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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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不明の鍵



「おばあさまもね、ちょっと疑問に思ってたみたいで……」

 遠い目をして語るイルミナに、あ、今度はきちんと会えたんだなとウェズンは思ったけれどそれどころではない。

 というかイルミナの祖母も被害に遭ったのだろうか。遭ったんだろうなその言い方だと……と思ったけれどこれ以上深淵を覗きたくないウェズンはそこをそっとスルーした。


「まぁ、世の中には不思議な事ってあるもの。理屈で説明できない謎現象っていうのは案外そこかしこに転がってるっておばあさまも言ってたから……」


 つまり、イルミナと違って一人前の魔女ですらこの謎を解き明かす事ができなかった、と……とウェズンは更になんとも言えない表情をした。


 椅子に座っていたはずなのにあまりの衝撃に椅子から転げ落ち悶絶していたハイネとアクアがよろよろと身を起こし椅子に座り直したのを見て、ヴァンはとても生温い眼差しのまま近くで売ってた果物のジュースをそっと差し出した。二人は無言でそれを受け取りストローで一気に啜る。


「以前手に入れた鍵はどこで使う物なのか、というのもおばあさまに確認してみたのだけれど。

 はっきりとは教えてくれなかったのよね。無理もないと思っているけれど」


 肩を竦めてやれやれ……みたいな態度のイルミナに、ウェズンもまぁそうだったな、と思った。


 ウェズンは直接イルミナの祖母と出会ったわけではない。

 けれどもイルミナを一人前の魔女とするつもりはないらしい、という話はふわっと聞いていた。

 ならば、魔女の試練とやらで入手した鍵の使い道など教えたいとは思わないだろう。


 けれども、イルミナは魔女になると決めている。その気持ちは今も変わっていないらしいし、そうなれば試練で得た鍵の使い道を教えないわけにもいかなかったのだろう。

 教えたくないけど教える義務……はなくとも義理くらいは発生しているといったところだろうか。


 だからこそ、イルミナの祖母はとても歪曲にヒントを口に出したのだとか。

 ヒントというか最早謎解き。それでも何とか頭を捻り考えた末に答えとなったであろう場所が――先程ウェズンたちと出会った祠だった。

 もし違ったらまた一から考え直さねばならない、と思ったもののどうやら一発で正解を引き当てたらしい。


 まさか前に手にいれた鍵と融合合体するまでは思ってもいなかったようだが。


「それで、ウェズン、貴方その鍵は?」

「父さんから送られてきた」


 融合合体した鍵と色こそ違えど見た目はほとんど同じ鍵を手にしていたウェズンに、今度はイルミナが問いかける。

 とはいえ、ウェズンだってこの鍵について語れる程の情報を持っているわけではない。


「父さんの知り合いに関する物、らしいんだけど詳しくは教えてもらえなかったんだ」

 いずれわかる、とか言われたもののそのいずれっていつ? としか言いようがない。


「でもイルミナのその鍵は次の試練に必要だとかそういう感じだったよね?」

 確か、イルミナの母の幻影はそういう感じで語ってた気がする。今思えばそこそこ前の話のせいか、ちょっと曖昧な部分もあるけれど。


「そうね。そしてその鍵がこうして形を変えた」

「で、僕の方も既に似た鍵を持っている……」


「これ無関係ってわけじゃないよね」

「こんな偶然ある?」


 鍵を手にじっと見つめていたものの、次に発した言葉はほとんど同時だった。

 なのでちょっと聞き取りにくい部分があったけれど、しかしそれでも内容がわからない程ではなく。


 どう見ても見た目的に無関係ではないだろう。色が違えど見た目はほぼ同じ鍵だ。

 そして偶然と言い切るには何とも言えないもやもや感があった。


 そんな二人を見ていた他の一同は先程のイアのクッキーによる衝撃をどうにか薄れさせようとひたすら他の料理を食べている。食べて飲んでの繰り返し。口の中にあるマズイを上書きするためにひたすら美味しい食べ物を詰め込んでいる。

 その事についてウェズンもイルミナもイアも何も言わなかった。


 イアは自分が最初から最後まで作った料理に関して何でか美味しくなくなるという事実を知っているし受け入れているので。

 なので自分が料理を作る時はあくまでもう一人誰かと一緒にやって、その手伝い、くらいにしておいた方がいいとわかっている。

 とはいえ、それでも製造過程にも材料にも問題がないのに美味しくなくなるという謎を解き明かそうとたまに試みたりはしているのだが。だってスターゲイジーパイが絶品レベルで美味しくできるなら、他の料理だってマトモに美味しくできるはず。けれども現実はとてもマズイ料理になるのだ。どうして……ドウシテ……


 イルミナも今回ちょっと協力してもらって作った物ではあるけれど、以前食べた時に美味しくないという不思議に至る事はわかっているので何も言えない。

 ウェズンはマズイという事実はわかっていても、それでも学園に来る以前――家にいた時に何度も味見だとかをしているので、実のところ慣れた。口に入れても不味さで吐きそうになる、だとかそういう事もない。というかそういった部分はとっくに通り過ぎてしまった。


 一応最初に美味しくないよ、と伝えているのでマズイと言われたとしてもだから言ったじゃろ? としか言いようがない。

 ヴァンは食べなかったけれど、かわりとばかりに崩れ落ちた後アクアとハイネはアレスを道連れに選んだ。


 なので今、この三名はひたすらに美味しい食べ物を咀嚼し嚥下した後美味しい飲み物を飲み、また食べるを延々繰り返しているのである。



「あ!」


 食べてる最中、何かに気付いたのかアレスが突如大声を上げた。


 鍵について話し合ってたウェズンとイルミナが思わず肩を跳ねさせそちらへ視線を向ければ、口の中にまだ物が入っているからかアレスは右手で口を覆うようにしながらもぐもぐしている。

 本人的にどうやら声を上げようと思って上げたわけではないらしい。

 口を閉じてもぐもぐさせつつ、右手の平をウェズンたちに向けるようにして「ちょっと待って」と態度で示したアレスは、数秒ほどもぐもぐしていたがそれを飲み込んで――


「思い出したその鍵! 何か見覚えあると思ったんだ」


 とんでもない爆弾――という程のものでもないが――を投下したのである。


「見覚え? どこで?」


 ウェズンが問いかければ、アレスは自宅で、と答えた。


「自宅?」

「嘘じゃない。色は違うけれど、確かにあった」


 イルミナとウェズンが手にしているのみならず、色違いとはいえ同じだろう鍵がまだあると聞いて、なんだかわけがわからなくなってくる。


「アレスの家って……ちなみにどこか、なんていうか魔術的な感じの権威があるとかそういう……?」

「あー、いや、そうではない、はずだ。魔術というよりは武力的な意味で多少知られてはいるけれど」


 そう言われてしまうと、ウェズンとしては首を傾げるしかない。


 イルミナは魔女の試練として必要になるだろう鍵を手に入れている。出所はつまり魔女。直接イルミナの母が仕組んだかは――山の中腹にある祠に関しては不明だがイルミナの母の知り合い経由でこうなった可能性はある。

 ウェズンの鍵は父から送られてきたものだが、彼は一応それなりに有名らしい魔王である。神前試合を三度連続で出てなお生き延びているのだ。一部界隈では有名だろう。

 肩書としての魔王とはいえ、そんな相手から送られてきた鍵。


 魔女の鍵。魔王の鍵。


 これらが似ていたとしても、なんとなくわからないでもないというか、こじつけようと思えばこじつけられそうなので、納得できそうというか……

 まぁともかく似た鍵だな偶然か? とか言えたけど、ここにきてアレスの家にも似たようなのがある、と言われると途端に戸惑うのも仕方がないだろう。


「……うちにあったのは確か黄色い感じの……なんて言えばいいのかな、レモンクリームみたいな色合いのやつだったと思う。ただ、どこの鍵かはわからなかったからてっきりそういうオブジェか何かだと思っていたんだが……」

「アレスもその鍵をどこで使うかはわからないって事か……」

「似てても同じ場所で使うとは限らないじゃない!?」


 イルミナが言うが、確かにそのとおりである。

 大体もしウェズンの鍵とアレスの家にある鍵も同じ場所で使うのであれば、その使いどころは間違いなくイルミナの魔女の試練だ。

 だがイルミナに他の鍵を得るような話はされていない。祖母が意図的に情報を隠している、というのも一瞬よぎったが隠す必要性があまり無いようにも思える。


 何故って、この場でたまたま他の鍵を持ってる相手と出くわしたけれど、そうでなければどこの誰が持っている鍵かなんて、教えた所で辿り着けるかどうかも疑わしいのだ。

 例えばウェズンの持つ鍵。ウェズンの父が持っていた鍵について、もしイルミナの祖母がそれとなく情報を漏らすとするならば、かつて学園に居た生徒が所持している、とかとても漠然とした感じで言うだけで充分なわけだ。


 学園がいつから存在していて、そしてかつて在籍していた者がどれくらいいるか……それを調べるだけで下手をすれば年単位の時間が経過しかねない。

 それ以前に、卒業して今も生きてる相手、とかさらにヒントが出ればいいが、そうでなければ学園にいる間に事故などで死んだ生徒まで調べなくてはならなくなってしまう。

 気が遠くなるなんてものじゃない。


 世界のどこにいる誰が持ってるかもわからないような鍵を探せとまではならないはずだ。

 であれば、似ていたとしても使う場所はやはり別の所と考えた方が妥当かもしれない。

 しかし、あまりに見た目が似すぎていて、それを放置するというのも考えものだった。



「……一応、そのうち家からその鍵を持ち出す事は可能だろうとは思うけれど。

 どこで使えるかがわからなければ結局のところ無意味でしかない」


 アレスが何やら考え込むようにして言うが、それについてはもっともである。


「……僕の鍵については、そのうち授業で行く先にある、とは言われてるんだけど……情報漠然としすぎててさっぱりなんだよな……」


 ヒントがどう考えても足りなさ過ぎる。


 イルミナに至っては手に入れた鍵の使いどころなど予想もついてすらいない。

 魔女の試練に関する物、というところから、それっぽい感じの場所はいくつか候補に出せるけれどしかしそこが本当にそうであるかは不明なのだ。


 結局考えたところでわかるはずもなく。



 アレスは今回制服でないとはいえ、リングは装着してあったのでモノリスフィアも当然所持していたからこそ、連絡先を改めて登録する事となった。

 ウェズンだけではなくイルミナ、ヴァン、ハイネ、アクア、ついでにイアも連絡先を登録していた。


「一気に学園側の知り合いが増えたな」

 厳重にロックかけとこ……と呟いたアレスに、そういや何か頭のおかしい知り合いが学院にいるんだったなとウェズンは声に出さずに思う。

 一応学園の知り合い、とかそういうわかりやすい登録の仕方はしていないようだが、念には念をといったところだろうか。


 ちなみにウェズンはその頭のおかしい知り合いがワイアットであるという事実に未だ気付いてはいない。知ったら知ったで納得しかしないだろう。

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