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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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 そんな初っ端からスウィーノだけが色んな意味で疲れ果てていた一同だが、課題に関しては思っていた以上に呆気なく終わらせたのである。

 課題は魔物退治。まぁ割といつものやつではある。

 ただし、いつもよりも若干強いとされている魔物であったので油断だけはするなと事前に言われていた。


 割と近くに塔があるけど、そっちは別に行かなくてもいい、と言われたことで何となく予感はしたのだ。


 そしていざ言われた場所へと赴けば、なんとも殺風景な場所。

 少し離れた場所に見える塔は、ウェズンがちょっと前に学園の図書室で調べた時のタハトの塔の外観ではあるまいか……と気付いてしまったのである。


 いやあの、確かにそのうち学園の課題だとかでそこに行く事もあるとは聞いていた。

 いたけれども。

 それってせめて二年生になってからだろうなとか思っていたのであって、まさかこんな進級テストも兼ねた課題で来るとは思ってなかったのだ。

 多少繰り上がって早くなっただけ、と考えるにしてもいきなりこんな即席メンバーで来るとか思わなかった。


 え、どうする? と思わずウェズンはイルミナに目配せをした。

 何せ魔女の試練とやらに関係しているであろうタハトの塔が割と目の前にあるのだ。

 もし来るなら、その時はアレスも誘おうかという事になっていたとはいえ、正直もう少し先の話だろうなと思っていたのに。


 鍵は持っている。というかリングの中にぶち込んだままだ。

 なのでまぁ、行こうと思えば行けなくもない。

 アレスが持ってる鍵がないので行くのであればアレスをどうにかして呼び出すしかないのだが。


 今日の所は諦めて、改めてアレスを誘ってここに来るべきか……なんて考えつつイルミナを見れば、イルミナもまた悩んでいる様子だった。


 進級テストを兼ねた課題。

 これが終われば多少なりとも休みがあるだろう、とは思う。

 その時に改めてアレスも誘って来ればいいのではなかろうか。

 確かにそう思わなくもないのだ。


 しかし。


 なんていうか、この場所って普段から神の楔で気楽に足を運んでやって来れる場所なのだろうか……? とも思う。

 塔そのものは封鎖されている場所が多すぎて中に入っても正直何にもないようなものだ、と学園でタハトの塔について話してくれたウェッジは言っていた。

 一応そこに関係するんじゃないかなぁ……と思われる鍵を、ウェズンとイルミナ、そしてアレスは持っている。


 ただ、本当にそこで重要な何かがあるか、となるとそこは未知のままだ。

 具体的に何がある、とはっきりしていない。

 つまり、意気揚々と休みの日にウェズンとイルミナ、そしてアレスがここに改めてやって来たとして、鍵を開けた先に特に何もありませんでした、なんていう肩透かし極まりない結末が待っていないとも限らないのだ。


 もっとこう、ゲームとかならわかりやすくお宝ちらつかせるだとか、何かこの先必要になるキーアイテムの情報があるだとか、そういう無駄足にならないだろう何かがあるだろうなと思えるのだけれど、いかんせん現実なのでいざ! と準備万端足を運んでもなんにもありませんでした、なんて結末があったっておかしくはないのだ。現実って非情。


 一応イルミナに関しては何もありませんでした、なんて事にはならないと思うのだが、ウェズンとアレスの持つ鍵で開けられる場所に関しては本気で何の情報もない。

 下手をすれば微妙に狭い小部屋の中にやっつけ仕事で作りましたか? と聞きたくなるくらいしょぼい宝箱とかがあって、中から謎のおっさんのステテコが出てきてもおかしくないのである。

 仮に、休日にそんなんしかなかったら。


 まず間違いなくやる気なくす。

 それならばいっそ、課題のついでに足を運んだ方がまだ課題というメインがあるのだ。

 タハトの塔でしょぼい現実に襲い掛かられたとしても、課題というメインがあったのであればまだマシな気がしてきた。



 結論はすぐには出なかった。


 ウェズンもイルミナも、まずは課題でもある魔物退治を済ませてしまおうとなり、女子生徒と距離が近い事でスウィーノから「呪われよ……呪われよ……」と怨嗟の呟きを延々囁かれたりもしたが、

「せめてそういうの女子がいない所でやれよ。女子のいるところでやってたら、学園に帰ってからお前の所業二人の友人経由であっという間に広まってますます女子から遠ざかるぞ。

 ってか、そんなんだからモテないんじゃないのか?」

 という率直極まりないウェズンの言葉にスウィーノは撃沈したのである。


 まぁ女性がいない場所でやってたとしても、やられた側が世間話としてそれらの話を知り合いに広めたらどこかで女性の耳にも入るので、結局のところ結末としては行き着く先が同じになりかねないのだが。


「こういうところで活躍して、コツコツ地道に周囲の評判上げてけばそのうちお前の事好きだっていう女子とか、カッコイイってキャーキャー言ってくれる女子とか出るかもしれないから、頑張ろうな」


 とりあえず撃沈したスウィーノに気休めでしかない言葉をかければ、スウィーノはそれでもやる気を見せた。

 案外単純な奴である。


 そうして、普段の課題と比べると思っていたよりも強化された魔物を数体倒す事になったのである。


 神の楔でやって来たばかりの頃にモノリスフィアで瘴気汚染度を確認して、魔物を倒した後も確認してみたが思ったよりも汚染度が下がっていた。

 来たばかりの頃ならモノリスフィアで他の所に連絡を取れるかどうか……といった感じだったが、今ならもう普通に連絡をとれるだろう。


 とりあえずウェズンはアレスに連絡を取る事にした。

 とはいえ、ここで堂々と話をするわけにもいかないので、使うのはメッセージ機能の方だ。

 もしここでアレスと連絡がとれないのであれば、今回は諦めた方が無難だろう。そう思って、

『今何してる? 暇?』

 という、ある意味で送られてきたらとても面倒に思われそうな文字を送りつけた。


 仲のいい相手からなら何かのお誘いかなと思える文面でも、大して仲のよろしくない相手から届いたら間違いなく面倒な事を押し付けられそうなフラグしか感じない文だというのに、案外すぐに既読がついて返信もきた。


『課題が終わったばかりでこれから解散するところだ』


 学園で進級試験を兼ねた課題が行われているのだから、学院でも似たような事をしていても何もおかしくはない。

 アレスの状況がとてもわかりやすい一文に、ウェズンはイルミナへと目を向けた。

 それに気づいたイルミナがすっと近づいてウェズンのモノリスフィアを覗き込む。


 その目線はやがてタハトの塔へと向けられた。


 ポチポチとメッセージを打ち込んでアレスにこれからタハトの塔入ろうと思うんだけど、と送ればアレスは少し時間が欲しいと返してきた。

 一応向こうで課題をこなすのに組んだ相手と解散し、こちらに来るまでとなればまぁ多少の時間はかかるだろう。


 イルミナが頷くので、じゃあこの後タハトの塔突入か……とウェズンはその旨をアレスへ送る。


 こちらも課題は終わったのだ。後は学園に帰って報告するだけ。

 報告に関してはアクアに任せる事にした。

 まだこの場に留まるというウェズンとイルミナにアクアは勿論怪訝な表情を浮かべたが、ちょっとイルミナの家関連で関係してそうな案件があの塔にあるかもしれないから、ちょっと中確認してから戻ろうと思って、と伝えればアクアもそれ以上食い下がってはこなかった。


 ついでに女子とお近づきになりたいと散々のたまっていたスウィーノも、デートか? デートなのか? と殺意をみなぎらせていたが、あんな所がデートスポットになると本気で思っているのか? と真顔で返せばそれ以上のウザ絡みはなかったのである。


 女子にモテたいと思っていても、一応踏み込んだらいけないだろうな、というところまで無遠慮に踏み込んだりはしない程度に分別はあるらしい。

 ある程度気遣いもできるのに、やはりその言動のせいでお前はモテないんじゃないか? と言ってやるべきかウェズンは二秒程悩んだ。言ったところで意味がないかもしれないなと思ったので言わなかったが。


 セドリックは終始空気に徹しようとしていたので、帰るとなった途端に足取りが軽やかになっていた。

 ほぼ何も喋らず時々盆栽なのかサボテンなのかわからないポーズのまま背景に徹しようとしていた男は、しかしスウィーノよりも実力があったと思えるものだった。

 えっ、お前そんな強いくせに最初学園にも学院にも入学資格なかったの……? と内心で驚いた程だ。


 留学してメキメキ実力をつけたようだが、流石にこのメンツに交じるつもりはないらしい。

 まぁ、下手に踏み込んだら疑似的な修羅場に巻き込まれそうだな、とか思うのも無理はないのでウェズンも無理矢理関わって巻き込もうとは思っていないが。


 あと、もう一人関係者呼び出したからデートではない、と伝えた事でスウィーノの興味は一緒に戻る事になったアクアへと集中した。面倒ごとの気配を察知したアクアの表情がしょもっとしたものに変わる。


 ごめんな、という意味とグッドラックという意味を込めて親指を立ててみせれば、アクアはイラっとした表情を隠す事なく隣に並び立ったスウィーノへ裏拳を叩きつけた。

 完全な八つ当たりである。


 だがしかし、大したダメージを負ったわけでもなく、どころか女子との触れ合い……! と嬉しそうにしていたのでアクアは更にドン引きした表情になり、そっと三歩分距離をとった。

 いいのかスウィーノ、お前それ女子との触れ合いにカウントして本当にいいのか……と思ったのは言うまでもない。


 あいつ将来的に悪女に騙されて全財産奪われたりしそうだな……と本人にとっては名誉なのか不名誉なのかもわからない事を思いながらも、帰っていく三名を見送る。

 神の楔での転移なので一瞬であった。遠ざかる背中を見送るとかそういうのすらない。


「多少時間がかかるって言ってたけど、アレスはどれくらいで――」

「すまない、時間がかかった」


 あとどれくらいで来るんだろうね、なんて言おうとした矢先、神の楔で転移してきたアレスが現れる。


「思った以上にお早い登場で」

「大分急いだ。待たせてないなら何よりだ」


 というか、あとちょっと早かったらアクアはともかくスウィーノとセドリックとも遭遇して逆に面倒な事になったかもしれない。


「それから」

「ちょっ、アレス、早いです!」


 何かを言いかけたアレスの言葉を遮るように、更に別の声がする。

 神の楔から転移でやって来たのはアレスだけではなかったらしい。


「……ファラム?」

「あっ、ウェズン様! お久しぶりです」

「ついてこなくていいって言ったんだが」

「そう言われましても」


 はぁ、と小さな溜息をこぼしたアレスに対し、ファラムはしれっとそんな反応を見なかった事にする。


「えーっと、ファラムは一体なんで……?」

「あぁ、単なる対策です。ほら、アレスったら色々あって学院ではワイアットっていう狂人野郎に目をつけられてまして。彼も今別の課題をやってると思うので妨害にやってくるとかちょっかいかけにやってくる事はないと思いたいんですけれども。

 ただ、下手に課題終わらせて単独行動し始めた、なんて事になっちゃうと、後になってまた色々と面倒な事になりそうなので……」


 彼女がくっついてくるとは思っていなかったのでそう問いかけてみれば、ファラムはやれやれ……とばかりに肩を竦めて答える。

 ワイアットの存在を把握しているウェズン達からすれば、確かに途中で「来ちゃった☆」されても困るし、単独行動で何かがあると思わせるより他の誰かと行動している方がまだ勘繰る必要が……


「いや、まて。さっきのスウィーノじゃないけど男女で出かけるって時点で恋愛話だとかに持ってって面白半分でやってくる相手とかは!?」

「それはない。そこは安心してくれていい」

 あの二人の恋を見届けたい、とかいう出歯亀野郎どもがいた場合、それはそれで面倒な事になるのでは……? と思ったウェズンであったが、アレスのあまりの即答っぷりに本当か? と半眼になる。


 ファラムは学院で他の学校の生徒に片思いをしているとそこそこの人数に知られているので、アレスと二人きりで何かが……とは少なくともファラムの事をある程度知っている生徒は考えたりしない。

 それどころか顔も知らんファラムの恋のお相手についてあれこれ惚気にも等しい話を延々されて恋愛相談なのか単なる一方通行コイバナなのかも微妙な話をされているアレス、という認識がむしろ広まっていると言ってもいい。

 ただでさえ学院で悪名高いワイアットに絡まれてる生徒なのだ。

 色んな意味であいつ不憫だよな……と思われている。


 なので課題を終えた後その場を離脱して学院以外の場所に移動しようとなったとしても、そこにファラムもくっついていったという時点で。


 あ、何かまた巻き込まれてるんだな……という風にしか思われないのであった。


 ちなみにファラムはこれを意図してやらかしている。その方が都合がいいので。


 ともあれ、タハトの塔にはこの四名で行く事になる。

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