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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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もしかして 未知との遭遇



 寮の自室に戻ってからウェズンは再びリングから紙を取り出して眺めていた。

 教室で配布された時は早々にリングの中に入れたけれど、それでも少しは魔力に染まっていた。こうして部屋で直接紙を手にしていれば、もしかしたらもっと早くに魔力が紙に染み込んでいくんじゃないか……と思って見ていたが、どうやらその考えは当たっていたらしい。


 魔力に色があるのかはわからない。が、ウェズンが手にしていた紙は最初白かったはずなのに、今では濃いグレーへと変化している。これ、赤とか青とかで属性決まったりする感じか……? なんて思ってしまえば、では灰色は何属性なんだとなる。

 考えた結果よくわからなかったので、属性と関係があると思わないようにした。もし関係があったらそれはそれで困る気もするけれど、もう染まっている以上どうしようもない。

 せめてこれで属性が決まるとかそういうのは無い方向性であれ! と願うしかない。


「なぁナビ」

「はいなんでゴザイマショ坊ちゃん」


 呼べばナビはすぐさまぽんと現れた。


「魔法を使うにあたって精霊と契約しないといけないらしいんだけどさ」

「ソウデスネ、魔王を目指すのであれば、とイウカそうでなくとも必要になりマスネ」

「もしこれで精霊と契約できなくて魔法が使えない場合はどうなるんだ……?」

「どう、トハ? 魔王にはなれませんし、そのお仲間として、というのも難しいデスネ。将来的に近所に発生した魔物退治くらいの仕事はできても、それ以上を望むのは厳しいカト」

「魔法が必須、ってのはなんでだ? 魔術だけじゃダメなのか?」

「学外に出る場合がありマス。魔法はその時に必須ナノデス。詳しい事は契約を結んだ後教師から説明があるカト」


 どうやら一応理由はあるらしい。


「ところでこれって勇者側の人たちもそうなのかな?」

「ソウデスネ。お互いに必須ですよ」


 どう使うのか、というのは気になるがそれは後でテラか他の教師からの説明があるのだろう。ナビもここで詳しく話すつもりはないのか、それ以上何を言うでもなかった。

 魔法が必要な理由、というのをウェズンなりに考えてみたがいまいちこれといったものがない。そりゃあ使えたら便利、とは思うけれど使えなくてはいけない理由とまではいかなかった。


「ところで精霊と契約っていうけど、そういった部屋があるってのは聞いた。でも、本当にそこで精霊と契約できるわけ?」


 イアの話を信じるならば、そこでの契約は望み薄だ。そこで延々契約をしようと粘っていつまで経っても魔法が覚えられなければ、この学園にいる意味がなくなるのではないか。


「あぁ、あの部屋デスカ……微妙なトコロですねぇ」


 この学園で働いてるゴーレムからもそう言われれば、ますます期待なんぞできるはずがない。


「って事は、この島内で精霊がいそうなところを見つけてそこで契約持ち掛けた方がいいって事かな?」

「ソウデスねぇ……大体毎年そんな感じラシイですよ」


「ちなみにどのあたりがいいとかそういうのある?」

「さぁ。彼らも大概フリーダムなので」


 つまりゴーレムにもわからない、と。

 これは下手に期待して移動するよりも、特に期待せずに島内を散歩するくらいのノリで移動した方がいいのかもしれない。


 その方が何だかさらっと会えるのではないか? という気がする。

 いや、会おうと思ってる時に限って会えないというのもよくあるので、あまり期待はできないけれど。


 どちらにしても今からまた外に出て会えるかどうかもわからない精霊を探し求めるつもりはなかった。

 一応契約書に魔力を流すのだけはやっておく。ただの紙に寄ってくるとは思わない。テラが魔力を込めておけと言うのは恐らくそれが餌の役目を果たすのではないかと思ったからだ。

 しかしどれくらい魔力を込めておくべきなのかはわからない。

 強ければ別に自分の助けは必要なさそうだ、と寄ってこない可能性もあるし、弱すぎてもこれじゃ自分が手助けしてもな……で寄ってこない可能性もある。


 正解がわからないというのはなんとも困ったものだな、なんて思いながら、ウェズンは一つ溜息を吐いた。




 ――さて翌日。


 微妙な懸念事項とも言える精霊との契約、というものを意味もなく考えすぎたせいか、やたらと早い時間に目が覚めてしまった。

 一応日は出ている。とはいえ出たばかりといった感じで反対側の空を見ればまだ薄暗い。

 こんな時間じゃ生徒の大半はまだ眠っているだろうし、起きている教師がいるかも微妙だ。

 ゴーレムあたりは普通に稼働してると思うので、何か困った事があっても助けがない、という事はなさそうだが。


 二度寝しようにも驚く程にぱっちりと目が覚めてしまったのもあって、ウェズンは身支度を整えて外の空気でも吸って来ようと思い至った。

 外に出る頃には窓から外を見た時よりも少し明るくなってきたが、思っていた以上に静かで何故だか外に出たのが悪い事のように思えてくる。

 戒厳令が出ている中を破ってしまったような気持ちになってしまったのだ。


 これ誰かに見つかったら怒られるとかないよな……なんて思いながらも、あまり遠くへ行くと今度は授業に間に合わない可能性もあるため、とりあえず寮の近くをぶらぶらするだけにしようと決め――たところで、誰かのすすり泣くような声が聞こえ、思わず立ち止まってしまった。


 自分以外にも外に誰かいるんだな、と思いはしたもののしかし聞こえる音が泣き声というのはどうなんだろうか。

 しかも聞こえてくる声が若干こう……なんというか高いのだ。

 声変わり前の少年、というよりは普通に女だと考えた方が確実だろう。


 えっ、女子?

 なんでここで泣いてんの?

 だってこっち男子寮だぞ?


 そんな当たり前の疑問がウェズンの脳裏を駆け巡っていく。


 そして前世の記憶のせいか、何か嫌な方に想像力が働いてしまった。


 まさか。

 もしかして。


 ここ別に交際だとかそういうの禁止されてるとは聞いてないけど、でもある程度の節度は守れみたいな感じの事はあるだろう。一応学校だし。

 そんな中であまり大っぴらに付き合ってると言ってない恋人が、教師の目を盗んで一夜を過ごす。

 有り得ない話ではないだろう。

 部屋にはナビのような存在がいるにしても、黙ってろとか今回だけとか言われれば目を瞑る可能性は無きにしも非ず。あまりに幼い者同士であればもしかしたら教師に連絡されるかもしれないけれど、見たとこ成人迎えてそうな生徒だっているのだ。そういう相手なら節度さえ守っていれば多少の目こぼしはされるかもしれない。


 けれども恋愛関係なんてウェズンから言わせてもらえば見えない地雷原を突っ走るようなものである。

 ウェズンが前世だと認識しているおっさんだって結婚こそしていなかったが、一応恋人はいたようなのだ。だがしかし仕事が忙しく会う時間もままならないうちに自然消滅したり、特に失言だと思わないような一言が相手の癇に障ったのか別れたり……そうこうしていくうちに恋をするにも気力と体力がいる。仕事にかまけてばかりで気付けばそんな相手はすっかり遠い存在になっていた。


 もし、もしもだ。


 男が女子寮に行けばバレた時の騒ぎが大きいが、男子寮に女性が、となればそこまでの騒ぎにはならない気がする。いや、騒ぎになるだろうけど、男と女では騒ぎの方向性が若干異なるとでも言うべきか。


 だから、こちらに女性がやってきて、恋人の部屋で一夜を過ごして。


 こそこそと隠れなければならない、という状況がどれほど続いたかはわからない。一度や二度ならスリルがあるだとかで楽しむ者もいるだろうし。

 けれど、毎回そうであるならば。


 ある日突然虚しさを感じる事だってあるかもしれない。


 あまり注目を浴びたくない者であれば、友人にだって付き合ってるだとか言わない者もいる。単に目立ちたくないから、という理由ならまだしも中には付き合ってる人はいないという事にして複数の相手に手を出すなんて奴もいる。

 事実がどうであれ、もしそんな――後者の想像をしてしまって付き合っている事への不毛さだとかを感じて気持ちが高ぶって涙が、という事になっているかもしれないこの状況。


 一瞬何の気なしにそちらに足を運ぼうかとも思ったが、そんなやや下衆の勘繰りのような想像を働かせてしまった事でウェズンの足は中途半端に止まる。


 流石に大声で泣き喚けば寝ている生徒の数名は起きる可能性がある。

 泣いてる本人だって騒ぎにするつもりはないからこそ、泣いてはいるが声をどうにか堪えようとして結果すすり泣きになっているのだろう。


 であるならば、ここは放置するのが正しいのではないか……?


 一人にしておいた方が良いのではないか……?


 そう思いはするのだが、しかし気付いてしまった以上放置するわけにも……と思ってしまう。


 悩んでいたのは数秒だった。実際は何十分も悩んでいたような気がしたけれど。

 今はまだ大丈夫だとは思うけど、長々泣いて目が腫れた状態で教室へ行くようなことになれば流石にクラスに友人の一人くらいはいるだろうし、そうなれば何事もなかったように関わってくれるかはわからない。本人は大ごとにしたくないと思っていても、世話焼きの友人などがいた場合思った以上の事件に発展することもあり得る。


 割と被害妄想の域に入っているような気もするが、前世でこれに近い事があったのだ。当事者ではなかったけれど。

 異世界とはいえ男女の痴情の縺れなどそうそう大きな違いはないだろうと思えてしまう。


 流石に最近この学園に来たばかりの新入生ではないだろうし、そうなると先輩に該当するはずだ。

 学年、という概念がこの学園にはないので先輩という言い方ももしかしたら微妙に間違っているのかもしれないが、まぁそこはどうでもいい。

 とりあえずここで泣き続けるよりは早く寮の自分の部屋にでも戻って、シャワー浴びるなりしてご飯食べて身支度整えた方が余程建設的。

 相手の感情などさておいて、ウェズンはそう結論づけた。


 ちなみにそういう情のないとこどうかと思う、と前世の恋人の一人に言われて振られた事は今は心の棚に放置する事にした。



「えぇと……どうかしましたか……?」


 泣いてる人物に近づいてそっと声をかければ、一瞬だが泣き声が止まる。

 周囲に誰もいないと思っていたのだろう。けれども一瞬だけ止まった泣き声はすぐに再開された。とはいえ、先程よりも堪えようとしている感じではあった。


 両手で顔を覆っていたようだが、ウェズンが近くに来た事で彼女もまた両手の間からこちらを窺いみているらしかった。大きな瞳からは涙がぽろぽろと止め処なく溢れている。

 ずっ、と鼻をすする音がした。


 そりゃまぁ、嘘泣きならともかく普通に泣いてたら鼻水も出るわけなのでそこは別にいい。

 むしろこんなところで嘘泣きされてたらそれはそれで怖いものがある。


「あの、良かったらこれ……」


 実家から届けられていた荷物の大半は着替えなどである。そこにハンカチなども含まれていた。

 リングに収納できると言われ、部屋に戻って早速荷物の大半をリングに収納したのだ。

 だからハンカチも常に持ち歩いている状態であった。


 そうしてハンカチを差し出して気付く。

 どうして気付かなかったのだろうか。

 むしろそこに真っ先に気付くべきだったはずなのに、とウェズンは今更のように思ったが、その動揺を押し殺したままあくまでも無害な風を装って目の前の女にハンカチを差し出す姿勢を維持した。



 女は、半透明であった。

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