表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

170/465

二人が一緒にいたわけ



 ――さて、村に戻り村長さんに祠の中の物は回収済みです、と伝え。


 一応長い年月ずっとそこにあったわけなので、中身が何であったかを伝えたもののやはり村長もあの鍵がどこの物かはわからなかったらしい。

 というか、祠の中にあった鍵はイルミナが持っていた鍵と融合合体して別の鍵になってしまったので村長が知っている方が逆に驚きである。


 ともあれ、これでもう学園の生徒が来るたびに山の中腹にある祠へ行ってもらうよう頼まなくて済むわけだ。


 一応座って食べるスペースも用意されていたのもあって、ウェズンたちは一先ずそこを陣取った。


「イルミナ、きみが持ってた鍵って」

「前に試練で得た鍵よ」


 ウェズンの質問にイルミナはあっさりと答えた。その手は片方はカップに添えられもう片方の手はぐるぐると中のスープをかき混ぜている。


 試練、と言われてウェズンはそういやあったな……と思い出す。

 やたらと口の悪い妖精たちがいた場所で、イルミナの母がイルミナのために用意したという試練。

 そのままだとなんだかどろついた闇になりがちなイルミナの魔術をマトモなものに矯正したあの場所で得た鍵。


 どこで使う鍵かもわからないまま、イルミナは祖母に話を聞いてみると言っていたが結局ウェズンが一緒だった時は会う事ができず仕舞いだった。

 その後、特になんとも言ってなかったからわからないままなのだろうな、と思っていたのだが。


 まさかその鍵がここで別の鍵に形を変えるなど誰が思うだろうか。

 これが例えば半分に欠けてしまって、欠けた部分を集めて一つの鍵を作ろう、みたいなやつならゲームでも似たようなのがあったからわからなくもないのだ。

 だがしかし、二つの鍵が融合して全然違う鍵になるとか、そういう展開もあったような気はするけれどしかしここでそうなるとはこれっぽっちも予想していなかった。


 確か次の魔女の試練がどうとかなんとか言っていた気がするのだが、その次、がどこなのかもわからないまま。


「そういえば、二人はどうしてこっちに? 魔女関連の何かがあるとかいう情報を得て来たってのはさっき聞いたけど」


 そもそも、イルミナとイアが二人きりで行動しているというのも何となく珍しく感じられる。


 イアは行けたら行くと言っていたけれど、もしかしたら合流する事はないかもしれない、くらいにはウェズンだって思っていたのだ。


「そうね……私がイアを誘ったのは一種の好奇心ね」

「好奇心」


 理由としてはそこまで突拍子のないものではないけれど、しかし理由として堂々と言われるようなものでもない言葉にウェズンは思わずイアを見た。

 確かにイアは前世が前世だし、場合によっては何か面白い話が飛び出る可能性がないわけじゃないけれど。

 だが普段の会話だけを聞くならそこまでおかしなことを口走ったりもしていない。

 好奇心を持たれるような何かが果たしてあっただろうか……? とさえ思う。


「そう。前にほら、皆で料理を作ったでしょう」

「あぁ……あ!?」

 相槌を打ってその先を促そうとしたものの、気付く。


 イアの料理は何故か最初から最後まで自分だけで作るととんでもなく不味くなる。

 材料が傷んでいるだとか、そんな事はない。新鮮な材料を用意して作り始めて、手際だって悪くないのに完成した料理は味だけが絶望的なものになるのだ。

 見た目が普通に美味しそうに見えるだけに、その落差はとんでもない。

 初めてイアの料理を食べた者ならば、これがまさしく絶望の味……! と納得する事だろうとウェズンは思っている。

 別に腐った食材を使ったりだとか、調味料に食べられない物をいれるとかした事はないので、食べても別に死んだりはしない。ただ、どうしようもないくらいに美味しくないだけで。


 だがしかし、そんなイアではあるけれど唯一マトモに――というか絶品と言えるくらいに作る事ができる料理もあるのだ。とはいえ、その料理は見た目的に美味しそうに見えるか、と問われるとちょっと……といったものだが。

 イアが唯一マトモに美味しく作る事ができるのはスターゲイジーパイだけだ。

 正直あれは見た目で損をしていると思っているので、それもあって余計に美味しく感じるのだろうか……と思わなくもないが、しかし普通に作った他のメニューと比べるとまさに圧倒的美味さ。

 ウェズンだってまさかアレをイアが作るとは思っていなかったし、ましてや初めてイアが作ったスターゲイジーパイを食べた時には脳みそが現実を理解するまでに数分を要した程だ。

 数分。数秒ではない。分単位である。


 そもそも前世でも転生した今でもスターゲイジーパイを食べる機会がなかったので、実際の味はどうなのか、を比較する事はできなかったけれど、しかしそれでもイアが作ったパイは滅法美味であったのだ。

 だがしかし、比較するためにこちらの世界で作られている別の誰かが作ったスターゲイジーパイを食べようとは思わなかった。

 これであまり美味しくなかったらまたいらんトラウマ作成しそうになるし……


 ともあれ、イアの普通に作った見た目は美味しそうなのに味は絶望的な料理を食べた後で、唯一マトモに作れると言われたスターゲイジーパイを食べた面々の反応は最初にそれを体験したウェズンとそこまで変わらなかった。


 通常のメニューをイアに任せるにしても、どこからどこまでを頼んで大丈夫なのか、というセーフラインを探るような事はしたけれど、結局のところ大雑把にしかわからず細かいことはわからずじまいだ。

 料理に呪いの気配があるわけでもないし、何か魔法がかけられているわけでもない。

 それ故に、まさに謎しか残らない状態である。

 なんだかここだけ因果律が捻じ曲がってやしないだろうかと思える始末。

 だって新鮮な材料で手順だっておかしなことはしていないし、調味料だって適量しか使っていない。なのにおかしな点なんて何もないくらいマトモに作っていたはずなのに、完成した料理は絶望的な不味さを主張してくるのだ。


 味付けだけを他の人に頼むだとか、下ごしらえだけ他の人に頼むだとかで最初から最後まで自分一人で作っていない場合はマトモな味になるのに、そこもイアが手をつけた時点で何故か本来美味しくなるはずの料理はめちゃめちゃ不味くなるのである。

 いっそ見た目からして不味そうな雰囲気を全力で放つ料理下手なヒロインのようなポイズンクッキングであったなら、まだ見た目からして遠慮もできるというものなのだが。

 見た目が美味しそうに見えるだけに、イアが自分で作ったと宣言しないでしれっとテーブルに紛れ込ませたらまず食べるまで気付かない。とんだトラップである。


「料理に関してはほら、わからないけどわかった、って言うしかないのよ」

「あぁ、うん」


 そう、どうして不味くなるのかという根本的な原因は不明のままだけど、けれどもイア一人で料理を作るとそうなる、という事実は認めるしかない。というか現実として認識し受け入れないと延々とダメージを食らうので。

 具体的になんでかはわからないけどイアの作るスターゲイジーパイ以外の料理は美味しくない、と理解するしかないのだ。そうする事で避けられる絶望。必ずしも回避できるとは限らないが。


「で、私思ったんだけど……イアって薬学授業の時の成績は問題ないのよね」

「うん?」

「どうしてそこで首を傾げるのよ。薬の調合も料理も似たようなものでしょ?」

 イルミナがさも当然とばかりに言うが、ウェズンはそうか……? と思わず考え込んでしまった。


 確かに。


 大まかに考えたらそうなのかもしれない。


 料理は材料を用意してそれらを調理して味付けをして完成するわけで。

 対する薬学の授業での薬作りは……まぁ、確かに料理と似ていると言えなくもない、な……と納得はした。


 薬草を細かく刻んだり、煮詰めてそこから更に薬効成分だけを抽出したり。

 鍋で煮込んで延々混ぜ続けたり。

 確かに一部の料理と手順は似たようなものがある。

 とはいえ、完成した薬は必ずしも飲み薬というわけではないので、料理と一緒にしていいかはまた微妙な気分にもなるのだけれど。


 だが大まかに見れば似通った部分は確かにあるのだ。


 ただの薬も、魔法薬も。


 だがしかし、イアが一人で作り上げた薬がとんでもない失敗をした、という話は今の今まで出てきていない。

 むしろ二人ペアで作ろうね、という時にうっかり鍋の中身を爆発させた事はあったかもしれないが、別にそれはイアに限った話じゃない。

 魔法薬を作る時などは特に。

 違う人間の魔力を混ぜ合わせたりもするので、そうなると時としてとんでもない反発をし結果爆発――何てことはザラだ。だからこそ魔法薬を作る際、そしてペアで作る時はやたらと慎重になるしかないのだが。



「料理と大体工程は一緒なのに、薬だとそういうのないのはどうしてなのかしら、と思ってちょっといくつかイアには試してもらっていたの」

「そっか……それで、結果は?」

「わからない、って事だけはわかったわ」

「そうか」


 限りなく料理と近い製法の薬を一人で作ってもらったけれど、そちらは何事もなく完成したらしい。

 同様にほぼ同じ手順で作る事が可能な料理を作ってもらえば、そちらはやはり筆舌尽くしがたい絶望的な味になったのだとか。

 成程、わからん。

 その結論に至るのは仕方のない話だったのだろう。


 同じようにやって、薬と料理でこれほどまでに結果が異なる挙句、その原因がさっぱりなのだ。

「いっそ料理を料理と思わず薬を作る時と同じようにやってもらったけど……結果は……」

「あぁ、うん……」

 イルミナが言葉を濁している時点で結果はお察しである。


 イアの料理の恐ろしさを体験した事がないアクアとハイネはちょっとだけ蚊帳の外みたいな反応をしていたが、ヴァンの反応を見てうっすらと察したらしい。


「ちなみにこれがイアが作ったクッキーよ」

 この絶望をおすそ分けしてあげるわとばかりに綺麗にラッピングされたクッキーをイルミナは強引にハイネとアクアの手に握らせる。


 ほんのり淡い色がついたビニールっぽい素材の小袋に入っているクッキーは、見た目だけならどこぞの店で売っているものと遜色ない出来である。


 だからアクアもハイネも「イルミナが大袈裟に言っているのかな」と思ってしまった。直前にヴァンの反応を見ていたくせに。これもイアの料理に対する認識の怖ろしいところではある。


 だからこそ。

 カサ、と音を立てて袋を開封しクッキーを取り出して特に警戒する事なく口にした二人が声にならない声をあげ崩れ落ちたのは、まったく同時の事であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ