの事を話したりだとか、そういった様子も気配も何も。


 一応そういう話だったと思っているから、無いなら無いで問題はないはずなのだが、それでもウィルは完全に安心などできなかったのである。


 少し遅れてアレスやファラムが戻ってきて、なんか空気がピリついてるなと思ったのは確かだ。

 与えられた課題は人によって異なるので、何かあったんだろうな、と聞くまでもなく勝手に納得していたけれど、それにしたってピリピリしすぎている。

 だから、少し様子を見てから聞いてみようかと思っていたのだ。



 けれども。


 ウィルが話を聞く前にアレスはファラムとウィルを呼び出して、そうして授業終わりに出された宿題というか課題について話し合ったりしていたワイアットの仲間と推測される連中にそのまま襲撃を仕掛けた。

 打ち合わせも何もない。

 ウィルはてっきりそこにいた連中を見て、これからあいつらに襲撃仕掛ける予定だけどどういう方法を取る? だとかの作戦会議から始めると思っていたのだ。

 今回はその事前の顔を確認して人間違いで攻撃しないためのものかなとも。


 ところが会って速攻仕掛けている。

 え? え? と困惑しきりなウィルと同じようにファラムもそうなのではないか、と思ったウィルだったがしかしその予想は裏切られた。

 ファラムもまた俄然張り切った感じで襲撃していたのである。

 まぁ実行犯はどう見たってアレスで、ファラムはそのサポートに回る感じだったが。


 何が何だかわからないまま、ウィルもなんとなくでアレスのサポートに回ったりして、その場にいた連中の大半を血祭りにあげてその場を脱出。

 単なる生徒同士の諍いで済まないレベルのやらかしだ。このまま学院に残ればそれ相応の処分は免れない。

 だからこそウィルは迷わずアレスについていって学院を出たし、その後転がり込むようにして学園に足を踏み入れたのは、もうここまでくればそりゃそうだろうよとしか思えなくなっていた。


 学院の制服のまま学園に突入したので、周囲の生徒たちはそりゃもう警戒態勢だったしなんだったら攻撃を仕掛けたりもしてきたのだけれど。流石にそちらは殺すわけにもいかない。学園に入りたいというのに今ここで学園の生徒までをも血祭りにあげるのはいいわけがない。

 今まで学院の生徒だった時に学園の生徒を倒した事はあれど、今は状況が違う。


 だからこそ適当にいなして、そうして職員を引きずり出して――という言い方もアレだが――交渉の席に移ったのである。



 結果として。


 学園に来る前から既に白い学院の制服に返り血がついていた事もあり、向こうで何かあったんだろうなぁ……という推察もあった事で。


 アレスたちはどうにか学園の生徒となる事を許可された。


 というか、ここで学園が拒否しても学院に戻る意思がない三名は、そうなれば野放しである。


 流石にそれは……となったが故の、経過観察処分付きでの生徒として在学を認められたというのが正解だろうか。


 できればもうちょっと穏便に事を進めたかったなぁ、とウィルが思ったところで後の祭り。


 アレスはジークがここにいるならすぐさま行くしかないだろうとか言い出してたし、ファラムもウェズン様がとしか言わなかったし。


 ウェズンに何かあったの? と聞いても答えてくれなかったのだ。


 間違いなく現状、この場で当事者なくせに一番事情を理解できていないのはウィルだと言える。



 一応、少し前の話し合いでワイアットの仲間たちに襲撃を仕掛けて学園に行く日についてというのをしていなかったわけではない。

 けれどもその時の話し合いでは、もう少し先の――新学期、つまり二年になる前に行う予定だった。

 まぁ若干早まったが進級試験を終えた今ならそこまで誤差はないように思えるが、それでもまだ進級しているわけではない。


 二年になった時にしれっと新入生もしくは転入生として学園に入り込む算段をたてていたというのに、こんな時期外れ甚だしい事になるとはウィルだって思っていなかったのだ。


 一応いつ何があってもいいように学院の私室に置いてあった荷物とかはほぼリングの中に入れてあったので、ほとんど無一文で転がり込みました、何てことにはならなかったけれど。



 学園側の教員も、仮にやらかしてこちらにやってくるとすれば、まぁ進級する時とか新学期あたりの区切りのいい時を狙ってくるだろうと思っていたらしく、それよりちょっとフライングした状態のアレスたちに大層困惑していた。だよね、わかる。だってウィルもそうだもん。と声には出さずにウィルは静かに深く頷いていた。


 まぁ学園の生徒になれたならそれはそれで良し。


 これで、レイと敵対する事はなくなる。

 同じ学園の生徒として、切磋琢磨する事はあるだろうけれど少なくとも殺し合いだとかに発展する事はない。

 ウィルからすればそれで充分だったのである。



「えー、という事で、だ。

 めっちゃ季節外れもいいとこだけど転校生を紹介すっぞー。おら名乗れ」


「アレス・クランシード。元学院生です」

「ファラム・カスミオット・ロージアードです。同じく学院から来ました」

「ウィル・ハープティカ。学院からきたよ。多分交流会の時に見た顔の人もいるんじゃないかな。よろしくね」


「まぁなんだ。こういう事はたまにある。こっちからあっちに、あっちからこっちに、ってな具合でな。そこら辺はまぁ……気になるやつは後で聞きに来い。あんま大っぴらに話す内容じゃないから個別にそっと教えてやらんこともない。

 でだ、あまりにも季節外れすぎてこいつらうちのクラスで面倒見る事になりましたはい拍手、は別にしなくていいや。

 予定としては新学期に合わせてこっちに来るつもりだったみたいなんだけどな。その場合はこいつら新入生扱いだったんだが……まぁ、後輩じゃなくて同級生だがここそんな詳しくないと思うんで色々教えてやってくれ」


 学院から、という言葉に生徒たちがざわつくのをテラはまぁそうだろうなと思いながら無感動にサクサク話を進めていく。

 一つのクラスになりきれなかった留学生の面倒を見る可能性があるんだろうな、とか思ってたのにやって来たのはもっと面倒な気配の学院からの転校生である。

 しかもこの三名、きっちり向こうの生徒数名仕留めてからやって来たので今更向こうに戻る事もできやしない。まぁ、戻る事を前提にこっちに来られても困るのだが。


「あー、一応言っとく。こいつらに友人とか知り合い殺されたって覚えのあるやつがこのクラスにいたとして。

 別に仲良しこよししろとは言わん。復讐だとか敵討ちがしたいっていうなら止めん。ただ、こいつらも無抵抗でやられるつもりはないから、恨むのは構わんが返り討ちにされる覚悟を持った上で仕掛けろよ。その上で負けた挙句こっちに泣きついても対処はしねぇからな。

 復讐だの敵討ちだのは原則個人での責任だからな」


 そう言われて生徒たちの大半は露骨に困惑した。


 いや、確かに学院の生徒には殺されかけたり実際友人――になったばかりの者――を殺されたりもした生徒はいるけれど。

 ただ、少なくともこの三名はこのクラスの生徒たちにとっては敵討ちの対象に入っていなかったのである。


 恐らくは他のクラスにもこの話が流れた場合、当面は油断も何もあったものではないかもしれないがなんとなくこいつらなら大丈夫だろう……とすんなり思ってしまった。


 恨みが特にないので、よろしくね、と言われてもはぁご丁寧にどうも……といった反応しか返せそうにない。


 そんな事よりも……と三人から少し離れたところに立っている女性に目が向けられる。テラも生徒たちの大半の視線の先に気付いて、あからさまな溜息を吐いた。


「で、こっちが新しく入った教師だ。

 あー……こいつの説明マジでどうすっかな。色々と複雑な事情があるっぽいからそこら辺はまぁ追々……

 おら名乗れよ」

「ジークフォウン。ジークでいい。先に言っておくが見込みのない奴に割く時間は持ち合わせておらぬ。些末事で手を煩わせるようであれば容赦はせんぞ」


「こいつ一応うちの副担任みたいな扱いになるんで。マジで頑張ってくれ」


 とっても仕事ができる秘書です、と言われたら納得しそうなスーツ姿のジークは教師とは思えないような挨拶をして生徒たちを一瞥する。

 本来長かった髪は本人的にも邪魔だと思ったのか今ではばっさりと肩のあたりまでカットされ、そのせいで余計にイルミナと似た顔立ちが強調されていた。

 事情を知らない生徒たちの大半がイルミナとジークをちらちら視線を移動させては見比べている。


「あの、姉とかそういう……?」

「身体はおかあさんだけど中身は別人なの」

「……なんて?」


 見ているだけでは埒が明かぬとそっと声を上げたハイネに、イルミナはどうしようもねぇなと言わんばかりに首を振った。


「我は兄上の手がかりを求めてここにいる。正直兄上以外はどうでもいい。故に我は兄上の手掛かりになり得る人物――そうそこのウェズンだ、そいつ以外に興味はない」


 ずばっと言い切ったジークに、ウェズンの表情が軽率に死んだ。


 いやあの、その発言現代日本でやったら間違いなく炎上しそうなコメントなんですが。とは流石に言えない。


「は? おにいはあたしのおにいなんですけど!?」

「イア、あいつは僕を兄って言ってるわけじゃないんだよ」

「ならヨシ」

「……いいんだ」


 何か知らんうちに妹ポジションが増えるどころかそのまま妹ポジション強奪されそうな雰囲気に、イアがむっとして声を上げたがそれはウェズンの言葉で早々に納得したようだ。

 いやそれでいいんかい、とばかりに声に出したのはアクアだった。



「……とりあえず言っておくけどな。

 爛れた関係は形成すんなよ」

「不可抗力です」


 クラスメイト一同を見回して最終的にウェズンに視線を向けたテラが、なんとも言えない表情になってそう言うものの。

 ウェズンからすれば遺憾の意でしかない。


 イアはともかくそれ以外は成り行きである。


 魔術の師匠だとかジェネリックお父さんだとか、そこに架空の兄扱いが増えたとしても普段であればテラも受け流した事だろう。

 ただ、架空の兄として見てくる相手が新しく入った教師であるという点がとても際どいのである。しかも身体はこのクラスの生徒の母親のもの。


 更に学院からやってきたファラムがウェズンに向けてにっこにこ微笑んで手なんて振ってアピールしている。こちらは含むところも何もなく純粋に好意を持っているのがバレバレであった。


 テラがウェズン同様前世の記憶なんてものを持っていて、尚且つウェズンと同郷であったのなら。

 多分ここでありがちなラブコメハーレムものでも始まろうとしてんのか……? と思ったかもしれない。


 だがしかし、仮に始まるとしてもそれはラブコメではなく修羅場である。


 前世のウェズンの弟か妹でこの手のやつに詳しい者がいたならば、きっと真顔でこう言っただろう。


「ラブコメどころかサスペンス始まろうとしてるんじゃが!?」


 ――と。

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