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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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及第点



 引き返そうにもどうやって戻ればいいのかわからない。


 そんな状況であったものの、もうここでの用は済んだとばかりにジークが何やら唱えれば、一瞬で見覚えがある――というかファラムがいた――場所へ戻って来た。


「ウェズン様!? え、あの……?」


 三人だったはずが戻ってきたら四人になってたのでファラムの困惑としてはまぁ妥当だろう。


 魔女の試練とやらがあるのだ、と言われて。

 一部の者しか理解できそうにない暗号を仕込まれた場所で、どうにか鍵を掲げ先へ進んだ三名が戻ってきたというのであればそれは喜ばしいのだろう。


 魔女の試練というものがどういったものかまでファラムにはわからなかったけれど、それでも相応に危険があるだとか、噂話で真偽のほどもわからない伝承みたいなものは思い返せばいくつか耳にしたような気がしていたので。


 一人取り残されて、何となく魔女に関して自分が知ってる事を思い返していくうちにそういえば……なんて感じで思い出したけれど、そうやって思い出した魔女に関する情報の大半は一体どこまで信用していいのかも疑問な代物ばかりで。


 最悪誰も戻ってこないのではないか、とも思い始めていたのだ。


 何せ一人でじっと待っているだけなので、感覚的にはとても長く感じたのである。

 体感的に五分くらいはもう経過しただろう、と思って確認しても実際一分も経過してないとかザラ。

 苦手な教科の授業の時と同じかそれ以上に時間の進みが遅かった。


 とはいえ、数日が経過したとかでもない。そういう意味で考えれば戻って来たのは早い方と言えるだろう。

 戻ってこない可能性を考えれば、戻って来ただけでも充分である。


 ところがだ。


 戻って来た三名と見知らぬもう一名。


 魔女の試練に関係していた者かしら? なんてファラムは真っ当に考えたけれどしかしそれにしても。


 ウェズンとの距離が超絶近い。

 がしっと肩など組んでいる。


 腕を絡みつけているわけじゃないので、色気とかそういうのはない。むしろ逃げたらどうなるかわかってんだろうなぁ? とかドスのきいた声で言いつつ逃げられないようにしている、とかそっちの方に近いけれど、しかし不穏な空気はない。

 ウェズンと女には。


 けれど、なんとなくアレスとイルミナの視線は厳しかった。トゲトゲしている。


 一体何があったのかしら、と思うのは当然だった。


「皆さんご無事だったのですね。それで、えぇと、そちらの方は?」


「我が名はジーク、兄上の弟にあたる」

「私のお母さんの身体よ」

「俺の友人の魂だ」


「自分は何もしていないのに周囲の人物相関図とか作ったら絶対今面倒な感じになってる。ドウシテ……ドウシテ……」


 兄上、と言いながらウェズンの肩をぐいと自分側に寄せているジークとやらはどう見ても女の身体なのに弟と言い張るし、イルミナは母親だとのたまう。ただし身体だけ。

 それでアレスに至っては友人の魂。


 とりあえずわけのわからん事になっている、というウェズンの言葉が一番場の状況を正確に評しているように思える。


 ……魔女の試練で、一体何が……?


 ファラムの困惑も最高潮である。


 そんな困惑をだよね、と言うように頷いてウェズンはざっくりと説明してくれた。


 まさかここで鍵を掲げて次の空間に行ったらそこにも暗号が仕込まれていて、知らぬ間に試練の難易度をとんでもなく爆上げしてしまっただとか、初っ端から聞いた時点で「大丈夫ですかそれ」と突っ込むしかない展開。

 そもそも魔女の試練だとかで、イルミナが対象だったはずなのにイルミナは魔女の娘であるけれど魔女として育てられていないせいで魔女の知識はとても乏しい。


 それ故に魔女が使っていた暗号などこれっぽっちも理解していなかったための悲劇である。


 本来ならば、自分の実力に合わせて試練の難易度を変更できたのではないかしら、とファラムは思ったが、だがしかしファラムが思ったものとは方向性が大分異なっている。


 一番簡単な難易度でやるべき事がドラゴンの魂を安全に封印している今のうちにお母さんごと殺してね、というものなのだから。


 ……簡単って、なんだったかしら……? とファラムが更なる困惑を生じさせるのも無理はないだろう。

 けれども一番難しい難易度だと、母の魂が消滅した後封印が解かれた竜種と戦わねばならぬ、と。


「難易度のブレ幅酷すぎませんか……?」


 イージーは精神的にはナイトメアだし、ハードは命の危機的な意味でハード通り越してインフェルノである。


 もうどっちでもルナティックだよとウェズンだって内心投げやりに思っているくらいだ。


 謎の助っ人――ジークの兄らしい――がいなかったら間違いなくウェズン達は死んでいた。

 だが肝心のその兄上とやらはどこにいるのか、どこにいたのか、まるでわからないままだ。


 そのジークの兄上とやらが実は以前もウェズンの頭の中で語り掛けてきたとかそういう事は言っていない。

 そもそもあの時の声も本当にそうだったのか、確証がないのだ。


 今回はともかく、前の時はもしかしたら本当にただの幻聴だったのではないか。

 どうしてもそう思ってしまう。


「あの、でも、そうしたら、魔女の試練は……?」


 困惑しっぱなしのファラムがどこか言いにくそうな顔をしてイルミナを見る。


「合格とはいかないが一応及第点といったところだろうな」


 そしてそれに答えたのはジークだった。


 確かに本来の魔女の試練の内容を思い返すに、ジークを倒す、というか仕留める事が条件であった。

 イルミナの母がまだ死んでいない状態で彼女の口から事情を聞いて、そうしてトドメを刺すだけ。

 簡単ではあるが実の母を手にかけなければならない、というそれは、精神的にはとんでもねぇトラウマ発症しそうな代物である。

 けれどもいざという時に、身内だろうとなんだろうと必要であれば殺める事も厭わない……という覚悟だとか、そういうのを示すものだったのであれば。


 正直人生で大分最低な試練ではあるけれど、そんな事をしてしまった以上今後何があろうともあれより最低はそうなかろうと思えるようになるのかもしれない。……そういう風にでも思わないと、とてもじゃないがやってられない。本当に何でこんな最低な試練にしちゃったんだ……本人に聞いてみようにもイルミナの母の魂は既に消えてしまっている。ジークに聞けばわかるだろうか……と思ったが、正直ジークから聞かされたら何か余計な事まで聞かされそうな予感がした。


「及第点……」


「って事は、次の試練とかがあったりする、のかな?」


 失格と言われないだけマシかもしれない。とはいえ、喜べる結果ではない。


「そこら辺は追々なんとかするのではないか? 知らん」


 しょんぼりするイルミナのかわりにアレスが聞いたけれど、ジークの答えは物凄くざっくりした挙句自分当事者じゃないんで、とばかりに他人事のような回答であった。


「そんな事よりも今重要なのは兄上の事だ」


「そんな事……」


 魔女の試練のためにやって来たのにそんな事扱いされて、イルミナはわかりやすく落ち込んでいる。


「恐らくもう生きてはいないだろうと思われていた兄上の魂が何故だかそなたに宿ったのだ。今はまったくこれっぽっちも何にも感じられないが。兄上には確認しないといけない事があるというのに……」


 どこから何をどう聞いても完全に私情である。

 確認しないといけない事、というのが何なのか気にはなるけれど身内関係の話であるならあまり首を突っ込むべきではないだろう。よそ様の家庭の話なわけだし。



「……あぁそうだ」


 魔女の試練だとかジークの事情だとか、その他諸々すっ飛ばす勢いでジークは思い出したというようにウェズンへ板状の物を手渡した。


「……モノリスフィア……?」


「持ち主に返しておいてくれ」

「持ち主って……あ!」


 そこで気付く。気付いてしまった。


 父のモノリスフィアに連絡しようとしたものの、謎のワンクッション入れられた時の事を。

 あの時聞こえてきた不機嫌全開な女の声は、今にして思えばジークの声ではなかっただろうか。

 今はそこまで不機嫌でもないので地獄の底から響くようなド低音ではないけれど。


「あれ、でもその時ってまだイルミナのお母さんが」

「封印されていてもどちらの力が強いと思っているのだ。自由に動けないだけで意識はこちらの方が多く出ていた」


 そう言われてしまえばそうなんだとしか言いようがない。


「ともあれ、行くとするか。学園で面倒ではあるが手続きもしないといけないだろうからな」

「ジーク、待って、待ってくれ……!」

「……話があるなら直接学園へ来るがいい。来れるものならな」


 呼び止めようとしたアレスに、ジークはふん、と鼻を鳴らしそれからくるりとアレスに背を向けた。


 ウェズン達は学園の制服を着ているし、アレスとファラムは学院の制服を着ている。

 いくら世間から離れていたとはいえ、ジークは学園と学院の事を知らないわけではない。

 敵地に飛び込む気概があるなら話くらいは聞いてやる、とばかりの態度に。


 アレスはきゅっと唇を噛みしめるだけであった。

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