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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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手に負えない感だけが増えていく



 学園にも精霊はいる。そうでなければそもそも魔法の契約などできるはずもない。

 だからこそ、てっきりリィトもそういった――学園の精霊と同じようなものだと思っていたので、別段立場だとかそこら辺は気にしていなかった。

 ただ、自由に学外を出歩いているのもあってウェズンが知る精霊よりはアグレッシブとか何かそういうやつなんだろうな、くらいに認識していただけで。


「あいつな、正直どういう立場かわからないんだ」


 だがしかしアレスの言葉はウェズンの想像とこれっぽっちも掠っていなかった。


「勿論、学院で魔法の契約に関わったりしてるとは思う。ただ、たまに授業にしれっと紛れたりしてるし、結構自由に活動してるっぽいんだよな……」

「学生生活を謳歌している……?」

「さて。そういうのとはまた違うと思う。一学生として、というよりは……友人にちょっかいをかけている、が近いかもしれない」

「友人」


 まぁ、いてもおかしくはないと思う。


 精霊が人と知り合いになってはいけないという決まりはないし、種族が異なろうとも仲良くできるという事はあるだろうから。

 特定の生き物に好かれやすい体質の人がいるという話は前世にもあったし、この世界で精霊に殊更好かれやすい体質の人がいたとしても別におかしな話ではない。


 きっと、清廉潔白だとか純粋無垢だとか、何かそういう印象の人なんだろうな、とウェズンは勝手に想像していた。少なくとも自分が知る限り、そういった人外に好かれるタイプというのは高潔であるだとか、なんというか聖人君子のような印象がある。

 だがしかし、アレスの表情を見て「ん?」とウェズンは思わず眉を寄せていた。


 なんというか、精霊に好かれるタイプをこれから話しますよという感じではない。


「その友人が……その、ちょっとアレなタイプで」

「アレ」


 アレとかこれとかソレとか、それで通じるのは余程付き合いの長い相手くらいなものだが、生憎ウェズンとアレスの付き合いはそう長いほうではない。むしろ知り合ってそこまで経過してすらいない。

 なのでそう言われてもわかるかボケェ、と突っ込んだって許されると思っているが、しかしウェズンは何となく察してしまった。


 言葉で表現しようにも適切な言葉が思い浮かばないのだろう。

 もっと明け透けに言うならば、少なくとも世間一般で精霊に好かれるだろう人物から外れるようなタイプがリィトの友人なのかもしれない。こう、頭がおかしいとか、性格が最悪だとか。想像とは真逆のタイプ。

 それならアレスの態度も理解できる。


「ウェズンは知っていると思うが、ほら、前に交流会で……」


 そう言って話始めるアレスに、ウェズンは「あぁあいつか」とその目から感情をすこんと抜け落ちさせて頷いてしまった。

 理解した。納得できてしまった。


 リィトの友人であるという人物は、ウェズンがアレスたち以外で把握している学院の生徒――ワイアットであったからだ。

 名前を知る機会はそもそもなかった。最初に出会った時、別に会って話をしたわけでもない。ただウェズンは隠れた状態で彼を見て、そうして勝ち目がないと悟ってそっと逃げたのだから。


 交流会の時だってレイが一緒にいたからこそどうにかこうして生きているけれど、果たしてあの時一人でワイアットと対峙しろとなっていたなら。

 いくらそこかしこに罠を仕掛けてあったとはいえ、到底太刀打ちできるものではなかっただろう。

 大体罠のほとんどは効果があったとは言えない。


 重力を一瞬だけ逆転させる罠で若干彼の体勢を崩して隙を作る事はできたけれど、あれだって一度目だから上手くいっただけで二度も三度も同じ手が通用するとは思えなかった。そしてあの時、レイがいたから多少なりともダメージを与える事ができたけれど。

 レイがいなかったら、恐らくはちょっと面白い手段を使ってきたと思われただけで次の瞬間にはウェズンが死ぬか瀕死の重傷を負っていたに違いないのだ。


 学園で生活するようになってからウェズンもそれなりに強くなっているという実感はある。

 とはいえ、見違える程にレベルアップ!! とかそこまではいっていない。


 現時点でワイアットと戦えと言われたとしてウェズンの勝ち目は十回戦って一回まぐれでも勝てればいいかな、という方だった。実力で勝てると言い切れないのがとても悲しいところである。


 とはいえ、最初に彼を見るだけだったあの頃と比べれば、まだまぐれでも勝ち目があるように思えるだけマシな方だ。初対面だった時なら百回戦っても勝ち目が見えなかったと思うので。

 とはいえ、ウェズンが強くなっているのと同様ワイアットもそれなりに強くなっているだろうと思うので、実際の勝率が本当に予想している通りかは……微妙なところだ。


 そもそもアレス曰く、アレスがウェズンと出会うきっかけとなったあの魔女の作った人食いの館。そこにアレスを放り込んだのがワイアットだとなれば、ウェズンとて納得するしかない。

 今でこそアレスの手首はきちんとくっついているけれど、リングを回収して武装解除させるという名目で問答無用で手首を切断しにくるような男だ。頭がいかれてでもないと、できるものではないだろう。


 いくら治癒魔術でくっつけて今は何も問題ないとはいえ、そういう話でもない。

 普通の人間はいくら後でくっつくと言われてもまず手首を切断するという事にゴーサインは出さない。


 えっ、あの実力もヤバめで頭もおかしいとしか思えない相手と精霊のリィトが友人関係……!?

 とそこでようやくウェズンは色々な意味でマズさに気付いた。

 どう考えても問題しかない組み合わせである。


 精霊の友人が心優しき真っ当な人物であるならば、物語なんかにありがちな展開だろうと思えるしそうであるならウェズンだって何を思うでもなかっただろう。


 だがしかし。


 あの、人を殺す事に何の躊躇いも持っていない相手だ。

 しかもウェズンが知るワイアットは実力が何かヤバい、くらいのざっくりとした認識でしかなかったが、アレスから彼の話を色々聞かされてしまえばその考えはよりがっしりと固められてしまった。

 一見すると穏やかそうな感じだけど、あれは関わったらあかん奴。

 ワイアットについてウェズンが誰かに説明しろと言われたら、間違いなくそうとしか言えなかった。


「えぇと……あいつと、友人……? いやまぁそれだけ聞けば何かもうその時点でヤバいとしか言いようがないんだけど……」


 ウェズンが知る限りで学院の中で断トツでヤバイ奴、という認識のワイアットと精霊であるリィトが友人である、というのは確かに聞けば色々とマズイんじゃなかろうか、という気がしてくるのだが。

 しかしリィトは学院の生徒ではない。学院で協力している立場ではあるだろうけれど、生徒に交じって授業を受ける事はあっても学外授業に一緒に参加するというところまではいかないだろう。


 下手にリィトを戦力と認識した生徒たちが出ると、色々と問題しかないだろうからだ。


 神前試合でリィトを戦力と換算するとなれば、こちらの学園でも同じように精霊を出しても問題がないとなってしまう。

 けれど少し前にやった授業で、あくまでも神前試合に参加するのは人であって精霊は参加できないとなっていたはずだ。

 精霊の血を引いた人であれば参加はギリギリ可能であるけれど、完全なる精霊の場合は駄目だったはず。


 そこら辺は神様サイドの事情がどうとか言っていたが、あまり詳しくはウェズンも知らなかった。むしろテラも詳細を把握できているかどうかは疑わしい。

 人の中に紛れる事ができるとはいえ、精霊は人とは別種であると言われているのもまた事実。色んな種族の血が混じりあった今となっては人も精霊もどう違うのか、と思う部分もあるが、違うと言われてしまえばそうなのだろう。


「だから、と言うわけじゃないけれど。

 リィトが生徒として参加するような事はないが、だからといって無害のままというわけでもない」

「だろうね」


 学園にとってはどのみち油断もありゃしないというところだが、しかしリィトがやっていた行為を思い返すと学院側も危険にさらされてもおかしくはない。

 しかしリィトは精霊であるが故に人の法には縛られない……と考えると。


「やりたい放題じゃん……?」


 なんて感想が出るのも当たり前の事だった。


「あぁそうだな。ただ、ワイアットがリィトを使って何かをしようとは思っていないと思う」

「あのやたら強い奴か……」

「あいつは弱者を甚振るのがすこぶる大好きだが、強者との戦いも三度の飯より大好物だ」

「手に負えないやつじゃん……」


 ウェズンは思わず顔をくしゃっとさせていた。

 前世の映画で見たしわしわの電気ネズミみたいなツラだった。



「困ったことに、リィトに関してはこちらもそこまで詳しくないから、これ以上は話せる事がない」

「いやうん、それでも、何もわからない状態から一歩くらいは進んだと思えるからさ……情報提供はどんな些細な事でもありがたいよ」

「そう言ってもらえると助かる。

 ところで俺からするとこちらが本題なのだが――」


 わざわざリィトの事? 詳しくないから知らん。で済むならそもそもこうして直接会って話すようなものでもない。

 話をする前なら他に聞かれたらまずい内容なのかと思っていたが、実際蓋を開けてみればこれだ。


 だからこそ、別の話があるんじゃないかな……? と薄々思っていたけれど。


 どうやらその予想は正解だったようだ。

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