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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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なんとなく揃った感



 そんな事ってある?


 これが、祠が開かず最初に抱いたウェズンの感想である。


 確かに現実として考えたなら、必ずしも自分が選ばれた人間ではない、というのも当たり前だろう。

 なので特別な誰か――選ばれし者しか開ける事ができない扉だとか、勇者にしか抜けない聖剣だとかを自分が、という事がなくたってまぁそうだろうな、と思える。

 自分の人生は自分が主役だけれども、世界という規模で見れば主役どころかモブ――になれるかどうかも疑わしい。


 けれどもウェズンは内心でちょっとだけもしかしたら、と思っていたのだ。

 何故ってここはイア曰くのウェズンが主人公やってる世界と大体同じ物らしいし。


 イアの言う事が実は嘘で、という可能性を考えたとして、イアがわざわざそんな嘘をでっちあげる意味がない。

 もしかしたら自分が魔王にならなくたって世界はどうにでもなるかもしれない。

 けれども、そうならなかった可能性の話、というのがイアが知る原作とやらであれば。

 全てを嘘だと断じて無視するわけにもいかないのである。


 流石に堂々と世界の命運は自分にかかっている、とかドヤ顔でキリっと言い切るつもりはないけれど、それでも。

 もしかしたら、この祠を開ける事ができるのは主人公らしい自分なのでは、と思ってしまったわけである。


 そういった情報もないままにそんな風に思っていたなら思い上がり乙、とか言われても仕方がないが、仮にも主役らしいのであればそう思ったって仕方がないではないか。

 まぁ祠を開ける前に自分なら開けられるぜ、みたいなムーブかましたわけじゃないのでいらん恥はかかずに済んだが。



「とりあえず戻って村長さんに無理でした、って報告するか」


 内心でそんな風に思いながらもとりあえずウェズンはそう提案した。

 開きもしない祠の前でいつまでも突っ立ってるだけ、というのも時間を無駄に浪費するだけだ。

 それならさっさと引き返して、再び屋台で売られていた他の食べ物とか色々堪能した方が余程有意義。

 ウェズンの身体は今現在育ちざかりと言っても過言ではないので、美味しい食べ物はいくらあっても困らないのである。


 一応学園の生徒ではないけれど、折角来たんだから……と言われてアレスも挑戦してみたが、まぁ開かなかった。


 なので打つ手はもうないのである。


 何が何でも中身を回収してこい、と言われたわけでもないので開かないならそれはそれで、という結論に落ち着くのも当然だった。

 これで何が何でも、とか言われていたなら今頃ハイネが魔術をぶっ放したりアクアが物理的に祠をどうにかできないかと色んな薬品を試したりしていた事だろう。

 外側部分だけを上手く溶かせるような薬品がアクアの手持ちにあるかはわからないが、あったならやっている可能性は高い。

 あまりに強力な薬品だと肝心の中身まで台無しにしかねないのでチャレンジする前に一度は止めに入ると思うけれども。


 よーしじゃあ撤収撤収~、みたいなノリで立ち去ろうとした――矢先に。


「あれ? おにい?」


 声を掛けられそちらを向けば、イアとイルミナがこちらに向かってくるところであった。


 一応行けたら行く、みたいな事を言っていたのでここに現れてもおかしくは……いや、村で合流するならともかく、ここで合流するとは思っていなかったため、思わず「ん?」と怪訝そうな顔をしてしまったがイアはそれを気にした様子はない。


「二人はどうしてここに?」

「ちょっとこっち方面に用事ができて……おにい見かけて、あ、ここが話に出てた、って思ったけど……収穫祭ってこんな場所でやってるの?」


 どうやら村の入口付近の神の楔でやって来たわけではないらしい。

 聞けば山の上の方にも神の楔があるのだとか。

 確かに二人がやって来た方角は、ウェズンたちが来た方向とは異なる。


 見回したところで村はここではない。なので収穫祭以前にお祭りらしき雰囲気すら漂っていないただの山の中である。

 アクアがイアに村での話をざっくりと説明すれば、一応納得した様子であった。


「へぇ、じゃあ下山しつつ村でお祭り参加して帰りはそこから更に進んだ森の入口から帰る方がいいかな?」

「そうね、もう一度山を登るの面倒だし」


 イアがイルミナに声をかければ、イルミナも異存はないとばかりに頷いた。


「それで、こっち方面の用事って?」

「えぇ、実はこの辺りに魔女が残した何かがあるって情報を聞いて……あ」


「あ」


 イルミナの視線が祠に向けられる。

 そしてウェズンも同じように祠を見て、思わず声をあげた。

 ウェズンだけではない。

 イアも、アクアも、ヴァンもハイネも祠を見た。


「どう見てもコレじゃないかな」

「そのようね……」


 正直他にこれじゃないか? と言えるような物があった覚えはない。

 ウェズンたちは一応山の中腹にある、という言葉を聞いているけれど、具体的にどのあたりからが中腹か、となったので村を出て山を登り始めた最初の地点から割と注意深く周囲を見ながら移動してきた。祠があるこの場所に来るまでに、他に何か気になる物があったか、と問われるとウェズン以外の面々もなかったと答えるだろう。


 そしてイアとイルミナも山頂から魔女が残した何かを探すべくそれなりに周囲を確認しながら下りてきた。

 ここに来るまでに他に気になる物がなかったのであれば、その魔女が残した何かというのはこの祠に他ならないだろう。


 勿論、両方ともに見落としがないと断言はできないが……恐らくはこれで合っているだろうと思える。


「魔女ねぇ……村で聞いた話だと昔の学園の生徒がって言ってたけど」

「じゃあその生徒が魔女だったって事かな?」

「まぁ、魔女が学校に通っちゃいけないって事はないわけだし」


 とりあえずアクアを始めとしてウェズンたちの誰一人としてこの祠を開ける事ができなかったのは確かだ。念の為イアもチャレンジしてみたが、予想通りというべきか祠は開く気配など一切なかった。


「それじゃあ私が」

 言って、イルミナは祠の前に立った。

 すぅ、と息を吸って吐く。

 正直昔からそれなりの人数がこの祠を開けるチャレンジをしているらしかったので、ここでイルミナが開けられなかったとしても仕方がない、と思えなくもない。

 もしかしたらこの祠を開けなきゃいけない人物はとっくの昔に……なんて可能性も普通にあるわけだし。


 なんとなく一同固唾をのんで見守る中、イルミナの手は祠にゆっくりと触れて――


「いったぁ!?」


 開くには開いた。

 ただ、それと同時にバヂィッ!! というとても痛そうな音もしたわけだが。

 冬の静電気の何倍だろうか……と思わず考えてしまうような音だった。

 しかも何がアレって、祠に触れた途端拒絶するかのようにそうなったならまだわかるけれど、開くのと同時である。嫌がらせか? としか言いようがない。

 祠を開けてその手が離れる直前でこんなトラップダメージ与えてくる祠だとか、果たして誰が思うだろうか。というか、特定の人物しか開ける事ができない、という代物のくせにいざ開けたらダメージも追加でやってくるとか、本気でこの祠を開けさせたかったのだろうか、とも思えるし、ここに何かをしまい込んだらしき学園の生徒は一体何を考えていたのか、という疑問も生じる。


 中の物渡したいの? 渡したくないの? どっち? と言ってしまっても仕方がないのではなかろうか。


 しかもだ。

 イルミナも制服のまま外に出ているし、皮手袋をつけている。なので素手で触れているというわけではないのだ。これが冬場で静電気の恐怖がある状態でなおかつ素手、というのなら警戒しても仕方のない事だが、素手ではないのでまさかこんな超強力な静電気っぽいダメージがくるとか誰も予想していなかった。


「だ、大丈夫……?」


 両手を肩の近くであげるようにして固まってるイルミナに、イアが恐る恐る声をかける。


「へ、平気よ……」


 イルミナはそう答えたが、声は若干震えていたので虚勢であるとバレバレだった。

 まぁ、大丈夫? と聞かれたなら余程の事がない限り大丈夫、と答えるだろうとは思う。致命傷レベルだったら「もう駄目だ」とか「ただの致命傷だ」とか「助けて死にたくない」とかもうちょっと色んな言葉が出てくるかもしれないが、大怪我をしてなければ大丈夫の枠内だと思われる。

 とはいえ、やはりビックリしたわけで。

 イルミナの声が震えているのも仕方のない事だった。


「まぁ普通は開く前に来るよな、そういうの」

 ヴァンの冷静な突っ込みに、確かに……としか思えないので誰も否定はしなかった。しても意味がないというのもある。


 とはいえ祠は開いたわけで。


 イルミナは追撃ダメージがくるかもしれないとビクビクしつつも、その中を覗き込んだ。

「……鍵……?」

 そもそも祠はそれほど大きなものではない。

 それ故中に入っている物があるとしても、あまり大きな物ではないとわかりきってはいた。


 とはいえこんな場所で密かに置かれているようなものだ。何らかの訳ありアイテムがあってもおかしくはない、と思っていたがあったのはただの鍵。

 もしかしてこれも触ったらバチッてくるんじゃないでしょうね……なんて呟きながらもイルミナはその鍵を手に取った。


 今度は何事もなく鍵を手にする事ができたものの、そもそもこの鍵はどこの鍵だ、となるわけで。


 ちょっと上にかざして光に透かすようにしたりしてみても、別段どこそこの鍵、なんてご丁寧に書かれているわけでもない。だが――


「あれ? これもしかして……」


 何かに気付いたらしいイルミナは、リングから何かを取り出した。


「あれ? それも鍵?」

「えぇ」

 イルミナが今しがた取り出した物を見て、見たままそのままを口にすればイルミナは二つの鍵を両手に持ち、並べるようにして見比べる。


「それ同じやつ?」

「に見えるわね……」


 イアが言うように、イルミナがリングから取り出した鍵と今祠から手に入れた鍵は、見た目がほとんど同じものだった。全く同じ鍵というわけでもないだろうけれど、それでもパッと見は同じに見える。

 並べて見ても同じにしか見えず、とりあえずイルミナは二つの鍵を重ねてみる事にしたようだ。そうすればもうちょっと違いがわかるかもしれないとでも思ったのだろう。


「えっ!?」


 しかし重ねた直後、鍵はパッと一瞬光って形を変える。

 先程までは二つの鍵は見た目もそこまで特徴があるでもない物だった。ゲームだとどこぞの牢屋の鍵だとかに使われていてもおかしくはないな、と思える見た目であるとウェズンは思っている。

 だがしかし、重ねた直後、ほんの一瞬の間にその鍵は見た目をガラリと変えたのである。


「あれ、この鍵」

 そしてウェズンはその鍵にとても見覚えがあった。

 思わず自分も心当たりがありすぎてリングから取り出す。

「えっ、色違い!?」

 イルミナがそう言うのも無理はなかった。


 そこはかとなくアンティークじみた見た目の、手で持つ部分に細やかな文様が刻まれた鍵は、ウェズンがリングから取り出した物と全く同じ見た目をしていたのである。

 とはいえ、見た目は同じでも色は異なる。

 ウェズンが手にしている鍵の色は乳白色と言えるもので、イルミナが手にしているものは淡い緑色をしていた。


「えっと、その、イルミナ、その今リングから出した鍵って」

「というかウェズン、貴方その鍵……」


 偶然にしても、なんというかあまりにも……と言いたげな顔をするしかない。なんだこの、えぇ……みたいな表情をお互いがしていた。


「と、とりあえず村で何か食べよ!? あたしお腹空いてきたかも!」


 ここで鍵について話し合うにしても、どのみち村に行くのは変わらない。

 イアの提案に反対する者などいなかった。

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