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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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吉凶の行方



 ウェッジの話からして、タハトの塔の近くまでは授業で行くのはわかった。

 だがしかし、直接塔に行くわけではないらしい。

 ……とはいうものの。


 別に、塔の中に入ってはいけないとは言われていなかった。

 入ったところで……といった話なのであえて言わないだけなのかもしれない。

 中に入ってもただそれだけ、というのなら、それらを知っていてなお入る者なんて雨宿りに駆け込んだ者くらいではなかろうか。


(いやまて、というかだ。

 アレスの話だと向こうでも授業で行く事があるらしいって話だったよな……?)


 という事は。


 それって、タイミングが最悪だと向こうの生徒とかち合う事になる、という事では。

 お互いに留学生を迎え入れている間は両校での殺し合いは控えようね、という風に言われていたけれど、しかしそれって、留学生がいない状況でなおかつどちらかに明確に相手を殺さないといけない理由や事情があれば戦闘に入っても何もおかしくはない。


 それでなくとも数名、留学生たちは元の学校に戻る事なくこちらに残って正式なここの生徒としてやっていく事になった……なんて噂も聞いている。

 具体的に誰が残るのか、なんていう話はウェズンも知らない。


 聞いたところで……というのもある。


 留学生の中でウェズンが覚えているのは、イアの事をニナと呼んでいたクイナくらいだ。

 てっきりあの後も鬱陶しくイアに絡んでくるのではないか……と思っていたが、しかしそうはならなかった。

 まず授業がかぶらない。

 わざわざ会いに来る余裕が向こうに存在しない。というか座学はともかく実戦形式の授業がどうやらそれぞれの学校と比べるとハードすぎて他の生徒にちょっかいをかけにいく体力も気力も残っていないらしかった。


 こちらもわざわざ自分から足を運んでまで……という事もない。

 話が合って友人になれそうだ、なんて相手だったらともかく、そうでもない相手のためにわざわざ時間を使うくらいなら、別の事に費やした方が有意義だからだ。


 授業で一緒になるような事になればそれなりに協力しあったりはするけれど、ただそれだけ。


 敵対するつもりもないが、完全な味方ともいえない。中立的な立場、とでもいえばいいだろうか。



 面倒な事にならなきゃいいけど……と思いながら、一応イルミナもあの鍵を持つ者だ。

 モノリスフィアでさらっと知らせておいても損はないだろうと思い、移動しながらポチポチと文字を入力し送信する。


 イルミナはイルミナで、自分が持っていた鍵が融合合体を経て変化したものの、次なる魔女の試練とやらに関してはさっぱり情報がなかったらしく授業が終わった後は魔女に関連する書物だとかを図書室で調べている事が多かった。

 とはいえ、魔女に関する記述はそれなりにあれど、これだ!! と言えるような情報は全く見つからなかったらしい。


 いやまぁ、学園の図書室馬鹿みたいに広いし魔女に関連する本だけ調べるにしても、多分数日で終わるものじゃない。なのでそれらの情報が見つからなくても無理はない。

 イルミナは更に祖母に詰め寄って情報を聞き出そうともしていたらしいが、祖母は端的に、

「時が来ればわかる」

 としか答えてくれなかったらしい。


 あれ? 似たような事自分も父から言われたなー……と思ったが、お揃いだねッ☆ とか流石に言えなかった。


 この鍵がタハトの塔で使われる物であるのであれば。

 その場所に行く事になった時点で、まぁ何かあるんだろう。

 なんだ、塔の中にでも入ったら鍵が光りだすとかすんの?

 しかし鍵は普段リングの中にしまいこんでいるので、仮に光ったとしても多分気付かないと思う。


 では、塔の中にあるといういくつかの部屋の開かない扉の方からアプローチでもされるのだろうか。


 ゲームだったら何か近づいた時点でギミック発動して、アイテム欄とか自動で開いて使えるアイテムとかご丁寧に教えてくれるものだってあるけれど、そもそもそんな親切機能、リングにはついていない。

 扉に搭載されていたとしても、なんだかな……という気分である。


 時が来ればわかる、が授業でタハトの塔に行く事になった時点を示しているならそれはそれでいいのだが、もしそうでなかった場合、その時とやらはいつだよ、と突っ込んでしまいそうになるのは間違いなかった。



(というかだ。実際今の現状をゲームに当てはめるとしてだぞ?

 とんでもなく不親切設計なわけで。

 こう……RPGとかそういう系統ならまずある程度明確な目的が序盤にあると思うわけ。

 勇者よ、魔王を倒してくれとか。

 こんなちっぽけな故郷にいつまでもいられるか、俺は旅に出て一流の冒険者になるんだ、だとか。

 その途中でなんやかんやあって、最終的にその目標を叶えるわけで)


 なんとなく指折り数えつつ、ゲームにありがちなあれこれを思い浮かべてみるも、ウェズンの現状と言えばこれといったイベントが発生しているようにも思えず、進展しているかどうかも疑わしい。


 確かに途中なんやかんやあったと言えなくもない。

 主に強制イベントみたいな殺し合いだとか。


 だが、確実に最終目標に近づいている、という実感はさっぱりないのである。

 勿論最初の目的がそこまで大きくない場合、割とその願いは序盤で達成されていたりするのだが、そこから更に上を目指そうみたいな流れで最終的に世界中を股にかける事になったりもする。


 世界を股にかける、という部分は神の楔があるのでまぁ間違っちゃいないけれども。


 学園に入った当初と比べれば、まぁそれなりに強くはなっている。それは確かだ。

 けれども、なんというか……


(確かな実感とかはないわけで)


 そうこうしているうちにそろそろ一年が終わろうとしているのが現状だ。

 神前試合まで三年とか言ってたが、そろそろ二年と言わなきゃいけなくなる程度には時間が経過している。


 本当に大丈夫なんだろうか……という不安は、以前よりも思うことが多くなってきているように思う。


 もっと近い場所に小さ目な目標がいくつかあれば、まずはそれらを片付けて、とかで余計な事を考える事もないだろうに。


 イルミナにはモノリスフィアで伝えるべき事は伝えたので、わざわざ寮へ行くだとかする必要もない。

 イルミナからの返信は、タハトの塔? 何それ初耳、ちょっと調べてみる。といった感じで、多分この様子だと新しい情報が追加される事もなさそうだ。


 というか、魔女ですら知らないのだろうか。イルミナの祖母は意図的に情報を伏せている可能性はとても高いので何とも言えない。


 寮まで行くのであれば、ついでに先ほどの薔薇で作った花冠でも押し付けようかと思ったが、行く必要もなくなったので当分はリングの中で放置かな……なんて思っていれば。



「ねぇ」



 するり、と背後から伸ばされてきた腕が、ウェズンの首に絡みつく。


「最近全然会わなかったけど、もしかして、避けてる?」

「……避けたつもりはありませんが」


 重さは感じなかった。

 背後にいる。それも、首から肩にかけて絡みつくようにした腕に体重を預けるようにして後ろでおんぶのようにくっついているだろう事は確かなのに、だがしかし重さは一切感じられなかった。

 それ故に、反応が遅れる。


 少しの間そのままの体勢だったが、女はやがて腕をするりと離した。

 ウェズンはそれからくるりと身体を反転させて女と向き直る。


「ここ最近地味に忙しい事が多かったので」


 嘘ではない。

 授業内容も入学したばかりの頃と比べると難易度も上がってきたし、学外授業で外に出る回数も増えつつある。簡単なものなら日帰りで済ませられるけれど、そうじゃないのもあったのだから。

 一応学園に戻って翌日また神の楔で、という事も考えたけれど、明らかにそちらの方が面倒だった。野宿だとか宿をとった方がマシだな、と一緒に学外授業を割り当てられた者たちとの話し合いでも決定したのである。


 すぐ近くに神の楔があって学園と簡単に行き来できるなら戻っていたけれど、場所によっては神の楔の所まで戻るのが面倒な事もあるのだ。


 数日学園に戻らない日も何度かあった。


 なのでいない日に彼女がウェズンを探していた場合、見つからないのは当然なわけで。


「まぁ、確かに最近みぃんな忙しそうな雰囲気漂わせてたけど……」


 不満そうな表情ではあるものの、一応納得したらしい。


「何か用事があったんですか?」

「用がなかったら会いに来ちゃいけないの?」

「いえ。ただ、その」

「なによ」

「とても今更な事を言うんですけど」

「うん」

「僕、貴方の名前も何も知らないなって」


 そもそも出会いが出会いだ。

 数える程度しか会った事はないけれど、そのうちの一度は夢の中に入り込んできたくらいだ。

 そういう芸当ができる相手。

 恐らくウェズンが契約した精霊であろう存在。


 けれど彼女の存在を、学園の他の誰かが知っている様子はない。

 というか、名前もわからないままなので誰かに聞こうにも……といった感じだ。外見的な特徴を述べて他に知っている者がいないか確認しようにも、似た風貌の者が他に学園にいないとも限らない。

 髪の色だとか目の色だとか、もう世界にこいつしかいねぇよ、と断言できるくらい特徴のある色ならともかくそうではないのだ。

 ウェズンはテラに一応報告はしているけれど、そのテラも彼女について心当たりがないらしいし、恐らくテラは他の教師にも通達しているだろう。その上で、どこからも情報がこない。


 彼女は今でも謎の存在であった。


 名を知る事ができれば、少しは何かが近づくのではないか……と思ってウェズンは不自然な流れではないよなと思いつつ名を問いかける。


 女はきょとんとした顔をして、それから「あぁ」と頷いた。


「言えない」

「え」

「言ってはいけない。そうなってる。

 そっちから呼ぶのは問題ないけれど、自分から明かすのは駄目」

「えぇ?」

「忌まわしいけどそういう約束」


 ちっ、と舌打ちでもしそうな勢いで吐き捨てられる。


「そのせいで存在証明をする力も弱まった」

「それは、割と……ギリギリなのでは?」

「そう。今、貴方が繋ぎとめている。だから忘れないで」

「忘れられないように定期的に顔を見せに来ている……?」

「それもある。他の人は見えてないみたい。見られてはいけない相手もいるから誰彼構わず人前に出られるわけでもないの」


 眉をへにゃっと下げる女の表情から、嘘をついているといった様子はない。

 となれば、彼女にもどうやらそれなりに厄介な事情があるのだろう。


(って、存在を証明できない状態ってそれ……かなり不味い状況なのでは……?)

 ウェズンは思わずその疑問を口にしそうになって、けれど直前で口を噤んだ。

 実際不味い状況なのだろう。

 いずれ自らの存在を、そこに在るのだと証明できないようになれば力も衰え誰にも知られずその存在が消滅したっておかしくはない。

 もしそうなった場合、彼女がウェズンの魔法に関する契約をした相手であるならば、ほとんどの魔法がある日突然使えなくなったっておかしくはないのだ。


 一応、他の精霊がそういった場合は手を貸してくれる事もあるらしいのだがそこら辺は正直ハッキリしていない。

 今までは使えたけれどある日突然使えなくなった魔法がある場合、とても面倒だが他の精霊と再契約なんて事もある。


 滅多にない事だが、とテラが授業で言っていたが、滅多にないだけで絶対ないわけではないのだ。


「僕が覚えている限りは大丈夫……?」

「多分。だから長生きしてね」

「……うぅん、そのつもりではいるけれど、断言はできないなぁ……」


 そう簡単に死んでやるつもりはないけれど、人生どこで何があるかもわからない。

 こう、学外授業で知らないうちにワイアットあたりに背後をとられて後ろからずばー! なんて可能性も無いとは言い切れないわけだし。


「長生きするつもりではいるけれど、どうだろうね」


 言って、リングの中からしまいこんだ物を取り出す。

 そしてそれをちょこん、と女の頭の上に置いた。


 そのわずかな重さに、女はそろりと手を頭の上へとやった。


 何のことはない。

 先ほど作った薔薇の花冠だ。

 それを手に、女はその目をぱちくりと瞬かせた。


「わぁ」


 手にした薔薇の花冠を見て、目を輝かせる。


「これ、もらっていいの?」

「そのつもりだけど」

「後から返せって言っても返さないからね!?」

「言わないよ」


 というか、後から返せって言ったとして、その時には下手すると花もすっかり枯れているのではなかろうか。リングみたいに時間の流れも停止した状態で物を保管できる魔法がかかった場所にしまい込むならともかく、そうでなければ以前渡した花だってそうだろうに。


「うん、貴方が私の事を覚えてくれているっていうのはわかった。その気持ちは受け取ったわ!」


 そう言いながら、女の姿は消えた。あまりにも突然すぎてほんの一瞬前まで本当にそこにいたかどうかもわからなくなりそうだった。


「気持ちって……毎度大袈裟では」


 たまたま持て余していた物を押し付けたので、むしろ怒る可能性もあったのだが。

 まぁ、ウェズンが押し付けたと女は知らないようだし、女もまたウェズンが持て余していた物をちょうどいいやと渡したなんて知るはずもない。


 それどころか。


 女は五本の薔薇に関する花言葉も知っていた。チューリップを知っていてそちらを知らないわけがない。


 貴方に出会えてよかった、という意味合いのそれ。


 そしてウェズンはというと。

 言うまでもない事だがそんな意味など理解していないのである。


 その事実をあの女が知った時、

「この朴念仁野郎!」

 とか叫んで罵ってぶん殴る可能性もあるのだが。


 勿論そんな可能性があるなんて事、ウェズンは知る由もないのであった。

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