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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
五章 敵だらけのこの世界で

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自分が考えた事は大体既に誰かが考えている



 魔法だとか魔術だとかを発動させるのは、当然だが術者である。


 とはいえ、それらが使えない者たちであっても、全く使えないというわけではない。

 世間には魔法の込められた道具だとかが流通している。


 ただし、そのお値段はまさしくピンからキリまで。

 一度だけ、ちょっとした怪我を治してくれる治癒魔法が込められたものとかであれば、そこまで高値で売られたりはしていない。

 けれども、魔物に投げつける事でとんでもねぇ威力の攻撃魔法だとか魔術が炸裂する、というアイテムは危険物でもあるので買う時には使用法だとか細かく注意されるし、値段もそこそこ張るものだ。


 間違って人の多い場所でそんなものを使ってしまったら、余程の事情がない限り使った人物はお縄である。


 過去にそういったアイテムを使ってそれでも情状酌量の余地があると判断されたのは、火事になった家に閉じ込められた子を助けるのにやむなく壁をぶち壊すのに使われただとかの時くらいだ。


 なおそういったアイテムに込めるのは、魔術よりも魔法の方が簡単であるとされている。

 というのも、魔法と魔術では継続時間が異なるからだ。

 魔術は己の魔力だけで発動させるものであるのに対し、魔法は精霊の力を借りて発動させるもの。


 魔術はどちらかといえば効果がその場で発動し、その場で終わるものが多い。

 けれど魔法の場合は発動させても効果は持続する……し続けるといったものが多い。

 長い年月放置された建物の中で、空間拡張魔法が展開されているなんて事はそれなりにあるので、そういった面から見てもお分かりいただけるだろう。



 そんな感じの魔法と魔術の違いだとかを授業でつらつらとやっていた時、ウェズンはふと思ったのである。

 だとしたら、魔法でしか発動できないものをそういったアイテムに込めるのはそこまで難しい事ではないのではないか、と。


 ウェズンが安直にもそう考えた魔法は、言うまでもなく浄化魔法である。

 浄化魔法については魔術で発動させるのは危険が伴うとされていて、それ故に学園や学院に入った生徒はまず最初に精霊と契約して浄化魔法を覚える事が必須とされる。

 一定期間内で覚えられず学園を去ったとして、他の学校でそれ以外に関して学んでいるうちに浄化魔法を覚える事が出来た場合、留学生としてまたこちらに来る事も可能である、という話もちらっと聞かされた。


 入学した当初は救済措置とか全くなさそうな感じで話をされていたような気がするが、実のところそれなりにいくつかの救済措置はあったようだ。

 そういうの言えよ、と思う事はあるけれど、言えば言ったで安心して本気で取り組まない者も出る可能性もあるのは簡単に想像がつく。

 それもあって説明がされない、というのは理解できない事もない。


 救済措置はあるけど本気でやれよ、と言われたら、多分少数の者は救済措置があるならば……で気を抜くだろうなとウェズンですら思うのだ。テラやその他の教師が思わないはずもない。



 ともあれ、ウェズンは浄化魔法を込めた道具を錬金術の授業で学んだ方法で作ってみようかな、と思ったのである。

 明確に、何か目的があって作ろうと思ったわけではない。

 ただ、何かできそうな気がする……! といったほとんど感覚的なものだ。


 たとえばそれは、朝起きて今日は何か調子いいな……なんて漠然と認識した時のような。

 特に何かした覚えはないけど今日はなんでか調子がいいぞ、みたいな正確な理由も何も言えたものではないけれど、それでも自分の中では確かなもの。人に説明するのに少しばかり困るような、勘で済ませていいかも微妙なもの。


 そういった、第三者に説明するには理屈も根拠もないようなものだけれど。


 けれど、何となくできるのではないか? と思ったのだ。



 ところでウェズンは別段前世の知識があるからといって、知識チートがあるとかそういうわけでもない。

 前世の自分はあくまでも平凡な人間であったし、何か――国民栄誉賞だとかの、言えば誰でも知ってるような賞でもって表彰された事などはない。


 なので浄化魔法をアイテムに封じ込める、だとかの方法はきっと既に誰かしら思いついているだろうなと思っていたし、その上でそういった道具が流通していないというのは製法が面倒なのか、それとも思った程の効果がないからだと思っていた。


 過去にそういったあれこれを試した人のレポートとかないかなと思って調べてみたけれど、ウェズンが想像していた以上にそういった物は存在していなかったのである。



「――って事なんだけど」

「あぁ、それな」


 そういうわけでウェズンが話し相手に選んだのは、イフだった。

 彼は自ら精霊であると明かしているし、そういった話題に全く詳しくないわけではないだろうと思ったのだ。勿論、その手の話題は門外漢だと言われる可能性はある。イフは見た目で言えば肉体言語で語るタイプに見えるので。

 見た目だけで言うのなら、リィトの方がまだ知的な会話ができそうである。あくまで見た目だけで言うのなら、であるが。


 イフが所有しているモノリスフィアに事前に連絡を入れて、念の為茶菓子持参で旧寮へとやって来たのだ。

 そこには、ツインテールでメイド服を来た女もいた。

 初めてイフと戦った時、その下の階でイアたちを翻弄していた女である。

 名を、ディネといった。


 他にも旧寮には精霊がいるらしいとは聞いているが、ウェズンは未だお目にかかった事がない。

 気配もよくわからないので、いるとかいないとか判別もできなかった。


 まぁ、気が向いたら出てくるだろう。

 イフだけではなくディネも話に混ざってくれるようなので、これ以上を望むのは贅沢というものである。


「浄化魔法ってそもそもの話、個人差があるだろ」

「あるね」

「だからこそ外で大っぴらに使う事を推奨されていない」

「授業でやった」


 入学して早々、そこはしっかりと言い聞かされた。

 まぁ、ある程度暗黙の了解になっている部分もあるけれど、魔法を使えない人からすればその暗黙の了解など知ったことではない。縋りつかれて身動きが取れなくなる事を避けたいのであれば、自ら公言する事は辞めろと言われているし、実際言ったところで何の得にもならない事をウェズン達はとっくに知っている。


「だからまぁ、その手のアイテムを作り出せたとしてだな」


 イフが若干言葉を濁す。


「まず第一に、効果がそこまでない。というのも本来魔法を封じ込めて使う道具に関しては、使用者が使うと判断した時点で発動するようになるわけだ」

「うん」

「けど浄化魔法に関しては、使用者が使うと明確な判断ができない」

「そうなの?」

「モノリスフィアがあるなら瘴気汚染度を確認できるからそろそろ危ないなと思った時点で使う事を決定できるとは思うんだがな。

 だがその手のアイテムを作ったとして売る先はどこだ? 浄化魔法が使えない相手だろ」

「まぁ、そうなる、のかな……?」


 ウェズンとしてはそこまで考えていなかったけれど、実際に考えてみれば確かにそうなるのだろう。

 使える相手に売ろうにも、使える相手ならば大抵はそこまで必要としないだろう。


「一応学校くらいは卒業できて、魔法は無理でも魔術は使える、みたいなのがいたとしてだ。

 そういうモノリスフィアを所持できている相手ならまだわからんでもない。だが、そのモノリスフィアすら持ちえない相手は瘴気汚染度を把握しない、というかできない」


 そりゃそうだ、とウェズンはこくりと頷いた。

 瘴気に限った話ではない。

 温度や湿度だって、数値化すれば何となく把握はできる。

 けれどそれすらない状態で、正確に判断できる者など果たしてどれだけいるだろうか?

 何となく今日はこれくらいの気温かな? と体感的にざっくりした判断をする事くらいはできるだろう。けれど、その体感だけで正確に判断できる者がそういるはずもない。

 気温や湿度はむしろ瘴気に比べればわかりやすい方だ。


 余程汚染が酷い場所なら流石に空気が悪い、とか何か体調がよくないな……というように感じとる事はできるかもしれない。

 けれども瘴気耐性なんて人それぞれだ。温度だってまぁ感じ方は人それぞれだろうけれど、それでも暑い寒いは大体共通である。


 暑さ寒さがハッキリした土地出身の者だと周囲と基準が異なる場合もあれど。

 瘴気耐性が人並み、もしくはそれ以上の者ならば、多少瘴気があろうとそこまでの変化はない。

 まぁつまりは。

 体感でなんとなく、で感じるそれらに正確性はあまりない。


 なので浄化魔法を封じ込めたアイテムの場合、使用者が使うと決める以前にある程度瘴気があれば勝手に浄化の力は発動するのだとか。

 浄化の力が漏れ出て、そうして使用者――この場合は装備者と言うべきだろうか? ともあれ、ある程度は守られる。けれど浄化の力を使い切った後体調が悪くなりいざアイテムを使おうと思った時には浄化魔法を封じ込めたアイテムの中身はすっからかん、というオチだ。


「なるほどね、肝心な時に使おうと思ったらその時点で手遅れって事……」

「そうだな。強力な力が込められていれば、多少は、まぁ……」

 何とも歯切れの悪い言い方だが、言いたいことはわかる。


 強力な力が込められているのであればそりゃあ多少は長持ちするだろう。

 だがそれでも気休めの範疇なのだろう。


 気休めどころか自在に周囲を浄化できるくらいの力が秘められた物であるならば、それを欲して争いが生じる可能性すらある。


「込められた分の力を使い切った後、また補充するにしてもだ。

 近しい相手に渡すならともかく、売った場合は売った相手がそれらをできるかってなると……なぁ?」

「あぁうん。ご近所ならともかく遠い場所にまで流通した後なら、流石にそこまでのアフターサービスは無理かな……」

 いくら神の楔で移動距離なんて有って無いようなものとはいえ。

 そうなると身近に浄化魔法を使える相手でもいないと補充も何もあったものではない。


 売られてたらそりゃ飛ぶように売れるんじゃないの? と思っていたのにお店でちっとも見かけなかった事に関して謎が解けた。


 より長持ちするように作るにしても、そうなるとその分素材にもこだわりが出る。気軽に誰でも手を出せる金額になりそうにない。

 更には浄化魔法を継ぎ足せるような相手がいなければ完全なる使い捨て。

 高い金出して使い捨て、とくれば……しかも効果は多分思っているほどではない、となれば。


 誰でも一度は考える事ってわけね……とウェズンとしては納得するしかない。


 商品化は夢のまた夢。

 つまりはそういう事だった。

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