表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

178/464

面倒な相手



 農園に戻ってお互いがまず最初にしたのは、情報のすり合わせである。

 すり合わせといってもそこまで何か情報を得たという感じはしない。


 農園でカカオを守る側になっていたルシアたちは実際どこから発生したのかわからない魔物を大量に仕留める作業に入ったりはしたけれど、言える事なんてそれくらいしかないのだ。

 魔物は確かにカカオを狙っているようだったし、しかし見たところカカオそのものに何かがあるというわけでもなさそう。

 素人目で見ただけで何がわかるというわけでもないが、素人だろうと玄人だろうと見ただけでわかるような何かがあったわけではない。


 どれだけじっくりよ~く見たところでカカオはどこまでも普通のカカオだった。


 それでもあえて何か話せと言われたら。


 弱いとは言えやたらと大量に発生した魔物。

 大きさもそこまでではないために、なんというかうじゃうじゃしているのをルシアがまるで卵から孵化したばかりの昆虫を連想させてしまって軽く発狂しかけていたという事だろうか。


 あー無理マジ無理気持ち悪いホント無理!


 とか叫んでひたすら退治していたようだ。

 あまり広範囲に被害が及ぶような魔術は使えないために、それはもうちまちま地道に倒していく事となったのである。


 魔物は倒したら死体を残さず消滅する。

 それは常識であるのだけれど、今回に限ってはその常識に救われていたようなものだ。

 もし死体がそのままだとすれば、間違いなくルシアは発狂していたのだから。


 ちまちました作業のような退治方法にぷっつん来て無差別に術を連発するような事にもならなかったし、こちらが受けた被害としては精々ルシアの精神的疲労がどっぷり、といったところだろうか。

 それ以外の面々も多少なりとも疲労はあれど、しかしもうだめ戦えない……だとか言う程でもない。


 数が多いとは言っても手に負えないレベルではない。何匹か逃がした可能性は確かにあるのだけれどすぐさま応援を呼ばなければこちらが全滅してしまう、だとかの危機的状況だったわけでもない。

 だからこそ倒し終わった後、周囲を確認して他にもまだ潜んでいないか確認しつつも農園から少し離れた場所を捜索していたウェズンたちにモノリスフィアで連絡を取るくらいの余裕はあった。


 倒したとはいえ、またいつ発生するかはわからないのでウェズンたちと合流して、だとかの流れにならなかったわけだが。


 ルシアたちの方でこれといった収穫があったわけではないのは聞く前から分かり切っていた。


 対するウェズンたちの方では、黒幕を名乗る男――リィトの事だ――の出現だとか、そいつとの戦闘だとか取り逃がしてしまった事だとか、ルシア達からすると情報量が多すぎて「え? ちょっと待って? 何? どういう事?」となってしまったわけなのだが。


 とりあえず黒幕と名乗った男がここから立ち去ったというのだけは事実である、というのだけ理解できれば充分かもしれない。

 何の解決にもなっていないけれど。


 そもそもその黒幕とて、どうして魔物たちがカカオを狙いにいったのかわからない、とかのたまっていたのだ。黒幕がわかってないのだから、仮にここに名探偵がいたとしても真実に辿り着く事はできないだろう。


 リィトが撤退したとはいえ、それでもまだここに潜んでいる魔物はいるはずだ。


 ――というわけでこの後は冒険者たちと協力して農園周辺で魔物を見かけては倒していく地道な作業を繰り返して。



 そうしてようやっと学園へ彼らは帰還を果たしたわけである。


 などというととても壮大な冒険を繰り広げてきたような言い方だが、実際は清掃活動に近い。



「で、テラセンセーよぅ、そのリィトってのは一体何者なんだよおい」


 学園に戻ってきて向こうでの出来事を報告し終えた矢先に、ガラが悪いとしか言えない態度でレイが問いかけた。気持ちはわからんでもないのでウェズンたちは誰もレイを嗜めようとはしなかった。むしろ内心いいぞもっと言ってやれ、の気持ちである。


 テラはというと、またお前か……とか言い出しそうな顔をしていた。


「戦った、って話だったな。どうだった?」

「あん? どうも何も……見た目からはそうと思えないけどあいつ結構強いよな……? あんなの野放しにしてるっていうならもっと大々的に周知させるべきだ、とは思うぜ」


 話を逸らそうとしているのでは、という疑いもあるけれど、それでもレイは聞かれた事に正直に答えた。

 するすると攻撃を回避して、こちらが回避するのが難しいと思えるタイミングで攻撃を仕掛けてくる。目に見えて派手な動きをするわけではないからわかりにくいけれど、それでもなんというか地味に嫌な相手だ、というのがレイの正直な感想であった。

 こちらの攻撃は的確に防いでくるくせに、向こうの攻撃は防ぐのが難しいタイミングで仕掛けてくるのだ。そう思うのは仕方のない事。


 あの時、レイがリィトの肩に己の武器を突き刺した時、離れるつもりはなかったのだ。あのまま取っ組み合って相手から杖を奪うなりして武器を遠ざけて、どうにか動きを封じるつもりだったのに。

 しかしリィトがその手に何かの術を発動させようとした状態でこちらに向けた事で。


 接近したままではマズイと本能的に察したのだ。

 だからこそ、それもあってレイは武器を突き刺したまま距離を取った。

 刺し違えてでも止める、という思いはなかったので。


 その後に肩に刺さった武器を引っこ抜かれて撤退されてしまったけれど、もしあの時あのまま組み付いていたら果たしてどうなっていただろうか。

 間違いなくレイは無事で済まなかっただろう……と思っていた。

 背筋を逆なでされたような、何とも言えない嫌な気配がしたのだ。あのままだったら、最悪命を落としていた可能性もある。


 逃げられた事は痛いが、こちらも無事であったと考えればお互い痛み分けといえるだろうか。


 まぁ、逃げられた事実は何を言おうと変わりないので、レイの表情は決して晴れやかなものではなかったが。


 もしあいつが本当に魔物をそこかしこで発生させる事ができたとして、それならばとんでもない事ではないか。世界各地に通達してあいつに関して注意するようにと知らせておかなければ、知らないうちに自分が住んでる土地が壊滅するなんて事だって有り得てしまう。

 見た目はいかにも悪人然としているわけでもなく、旅人を名乗ればそういうものとして受け入れられそうだった。警戒するべき部分が見た目で存在していない相手だ。早めに各地に通達しなければ、最悪の事態が起きたって何もおかしくはない。


 だがしかし、レイのそんな言葉にテラはそっと首を振った。


「意味がない」

「はぁ!? 意味がない!? 何言ってんだ!?」

「そもそもあいつは人じゃない。故に人の法で取り締まる事は不可能だ」

「人じゃない……? じゃあなんだってんだよ」

「精霊」


 テラに掴みかかりそうな勢いで食いついたレイだったが、その言葉にすんっと表情をなくした。

 レイだけではない。ウェズンたちその場にいた一同、全員である。


「精、霊……あいつが?」

「あぁそうだ。授業でも一応やったな? この世界各地に存在する法律は国ごとに異なるけれど、精霊に関しては取り締まれない」


 その言葉にウェズンたちは何となくお互いに視線を巡らせた。

 確かに授業でそれは聞いた覚えがある。

 精霊はこの世界の人間とは明らかに異なる生命体だ。


 魔法を使う際の契約にて、力を借りる存在である。


 人同士の対等な契約ではない。

 力を借りる、こちらがあくまでも頼む側で、相手は気が向いたら契約を結ぶ。契約するもしないも向こう側にゆだねられているのだ。


 とはいえ、精霊にも個としての意識は存在しているので契約を結んでくれなかった精霊もいれば別の精霊は契約を結ぶなんて事もある。

 だからこそ学園に入って最初に浄化魔法を覚える時、精霊と契約するべく生徒たちはあちこち右往左往していたのだから。


 人とそう変わらない姿をとる精霊もいる、というのをウェズンたちは知っている。

 この学園にもヒトの姿をとっている精霊はいるのだ。


 しかし、全ての精霊がそうというわけではない。

 普段は目に見えないように空気と同化するようにそこらを揺蕩っているものもいれば、人ではない形をとっているものもいる。

 目に見える状態の精霊ならまだしも、目に見えない状態の精霊を取り締まる法を作るなど土台無理な話だ。

 見えないのだから、いるのかいないのかわからない。


 それだけではない。

 精霊はこの世界に存在する結界に阻まれる事がないのだ。

 仮に精霊を取り締まる法があったとして、いざその精霊を捕まえようとしてもその精霊がしれっと別の場所へ逃げおおせるのは容易な事であるのだ。

 瘴気濃度に関わらず精霊は世界各地を自由に移動できるのだから。


 もしそれでも無理に精霊を捕まえようとして追ったとして、瘴気濃度の高い場所へ逃げられてしまえば、追いかけていた側は最悪帰れなくなる。


 それに精霊そのものは別に積極的に悪事を働くわけでもない。

 意識はあるといっても、それが希薄なものもいれば割とガッツリ自我を持っているのもいるけれど、本来は力に意思が宿ったもの、というのがこの世界の見解だ。


 ただの力に善悪などありようがない、とするしかなかったのである。


 無理に善悪の型に当てはめようとすると、無駄な争いが生じる事にしかならなかった、という過去もあるが故に。


「だからまぁ、あいつを全国的に危険人物として指名手配させるにしてもだ。

 意味がない。それどころか無駄な混乱を招くだけになって、逆に面倒な事にしかならないんだ」

「今ももう充分面倒な事になってるよ」


 諦めたようなテラの声に、ルシアのうんざりした言葉が吐き出されるが、テラはそれに対して窘める事も叱る事もしなかった。

 それどころか同意とか言い出しそうな顔をしている。


 その反応から完全に受け入れて諦めているわけではないんだな、とわかっただけでもマシだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ