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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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デートであってたまるか



 とりあえず当面、もしどこかでリィトと遭遇したとしても速やかに撤退する、という方向性でウェズンたちの中では決まってしまった。

 無理もない。

 相手は精霊で、生半可な魔術や魔法ではロクにダメージも与えられないし、レイのように物理でダメージを与えたとしてもそもそも普通の人間と異なる存在だ。一撃で致命傷でも与えたならともかく、そうでなければ意味がない事もあり得る。


 リィトは肩にざっくりとレイの武器を突き刺されていたが、あれだってきっとそこまでのダメージではなかったのだろう。

 案外ケロッとしていたくらいだ。

 ただ、元々あの場でやりあうつもりはなかったようだし、何となく様子を見ていたついでにちょっと声かけて驚かせてやろ、くらいの気持ちだったのかもしれない。変なところでお茶目心を発揮されても困るのだが。


 あの怪我だってとりあえずここ引き上げるいい理由になったな、くらいの気持ちだった可能性がとても高かった。

 ウェズンはリィトではないので彼の本心がどうであったかはわかるはずもないが、何となくそうなんじゃないかな、と思っている。


 ともあれ、彼が学院に所属している精霊と聞いてウェズンが次にとった行動は、自室に戻ってからモノリスフィアでアレスへ連絡する事だった。


『そっちの学院の精霊でリィトっていうのいると思うんだけど知ってる?』

 とメッセージを送れば、少ししてから気付いたらしいアレスが返信してくる。


『知ってはいるけど彼が何か?』

 という至極当たり前の言葉。

 とりあえず今ならまだアレスもモノリスフィアを使う時間があるのだろうと判断して、ウェズンは次のメッセージを送った。



『いやあの、何かうちの学園に侵入して保管されてたっていう貴重なアイテム盗んでったらしくて。

 次見かけて戦うような事になったら、出来る限りそれも回収しろって言う無茶振り来た。

 とはいえ戦うにしてもいつどこで、ってなるかわからないし、基本的に撤退する事になると思う』


 そのメッセージを見てはいるのだろう。

 とはいえ、すぐさま返信はこなかった。


 ウェズンとしても別にすぐ返信してほしいとは思っていない。

 何というか、自分がこのメッセージを送られる側だったと考えるなら、とても返答に困るからだ。


 へー、大変だったね。だとかの相槌で終わるものならいいが、わざわざ敵対している側へ話題を持ち掛けているのだ。相槌で済ませていい内容ではないとアレスも理解しているのだろう。


『その盗まれたアイテムっていうのは?』


 返信が来たのは、ウェズンがまぁ気長に待つかと思ってキッチンでコーヒーを淹れた時だった。


 カップに注いだコーヒーに口をつけて、ポチポチとメッセージを返信する。


『正式名称は聞いてないけど増幅器って言われてたような気がするし、先端がやたらゴツイ感じの杖だよ』


 そう送れば、またもや沈黙がやってきた。


 キッチンから移動して椅子に座りコーヒーをちびちび啜っていく。

 なんだか無性に甘い物が欲しくなってきたが、また新しく用意するのが面倒で、ついでにナビに頼んでまで……とも思っていたので意識を適当な方向へ飛ばしてアレスの返信を待つ。


 時間にして二分くらいであろうか。

 もしかしたら向こうでアレスに誰かが話しかけてこちらへの返信を中断する事になったのかもしれない、と思い始めてきたあたりで。


『近いうちに会えないだろうか』

 というメッセージがきた。


 話が飛んだな? と思いながら、ウェズンは数秒考えこむ。

 アイテムについてかリィトについてのどちらかはまだわからないが、モノリスフィアでやりとりするにはマズイ何かがあるのだろう、と判断する。


 メッセージにしろ、通話にしろ、誰かの目に触れる可能性があるのが不都合である、という事か。

 ウェズンの方はそうでもないが、アレスがいる学院側の事情はよくわからないのでそういう何らかの事情があると言われても不思議ではない。


 ここ数日の授業内容などを思い返して、まぁ授業抜けるにしても事前にテラに話をつければいけるか? と思ったのでまずウェズンはアレスの都合のいい日程を問いかけた。


 その結果、二日後、彼は学外授業などを終えた後の休暇を与えられているという事が判明し、会うのはその日と決まったのである。

 二日後にいきなり学外授業へ赴け、と言われてしかもすぐに戻ってこれそうにない事になると面倒なのですぐさまウェズンはテラにモノリスフィアで連絡を飛ばす。

 二日後、ちょっと情報収集するべく学外に行きたいという旨を伝えれば、テラは思いのほかあっさりと許可をくれた。軽い。あまりの軽さに「えっ?」と思わず声が出てしまったくらいだ。


「坊ちゃん? ドウカしましタカ?」


 その声にナビがひょっこりと姿を見せるも、あぁうん、大丈夫なんでもないよと返しておく。


 テラも何も考えなしに許可を出したわけではない。

 ウェズンの成績はそれなりに上の方だったのもあって、まぁそれなら後でちょっと課題だしときゃ座学に関しては問題ないだろ、とざっくり判断されたに過ぎない。

 これでウェズンの成績があまりよろしくないのであれば、なんだサボりか駄目に決まってんだろ、の一言が返ってくるところであった。

 こういう時やはり日頃の行いは大事であった。



 ――そういうわけで当日。


 ウェズンはアレスに指定された町へやってきていた。

 流石にどこかで会うにしても、学園や学院の近くで会うのはお互いがお互いに危険すぎるので、そこから離れた場所で会う事にしたのだ。

 交流会以前であったならまだどうにかなったかもしれないが、交流会で島の様子を見ていた生徒は大勢いる。その中の何名がアレスの事を把握しているかは知らないが、だからこそ下手に大丈夫だろうなんて楽観的に思えるはずもない。


 ウェズンの方はまだ学院の生徒にそこまで個体識別されてはいないと思うが、こちらも油断などできるはずがなかった。


 だからこそ二人にとって接点もロクに無い、それでいて瘴気汚染度が低いらしい学園からも学院からも離れた町を選んだ。


 学外授業でも来た事がなかったので、ウェズンは待ち合わせよりも少し早い時間にやってきて町の中を適当に見ていた。これといって目立つ何かがあるわけでもない、平凡な町並みだ。

 ゲームだとかなら、旅の途中で立ち寄るだけのこれといってイベントも起きそうにない、途中でアイテム補給と回復施設を利用するために立ち寄りますよ、みたいな町だ。

 NPCの町人の会話に耳を傾けても多分そこまで重要な話は出てこないだろう感じ。

 まぁ、そういうところで時たまあれってそういう事か! みたいな重要な話もぽろっと落ちてくる事はあるけれども。


 ゲームと違ってウェズンは別にそこら辺を歩いている町人たちに手あたり次第話しかけたりはしないので、その手の重要そうな情報を得る事は特になかった。


 ぶらぶらと見て回って、雑貨屋で気になったアイテムをいくつか買い込む。回復アイテムだとかは学園の購買で手に入るし、日用品も大抵は学園の購買で事足りる。

 なので、学園で置いてなさそうな品をウェズンは見繕っていた。


 リングのアイテム収納数がべらぼうに高いので、ちょっと余計に物を買いこんでも大丈夫だろうという軽いノリだった。使う予定で購入しているが、もし使わなかった場合ゲームに時たま存在するコレクションアイテムみたいなものだと思えばいいか、なんてとても軽い考えである。


 その中で、装飾品としては使えないがそれなりに見た目のいい石もいくつか買い込む。

 自分で装飾品を作ろうとは思っていないが、錬金術の材料になりそうだったので。

 そういった材料は学外授業などで外に出た時に採取したりもするけれど、ウェズンが気軽に入手できるのは薬草だとかの類なので、鉱石だとかは買った方が手っ取り早い。とはいえ、あまりにも高価な物なら手が出ない事もあるのでそういうのは自力採掘なんだろうなと思っているが。


 ……そういうの、場所教えてもらえるものだったかな……と考えたが、多分教えてもらえるのはそこそこ危険で人があまり来ないようなところだろう。一杯採取してついでにそこら辺の冒険者ギルドでこういうの探してます系依頼を達成しておけ、とかテラなら言うんだろうなと思っている。


 ともあれ、適当に買い物をしていざ待ち合わせの場所へ、と赴けば。



「すまない、遅れただろうか」


 時間ピッタリに来たくせにアレスはそんな風に問いかけてきた。


「いや、時間ピッタリだよ」


 デートでもあるまいし、ウェズンは今来たところさ、なんて言わなかった。

 というかだ。


 学院や学園の生徒だと周囲にバレないように私服で、という話だったのでウェズンはそこらの町の少年ですよ、と言わんばかりの服装だったし、アレスもそのつもりなのだろう。


 とりあえず、待ち合わせでもあるこの町は季節の割にそこまで寒くもないので完全防寒だとかでもない。

 だからこそ、アレスが着ているトレーナーに描かれているそれ一体何の魔物なんです……? と言いたくなるような画伯でもいたの? と聞きたくなるようなデザインに、ウェズンの目は釘付けであった。

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