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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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足りないものは名探偵



 ――さて、ハイネたちが数だけはやたらと多い魔物を倒している間、ウェズンたちも農場周辺の見回りをしていたのだが。


「何か気付いた人」

「驚くほど平和だな」

「瘴気汚染度12%か……この程度なら魔物が発生する事はあまりないんじゃないか?」

「でも発生してるんでしょ? じゃあ多分この近くで何かそういう……何かあるんじゃない?」


 農園の外側をぐるりと回るように移動していたが、目に見えるのはどこまでも平和な光景である。

 何か見落としているのではないか、と思ったウェズンが声をかければ、レイはテンション低く返してくるしヴァンはモノリスフィアで瘴気汚染度を確認しながら答えてくれた。

 イアはヴァンの言葉にそう言い返したものの、具体的にじゃあ何があるのか、と言われても何も浮かばなかったのだろう。とてもふわっとした返答になっていた。


 ヴァンの言う瘴気汚染度の数値が正しければ、確かにこの程度なら魔物が発生したとしても精々片手で数える程度、それも弱くてすぐに倒されてしまうようなのしか出てこないだろう。


 だがしかし、事前に聞いていた話では確かに弱くはあるけれど数がそんな片手で数えられる程度どころではないようだし、何かはあるはずなのだ。


 何もないところでいきなり魔物が発生するというのはまず無いと思ってもいい。


 魔物については未知の部分が多くあるけれど、それでも瘴気が全くない場所で突然発生したりはしない。

 だからこそ学園で魔物が発生する事はないのだ。

 瘴気汚染度が大体10%程度なら、魔物が発生しても一匹二匹、同時発生したとして、多くても三匹くらいだろう。

 だが数がいてもそこにある瘴気濃度に変わりはない。故に強くなるためにそこの瘴気を早々に回収したあとは、少しでも瘴気汚染度が高い場所へ移動するはずだ。


 基本的に瘴気汚染度が高い方へ移動するが、その逆はないとも言われている。

 魔物は強くなるために瘴気を吸収するので、自らその餌になるものがない場所へ行く事はまずもって無いのだとか。瘴気の少ない土地の向こう側に更なる瘴気がある、というのがわかっているならその場合は通り道として瘴気の薄い土地へ行く事もあるらしいけれど、移動中でも瘴気を回収して少しでも強くなろうとするのであれば遠回りであっても瘴気がある土地経由で移動するのだとか。


 まぁ大抵は途中で倒されるので、そこら辺もあまり詳しくわかっているわけではない。

 その魔物の行動が本能として他の魔物にも言えるものであるのか、それともその魔物の考え方がたまたまそういうものであったのか……

 調べようと思ってもあまり放置しておくと手に負えない強さになる事もあるせいで、魔物の研究は中々上手くいっていないようだった。


 随分長い年月この世界では経過していても、そういう部分での未知は確かに存在しているのだ。

 なので、ウェズンたちが思いもつかない謎の何かがあったとしても別におかしな話ではない。


 弱いとはいえ魔物が大量発生している原因は、きっとあるはずなのだ。


 まぁその『何か』が『何』であるかまではわかっていないのだが。


 カカオを狙ってやってくる、という事でもしかしてカカオの実に瘴気が含まれているのではないか? と思ったのだけれど、どうやらそうではないらしい。

 実も、カカオの木も瘴気に汚染されているわけではなかった。


 瘴気に汚染されていて、それらを目当てに近づいているのであればわかりやすいのだがそうではない。

 となると、何故カカオに近づくのかという理由から探らねばならない。


 原因になりそうな何かを思いつく感じでそれぞれ上げていったけれど、それが確かにそうだという確証もない。調査はこれっぽっちも進んでいるとは言い難かった。


 この近くに魔物を発生させる何かがあるかもしれない、だとかそういう発想はあるけれど、ではその何かは何だとなればこたえられるはずもない。

 もう少し詳しくわかっている状態であったなら。そしてそれを利用できるような状況であったなら。

 例えば、そう、ここの農園とは別の農園の人たちが自分たちのところの売り上げを伸ばそうとして妨害工作するために魔物を送り込みました、なんて事だってあるかもしれない。


 けれどもそういった利用の仕方ができるようなものでもない。

 だからこそ、考えたところで結局原因らしいものなんてわからなかったのだ。



「何かって言ってもいかにも怪しい何かがあるわけでもなさそうだからなぁ……町では特に異変らしい異変とかないって話なんだろ?」

「冒険者ギルドの人たちから聞いた話では別に何もなかったようだね。毎日いつも通り、平和な日常を過ごしていたようだよ」


「けどやたらと魔物が発生してるんだろ? 平和って言える程か?」

「そこら辺も気になってちょっと深く突っ込んで聞いてみたけど、今のところ死者は出ていないからね。そういう意味では平和と言えるらしいよ」


 ウェズンとレイがぼやくように言った言葉に、ヴァンが返す。


 ウェズンはさらっと冒険者ギルドの人から概要を聞いたくらいだが、ヴァンは他にも気になった事があったらしくて、あれこれ聞いていたのを思い出す。


 大量に魔物が発生しても死者が出ていないというのはまぁ、良かったのだろう。

 いくら弱いと言われていても相手は魔物だ。

 弱いからと油断していると思わぬ事態に見舞われて死に至る事だって有り得る。


 死者は出ていないようだが、それでも怪我人は複数名出ているらしいので。


 とはいえ、その怪我人も大抵いきなり現れた魔物に驚いて転んだだとか、カカオを収穫している時に出てきたので咄嗟にカカオを守ろうとしてだとかで負った怪我で、いずれも軽傷ではあるようだ。

 治癒魔術や傷薬などですぐに治る程度の怪我。とはいえ、それでも被害が出ているのは事実。


「魔物が現れる場所とか、わかりやすいならいいけどそうでもないみたいだもんね……」


 何かが魔物を発生させている原因になるのなら、その何かがある周辺ではより魔物が多く目撃されている、とかそういうわかりやすい事実でもあればいいのだが残念ながらそういった事実もないのである。

 わかっているのはとりあえずどこで発生した魔物であろうとも、そいつらがカカオ農園へ近づいていってカカオを狙っている事くらいで。


 農園周辺で魔物を見かける事はよくあるが、それ以外の場所で見かける事はあまりない。

 農園に魔物が向かっているのは確かなので周辺で見かけるのは言うまでもないが、それ以外の場所であまり見かけないのであれば、そういった所で見かけた場所近辺で魔物が発生している可能性はないだろうか、と思って農園近くではない場所で見かけた、という話も一応仕入れてはある。


 農園から少し離れた場所で見かけたとして、そいつらは農園へ移動しているのは言うまでもないが、そこで発生したのか、それとも農園へ行く途中であるところを目撃されたかまではわからない。

 だからこそ見かけたと言われているあたりも注意深く見て回っているのだが……



 ビックリするくらい、何もないのである。


 ヴァンとレイがあれこれ話をしているところだったので、ウェズンもイアと二人からは少し離れた場所で小声で話し始める。


「こんな事ってある?」

「ヒントくらいあってもよさそうなものだよね……」


 あの二人はさておき、こちらは割とメタな話し合いである。


 たとえ原作と言われている小説版に今回の一件が書かれていなかろうとも、はたまたゲーム版でもしかしたらあったかもしれないクエストであったとしても。

 ノーヒントとかって、ある……?

 という気持ちが大きい。


 実際ここが現実でゲームや小説とは無関係だからこそフラグも何もないんだよ、と言われたとしても二人はそれでも尚メタ読みはやめないだろう。

 というかメタじゃない読みは向こうでやってるだろうから、ならばこっちはメタ含めて考えるしかないな、というノリもあった。

 仮に何かこちら側でメタ読みした結果気付いた事があってもとても説明に困りそうなやつではあるが、二人はそれをあえてスルーしている。


「物事には大体なんかこう……原因とかそういうのが存在するはずなんだ。いきなり何もないところから何かがポンと出る事なんてないからさ」

「無から有は生まれないってやつだねおにい」


「あぁ、で、魔物が発生しているなら瘴気が多くなっていてもおかしくはない」

「でも、汚染度低かったよね。学園の近くの大陸とかと同じくらいじゃない?」


 学園から離れていたとしても、瘴気汚染度の低い土地と大体同じである。


「発生しても精々少数。大量に発生する事自体がまずおかしい」

「自然発生って考えない方がいいよね。こういうのは黒幕がいる」


「まぁ、そこまで言っておいてマジで自然発生だったら目も当てられないんだけどな……

 だが、自然発生ならこんな大量に出るのはおかしい」

「黒幕がいると考えて、じゃあ、どこに? ってなっちゃうんだよね」


 だからこそ先程原因になりそうなあれこれを話し合って――というか移動中の雑談くらいのノリだ――いたわけだ。黒幕がいるなら、あの農園をどうにかしてやろうと思っている存在ではないのだろうか、と思うのはまぁ当然の流れである。


「例えば他の商売敵というか別の所のカカオ農園の人がここ邪魔だなぁって思ったとして、何かの拍子にうっかり魔物を発生させてここの農園に押しつける事ができるような何かがあった、とかならとてもわかりやすいんだけど……」

「話聞く限り他の所でもカカオ農園がないわけじゃないけど、ここ程の規模でもないしここがダメになったからって自分とこの農園のカカオ全部引き取ってもらおう、とかそういう感じでもないんだよな……」

「むしろここが無くなったら他の所で全部カカオ下さいってなっても需要と供給が一致しなくて大変な事になっちゃう感じ」


 例えばここが潰れた後で我が農園を更に拡大してカカオはうちが専売するのだ! みたいな野望を持っている相手がいたとしても、今の時点でここが消えるととても困る。

 何せそんなすぐにカカオだって育つわけでもないのだから。


 そんな野望を持っているのであれば、今の時点で既に農場を拡大していないととてもじゃないが供給が間に合わなくなってしまう。だがそういった農園は現時点でないようなので、そういった意味での黒幕ではない、と考えるべきだろう。


「よその人じゃなくて内部の犯行ってセンは?」

「それも難しいだろうな。何せここの農園はこの町の人たちの貴重な職場であり財源でもある。なくなったら路頭に迷う人も出るかもしれない」


 労働環境が地獄のようだ、とかであるならば、こんなブラックな職場潰してやるッッッ!! とさながら巨人を駆逐すると誓った者のような決意を持ってやらかすかもしれないが、労働環境はそこまでブラックでもないらしい。そりゃあ体力勝負な部分もあるから多少、キツイと思えるところはあるが別段命がけでカカオを収穫しろ、とかそういう事はない。

 怪我をしたらその人の分を別の人がサポートしなければならなくなるので、そういう負担をかけないように皆怪我には気を付けて安全第一でやっていきましょうね、という感じなのだ。

 どちらかといえばカカオを守るべく駆り出されている冒険者たちの方が人手不足で若干ブラックですらある。


 いくら魔物が弱くとも、だからといって農園の――というか町の人たち総出で挑むには厳しいものがあるのだ。突然瘴気を多く吸収して強い個体が出た場合、咄嗟に対処できなくなる事もあり得るので。


 個人での感情はそれなりにあるだろうけれど、全体的にみれば概ね皆協力的で職場の雰囲気としてはいい方だとウェズンは思っている。体力仕事がきついな、と思えたとしてもそれくらいはやってくうちに体力がついて慣れてくるだろうし、そうでなくとも無理のない範囲で割り振られているようなので。

 これでもっと人間関係がギスギスしていたら、精神的にキツイ職場の場合はこう……ある日誰かの精神が限界きちゃって……なんて事もあるのだが、ウェズンが見た限りではそういった、もうどうにでもなっちゃえアハハハハ……!! みたいな自棄を起こすような人がいるようでもなかった。


 大体農園が消えたらそこで働く者たちは職を失う。

 誰か一人を陥れるのにそんな事をしたら、他の大勢を敵に回す事になるし、流石に内部の犯行というのはないだろう。余程のブラックな職場であれば、その可能性も勿論あると考えていたけれど。


「おにい、事件が早くも迷宮入りしそう」

「まぁ初っ端から色々と足りないものしかないもんな」


 なので、二人がそんな風に言うのはまぁ、仕方のない事でもあった。

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