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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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片手間バトル



 かつて――


 まぁどれくらい昔だったかなんて覚えていない。そこそこ前の話でそこまで大昔って程ではなかろうとジークは雑に分けているが、それでもそこそこの年月が経過しているだろう事は確実である。


 まだこの世の何もかもを理解していません、とばかりの幼子であったアレスは、ドラゴンがいかに危険な存在かもわからずに、挙句こちらが言葉を理解できると知った時点で遠慮も何もなく話しかけてきて、気付けば友と呼んでもいいかな……くらいの間柄にはなっていた。

 こちらがそう思う前、そもそも初対面の最初の時点でアレスはこちらを友認定していたらしいのを察して、警戒心うっす……! と思ったのも覚えている。


 え、こんなんで生きていけんの?

 人間てそこまで強くもないし、ちょっとした事で死ぬって聞いてるんだけどな。

 中にはたまに強いのもいるけど、大半は割と簡単に死ぬ。

 ましてや見た目からして幼子だ。これはちょっとつついたら死ぬだろう。


 ただ、簡単に死ぬからといって面白半分で殺すつもりはなかったのだ。

 そういう事をすれば親が出てくる可能性も高いので。

 親が弱かろうとも、我が子を殺されれば捨て身で復讐に来る可能性は充分にある。

 別にそれは人間に限った話ではないのだから。


 まぁ別にこっちに危害加えようとかしてるわけでもないしな。

 幼子一人くらいなら、片手間に面倒見るのも良かろうて。

 とはいえ、ドラゴンとお友達なんて周囲に言えば間違いなく面倒な事になるのはわかりきっている。


 だから、自分の事は決して他の誰かに言ってはいけないよとだけは言っておいた。

 たまたまロクに人もこないような森の奥で、ちょっと気晴らしに休んでただけだったけれど。

 思わぬ客人と関わる事になるなんてジーク自身も思っていなかった。



 とはいえだ。


 まだ幼い子供が一人でそう何度も森の奥だとかに出かけていけば、大人もそれなりに訝しむだろう。

 お友達と森の入り口で遊ぶくらいならあまり奥に行くんじゃないよと言うだけだったかもしれない。

 けれども頻繁に森に一人で遊びに行く、というのは。


 勿論一人でいる事の方がいい、というタイプであるなら、こちらもやはり暗くなる前に帰ってくるように、だとかあまり奥まで行くんじゃないと注意するだけで終わっただろう。

 けれど、恐らくはジークの事を言わずとも、友達と遊んでいる、くらいは零したのだろう。


 ある程度の年齢になってそこそこ信頼があるなら別にどの友人と遊んでたって親もそこまで聞いてこないとは思うけれどアレスはまだ幼いと言ってもいい年齢だった。

 それもあって、親はきっと心配したのだ。

 アレスがジークとの約束通りジークの事は言わないようにして、それでもお友達と遊んでいると受け取れるような事を言って。絶対に相手を言おうとしなければ、まぁ疑うだろう。何やらよからぬ相手といるのではないか……なんて。


 だからこそ、今にして思えばあの出来事はいずれ起きてもおかしくない事だった。

 ジークはそう思っている。


 いつものように遊びに行くアレスの後を、親はこっそりと尾行して。


 そうして、見たのだ。

 幼いアレスなんて一口でパクッとできてしまいそうな暗黒竜の姿を。

 そんなドラゴンの近くで、どれだけ危険な事かもわからずにきゃっきゃとはしゃいでいる我が子の姿を。


 親はその場で突撃してこなかった。


 言えない友達。

 何度も会っている事から、今回も横やりを入れなければ問題ないだろうと判断したあたり、まだ冷静さを失っていなかった。


 そうして。

 ドラゴンに対抗できうるであろう人物と連絡をとり――


 あの日、アレスと自分の友情は終わりを迎えた。


 親が一度目で突撃してきたのであれば、ああも用意周到な事はできていないだろうと思っているので実際はどうであれ、多分親は事前に知っていたのだと思っている。


 そうでなければ。


 あいつらはこれからどこかの国でも滅ぼしにいく、とかじゃなかったら、あの戦力はどう考えてもおかしい。


 いくら世間とそう密接に関わらないドラゴンといっても、世間の情報一切知らないなんて事はない。


 神の前での茶番劇を三度繰り広げてみせた男に、竜種の血を引く女。

 希代の魔女とまで言われた女と、そしてアレスの父。

 なお父親は聖剣を所持しているものとする。


 ……どう考えてもおかしいだろう。


 悪い事なんにもしてなかったしただ子供の遊び相手をしていただけなのに。

 いやまぁ、過去から今に至るまでで悪事を働いた事がないか、と問われると頷けないんだけども。

 もっとずっと大昔には国を滅ぼした事もあるから、自分は善良な存在ですよとは言えないんだけど。


 でも仕方がない。


 人間にも事情があるとはいえ、魔晶核狙いで襲われる事はままある話だったので。


 異世界からの技術がふんだんに使われた浄化機がマトモに動かないとなればいずれは瘴気に満たされて、人間は変質し異形へと変わる。

 いっそ皆が皆、異形へとなってしまった方が良いのかもしれない――なんて思想を持った者がいなかったわけではないが、まぁ異端として迫害されたし実際異形となった時点で討伐された。

 それはさておき、ともあれ、浄化機に欠かせない動力として魔晶核は必須。

 普通の魔石で試しても、思ったよりも浄化されないのだ。


 魔石を何百何千と組み込んだとしても、一番小さな魔晶核には劣る。それ以前に何千もの魔石を組み込めるようなスペースも浄化機にはないだろう。

 魔力の質が異なるだけで、魔力が足りないというわけではないのだが。


 故に、いかに強大な力を持つと言われていてもドラゴンは狙われるのだ。

 それもあるからこそ、他の同族は――ただ血を引いているだけの者たち以外は――滅多に人前に姿を見せる事はないし、普段は人が立ち入る事のないような所で暮らしている。


 とはいえ、それをよしとしているわけではない。


 何故、自分たちがこそこそ隠れ住むような真似をしなければならないのか。

 そう思う事だってあった。


 大っぴらにドラゴンの中にある魔晶核が浄化機にとって欠かせない存在であると知られているわけではない。知っているのはまぁ……一部――その一部の数がそれなりに多いのだが――か。世界にとっての常識として知られているわけではない。とはいえ、公然の秘密と言ってもいいようなものなので、一部しか知らないといっても下手をすればその一部は世界の人口の過半数を超えていても何もおかしくないのだが。


 強大な力を持つ相手にそれでも挑もうとするには、それなりの理由がある。


 魔晶核なんていうものがなければ、ドラゴンもそこまで狙われる事はなかったかもしれない。

 いや、とはいえ、竜の血も牙も爪も鱗も肉も、余すところなく魔法薬の材料になるので魔晶核がなくても狙われてはいただろう。ただ、その狙われる頻度が少し減るかどうかだ。


 もっとずっと大昔、まだ浄化機も正常に動いていた頃であれば、ドラゴンの存在はそこまで狙われる事もなかっただろう。けれども今となってはドラゴンは、決して見逃せない貴重素材なのである。


 なので、別に人から狙われる事についてはもう随分と昔にそういうものとして受け入れはした。

 だからといって簡単に死んでやるつもりはこれっぽっちもないけれど。ただ、どうして狙うのか、と思い悩むような事をしなくなっただけだ。


 下手にドラゴンがいる、なんて周囲に大々的に知られていたら間違いなく魔晶核を狙って各国で戦争が始まっていてもおかしくはなかった。とはいえ、結界があるので世界中全ての国が争う事までにはならないけれど。けれども神の楔で移動できる者ならば、血眼になって狙いにきてもおかしくはない。


 そう考えると、アレスの父は随分と上手くやったものだと思わなくもない。

 大勢で討伐した場合、魔晶核は誰が得るかで揉める事もあっただろう。けれどもアレスの父と仲間たちはそうではなかった。

 ……まぁ、普通に倒されてやるか、と問われれば答えは勿論否であったが。


 もし一撃で倒されるような事があったのであれば嫌がらせなどする余裕もなかっただろうけれど、ジークはただでやられてやるかよ、という思いは常にあった。

 なのでもし負けが濃厚になった時点で、自分の身体がマトモに残るような死に方をするつもりはなかったのだ。苦労して倒しても魔晶核はおろか、それ以外の魔法薬の素材になるべき部位すらも手に入らないとなれば、精神的な疲労は半端ないだろうなと思って。これが単純にドラゴンという強大な種を倒してみたいとかいう相手であったなら、死に方なぞどうでもよかったかもしれない。

 けれども大半の者たちは、間違いなくドラゴンの体内に存在する魔晶核が狙いなのだ。

 死ぬような思いで倒してもそれが手に入らないとなれば、その後の脱力感は半端なかろう。切り替えて次のドラゴンを倒しに行くぞ、と言えるようなものでもないのだ。

 まずドラゴンが普段どこにいるかなんて、わからないので。


 いや、滅多に人が来ない場所にいると言えばそうなのだけれど、そういうのは大体とんでもなく標高の高い山だとか、どう頑張っても徒歩で行けそうにない場所だとかなので。

 しかもそういう所に親切に神の楔があるかと問われれば、ドラゴンたちとてそれがない場所を選ぶに決まっている。


 まぁ、人が近くにいるような所で生活できないわけではないのだが……それを知る者は滅多にいない。



(ふむ……それにしても)


 ジークは戦闘中に何となくあれこれ思い返していた。

 かつて自分を追い詰めた者たち同様の実力者であったならこんなのんびりあれこれ思い返したりしている途中で間違いなく死にかけていたのだが、生憎とジークはピンピンしている。多少かすり傷ができたりもしたけれど、この程度なら怪我をしたと言うにはちょっとな……といったところだった。

 これで怪我をしたなんて騒いだなら、同胞からは大袈裟すぎると失笑される事間違いなし。


 そのかすり傷をつけてきたのだって、この中で一番何もわかってなさそうなファーゼルフィテューネの子である。

 アレスと魔女の娘は未だロクに使い物になっていない。


 あまりにも温い戦い。

 この身体が本来の自分のものではないために、そして長い間封印されていたのもあって、まぁ最初のうちは押される事もあるだろうなとすら思っていたのに、一時的にピンチになりそうな展開すらなかった。


(こいつら生き残るつもりないのかな)


 アレスは未だかつての一件を引きずっているようで、思ったように実力を発揮できていないようだし魔女の娘はこの身体が己の母親のものだという事実で躊躇でもしているのだろうか。

 唯一健闘しているのは竜種の血を引いた者だけだ。

 とはいえ、一対一で戦ったとしても自分が勝つだろう事だけはハッキリしている。


 これ以上引き延ばしたところで、血沸き肉躍るような戦いなど有り得ない。


 それならば。


「いい加減終わらせるとしようか」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジークさん、ただの良い奴じゃねえか。 差し向けられたのが魔王夫妻とおそらく勇者夫妻とか、殺意が高い。そら最初はジークも切れるわ。 [一言] アレス「死んだと親友だと思ってたドラゴンがクラス…
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