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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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それなりに肉体労働



 与えられた課題に関して、最初は順調だった。


 普段行くような場所と比べて瘴気汚染度が若干高めであった事だけがヴァンにとってはネックだったが、それも手持ちの浄化薬とウェズンがくれた浄化魔法を込めたアイテムで問題なく乗り切れた。

 浄化魔法を込めたアイテムに関しては他の人に分け与えられるだけの余裕はなかったので使う時は誰にも気づかれないようにしていたくらいだ。アイテムを使うのを気付かれないように、かわりに浄化薬を飲む時は普通に。

 元々何度か浄化薬を飲んだ時に、他のクラスメイトにも目撃はされていたので留学生側が何かを聞いてきたとしても、ルシアもイアもいつもの事だよとしか言わないだろう。


 オルディア高地に到着して早々、ウェズンから渡されたアイテムを使ったけれど、そのおかげかヴァンの身体は随分と軽くなっていた。この様子ならしばらくは大丈夫だろうと思える。

 とはいえ、普段ちょこちょこ浄化薬を飲んでいた相手が薬も飲まず平然としているというのは他に何かあったと言っているのも同然なのでいつも通りを装って薬を飲む振りは定期的にしていたのだが。


 ルシアとイアだけなら別にする必要はなかったけれど、それ以外がいるのだ。

 留学生たちは浄化魔法を最近使えるようになった者たちでもあるので、自分の魔法だけで浄化しきれない程汚染されたなんていう状況に陥れば、まぁ想像するまでもなく混乱し縋れるモノには縋りつくだろう。


 状況的にその時すぐに学園に戻れるのであれば、ヴァンもアイテムを分け与える事を考えなくもないがもしそうではない場合。

 その時は間違いなく見捨てる。

 生憎自分の命を犠牲にしてまで誰かを助けようとは思っていないからだ。


 だからこそ、そういった状況にはなってくれるなよ……などと内心で思いながらもヴァンはせっせと指定されている植物の採取に勤しんでいた。

 浄化アイテムを使った事でしばらくは大丈夫だといっても、長居すれば浄化アイテムの消費量は増えるのだから。



 元々オルディア高地にいた動物が本来ならば植物の種をあちこちに運んでいたらしいのだが、瘴気汚染度が高くなってからその動物が姿を消してしまった事で随分と様変わりしてしまった……らしい。

 これについては行先と課題内容についての連絡が来た時の補足説明にあっただけなのでそれ以上詳しくは知らない。

 けれども、その植物が魔法薬の材料になるものだという事でこの作業は間違いなく定期的に課題として誰かがやるようになったのだろう事は理解できた。

 風に乗って種が運ばれるならともかく、それだけに任せるのも心許ない。

 もっと昔はオルディア高地全域に広まるように育っていたらしいのだが、今はそうでもなくなってしまった事も人の手で種をあちこちに運ぶようになった一因だろう。


 ロクに必要とされないような魔法薬の材料だったなら、捨て置かれたかもしれない。自然に任せ、淘汰されても仕方ないの一言で終わっただろう。

 けれどもそうではない、というのは現時点でヴァンたちがやっている事から明らかだ。


 ちなみに種に関してはオルディア高地以外の土地への持ち込みは禁止されている。

 うっかり制服などにくっついて別の場所に運ぶ可能性があるために、ここでの課題を済ませた後は神の楔でまっすぐ学園へ戻るようにときつく言い聞かされた。


 土地柄的に、大抵のところでは育たないらしいが万一うっかりオルディア高地以上に育ちやすい土地に種が運ばれたとして、そうなると今度はその土地に育っている他の植物の育成が阻まれるかもしれない……というのを考えれば余計な事はできそうにない。

 もしそのうっかり育ちやすい土地に、同じように貴重な魔法薬の材料になり得る植物があったなら大惨事である。


 学園ではあまり育たないらしいので、真っ直ぐ学園に戻って制服ならびに生徒もしっかり洗浄されるらしい。



 複数の種類種があるので、重さのあるやつはともかく細かなものはうっかり制服についたり髪にくっついたとして、まず気付かないだろう。

 そのまま知らず他の土地でその種が落ちたらと考えると、確かに面倒な事になりかねない。


 土を簡単に耕したりした場所に種を埋める。

 水をやって次の場所へ移動する。


 そういった作業をかなりの回数繰り返す。


 指示されていた場所に種を蒔き終えた時点で、随分な時間が経過していた。


 時刻はとうに昼を過ぎ、普段であれば午後の授業が始まっているような時間だ。

 作業に集中しすぎたからか、全員昼食を食べていなかったのもあってとりあえず一度休憩しようとなった。


 天気が良ければ。

 瘴気が少なければ。


 このまま外でピクニックのような気持ちで持参した食料を食べる流れになったかもしれない。


 けれども、時折うろつく魔物が見えるので倒さないわけにもいかないし、ましてや空はどんよりとしている。

 レジャー気分でここら辺で食べようか、という気持ちにはとてもじゃないけどなれなかった。


 最終的に種以外にも採取した植物を使って魔法薬を作ってから帰らなければならないのだ。

 そのための建物に行かなければならないし、それならばそこで食事をしようとなったのはある意味で当然の流れだったのかもしれない。


 途中で遭遇した魔物に関しては、一人であったなら倒すのも苦労しただろうな、という程度に強くはあったけれどヴァンにはルシアとイアがいたし、留学生組もお互いある程度連携がとれていたのもあって苦戦するような事は特になく。


 あちこちに種を蒔かねばならなかったという部分でそれはもうあっちに行ったりこっちに行ったりと体力の消耗はしたものの、それくらいだった。

 他に、何かとても苦労した、というような部分は特になかったのだ。


 ヴァンも内心で安堵した程だ。

 この状態なら、もしかしたらあともう一つウェズンからもらった浄化アイテムを使うだけで学園に戻れるかもしれない、と。

 瘴気濃度が少しばかり高い所だったから、来る前はどうなる事かと思っていたけれどこの調子なら何も問題はないなと。


 疲労感はあれど、学園に戻って休めばすぐに良くなるようなもの。


 進級試験も兼ねていると言われていたけれど、気負う必要はなかったな、なんて。

 あとは魔法薬を作るだけ。ほぼ終わりが見えているのもあってヴァンだけではない。留学生たちもそこはかとなく和やかな雰囲気ですらあった。



 ほぼ共に行動していたものの、ヴァンたちテラ教室の者たちと留学生組はそこまで会話がはずんだりはしていなかった。

 一応最初に自己紹介をしたり、軽い世間話のようなものはしたけれどいざ現地について植物を採取して、魔法薬に使う部分と種とを別々にしたりだとかの作業をし、魔物を倒し、種を蒔いてまた移動して、なんてやってる合間に弾むほどの会話になる事はなかったのだ。


 ヴァンたちも留学生たちも、お互い必要な時に声をかけるくらいでどちらか一方だけ会話が盛り上がるなんて事もなかった。



 何度かクイナがイアに何か言いたげな目を向ける事はあったようだが、それだけだ。話しかけようと思った事はあったのかもしれないが、そういう時に次の作業場所どこ? だとかの確認だとか魔物を発見して囮として引き付けるから攻撃お願い、だとかのやりとりで終わっている。


 どちらかといえば、ルシアが少々……いつもと比べて大人しいかな? というのがヴァンには気になった。普段からうるさいわけではないけれど、しかしそれにしたっておとなしすぎる。

 そういえば、と思い返してみる。

 思えば入学したばかりの頃、ウェズンと一緒にルシアと課題をした時、ヴァンはそうは思わなかったが彼は寒さに震えていた。

 自分と比べると寒さに弱い体質なのか、と思ったもののあれ以来特にそういった場面に出くわさなかったので忘れかけていた。


「もしかして寒い?」


 とりあえず小声で問いかけてみるが、ルシアは「いや大丈夫」と同じように小声で返す。

 言葉通り大丈夫なのだろう。特に寒さで震えているようでもないし、では一体どうしたのだろう、と思ったが……

「ごめん、ちょっとお腹空いてきてさ……早く建物の中に入りたいだけだから」

 続いたその言葉に、ヴァンは思わずきょとんとした。


 確かに、いつもなら昼食を終えて午後の授業をしているようなものだ。

 朝に出発してずっと動いていたのだから、かなりお腹も空いている。

 あぁそういう事、とヴァンは納得した。途中で携帯食料とかで簡単に食べられるような物をつまめば良かっただろうに……と思わなくもなかったけれど、いかんせんこのどんよりとした空の下、しかも植物を採取する時に土汚れだとかもついてしまっているとなれば、そういう気分になれなかったのだろうなとは思う。

 グローブを外して素手で何かを食べるにしても、場所が場所なので何となく躊躇ったのだろう。


 お腹空いて騒ぐ元気がないだけ、と言われ少しばかり脱力したが原因が原因なので安心もした。

 建物の中に入ってある程度休憩してご飯食べれば解決するのであれば、何も問題はない。


 魔法薬を作るための建物とやらにはまだ到着していないけれど、しかし行く先――遠くにそれらしき建物は見えている。

 あともうちょっとだぞ、とヴァンが言えばルシアも苦笑を浮かべて頷いた。


 ルシアに声をかけるために横に移動していたヴァンがそのまま先導するように前に出る。

 ヴァンがこちらを振り返る様子もない事で、ルシアはその表情をすとんと元に戻した。

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