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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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知らず地獄の蓋を割る



 淡く柔らかな光がゆらゆらと揺れていた空間から見えていた、ある意味で恐ろしさすら感じられる空間の先は、きっとなんていうかダンジョンの中なら最深部で魔物がうようよいたっておかしくなさそうな雰囲気すら漂っていた……とウェズンは思っている。

 日が沈む直前の、そろそろ家に帰らなきゃと思うような感情に突き動かされるようなものも確かにあったけれど、それと同じくらいに不吉な予感もしていたのだ。


 アレスが血の色を空にぶちまけたみたいな、なんて不吉な事を言い出したのでそのせいもあるのかもしれない。


 ともあれ、どれだけ不吉な出来事がおきてもおかしくはないなと思えるような色合いの空間。


 そこに足を踏み入れなければならないとなれば、そりゃもうロクでもない想像が頭の中をばばっと通過していったって仕方のない事ではあった。

 そのせいで先に進むのに気が進まなかったというのもあるのだが。


 しかし戻るにも戻る手段すらない状態で、こうなったらさっさと諦めて先に進むしかないな、と覚悟を決めていざと足を踏み入れてみれば。


 禍々しさすらあったような空間の先は、一変して夜の闇に包まれていた。

 光の届かない真っ暗な空間かと言われればそうでもない。

 天井と思しき場所には小さな星屑が煌めくように輝いているせいか、思っていたより暗くはない。そこにウェズン達が入ったと同時に、一段階程明るくなる。

 月明りが煌々と照らすような、昼のような明るさとは違うものの、それでも周囲を探索するならそこまで困るほどでもない。足元は若干見えづらくはあるけれど、しかし近くにいるだろう二人の姿は一応見える。


 周囲を見回したところで目立つものは今の時点では特にないように思えた。

 足元に気をつけながらも進んでみる。

 もう少し明るければ、各自で分担してというのも考えたけれどあまり離れると今度はその姿を見失いかねない。特に話しあったわけではないが、三人は離れないように注意しながら一歩一歩、用心深く進んでいく。


 この場所の広さがどれくらいなのかもわからないし、下手に離れた結果お互いの姿も見えないまま何かに襲われでもしたら。

 そんな考えはあり得ないとも言い切れない。


 夜の闇に怯える幼子のような、オバケが出たらどうしよう、というようなものに近しいものはあるけれど、しかし万が一ここで何かが出たとして、それは間違いなく自分たちの命を脅かすようなものだと思っていいだろう。


 固まってる方が危険な場合も確かにあるが、しかしどちらかといえばこの暗闇に乗じて各個撃破される可能性の方が高い。


 それもあって、三人は用心深くゆっくりと進んでいた。



「あれなんだろ」

「どれ?」

「ほら、ここから大体一メートルくらい先の」

「んん?」


 暗いなかでも比較的目が見えるウェズンは少し先に何かがあるのを捉えていた。

 生物……ではない。

 大きさ、というか高さはウェズンの胸よりもちょっと下、くらいだろうか。

 すらりと伸びたそれは上部分が若干丸みを帯びている。

 警戒しながらも近づいてみれば、それはどうやら灯篭のようなものであった。

 とはいえ、ウェズンの知る灯篭とは形が若干異なっているが。


「なんでこんなところに……?」

 と思うのも無理からぬ事である。

 何となく指でちょんとつついてみれば、灯篭はその一瞬後にぽっと淡い光を灯らせる。


「魔力式か……」


 アレスが納得したように呟く。


 魔力を使わない本来の灯篭もあるにはあるけれど、これは触れた相手の魔力を吸収し光るタイプらしい、というのはウェズンにも理解できた。


 灯篭周辺だけが淡い光で照らされて、ほとんど真っ暗だった一部分だけ視界がはっきりしてくる。


「他にもあるのかな」

「どうだろうな」


「あ、あっちになんかそれっぽいシルエット見えるけど」


 もしこれしか灯りになりそうなものがなければ、この周辺だけはともかくこの範囲から外れた部分は逆に余計見づらい事になりそうではあったけれど、イルミナが指し示した方向にも同じように灯篭があるのが見えたのでもしかしたらある程度この場所に点在しているのだろうとアタリをつけた。


 ほのかに見えなくもない、程度の暗闇では周囲に何が潜んでいてもわかったものではないけれど、こうしてある程度周囲が照らされてみれば何かが潜むような場所もなさそうで。


 それ故に、三人はある程度の灯篭を灯した時点で各々他の灯篭を探し分担して灯りをつける事にした。


 そうしてものの三分もかからずに、この場所にあった灯篭全てを灯し終えると。


 すっ、と光の帯が走るように室内に出現する。

 灯篭から灯篭へ、その光はどんどん伸びていって何かの紋様のようなものを刻み始め――


 光が、天井へと向かうように上がった。


 夜空のようであったはずの天井はこの時点で星を模した瞬きを止め、紋様めいた光は天井にも刻まれていった。


 先程の部屋に居た時のような、柔らかさのある光が室内に増えていく。

 帯のようなそれは、ゆったりとあちこち移動していたが徐々に一か所に集まっていき、それぞれの光が形を成していく。とはいえ、複雑な形状になったとかではない。


「階段……?」


 ポン、と軽快な音がして、光が一段、また一段と形を作り、そうして最終的に階段になっていた。

 ゲームじみてんな……なんてウェズンは思ったが流石に口に出すわけにもいかない。

 上へ続く階段の先を見上げれば、天井まで続いていて、そうして先程まで確かになかったはずの空間が広がっている。

 ぽっかりと開いたそこは、やはりこちらから見上げるだけでは先に何があるのかさっぱりだった。


「戻る道は無し。となるとやっぱ行くしかないわけか」

「こんな感じで延々進むような事になるだけならさっさと最終地点に案内してほしいくらいだな」


 ウェズンの呟きにアレスがうんざりしたように返した。

 気持ちはわからないでもない。


 イルミナも覚悟を決めたらしく、最初に階段に足をかけたのは彼女であった。

 かつん、と元はただの光だったとは思えない硬質な音が響く。

 イルミナだけ先に行かせるわけにもいかないだろう、とウェズンもアレスも置いていかれないように階段を上がっていった。



 ――この場にもしファラムがいたのであれば。

 この部屋が何となく灯りをつけて先に進むだけの部屋などではなかった事に気付けたかもしれない。

 けれどもファラムは鍵を持たない者だったので、この部屋に辿り着く事はなかった。

 それ故に、ウェズン達は気付けなかった。


 最初の灯篭を灯した時に、灯篭の中に浮かび上がる文字は魔力によって灯った灯りの魔術的な紋様だとしか思わなかったのである。

 それ以前に灯ったそれを凝視する事もなく、何か明るくなったし他にもあるかもしれない、なんてノリで次々に部屋の中を手分けして明るくしていったわけだ。


 それが、次の部屋でとんでもない事になるなんて知るはずもなく。


 そもそも一つ前の世代、とかいう割と昔の、現代ではあまり使われる事のない文字を更に魔女の中で暗号にして用いたようなものだ。解読できる方が稀である。

 古代文字と言われている精霊との契約に使う文字も年代としてはかなり古いものではあるが、精霊と契約をする際に用いる魔法陣などに使うので、こちらの方がまだ世間的に流通しているといってもいい。

 それと比べれば近代文字に近しかろうとも、今現在使われていなければわざわざ覚える必要のないものでもあるのだ。


 魔女の試練。

 故に、イルミナは知っておくべきだった、と言われてしまえばそれまでかもしれないが、しかし一部の魔女の間でしか使われていないマイナー言語と言ってもいいような代物を、今まで魔女として教育されてこなかったイルミナに知っていろというのは無理難題が過ぎる。

 この塔に来る前に、それとなく知っていた方がいい、というような情報を得る事ができていたならば、イルミナも行ける時に行く、なんてノリではなくもっと事前にあれこれ学んだ事だろう。


 知識がなかろうとも、鍵を所持した上でなんとなくでここまで来れてしまった事は、第三者目線で見ればとんでもなく雑なものだろう。運だけで通過した、とかいっても過言ではない。



 ……本来ならば、鍵は一つだけでも問題なかった。

 イルミナが一人でやってきて、そうしてファラムがまだいたあの室内で鍵を掲げてこの部屋にやってきて、一人灯篭を灯しそうしてこの階段を上ったとして、辿り着く先に変わりはない。


 鍵がどうして三つあったか、というのは正直イルミナの試練には関係のない話であったのだ。

 ただ、ここを試練の場にした側の都合と言ってもいい。


 イルミナが一人でここを訪れていたのであれば。

 そうしてファラムが解読した暗号を自力で解き明かす事ができていたならば。

 試練はきっと呆気なく終わった事だろう。


 けれども。

 鍵を三つ用意して、更には先程の部屋で全員が灯篭を灯してしまった。


 これにより、この先で待つ者の封印が完全に解かれてしまったなどとは。


 当然の如くこの三人が気付く事はなかったのである。

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