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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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お互い線を引いている



 どうして学園に戻ってから魔法薬を作らないのか。


 そんな疑問は当然のように浮かぶし、ここに来る前学園で教師に質問もした。

 どう考えても採取した後学園に戻ってきて学園の教室を使って調薬した方が確実だと思えたのだ。

 瘴気濃度がそれなりにあって、魔物と遭遇する可能性もある外。

 建物の中が必ずしも安全とは言い切れない。

 そんな所で魔法薬の調合をするだなんて、本当に大丈夫なのか?


 そう思うのは当然だろう。


 故にその質問は教師も想定の範囲内だった。


 採取した植物に関してはリングの中に入れてしまえば保存としては問題なくなる。

 なので学園で魔法薬の調合をするというのも何も問題ないように思えるのだが。


 オルディア高地で採取した魔法薬の材料となる植物は、基本的に採ってなるべくすぐに使わなければならないらしい。他の薬草だとかは例えば乾燥させるだとか煮詰めて汁を絞り出すだとか、そういう事をするものもあるけれどオルディア高地で採取する魔法薬の材料になる植物の大半は、そうしてしまうと逆に薬効が低く――どころかなくなる場合もあるらしい。

 折角採取して薬を作ってもその効果が全くないのであれば、採取してから薬を作るまでの労力が全て無駄である。


 それに、と教師の説明は続いた。


 気温や湿度の変化にも敏感らしく、リングの中で保存してる分にはまだどうにかなるけれど、しかしオルディア高地の魔法薬を作るための建物以外の場所でリングからそれら植物を取り出した時点で――いきなり違う土地で開封されるのだ。温度も湿度も突然異なる土地で出されるとなれば、植物からすれば突然環境ががらりと変わるようなもの。


 その突然の変化についていけず急速に品質は劣化。

 魔法薬の材料としてそうなると使い物にならなくなってしまうとの事。


 オルディア高地と同じような気温と湿度に保った部屋を用意できればいいが、過去にそれを試して大体同じ環境にしたはずでも何故か品質の劣化が止まらなかったという事もあって、採取した土地で魔法薬を作る施設を作っておいた方が手間が少ない――と、過去の人たちは思ったようだ。


 神の楔があるからこそ、魔法薬を作った後はそれらの薬を必要なところに運ぶ事もできるわけだ。もし神の楔などが使えない状態で、転移もできず薬の持ち運びがとても大変な状況であったなら他の場所で植物の保存方法だとか、薬効が落ちないような方法を模索しただろう。

 けれどもそういった研究をするよりも、現地で採取してそこで作る施設を作った方が当時は画期的だった、と。


 定期的に魔物退治にも赴かなければならないし、植物の繁殖状況も確認しておかなければならない。

 であれば、施設を使うついでにそれらも行っておくのが手間が少ないというところだろうか。


 聞いてるだけならなんだか面倒な話なのだが、しかしこれが一番手間が少ないというのだ。

 他のもっと楽な方法をとろうとすると、魔法薬にもならないくらい素材の品質が低下してしまうとなれば、確かにそうなのかもしれない。他にもっといい方法が見つかればまた話は違うのだろうけれど。



 ともあれ、ようやく建物に辿り着いたイアたちは、ひとまず遅めの昼食をとって少し休憩する事にした。

 植物を採取して種をあちこちに蒔いてくるだけなら、ここまで疲れたりはしなかった。

 途中で遭遇した魔物だけを退治する程度なら、まだ余裕もあったはずだ。


 しかしそれらが両方合わさると、思った以上に疲れてしまったのである。


 リングの中に植物を保存させてしまうと、同じオルディア高地内であってもリングから出した途端品質の劣化が始まるのではないか……? という疑念も生じてしまったために、採った植物は麻袋に入れてそのまま持ち運んでいた。それもあって、魔物と遭遇した時その麻袋を守る必要も出てきてしまったのである。


 邪魔にならないようなところにおいて魔物と戦うにしても、魔物がどういう動きをするかなんてこっちは完全に予測しようがない。突然逃げ出そうとしてこちらの思ってもいない方向に突撃するかもしれないし、その時に邪魔にならないようにと置いたままの麻袋を踏みつぶされる事だってあったかもしれない。


 なので麻袋を持って魔物に踏みつぶされたりだとかしないようにしないといけなかった。一定時間ごとに順番に荷物持ちは全員でやっていたけれど、それもそれで中々に大変だったのだ。

 植物だしそこまで重たい荷物にはならないだろう、と思ったけれど案外ずっしりしていたし。

 乱雑な扱いをして中身がダメになったら、また採取してこないといけなくなるだろうし。


 下手をすれば人間以上に丁重な扱いをされていたわけだ。


 それもあって思った以上に神経も使ったからか、建物に辿り着いた時点で皆一仕事終えた気分になってしまっていた。もうこれで終わりで良くない? とか誰かが言えば間違いなくそうだよね、もうこれでいいよね、とか同意してくれそうではある。


 まぁ、実際ここで終わらせていいわけがないので、終わった気になっても終わりではないのだが。


 薬の作り方に関しては建物に手順が記された物があるとの事だったので、とりあえずそれらを確認しつつ一同まずは遅めの昼食をとった。

 作り方を見る限りは、そこまで難しいものでもない。

 学園の授業で前にやった別の魔法薬の方が面倒なくらいだ、と思える程度には簡単な気がした。


 ここで失敗したらまた材料集めから始めないといけないので、それについては一安心といったところか。


 ヴァンもこれなら失敗する方が難しいか、なんて言っているし、ヴァンがいるならそもそも失敗する可能性はとても低い。

 彼は魔法薬の調合に関してはクラスの中でも上の方だ。


 クイナたち留学生組は、そういや魔法薬の調合とかどうなんだろう? とふとイアは疑問に思ったけれど、しかし気軽に話しかけられる雰囲気ではなかった。


 クイナにはニナではない、と言ってしまったけれど、実のところニナであるイアは今更その間違いを訂正しようとも思っていなかった。いやだってさぁ、今更同郷ですよって言ってもどうしろと言うのだ、という話である。


 仲良しだったけど、お互い思ってもいなかった事態で離ればなれになってしまった……みたいな状況ならともかく、同じ故郷ってだけで別に仲が良かったわけじゃない。

 というかイアからすれば、昔の自分と同じ扱いを今されてもなという話だ。


 今の自分と昔の自分は随分変わったと思っている。

 なので、昔の感覚で接されてもイアとしては困る。

 クイナは若干納得していなかったようではあるけれど、それだって最初のうちだけで今はもう違うと思っているだろう。仮に、実は当時同じ集落で暮らしていたニナだと今更明かされたとして。

 クイナはそれでどうするつもりなのか、イアにはよくわからなかったのだ。


 思い出を語る程の仲の良さはない。それ以前にそこまでの思い出もないのだから。


 ならばもう、他人の空似という事でいいじゃないかとイアは思っている。

 今更あの集落であった事を懐かしく語れるか、と言われてもそもそも懐かしむ程の内容ですらないのだから。


 それ以前に仲が良かったわけでもない。

 あの時のニナだった自分は集落の子たちのおもちゃで、八つ当たりしていい相手で、痛めつけても構わないモノだった。

 あの時のノリで接されても、今のイアがそれを受け入れるつもりはない。


 なのでまぁ、イアとしてもクイナに自分から話しかけに行こうとは思わなかった。

 共通の話題が故郷の話くらいしかないけれど、しかしその話題も出すには微妙に憚られる。

 サーティスとソーニャに話しかけようにも、同じようにクイナにも話しかけるとなると……自分では同じように話しかけたつもりでも、もしかしたら若干悪感情が滲んでしまうかもしれない。

 そうなれば、どうしてクイナだけ? と思われるだろう。

 それをこの場で聞いてくるかはわからないが、聞かれたらどう答えるべきか。


 前に人違いをされていて、それでしつこくされたから。


 理由としてはここら辺だ。けれども、それで今でも嫌うような態度というのも客観的に見ればどれだけ引きずっているのだという話になってしまう。

 嫌ってるわけじゃなくても苦手に思っている。そう思われる分にはいいけど、その程度の事なら許してやれよ、なんて軽々しく言われてもイアだって困るのだ。


 許すとか許さないとかじゃない。


 関わりたいと思っていないのだ。


 クイナが今、当時の事をどう思っているかなんてイアは知らない。別に知りたいとも思っていない。

 もし、あの時の事を悪い事したな、なんて後悔したとしていてもだ。

 それで今になって謝りたいとか言われても、正直な話イアとしてはもう済んだ話でどうでもよくて、今更が過ぎるのだ。


 悪いと思っていて謝りたいと思っていても、別にあの時の事なんてなんとも思ってなくて謝るつもりがなかったとしても。

 イアにとってはどちらでもよいくらい、もうどうでもいい話なので。


 それはそれとして、大きくなった今、改めてクイナと交流を深めたいか? と問われたとして。

 答えは否。


 過去の事を引きずっているからというわけではなくて、単純に仲良くなれそうな気がしないのだ。

 今回の課題でサーティスとソーニャは言うまでもないけれど初対面だ。

 留学生が来た時に案内する係になったイアではあったけれど、その時もしかしたらこの二人の事は顔くらいは見ているはずだけど、正直覚えていない。他にも案内する人たちはいたから、覚えてなくても別におかしくはないのだけれど、だからこそ今回こうして顔を合わせた時サーティスとソーニャは改めて自己紹介もしてくれた。


 二人は割とにこやかに挨拶してくれたので、イアとしても同じようににこっと笑いながら自己紹介できたと思っている。


 けれどもクイナはなんとなくむすっとしていて、とっつきにくかったのだ。


 クイナからすれば前にイアに貴方ニナでしょ、と聞いてきた事もあるからそれでというのもあるかもしれない。

 けれどイア以外、ルシアやヴァンもいるのに、そこはかとなく機嫌も悪そうにむすっとされているのを見ると、なんだか面倒くさいなぁという気持ちにしかならないわけで。


 男性相手にだけ媚を売るような態度でイアだけに辛辣だとかであっても、それはそれで困るけれど、一時的とはいえお互い協力して頑張らなければならない中で、関わりにくい態度でいられてしまえばわざわざそれを乗り越えてまで仲よくしようね! なんて言うつもりもない。


 まぁ、だからといってクイナの態度を咎めるつもりもないのだ。

 最初のうちは一応こちらもそれなりに友好的な雰囲気だったけれど、途中からルシアの顔色は悪くなってきてるし、ヴァンもいつ瘴気耐性の低さ故に倒れるかわかったものではない。


 ちょっと無理してる感が二人にはあるし、それを留学生組が一線引いている、と思ったとしてもおかしくはない。

 それ故にクイナも同じようにそっけなくしている、と受け止められなくもないので、彼女の態度がちょっとなぁ、と思っても口に出して言う程ではないというか、こちらが言えた義理ではない。


 とはいえ全く口をきかないというわけでもないので、魔物が出た時だとかお互い声をかけて対処していたし困る事もなかった。

 これでもっとお互いに険悪な雰囲気でも漂わせていて、何をするにもお互いがお互いの足を引っ張りあうような形になっていたならばともかく、そうはならなかったので和やかとはいかないまでも一応協力して課題に臨む状況になっていたし文句を言う程ではなかったわけだ。



 建物の中に入って、まずは中を一通り確認して。

 どうやら魔物が入り込んだ様子もないし、損傷が激しいだとかでもない。

 とはいえ、魔物が入り込んだ場合を考えて入ってすぐの所より少し奥へ移動して、まずはそこで休憩をとる事にした。


 食堂で働くゴーレムたちに頼んで作ってもらったお弁当をイアたちが取り出して、留学生組も同じようにリングからそれぞれランチボックスを出す。

 余裕があれば自分で好きなように作ってくる者もいたかもしれないが、そもそも課題で学園の外に行くのがわかりきっているのだ。事前に自炊でお弁当を作ろうと思う者が果たしてどれくらいいる事か……


 少なくともこの場にいる全員、食堂でお弁当を頼んだ時に使われるランチボックスだったのであえて自分で作ってきたという者はいないようだった。


(おにいあたりならこういう時でも自分で作ってきたんだろうなぁ……)


 そう思うと、なんだか無性に兄の作るお弁当が食べたくなってきた。

 食堂で作ってもらったお弁当に不満はないけれど、どうしたって家庭の味となるとイアの中ではほぼ兄の手料理なので。


 課題そのものにてこずる事はなさそうだし、終わって学園に戻ったらねだってみるのもありだろう。

 そんな風に思いながら、イアはランチボックスを開封したのであった。

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