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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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過去の記憶が妨害してくる



 一番乗りで精霊と契約を結び終えてしまったウェズンであったが、クラスメイトも数名その後さらっと契約を結べたらしい。

 イアも契約をどうにか結べたと言っていたので契約書を見せてもらったけれど、何というかそこに書かれていた文字はとてもシンプルであった。ウェズンの契約書と比べると手抜きか? と言いたくなるくらいにシンプル。


 だがしかしテラの話だと本来はこれが普通らしい。


 初っ端からこんな色々と手を貸してくれるような感じの精霊はそういない。

 だからこそ、他に覚えたい魔法がある場合は新たに契約書を用意して再び契約をしなければならないのだとか。契約書に関しては毎回学園で用意するわけでもないので、この後必要な魔法があるならそのための契約書は各自で用意しろとテラはのたまった。即ち、魔法陣だの精霊言語か精霊が判別できるタイプの古代文字を修得しなければならないわけだ。

 にこやかに言ってのけたテラに対して生徒たちがうんざりした顔をしたのは言うまでもない。


 この学園で生徒を続けるためには必須の魔法とやらを覚えるための契約書であっても、見ただけでなんかもう頭が痛くなりそうな感じがするのだ。それを次からは各自で用意しろと言われれば生徒の反応は当然のものだった。とはいえ、まだそこまで切羽詰まった感じではない。

 そもそも、必要な魔法と言われてもピンとこないのだ。


 テラ曰く、魔法も魔術も基本的にそう変わりはないと言っていた。

 ただ、魔法に関しては精霊が手を貸してくれるから魔術よりも本人の消費する魔力量が抑えられるだとか、はたまた威力を上乗せしてもらえるだとかのメリットはある。術者の魔力量が少なくとも精霊の力を借りる事で本来発揮される以上の力を持った術が発動できると考えれば、自分の実力に不安があるなら率先して覚えておきたい。実力に不安がなくとも、覚えておいて損はない。

 精霊の力を借りる事で本人の力だけでは到底発動できないようなものも発動可能になる、と言われれば過ぎた力で自滅する可能性もあるけれど。


 テラはそんな生徒たちを生温く見守っていた。

 もう少しして自分に何があって何が足りていないかを知るようになれば、嫌でも修得したい魔法というのは出てくるものだ。魔術でそれを発動させる事も勿論可能であるけれど、全てを魔術でやるとなるとあっという間に力尽きる。

 契約書作成に関してとても面倒だというのは今の時点でわかってしまっているからこそ、それらを面倒がる生徒の考える事はテラには手に取るようにわかっていた。

 何せ、彼もかつて同じ結論に至ったので。


 全部魔術でよくね?


 だがしかし、それでは早々に限界が訪れるのだ。


「魔術と魔法はそう変わらないっつったけどな、魔法でしか発動できないものも中にはある。そしてそれは、ここで魔王を目指すうえでの必須魔法だ。魔王目指さなくてもこの学園にいる以上は必須とも言えるな。

 ちなみに、これを魔術で代用しようとすると高確率で死にます」


 未だ精霊と契約するに至れなかった一部の生徒がざわついたが、テラはそれらを一瞥するだけだった。


「大袈裟に言ってると思って信じないならそれでもいい。試しに魔術でそれを実践してみようとして毎年死にかけたり死んでる奴がいるってのだけは覚えておけ。ここまで言ってなおやらかす奴に関してはこっちもどうしようもない。

 ここでは知識だの経験だのを積み重ねる事はできるけど、それを活かせるかどうかは本人次第だ。結果死んだとしてもうちは一切何の責任も無い」


 前世だったら間違いなく無責任だと糾弾されそうな事を言うテラではあるが、そもそもやったら死ぬっていう事をやらかした時点でそりゃそうかとも思う。

 やったら死ぬとわかっていながらさせたのであれば問題になってもおかしくはないが、伝えた上でやらかしてるならそれはもう本人の意思と言ってもいい。つまり手の込んだ自殺って事か。ウェズンは雑に納得した。


「ともあれ、こうして一日でこれだけの奴が精霊と契約できたって事を考えると今年は中々優秀な奴が揃ったものだな」


 そう言ってテラは教室内を見渡す。契約できた生徒は大体半分ほどだろうか。契約できた生徒と未だできていない生徒とで、座る場所を分けていた。


 いざ精霊と契約せよ、となったのが昨日の話。

 契約も何も気づいたら契約が済んでいたウェズンはさておき、それ以外の生徒はどうにかこうにか契約するだけはできたらしい。とはいえ、それも大体半分ほどで未だ残りの半数は契約をするために四苦八苦しているようだが。


「さて、それじゃ一足先に契約を結ぶ事ができたお前らに、早速ここで生徒やってくために必要必須な魔法を教えるぞ。よく聞いとけ」


 パン、と手を打ち合わせて言うテラに、教室内にいた生徒たちは自然と背筋を伸ばしていた。


 ウェズンも例外ではなかった。一体どんな魔法なんだろうか。そんな話はそもそも父からもイアからも聞いていない。言わずともいずれ知るから言う必要がなかった、と言われればそれまでだが、しかし場合によっては契約を結べず退学か他の学校へ移る、なんて事もあり得たのだ。小説基準であれば主人公がそうはならんだろう、と言われるかもしれないが、ゲーム版の場合はマルチエンディングでそういったバッドエンドがあってもおかしくはないのだから。


 昨日、無駄に他の生徒が戻ってくるだろうと思って教室で待機していたウェズンはあの後、精霊との契約についてテラからもう少しだけ話を聞いていた。


 あの契約書自体は学園で大量に用意できるものだけれど、あれで契約できなければ大半は見込みがないのだとか。ちなみに本人の魔力を込めて色を変えていた契約書であるが、一定期間精霊との契約が結ばれなければ契約書はため込んだ魔力によって消えるらしい。


 つまり、契約書が消えたその時がタイムリミットというわけだ。


 再び契約書をもらってそれで契約を頑張るか、はたまた自力で契約書を作成した上で僅かなチャンスに賭けるか、そうでなければ諦めてこの学園を去るか。見込みがなくとも本人が諦めなければ一応契約チャレンジは続けられるが、その状態では授業に参加もままならない。結果として落ちこぼれと称される連中が集められた教室へ移る事にもなるのだとか。


 本当に一体どんな魔法なんだろうか。

 ウェズンの疑問は大きくなるばかりだ。


 そしてそんな生徒たちの内心の緊張を察しているかはわからないが、テラは打ち合わせていた手を離して静かな声で告げた。



「魔術にしろ魔法にしろ訓練をする以上、失敗もあり得る。つまり、そうなれば瘴気が発生する。そして今回教える魔法は、その瘴気を浄化する魔法だ」


 そんな便利な魔法が!? という反応は教室内で大なり小なり存在した。

 この学園がある土地だけは瘴気汚染されていないという話は聞いていたが、てっきり性能のいい浄化機でもあるのかと思っていた。けれども実際は、自分たちの不始末は自分たちで片付けろ、というものだったらしい。


「ち、ちょっと待ってください先生! そんな便利な魔法があるならどうして……!?」


 生徒の一人が悲鳴じみた声を上げる。


「どうしてもっと大々的に周知させないのか、か?

 んなもん個人差があるからに決まってるだろ」


 テラの態度から、恐らく毎年その質問が出ているのだろう事が察せられた。


「そりゃあな、今この世界で何が問題かってなったら、神の楔による結界もそうだが、ダントツは瘴気だ。瘴気がなければ結界で土地ごとに封鎖されてたとしても、そこまで悩んだりはしなかっただろう。勿論、親しい家族や友人と強制的に離れ離れになった、どうにかして帰りたい、なんていう連中からすれば悩ましい事に変わりはないが瘴気がないならその件だってどうにか結界をやり過ごして抜け道を探す事だって可能だった。

 大体瘴気がなければ魔物だってそこまで強くならんしな」


 テラの言葉に数名深く頷く生徒たちを見て、しかしテラはその目をじっとりとしたものへと変える。


「だがまぁ、魔法ったって個人差があるわけ。魔術と同じでな。

 瘴気を浄化できる、それだけ聞けば素晴らしい魔法だろうよ。だが、浄化機のように広範囲で土地を浄化できるなんて威力の魔法を使える奴なんて滅多にいないし、いたらお前らどうなると思う?

 そいつ救世主に祀り上げてせっせと土地の浄化に駆り出すだろ。まともに休みを与えられればいいが、早くしないと誰それが犠牲になってしまうだとかの罪悪感を持たせて休みなく浄化させ続け――結果そいつは使い潰される。

 浄化の魔法の効果がそこそこ周囲に及ぶようなやつですら、下手すれば限界以上に酷使されかねない。

 大半はな、自分自身にしか効果がないんだ。それだって瘴気汚染された場合、完全浄化できる奴もいれば多少回復できる程度の奴だとか様々ってわけだ」


 そこまで言うとテラはふぅやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。


「ここが未だに瘴気の影響を受けないのは、浄化の魔法もあるけどそれだけじゃない。だが、他の土地はそうじゃない。浄化機での浄化は追い付かず、また浄化魔法を使える者がいてもそいつの力量次第では焼け石に水だ。自力浄化しかできない奴はどれだけ頑張っても他人の浄化まではできないしな。

 ……けどまぁ、無いよりはマシ。実際学園の外での実習授業として瘴気がある土地に行く事もあるだろうからな。

 先に言っておくぞ。そういった他の土地に行った時に、大っぴらに浄化魔法が使えるなんて吹聴するなよ。下手すりゃ縋られて二度とその土地から出られなくなるぞ」


 実際過去にそういう奴がいた。


 そう言われて。


 教室内は一瞬でしんと静まり返った。


 正直ウェズンにはよくわからなかった。

 そもそも住んでいた所が特に瘴気の影響を受けていなかったというのもある。だからこそ、話に聞けどもその恐ろしさがいまいちピンとこないのだ。

 けれどもそうではない生徒たちの様子を見る限り、とりあえず恐ろしい事だというのは理解できる。


 もしかしたら、テラに言われるその一瞬前までは浄化魔法で故郷の土地を浄化できるのではないか、なんて思った者もいたのかもしれない。浄化魔法を覚えて、その威力が強ければその考えも可能であろう。けれども、下手に大々的に知られれば瘴気汚染の酷い土地ならあっという間に救いを求めて人が群がるというテラの言葉もあながち間違いではないのだというのも想像がつく。


 外に出た時に瘴気に汚染された場合、下手をすると結界の中から出られなくなるとも言われていたし、そうなれば学園に戻ってくることができなくなる。救いをもたらすためのものではなく、あくまでも移動手段として使用されるのだろう。だからこその、必須魔法。そういう意味でならウェズンもよく理解できた。



「はい、じゃ早速浄化魔法についていくぞー。

 魔法も魔術もぶっちゃけ発動時にわざわざ必殺技叫んだりするような真似はしなくていい。声に出さずとも精霊と契約した魔法に関してはできるし、魔術も可。とはいえ、声に出した方がハッキリと発動できるってやつもいるからそこら辺は各自やりやすいスタイルでやってけ。


 声に出す場合について。浄化魔法の発動ワードはクリアクリーンだ」


 いやあのそれ歯磨き粉では!?


 そう叫ばなかっただけで自分を褒めたい衝動にウェズンは駆られていた。

 クリアもクリーンも単語にすればまぁ意味的にわからんでもないけれど、それにしたって二つの単語が融合合体した結果それどう聞いても歯磨き粉なんよ。

 とてもそう言いたかったけれど、だがしかし言うわけにもいかない。大体このネタが通じるかどうかは謎だからだ。

 もし、遥か昔異世界からこの世界に来たとかいう人の中にウェズンの前世と同じ世界から来ました、という人がいて、そいつが無類の歯磨き粉マニアでその名称についても広めたならともかく、そうでなければウェズンの叫びは周囲からすれば何言ってんだこいつ? で終了してしまう。

 ウェズンも別に周囲から奇異の目で見られたいわけではないので、だからこそその言葉はぐっと飲み込んだ。だがしかしとても突っ込みたい衝動は存在している。


「とはいえ、結構な魔力を消耗するからな……この魔法に関しては精霊言語で発動させた方が魔力消費は少なく済む。

 ちなみに精霊言語でこの魔法を発動させる場合のワードはクアリクだ」


 冗談ですらなく本気で言っているのだろう。

 だがしかし、ウェズンは表情の平静さを保つので精一杯になってしまった。


 クリアクリーンを何かこう、いい感じに縮めました、といった雰囲気がある。あるのだけれど……


(あのそれドラ〇エの麻痺を治す呪文のパチモンみたいですねっていうかそう思った時点でそうとしか思えなくなってきたんですが)


 自分の内側でのみそんな突っ込みを発動させる。

 これも声に出さなかったのは、元ネタが通用するかどうかがわからなかったからだ。通じればいいが、そうじゃなければ突然おかしなことを言いだした奴扱いになってしまう。


 平静さを保つどころか通り越してすんっとした表情になっていたけれど、それを気にする余裕は今この段階でウェズンにはなかった。

 正直ここまでで前世の記憶が役立つどころかいらん突っ込みばかりが浮かぶ時点で、本当になんで前世の記憶なんて思い出したんだろう……と思い始める始末。


 前世の記憶でチートどころか現状足引っ張ってる感じしかしなかった。

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放射能とかに置き換えたら、生きた浄化機として拉致されるか
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