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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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それは不測の事態と呼ぶもので



 途中までは、順調だった。



 お弁当を食べて、休憩を終わらせた後は採取してきた植物を使っての魔法薬作りだ。

 これさえ終わらせてしまえば、課題はクリア。

 特にてこずる事もなく、あっさりと終わると思っていた。


 魔法薬を作る時も皆で協力していたし、失敗する要素はどこにもなかった。


 ヴァンの体調もある程度維持されていたようだし、ルシアも少し休んだからか顔色が若干良くなっていた。

 クイナたちもあとはこれだけ、と終わりが見えてきた事もあってラストスパートだとばかりにやる気をみせていた。


 そうして皆で協力して作った魔法薬は、見事に完成したのだ。

 途中、おかしな失敗をする事もなく。


 あとはこの魔法薬を持ち帰って、学園に戻って教師に提出するだけ。

 これで、終わる。


 とりあえず誰が魔法薬を持っておくか、という話し合いについてはちょっとだけ時間をとってしまったけれど、最終的にイアのリングに保管する事が決まった。


 今回のこのメンバーのリーダーは誰だ、と問われるとそもそも決まってすらいない。

 とりあえずイアたち三名の中ならヴァンがリーダーかな、とイアは思っているけれど留学生組までそれを受け入れるとは思っていなかった。

 初対面の、実力もよくわからない相手をリーダーにして従えるか、という話だ。

 勿論ある程度共に行動して実力を認められると思ったならともかく、そういった実力を認め合うような何かがあったわけでもない。確かにここで遭遇した魔物は、いつものと比べればちょっと手強い気がしたな、と思う部分もあったけれど苦戦して、その中でとんでもない活躍を見せた、なんて者が出たわけでもない。


 だからわざわざこの中でリーダーを決めなければならない、という程の事でもなかったのだ。


 一応留学生組と魔物を倒す時に便宜上のリーダーを決める感じにはなったけれど、それだってその時だけ。

 こちらのリーダーはヴァンで、留学生組はサーティスがリーダーのような立場を務める形となった。


 であれば完成した魔法薬はヴァンかサーティスが持っていくのが無難ではないのか、とイアは思ったがリングの容量に余裕があったのがイアだったというだけだ。


 そうして、魔法薬をしまいこんで後は戻るだけ。


 実質課題はほぼ終わったと言ってもいい。


 しかし、そこで問題が発生したのである。


 問題、とイアが言っていいものかは悩んだけれど問題としか言いようがない。

 トラブル、と言ってもいいかもしれない。


 簡単に後片付けをして、さて戻ろうか、となった時。


 かつん、かつんと高らかな靴音が響いた。

 この場にいる誰かの足音であれば、別に何も気にする事はなかった。

 しかし離れた場所からこちらに近づいてくるように響く靴音は、間違いなく外から誰かがここに向かってやってきていると考えるのが普通である。


 人が、ここに?


 他にこの場所に来る予定の生徒でもいた?


 魔物、ではないはず。


 そんな考えがぱぱぱっとイアの脳裏をよぎっていく。

 進級試験を兼ねた課題、と言われていたものの、イアは内容を全く知らなかった。

 原作小説だと学園内で実力テストみたいな事はやってた記憶があるけれど、こういった所へやってきて、みたいな事はなかったはずだし。

 ゲームの方はどうだったか……と思いだそうとしてみるも、記憶にこれっぽっちもなかったのである。

 何か別のイベントとかで重要そうなダンジョンに行ったりした覚えはあるのだけれど、進級試験を兼ねた課題と称してこんな所に来た覚えは全くなかった。


 むしろゲームの方はイアのステータスだとか、ウェズンとの親密度、その他の仲間の友好度である程度の判定がされていたように思う。

 ゲームはあくまでも原作小説の派生、キャラと仲良くなってイベントを楽しんでね、みたいな面が強めだったと思うので、特に重要ではない場面はサクッとカットされていてもおかしくはない。

 試験イベントで仲間との友好度にも変化が、というのもありがちではあるけれど周回が前提であるゲームだ。あまりにも面倒そうなイベントになりそうなのはあらかじめカットされて、別のところで親密度を上げろとかそういうのになっていてもゲームなら不思議ではない。


 それにもうゲームにも原作にもあったっけこんなシーン、と思うようなのがちらほらしているのだ。

 つまりは何が起きてもおかしくはない。


 そう思いながら、イアは近づいてくるであろう誰かが来るのを待った。

 それというのもヴァンやルシアもこの場で待機しようとしていたからだ。

 相手が何者かはわからない。もし敵対するような相手だとして、だったらここで待機するのは間違っていないと思う。

 戦うのであれば通路といった狭い場所よりまだここの方が立ち回れるから。

 戦う必要がなければそれでいい。けれど、もし戦闘になった場合を考えるならこの場で待ち構えるのがベストではあるのだ。


 同じ学園の生徒が遅れてやってきた、と考えるよりは学院の生徒もここに用があってやってきた、と考える方が可能性としてはありそうだと思えるし。


 ヴァンとルシアは警戒を隠す様子もないまま、クイナたちは最初何事? といった感じではあったけれど、それでもこちらの様子を見て気を引き締めたのか何が来てもいいように体勢を整えていた。


 かつん、かつんと響く靴音は確実にこちらに近づいている。


 警戒しながら移動しているようには思えない。

 町の中を歩いているみたいな気軽さを感じさせるように、一定の速度で音は響いている。


 聞こえてくる音からしてどうやら一人だとは思う。

 足音からして本当に気軽に移動しているだけといった感じなので、そのうち鼻歌だとかも聞こえてくるのではないか……? なんて、そんな風に思ってしまったがしかしそういった鼻歌は聞こえてこなかった。


「だっ、誰か、いるの……!?」


 警戒していたといっても、魔物ではない。足音からして一人だけ。

 だからだろうか、思わずといったようにソーニャが声を上げた。


 その声が聞こえたのだろうか。


 かつんっ、と一際高い音がして、そこで一度足音は止まった。


 音が聞こえなくなって数秒。

 精々三秒くらいだと思うが、実際には数分くらいに感じられた。

 ヴァンがちらりとソーニャに対して一度だけ視線を向けたが、すぐに戻す。

 余計な事を、と言い出しそうな視線は一瞬だけだったのできっとソーニャも気付いていないだろう。


 相手が何者かはわからないが、もしかしたらこちらに用がある人間ではない可能性もあった。

 時々魔物退治に赴く生徒たち――今回はイアたちがそうだが――以外にも、冒険者が来ることも無いわけではない。そんな冒険者が今回たまたま見回りにやってきただけ、である可能性もあった。

 もしそうなら、ここでソーニャが声をかけた時点で向こうから何らかの反応があっただろう。


 けれども。


 かつん、かつん……


 靴音が再び鳴り響く。


 ヴァンとルシアがリングから武器を取り出す。イアもまた同じように武器を取り出し手に装着していた。


 もし様子を見に来ただけの冒険者であったなら、今のソーニャの声に何らかの反応を示したはずだ。けれどもそんなものは何もなく。

 それでいてこちらに確実に近づいてくる靴音。


 ヴァンやルシアの険しい視線。

 イアも、薄々察していた。


 多分恐らくきっと、ここに向かっている相手は味方ではない、と。


 イアたちがより警戒した事でサーティスたちも何か不味い状況であるというのは理解したらしい。

「な、なによ……」

 と若干震える声がクイナからしたけれど、彼女もまたこちらに合わせるように武器を取り出し構えた。

 音はどんどん近づいてきて、そうして――


 現れたのは、学院の生徒だった。


 白を基調とした制服。イアたちは既に何度も見ているので今更見間違えようもない。


 きょと、とその目をぱちくりとさせて学院の生徒はこちらを見ていた。

 それから少し間をおいて、あー、と小さな声がする。


 イアたちは彼を知っていた。


 とはいえ、決して仲が良いわけではない。

 交流会の時に直接関わったわけではないけれど、それでもウェズンとレイが二人がかりで戦っていたのをイアはしっかりと見ている。


 サーティスたち留学生組はというと、現れた一人が特に厳つい外見をしているわけでもなく、むしろ穏やかそうな見た目をしている事で拍子抜けでもしたのだろうか。

 どこか安堵するように、構えていた武器を下ろしかける。


 彼らはまだ学院の生徒と殺しあうような事があったわけではない。

 明確な敵とみなしていないのだから、警戒を緩めるのも当然だったのかもしれない。


 しかし――


「あぁ、そうか。こっちだったか……」


 どこか困ったように呟く青年――ワイアットは、ぐるりと一同を見て。

 そうしてクイナで視線が止まる。


 イアは見た。クイナの目が見開かれ、そうしてキラキラと輝くのを。


 え、クイナってあんな表情もできたんだ。


 なんて思ったのは一瞬だった。


「覚悟はできたかな?」

 思っていたよりは穏やかな声に。


 誰に向けた言葉なのか、理解が遅れた。


「はい……はいっ、ワイアット様!」

「えっ!?」

「クイナ!? お前何を……!?」


 そして次に起きた出来事に、更に理解が遅れたように思う。


 イアたちテラ教室の者たちと、留学生組は少しばかり離れた位置にいた。

 軽く片付けて後はもう学園に戻るだけ、という状態だったしそもそも割と最初から多少の距離はあったけれど。


 物理的にやや離れた状態だったのは良かった……と言えたかもしれない。


 ワイアットの言葉に、熱に浮かされたようなクイナの弾む声。

 それと同時にソーニャが倒れた。


 クイナの手にしていた武器がソーニャの身体を貫いて、彼女は何が起きたのかわからないままどさりと倒れる。即死ではない、が治癒魔法を使えるだけの余力があるようには見えなかった。

 突然の凶行にサーティスがクイナから距離を取ろうとして――


「遅いよ」


 穏やかな声。

 町の中で、恋人と待ち合わせでもして遅れてやってきた相手を優しく咎めるような、そんな声だった。


「が……!?」


 クイナから離れようとしたサーティスの身体が傾いでいく。

 サーティス本人も何が起きたのか理解できていないのだろう。

 立っていられず、そのまま倒れていく。

 倒れて、床に血が広がって、そこでようやくサーティスは状況を理解したようだ。


「あ、あぁああぁぁあ……!?」


 何かを言おうにもマトモに言葉が出てこない。

 けほっ、という咳き込む音はソーニャから。がぼっという呼吸をし損ねて血を吐く音はサーティスからほぼ同時に聞こえてきた。


 治癒魔法を使おうとしたらしいソーニャだが、しかしうまく発動できずにはくはくと口が酸素を求めるように喘ぐ。やや遅れて、彼女の口からも血が吐き出された。


「さて、残るは三人。クイナ、できるかい?」

「はい、任せて下さい!」


 状況を理解できているか、と問われればできているとはとてもじゃないが言えない。

 けれど、ワイアットが言った残る三名は間違いなくイアたちだろうし、できるか? という質問の意味は。


「え、え、え? 何かわかんないけどヤバい感じ?」

「感じじゃなくてヤバいんだよ」


 ルシアが反射的に突っ込んでくる。

 さっきよりは顔色もマシになっているけれど、しかし完全に良好とも言い難い。

 けれど、今現在具合が悪いだとか言っている場合ではないのは確かだ。


 どうしてこうなっているのかなんてわからなくても。


 戦わなければならない事だけは確かだった。

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