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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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突発カミングアウト



 ウェッジから聞いていた話の通り、タハトの塔内部はあっさりと入る事ができたものの、塔内部に存在する部屋のほとんどに鍵がかかっていてこれは足を運んでも何も収穫がないと思われるのも当然だな、と思えるものだった。

 鍵が開いている部屋も勿論あるのだがそういった部屋は中に何もない。元々なかったのか、あったけれど持ち出されたのかはウェズン達に知る由もない。


 鍵のかかった部屋にウェズン達が持っている鍵を試してみようと思ったのだが、しかし試す以前の話だった。

 まず明らかに鍵穴のサイズが違う。

 そこかしこの鍵のかかった部屋の鍵穴は、ウェズンのいる寮の部屋などのドアについてそうなごく普通の鍵穴サイズだ。

 ウェズン達が所持する形となった鍵はそれよりも大きく、故にどう見ても入らない。なんというか、ごっつい錠でもされてるやつを解除するとか、もしくはもっと大きな扉だとか。そういったものに使うんじゃないかなぁ……と思えてくるが、しかし別段見まわした範囲にそういったものはない。


 えっ、この鍵どこで使うの?


 そんな疑問が脳裏をよぎったのは、塔に足を踏み入れてすぐだった。


 そもそもの話、ウェズンは塔というものに馴染みがない。


 そりゃあ前世、修学旅行だとかで五重塔だとか見た事がないわけじゃないけれど、塔の中に足を踏み入れるという事がまずなかった。

 五重塔だって本来の目的地へ行く途中で見ただけで、周辺をじっくり見てまわるなんて事まではしなかったし、それ以前にあの塔って中入れたっけ? とかいうレベルで何もわかっていなかった。


 海外での観光地みたいに言われてるピサの斜塔だって知ってはいるけど詳しくはない。ネットで調べたら出てくる情報よりも前世のウェズンが知っていた知識なんてちっぽけなものである。


 そういった観光地だとかでそこそこ名の知られた塔以外となると、後は精々灯台だろうか。

 あれを塔と言っていいかは微妙な気もするけれど、形状的にはまぁ塔とカウントしてもいいだろう。

 しかし灯台だって一般人が普通に入れるようなものでもない。


 塔、と名がつくもので訪れる事ができるものなんて、〇〇タワーとか言われている名称の、とりあえず展望台があるようなところがやっとではなかろうか。


 内部は空間拡張魔法があるからか、思っていたよりも狭いとかそういう事もない。

 けれども、そのせいで塔の中だという認識も低かった。


 これならまだ、ゲームの中に出てくるダンジョンの塔の方がまだ塔っぽい気がしてくる。

 実際本来の塔なんて詳しくもないくせに。


 塔、という形状からとりあえず上に行く階段はあった。


 一階部分と言うべきかな部分の部屋はほとんど中に何もないし、一部鍵がかかって入れないままだしで、見るべき部分はほぼ無いに等しい。

 だからこそ、階段を上がっていって上へ上へと移動するしかなかったのである。


 ところが、上へ移動してそれぞれの階も見てきたけれど、ウェズン達が持つ鍵が使えそうな部屋がまず見当たらない。


 そうこうしているうちに、いよいよ最上階までやってきてしまったのである。



「えっ、こんなことある……?」

 イルミナさぁん!? と言いたげにウェズンはイルミナを見た。


「おかしいわね……一体どういう事かしら」


 イルミナも眉間にしわを寄せて、困ったようにアレスを見た。


「……見落としがあったとは考えにくい」

 アレスもまた困惑した様子で、足元へ視線を下した。


 塔内部は吹き抜けになっているわけではなかったので、各階天井もあって上の様子は見えなかった。

 なのでこの階に何もなくても次の階なら……と思いながらも上へ上へと移動してきたのだが、いよいよ最上階ともなれば次、と言えるはずもなく。


 ドーム状になった天井を見上げれば、流石にこの次の階などあるはずもないと理解するしかない。というか更に上へ行けるような階段もないのだ。間違いなくここが最上階である。


 最上階でもあるこの空間は、小部屋があっただとかですらない。

 下の階から階段を上がってやってきたら、ホールみたいになってるだだっ広い空間。それが、この最上階であった。


 ここに来るまで結構じっくりと周囲を確認してやって来たので、アレスが言うように見落としがあったとは考えにくい。鍵のかかった小部屋にしか注目していないというのであればともかく、ウェズンは場合によっては隠し通路とかあるかもしれないし……と壁や天井だとかにも注意深く視線を向けて観察していたし、イルミナも他に何かあるのではないか、と結構あちこちじっくり見たり時に壁を叩いて隠し通路とか隠し部屋がないかとか探していたくらいだ。


 ウェズンやイルミナが無意識にスルーしてしまった部分に関してはアレスが一応チェックしていたようなので、あとはもう塔そのものに認識阻害をさせるような魔法でもあって皆が意図しないまま気にしてなかった部分、とかでもない限り間違いなくほぼ見る事ができる範囲は確認済みだ。


 ウェズンとアレスの持っている鍵に関してはともかく、イルミナの鍵は魔女の試練とやらに関わっているし、しかもそれがここだというのは間違っていないはずだ。

 もしかして、似たような名前の別の塔だろうか、とも思ったが、もしそんなのがあったならウェッジが教えてくれたと思う。テラなら聞かれなかったから言ってないぞ、とか平然と言い放ちそうではあるが、ウェッジは流石にそういう事は言わないだろうと思えるので。


「って事はやっぱどっかで何かを見落とした……?」


 と考えるべきなのだろう。

 もう一度、今度はここから一階に戻るつもりで見てくるべきだろうか……? 面倒だけどそうするしかないなら仕方がないかもしれないな。なんて考えて。


「……ファラム? どうかした?」


 一度引き返してみようかと提案しようとした矢先、ファラムがしゃがみ込んで床を何やら見ている事に気付く。


「……ウェズン様」

「あ、うん。どうしたの?」


 正直今でも様をつけて呼ばれる事に慣れないが、今その部分を話すのも何か違うな……? となったのでウェズンはともあれ何があったのかと聞き返す。


「必要なカギはどうやら三つあるようなのですが、それはウェズン様たちが持ってる、という事でいいんですのよね?」

「え、あ、うん。多分?」


 鍵は確かに三つある。

 イルミナが持つ鍵。

 ウェズンが持つ鍵。

 アレスが持つ鍵。

 こうやって考えれば確かに三つだ。

 本当にここで必要になる鍵なのかどうか、と問われると自信をもって頷けるものでもないが。


 何せ困ったことにハッキリとした確証がないのだ。

 ゲームだったらある程度フラグが立ってないと話が先に進まなかったり、そもそも必要なアイテムがなかったら立ち入れなかったり、こういったいかにもな場所に来るにしてももうちょっと色々とヒントとか何らかの情報があって然るべきだしで、たとえ本来の目的を忘れて途中のサブイベントをこなしている途中だとかでそもそもここには何をしに来たんだったっけ……? みたいになっていても、なんやかんやイベントが発生したり仲間の言葉でそういやそんな話だった、と思い出せるアレコレがあるはずなのだが、悲しい事にウェズン達にとってここは現実で、そういった親切設計な何かは存在しないのである。


 なのでこうしてここに鍵を三つ持ってやって来たとしても、とても最悪な展開として無駄足で終わり何の収穫も得られないまま帰るしかない、なんて事も有り得てしまうわけで。


 ファラムがアレスと一緒にやって来た時、一応タハトの塔について軽く話はした。

 とはいえ、何かイルミナの家の事情に関係する感じの何かがあるらしい、くらいのふわっとした説明しかしていなかったが。

 鍵に関しては塔の中に入って鍵のかかった小部屋だとかを調べたりしていたが、三つあるとは説明していなかった。ただ、イルミナは鍵を持ってる事を話したのでファラムもそこらの部屋の鍵穴より大きめの鍵穴がありそうなところを調べたりはしていてくれた。


「待てファラム、必要な鍵が三つとは? どこで知った?」


 事実そこまで説明していなかったのに、三つ必要であると言ったファラムにアレスも無視はできなかったらしい。壁のあたりを調べていたようだが、振り返ってファラムをじっと見ている。

 イルミナは天井のあたりを眺めているところだった。とはいえ、天井には壁画がびっしり、だとかでもないので何かあればむしろ簡単に気付けそうだ。それでももしかしたら小さな文字とかが書かれている可能性を信じてイルミナは天井を見ていたのかもしれない。

 単なる現実逃避の可能性の方が高い事は否定しないが。


「あぁ、えっとそのぅ……床に」

「床?」

 言いながらウェズンだけではなく、アレスもイルミナも視線を足元へと移動させた。


 天井はシンプルだが、壁や床は何やら細かい模様のようなものが刻まれている。とはいえ、そういう材質だと言われてしまえばそれまでにも思える。

 じっと目を凝らしてみたが、ウェズンの目にはどこをどう見ても模様にしか見えず、文字が隠されていると言われてもさっぱりピンとこなかった。

 アレスやイルミナも同様であったらしい。

 え? 本気で言ってる? とか言い出しそうな表情でイルミナがファラムを見た。


「いやあのほら、天井はさておき床とか壁は模様みたいな感じになってるでしょう? で、その模様の中に何かこう……とっても小さな文字で呪いの言葉とか書かれてあったら怖いなー、嫌だなーってふと思ってしまいまして」

「うん、それで?」


 その発想はどうなんだろう? とウェズンは思ったが、あるわけないだろそんな事、と一蹴はできなかった。


 あれだろ、壁の染みとかが何か人の顔に見えたりしたら怖いなーとか思うやつと同じ系統のやつだ。そんな風にして納得させる。


 実際人間の目というか脳は結構単純なので、丸が三つ三角形のような配置で存在していれば、何かそういう風に見えると前世で聞いた気がするし、明るい室内で見る分にはただ丸が三つ配置されてるだけだろ、としか思えなくとも、何となく薄暗い場所だとかで見ればそれっぽく見えてしまうという体験はウェズンにも覚えがあった。


 特にいわくがあるわけでもない場所であっても、薄暗い室内でそういう風に見えてしまってビクッとなった事もあるくらいだ。

 もしそういうものが廃墟も同然な建物の中で見かける事になってしまえば、ほんの数秒とはいえすわ幽霊か!? と驚いたりもするだろう。


 丸だとか染みだとかに限った話ではない。

 例えば枕カバーだとかの布製品だって、物によっては毛羽立ったりした部分が何となく模様っぽく見えたりすることもあるし、その部分に何らかの絵のような物が見える気がしてしまう事だってある。

 前世、ウェズンは仕事帰りに新しくできたらしいマッサージの店にほんの興味本位で立ち寄って、そこで横になって寝ている時に下に敷かれたタオルで何かそんな感じの幻覚を見てしまったので。


 そうでなくとも、例えば人様の家にお邪魔して、トイレを借りたりした時に、トイレの壁紙の模様が別の絵柄に見えた、なんて事もある。トリックアートだとかではない。何となくこの花の曲線とこっちの花の絵とが合わさったら違う絵柄に見えてしまった、とかいう一種の見間違いだ。


 だがまぁ、そういった事があると思えばファラムの言い分を一蹴などできるはずもない。


「そうやって見てたら、ちょこちょこ文字が見えてしまって」

「ホントに書かれてるの!?」


 見間違いとかじゃなくて!? と信じられないようにイルミナが悲鳴じみた声を上げる。


 魔女の試練に関わるらしき場所だ。

 そんなところで呪いの言葉とか洒落にならない予感しかしない。

 知らなきゃいい話、というわけでもないのだ。

 魔女が関わっているならば、知っても知らなくてもイヤな効果がありそうと言われても否定などできなかった。


「あ、安心して下さい、呪いの言葉とかではなかったですから!」

「呪いの言葉だったら今頃私発狂してるわ!?」


「えぇ、もし呪いの言葉だったら、わたしもきゃーこわぁいウェズン様ぁ、とか言いながらその胸元に遠慮なく飛び込めたのですが」

「呪いの言葉じゃないから安心しろって言った矢先に本人が残念そうなのどうなの」


「だって折角のチャンスですよ?」

「真顔で言わないで。……っていうか、えっ、そういう……!?」


 魔女の呪いがあるかどうか、の部分に重きを置いていたイルミナは今更のようにファラムの顔を凝視して、それからバッとウェズンに視線を向けた。顔ごと。


「えっ、あの、ラブ? ライク?」


 戸惑ったように問いかけるイルミナに、ファラムはふっとその表情をほころばせる。

 そうして数秒の間をあけた後、

「……ラヴ、ですわ」

「えっ? あっ、うん……!?」


 え、私これどういう表情で聞いてどういう風に反応すればいいの!? と言いたげに忙しなくイルミナの視線はウェズンとアレスとを往復し、最終的にファラムへと戻ってきた。


 えっ、あれっ? 私今何の話してたんだっけ……? とか数秒後には言い出してそうなイルミナを、ファラムはただただひたすらに微笑みを浮かべたまま眺めていたのである。

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[一言] 課題チーム解散してなかったらSHURABAと考えると確かにチャンス? パパが再婚しちゃう!
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