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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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聞かされた予定



 ピーマンを魔物化させたらこうなりましたよ、みたいなデザインが正面にデデンと描かれているアレスの服が気になって仕方がなかったが、ウェズンはそれをどうにか無理矢理意識の外に追いやった。

 前世で、何か……すごく……見たような気がするデザインだけど、気にしてはいけない……! そう心に強く強く言い聞かせて。


 っていうか、最初に出会った時の服といい、前に出会った時といい今回といい、その服一体どこで買ったんですか……? という思いが強い。

 ウェズンだって服は別にお洒落にこだわってるとかではない。ぶっちゃけ着るのに面倒なやつじゃなきゃいいとさえ思っている。

 とりあえず最低限清潔感があれば問題はないとすら。


 なので、着ていて楽な感じで、あとは目に痛くない感じの色合いで周囲が一目見た段階でドン引きするようなものじゃなきゃ割とどうでもいいと思っているわけだ。

 その結果選ばれた服は大抵可もなく不可もなく、といった感じだった。センスがおかしな方向に突き抜けてなければいいだろうと思った結果とも言う。


 だがしかし、アレスの着ている服は今回はともかく前の時のを思い返すと、一体どこで売ってるのその手のやつ、と聞きたいもので。

 文字でネタに走ったTシャツだとかはウェズンだって覚えがある。学園祭だとかの時にクラスでお揃いのネタTとか作った覚えがあるし。

 最終的にそのネタTシャツは学祭が終われば外に来ていくのもちょっとな……と思ったので――クラスメイトと一緒だと気にならなかったけど、一人でそれ着るのは勇気がいった――最終的に部屋着に落ち着いていた。着心地はそこそこ良かったのだ。


 ともあれ、そんな愉快なデザインの服がそうそうそこら辺で売ってるとは思っていない。

 何故って少なくともウェズンの故郷周辺の店では売っていなかったからだ。


 ウェズンの実家は町から少し離れた場所にあったけれど、買い物だとかで町に行く事もあった。

 大抵は母と一緒に必要な物をさっと買って帰っていたけれど、ある程度大きくなってから一人で町に出かけた事もある。

 その時に見た限りでは、アレスが着ているようなデザインの服が売られていたりはしなかった。


 どこの土地でそんな服が売られているんだ……という疑問はどうしたってある。

 やっぱアレスの故郷とかそっちだよなぁ……と思いつつも、流石にいきなりお前どこ郷? とどこ中みたいなノリで聞くわけにもいかない。

 もし実際そこで売られてるならまだしも、そうでなかった場合その故郷にとんでもねぇ冤罪をかける事になるからだ。


 あれこれ考えてみたものの、やはり見なかった事にするのが一番なんだろうなと思ったのでウェズンは強制的に思考を打ち切った。

 前世でも考えない方がいい事はサクッと思考を打ち切ったりしていたのが、ここで役に立った形であった。

 そうでなければきっと、アレスに無遠慮に尋ねていた事だろう。


 アレスはとりあえず適当なところで話をしようかと言って、開店したばかりの喫茶店へ足を運んだ。

 まぁ、武器屋とか防具屋とか道具屋とか、ゲームの世界、特にファンタジーワールドにありがちなお店はとっくに開店していたけれど、しかしそこはあまり話をするのに向いているわけではない。

 武器を見るだとか防具を選ぶだとか、道具を調達するだとかであればともかく、今回の二人はそういった目的はないのだ。


 喫茶店だとかが無難であるのは言うまでもない。


 もっというならファーストフードのような店があれば、二人の年齢的にそちらの方がより無難だったかもしれない。


 ともあれ、開店して間もなく、客の入りもまだ少ない店に入って二人はちょっと色々話し合わなきゃいけない事がありまして……と店員に告げてなるべく奥の席に案内してもらった。

 この後客が入ってきて、周囲をうろうろされるとそれはそれで気が散りそうというのもあったので。


 近くに観葉植物が置かれていたりで、周囲からの目もあまり向かないような奥まった席に座り、とりあえずメニューを確認する。

 ウェズンもアレスも朝食は済ませてきたためそこまで空腹でもない。

 だからこそ、本当に軽く、お茶とホットサンドあたりを注文した。

 サンドウィッチでもいいかなと思わなくもなかったのだが、ウェズンの朝はまさしくそれだったので流石に立て続けはちょっと……となった結果だった。



「それで、直接会って話さなければならないような事って、なに?」


 メニューが運ばれてきて、とりあえず後はもうこちらが店員に呼びかけでもしない限りは来ないだろうと判断した時点でウェズンはそう切り出した。


 一応来たばかりのホットサンドは今から食べるつもりである。話が終わるまで待っていたら、折角のホットサンドが冷めるのがわかりきっているので。


「それなんだが。ちょっと色々とこちらの事情も含まれていてな」


 同じようにアレスも頼んだホットサンドを手にしてから告げる。

 とりあえずは先に食べてしまおうと思ったのか、そのままホットサンドに噛り付いた。


 二口、三口と齧って咀嚼し、お茶の入ったカップを手に取る。


「実は、俺たちそっちの学園に転校しようと思っているんだが」

「転校、へぇ、ふぅん? できるものなの?」


 丁度口の中の物を飲み込んだ直後だったので、ウェズンもすんなりと相槌を打つ。


 能力的には学院にいる以上学園に来ても問題はないと思うけれど、しかし……


「懸念はもっともだ。普通に考えれば、難しいのは言うまでもない」


 アレスもわかっているとばかりに頷く。


 入学直後であれば、まだ手続きが面倒かもしれないが学園から学院、あるいはその逆も可能だとは思える。

 勇者も魔王もあくまで肩書、神の前で演じる立場だ。絶対的な条件があるわけでもない。


 例えば、そう。

 勇者側が勇者にしか扱えない聖剣に選ばれなければならないだとか、そういう条件でもあれば話はまた変わってくるだろうけれど、そもそもそんな聖剣があるとは聞いた事もない。

 いや、伝承に出てくる武器として聖剣と呼ばれる物がないわけではないのだが、それが学院に常にあるというわけでもなく、また勇者が選出される際にその武器を扱える人物でなければならないだとかの話はないはずだ。

 あくまでも魔王側の相手と戦うに相応しい実力を持っていればそれでオッケーなのである。

 それはもちろん魔王側にも言える事だった。


 勇者と魔王、と言っているからなんとなく仰々しく感じるけれど、要はこれ、命がけの運動会みたいなものだと思ってもいいとすらウェズンは思っている。とても身も蓋もない。

 なんだったら赤組白組とかで分けても問題はないわけだ。

 まぁ、神の前で命がけで戦うのに赤組白組はなんとなくコレジャナイ感があるのでそういう呼び方はされないだろうけど。


 神の前で命を賭して戦う戦士たちの集い――まぁ間違ってはいないが、何となくこっ恥ずかしい印象があるなこのフレーズ、とウェズンは内心で駄目出しをして、あれこれ考えてみたが結局のところ勇者と魔王が一番しっくりくる気がしてそこに落ち着く。


 学園か学院か、どちらに通うかは生徒次第と言うべきだろうか。勿論場合によっては親の意向もあるかもしれない。小説版のウェズン少年は父親の思惑で本来勇者を目指していたはずが魔王側になってしまったわけだし。


「ん? 俺、たち……?」


 相槌を打ったはいいが、ふと気になった部分を繰り返す。


「あぁ、俺だけではない。ファラムとウィルもだ。二人の事は知っているよな?」

「それは、うん。アレスと出会うより先に出会ってるようなものだし」


 新入生として右も左もそこまでわかっていない時に学院の生徒たちが強襲してきた時点で二人とは知り合っている。いや、もっというなら、ファラムはその前に既に知りあっていた。


 言われて考えてみる。

 ウィルはわからなくもない。

 彼女はレイに裏切られたと思っていたようだし、その結果レイにふくしぅするなどとのたまっていた。

 ところが実際レイは裏切ったりなんかしておらず、誤解であったと判明。そうなれば、ウィルがレイを憎む理由はどこにもなくなる。

 その上で、今後の事を考えたのだろう。

 もし勇者と魔王として戦う事になったなら、と。


 レイの実力なら、まぁ、多分選ばれるんじゃないかな、と思わなくもない。

 魔術だとか魔法に関してはそこまで能力的に高くはないが、しかし彼の身体能力の高さはかなりのものだ。魔法や魔術を使える相手と戦ったとして、術者次第では術を発動するより先にレイの攻撃が通ってしまう可能性すら普通にある。


 術に関しては学園の生徒全体の平均か、それよりちょっと下かもしれないがしかしそれで切り捨てるには勿体ない。


 そしてウィルはエルフなので、かなり高い魔力を保有している。

 身体能力的にはどうかと思う部分もある。レイとは得意分野が逆と考えていい。


 彼女も、もしかしたら勇者側の参加者として選ばれる可能性は充分にある、と思う。

 生憎ウェズンは学院の生徒をそこまで把握していないので、実力的に可能性はあると思っていても選ばれない可能性もあるのだが。


 ウィルはきっと自分の実力を過大評価しているわけでもなく、普通に考えてその上で、レイも選ばれる可能性があると踏んだ。

 少し前なら戦う理由があった。けれど今はもうない。

 けれど、ただ敵対する立場にあるからといって殺しあうとなると、そう簡単に納得できるものでもなかったのだろう。


 今までは立場上攻撃を仕掛けるのも都合が良かったというのもあるが、今となってはその立場が枷となっている。


 結果として、ウィルがこちらの学園に来ようとした、と考えたとしてそれは別におかしな話ではない。


「……えぇと、ウィルについてはわからなくもない。けど、その、ファラムとアレスは? 二人が学院から学園に、っていう理由がわからない」


 ウィルと友人だとしても、流石にお友達が転校するから一緒に行くー、なんて理由としてはあまりにもあんまりすぎる。

 例えば引っ越しするお友達と離れるのが寂しいから自分も同じ土地へ引っ越したい、と子供が我儘を言ったとして。

 親がその我儘を叶える事はまずないと言ってもいい。

 親の仕事の都合上、そちらに行くのであればまだしもそう都合のいい展開は中々ないのだ。

 それと同じように、お友達と離れるのが寂しいから一緒に転校する、は理由としてはかなりどうかと思えるものだ。


「理由はまぁ、ないわけじゃない。俺は元々学園に行くつもりだったんだ……」


 はぁ、とやたら重々しい溜息が出て、ウェズンは「え? そうなの?」と思わず突っ込んでいた。対するアレスは「あぁそうだ」と深く頷く。


 なんというか、学院の生徒は皆勇者を目指しているのだろうなと思っていたのもあるから、実は学園に行く予定だったと言われると驚くしかない。


「……でもさ、どう考えても危険では?」


 学院の生徒は既に数名学園の生徒を仕留めている。

 かつて敵だった相手が今日から味方ですと言われても、すんなりと受け入れられる気がしない。

 わかっているとばかりにアレスが頷く。


「あぁ、そうだな。だから逃げ道を塞ぐ事にして学園に行くしかない状況に持ち込む」

「……ロクでもない事にしかなりそうにないな、って思うの気のせいかな……?」

「否定はできない」


 どういう方法をとるのかはわからないが、しかし想像してみればロクでもないのだけは確かだろう。


「その件に関して君から学園の教師に話をそれとなくつけておいてくれないだろうか」

「突然の無茶振り。いや、まぁ、話をするだけなら……や、どうだろう……結果までは保障できない」

「充分だ」


 助かるとばかりに口元に笑みを浮かべられる。


「えぇと、それで、本題っていうか」

 元は学院に所属している精霊のリィトについて聞こうと思っていたのに、アレスたちが学院から離反――という言い方もどうかと思うが――して、学園に来る予定だという話を聞かされて、現時点では精霊のせの字も出てきていない。


 確かにこんなやりとりモノリスフィアでやるにはちょっとな……と思うけれど、わざわざ学園や学院から離れて直に会って話す内容か? とも思ってしまう。

 そんなウェズンの疑問をアレスもまた察したのだろう。わかっている、とばかりにこくんと頷かれた。


「リィトに関して、だったな――」

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