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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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タイマンバトル



 レイとしては少し前にカカオ農園で遭遇した相手、という程度にしかリィトの事は知らない。

 ただ、どちらかといえば気に食わない相手である、とレイはその一度で判断していた。


 前回はなんだかしてやられた気がしたけれど、今度はそうはいかない。

 わざわざ隠れて覗き見していたのだ。まさかただ見守っていただけであるはずがない。

 ウィルにとっては同じ学院にいるわけだし、敵とみなしてはいないだろう。

 どうしてリィトがここにいた、もしくは来たのかはわからないが、ウィルを見ていた……ように思う。


 ウィルにとっては敵ではない。

 けれども自分からすれば敵である。


 戦う理由なんてそれだけで充分だった。


 レイの武器と比べるとリィトが今回手にしている武器はそこまで頑丈な感じはしない。

 けれども、見た目通りの代物でない事は早々に理解していた。


 ちょっと力を入れて攻撃すれば簡単に折れそうな細さを持つ武器ではあるが、しかしレイの攻撃を何度も受け止めてもヒビが入るだとか亀裂が走るだとかの壊れる様子は一切ない。


 見た目だけなら結構簡単に力でへし折れそうな細さなのだが、見た目通りではないというわかりきっていた事実に無意識にレイは舌打ちをしていた。


「うーん、まさかいきなり戦う事になるなんて。随分と血気盛んだよね?」

「うるせぇよ。そのつもりはなかった、なんて言い分は聞いてやんねぇぞ」


「ま、そうだね。戦う、というよりは聞きたいことがあったから、ってのが割と近いとは思うんだけど……まぁ、戦うなら戦うでそれも悪くない」

「聞きたい事、だぁ?」

「あぁ、きみじゃなくて……ねぇウィル。

 どうしてきみはここ最近、やけにワイアットを気にしていたのかな?」


「えっ……!?」


 レイとの攻防を繰り広げながらもリィトはその視線をウィルへと向けた。

 ウィルとしてはまさかそのためにこの精霊がここに来たなんて思ってもいなかったし、それに気づかれていたとも思っていなかった。


 ワイアットを観察していたのは事実である。

 事実ではあるけれど、しかしそれだって観察していると相手にバレないよう細心の注意を払っていたのだ。

 あくまでも、視界にたまたま入り込みました、を装っていた。

 あからさまに見た事もなければ、じっと見つめるなんて事もしていない。

 何となく視線を移動させた先にいた、程度の自然さでそれでいてあまりチラチラ見すぎて気付かれたりしないように。

 不自然に視線を向けているだなんて、周囲はきっと気付いていなかっただろうはずだ。もしそうだったら多分ワイアットに変に目をつけられたくないから周囲もそれとなくウィルに話を振ったはず。


「あぁ、他の連中は気付いてなかったみたいだけど。ただ、ほら。ボクはさ、暇を持て余してる身だから、その分よく周囲を見てるんだよね。だから、っていうのもあるよ。気付いたのは」


 ウィルの思考を読んだように言うリィトに、他の人は気付いていないという事実に若干の安堵。

 とはいえ、気付かれたら面倒な相手に気付かれたのもまた事実。


「……敵情視察、って言ったらどうするの?」


 下手な誤魔化しは通用しないと思ったために、ウィルはあえてそう問いかけた。


「別にどうにもしないかな。取り入るためとかじゃないなら別に」


 リィトとしてはウィルがどういう思いを持ってワイアットを見ていたのかという部分はどうでもよかった。ただ、なんとなくその事実に気付いたから、なんでかな? と思ってそれを聞きに来ただけに過ぎない。暇を持て余している身であるが故の、ただの暇潰しである。


 仮にウィルがワイアットに取り入ろうとしているのであれば、それは阻止したかった。

 ただでさえワイアットは退屈を持て余しているのだ。

 そこそこ楽しめそうな相手が自分に下るとなれば、より一層退屈だと思う事だろう。


 ウィルがこちらにつくのであれば、ファラムやアレスもそうなる可能性を考えるべきだ。

 ……もしそうなってしまったら。


 きっとワイアットは暇をつぶすためだけに学園の生徒をより一層張り切って殺しにかかるだろう。

 それはそれで構わないが、そうなった場合神前試合で相手側が誰も参加できなくなりました、では話にならない。そうなった場合既に卒業した生徒を呼び寄せて、というのもあるけれど、しかしそれでも目ぼしい相手はいないだろう。


 だがウィルは今、敵情視察とのたまった。

 であれば、ワイアットにへりくだるだとかそういう事をするつもりはないらしい。

 むしろ――


(これは……泳がせておいた方が楽しくなるかもしれないなぁ……)


 リィトとしては別にどうでもいいけれど、しかし友人がつまらなさそうにしているのはこちらとしてもよろしくない。彼が楽しめるのであれば、ウィルの事は教えない方向性でいた方がいいのだろう。

 もっとも、ワイアットの場合とっくに気付いていてその上で放置している可能性も充分にあるのだけれど。


 じゃぁもう後はどうでもいいかな、とリィトの思考は既に目的を達成したも同然ではあるものの。


 ウィルと暢気に会話をしている最中であってもレイとの攻防は繰り広げたままだった。


 覗き見ていた感じ、二人の仲は悪くはない。


 敵対する立場でありながらも友情が成立しているのか、それとも以前からのものであるのか。

 リィトにとってそこはどうでも良かった。


 仲が良いからこそ、彼はウィルを守ろうとしているのだろう。


 本来ならば学院側という点でウィルとリィトが争う必要はどこにもない。

 けれど、敵情視察とのたまった時点で彼は学院の中でのウィルの立場を考えて――ここでどうにか自分を倒しておいた方がいいと思ったのだろう。


(そうだね、もし学院に戻ってボクがワイアットにウィルの事を伝えたら、彼はきっと面白がってウィルにちょっかいをかけるだろうし。

 いやどうだろう。多分放置だよな。でも、こいつはそうは思っていない。

 もしそうなったら、学院でワイアットが敵に回ってしまったら。

 そんなもしもを考えているんだろうなぁ)


 攻撃の手は一切緩む様子がない。

 魔法だとか魔術の攻撃が飛んでこないけれど、それでも中々に厄介な相手だった。


 実力は中々に申し分ない。

 とはいえ、ワイアットには劣る。

 まぁ仕方がない。ワイアットはそうなるべくして育てられた。長い長い年月をかけて。


 攻撃の手数が多すぎて流石にちょっと捌ききれなくなりそうだなと思ったリィトは、とりあえず手加減した威力の術をレイへとぶつける。

 術の詠唱などする必要がないとはいえ、それでも魔力の流れを感知したのかレイに直撃させるより先にレイはリィトから距離を取るように跳んだ。


「えっ、あっ、レイ!?」

「お前は手ぇ出すな!」


 リィトとの会話が一段落したところで、ウィルはとにかくレイの援護を、と思って動き出そうとしたところだった。今しがた放たれたリィトの術は明らかに手加減されていたとはいえ、いつまでも手加減するはずもない。

 もし今のよりももっと強い威力の魔術がレイに命中でもしようものなら、流石に無事では済まないのは言うまでもなかった。


 せめて、障壁の一つくらいは……と思ったけれど、それを実行するよりも先にレイは鋭さを増した声でウィルの行動を止めてしまったのだ。


「なんで」

「お前が手ぇ出したらこいつと完全に敵対する事になるだろうが!」

「いやでも」

「いいからむしろさっさと帰れ!」


「あー、うん、今ならまぁ、きみとは何もなかったからね。大人しく帰るなら、何もないまま、かな?」


 敵情視察だ、なんて言った事もリィトは今なら聞かなかった事にする、と暗に告げる。

 けれどもウィルはすぐに動けなかった。


 今何事もなく学院に戻れば、リィトはウィルの事を見逃すつもりだ、というのは理解できた。

 しかし今すぐ戻るとなれば、それはレイを見捨てて戻る事になってしまう。

 かつて、ウィルはレイに見捨てられたと勘違いした事があった。

 けれども、それは本当に誤解であって事実ではなかった。

 自分は見捨てられてなどいなかった。


 けれど、でも。


 ここで学院に戻れば、自分はレイを見捨てる形となってしまうのだ。

 リィトがレイをどうするつもりなのかはわからない。

 適当に遊んで適当なところで引き返してくるのか。それとも決着を完全につけるつもりなのか。

 適当に遊ぶくらいで済ませるならば、レイが死ぬ可能性は低い。

 けれども、決着をつけるまでとなれば。


 レイがそう簡単に負けるとは思っていないが、それでも相手が悪すぎる。

 リィトは精霊で、今はまだ魔法や魔術も手加減した状態だが、本気で使えばレイが防ぐのは難しいと思える。


 どちらかが死ぬまで戦うつもりであるならば、その場合死ぬ可能性が高いのはレイだった。


「や、やだよ……レイを見捨てていくなんて」

 最悪の想像が一瞬で脳内に展開される。

 そんな姿を見た事などないはずなのに、やけにはっきりとレイが死んだ瞬間がやけに鮮明に思い浮かぶ。それはきっと、彼女がかつて彼に対して復讐を果たそうとした時に描いた未来だったのか、はたまた――


「ウィル」


 ギィン! と武器同士がぶつかり甲高い音を立てる。

 その合間にかけられたレイの声は、下手をすればその音にかき消されていてもおかしくはなかったが、しかしその声はウィルの耳にしっかりと届いていた。


「大丈夫だから、帰れ」


 先ほどまでとは違う、静かな声だった。


 まるで幼い子供に言い聞かせるような声音だ、とウィルは漠然とそう思ってしまった。

 おかしいな、ウィルはレイより百歳もお姉さんなのに……なんていつものように思う間もなく、ただなんとなく「あ、大丈夫なんだな」と妙にしっくりくる程に納得してしまった。


「う、うん。わかっ……わかった。それじゃあレイ、ウィルは先に帰るから」

「おう」

「だから、またね」

「あぁ」


 リィトの仕掛けてきた攻撃を弾くようにしたために、その言葉は所々ギンと甲高い音にかき消されてしまったけれど。

 それでもウィルの耳にはしっかりと届いていた。

 たっ、と踵を返してウィルが駆ける。


 背を向けたウィルをリィトが狙う可能性も考えてレイは警戒していたが、しかし言葉通りこの場は見逃す事にしたらしい。

 近くにあった神の楔で転移したウィルの姿が消える。


「さーて、と。それじゃ、こっから本番な」

「えぇ? そんな事言っちゃっていいのかな? それってつまりお互い本気で戦おうねって事なんだけど?」

「そう言ってんだ、よ!」

 武器での攻撃は防がれる。それを見越した上でレイはそちらを囮に蹴りを繰り出す。ガツッと重たい衝撃がリィトの膝に走った。


「そうか、そのつもりならいいだろう。こちらもきみに合わせて本気でいこうじゃないか」

 その言葉が終わる直前で、レイの身体がふわりと浮いた。足元から突然吹き上がった風――リィトの術だ――で地上から強制的に離されたレイの身体はその一瞬、僅かな隙が生じてしまった。


 武器での攻撃がくるかと思ったが、しかし。


「ぐぶっ……」


「さっきの蹴りのお返しだ」


 浮いたレイの胴体に、リィトの拳がめり込んだ。

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