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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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準備を含めてお祭りです



 ――結局のところ。


 ハイネが誘ったゴーントの村での収穫祭とやらに行くとこたえたのはウェズンの他、ヴァンとアクアだけだった。他の面々は別の予定を既に入れてしまったらしく、そちらを優先した形となる。


 誘った本人でもあるハイネが一番驚いていたのは、ヴァンが参加すると言った事だろうか。

 彼はあまり遠出するような誘いは今まで断っていたので。


 しかしウェズンは理解している。今回参加を決めたのは自分がいるからだろうと。

 瘴気耐性の低いヴァンは馴染みのない土地に行く場合、もしそこがとんでもなく瘴気濃度が高い場所になってしまえば帰る手段を失ってしまうし、自分の浄化魔法はそこまで強くもないために普段は浄化薬で凌いでいる。だがその浄化薬もなくなってしまえば本気で詰むのがわかりきっているのでよくわからない場所にはいかないようにしている、というのもあった。


 だが今回は参加メンバーにウェズンがいる。

 ウェズンの浄化魔法はヴァンとしては過去一でよく効くものなので、ウェズンがいるなら安心だと思ったのだろう。

 ウェズンとしてもまぁ、浄化魔法をヴァンにかけるくらいなら別にそこまで負担でもないのでさながら主治医のような認識を受けていても特に問題はない。

 普段はなるべく自力でどうにかしているらしいし、それでもどうにもならなくなってきたな、と思った時だけこっそりとウェズンに浄化魔法を頼んできた事はあるけれど、それだってそう多い回数でもないのだ。


「美味しい料理、ふふ、楽しみ……」


 そわそわした様子のアクアがウェズンの隣を陣取って笑う。

 はぐれたら困るから、と手を繋がれたがそもそもはぐれるような事ある? とウェズンが聞けばアクアは堂々とわたしがはぐれたら困るの、と言い切った。

 いやお前かい。

 そう突っ込むのも無理はなかった。


 アクアは最初参加するつもりはなかったようだが、しかし参加メンバーの中にウェズンがいると聞いてから参加を表明してきた。

 それに関して、ヴァンは恋愛関係の何かを想像したようだがしかしウェズンとしてはアクアが自分をそういう目で見ていないのはわかっていたのでそっと首を横に振るだけだ。


 確かに懐かれている。

 実際今もこうして手を繋がれたりしているので嫌われてはいないのだろう。

 男性はともかく女性は割と嫌っている相手との接触を拒む傾向にある――と前世の妹たちなどでそう判断しているためにウェズンはそう思っていた。

 けれども、好きな相手と手を繋ぐとかそういう接触ではないな、とも思うのだ。

 アクアがウェズンに恋をしているなら、もうちょっと恥じらいとかあってもいいと思うのだけれどそういったものは感じられない。これはそう……どちらかといえば……


「で、ゴーントの村だっけ? これから出発でいいんだよね」


 ウェズンが答えに辿り着きそうになっていたところに、ヴァンの声が聞こえて思わずそちらへ意識を向ける。

 ヴァンがハイネに確認しているところだった。正直まだちょっと時間的に早いのではないか? と思っていたけれど、もしかしたら祭りの前にどこか別の所でちょっとした用事を済ませるだとかがあるのかもしれない。

 もしそうならわからなくもないかな、と思わなくもなかった。

 そもそも、とウェズンは改めて思い直す。


 考えてみればお祭りといったもの、転生してからは割と縁遠いものだった。

 家の近くの町でやってたお祭りに参加した事はあるけれど、それだって片手の指で数えてもその指が余るくらい。まぁつまり二回か三回くらいしか行ってない。


 前世の記憶がなかったらそれに不満を持ったかもしれないけれど、前世の記憶があるから別にそんなお祭りとか……という気持ちもあったのだ。

 最初のお祭りは母と一緒に。その後はイアが来た後で。


 そういえばイアはお祭りというものを人生で初めて体験したわけだけど、ウェズンとは反応が違っていてむしろそっちの方が見ていて面白かったな、とさえ思う。


 今回のお祭りもイアが参加できていれば良かったのだが、しかしイルミナに誘われて別の町に出かけるらしかったので不参加となってしまった。

 イルミナが誘った町でもお祭りとまではいかないらしいが、何らかのイベントがあるらしい。

 向こうの用事が早く終わればこっちに来るかも……みたいな事は言っていたけれど、来るかどうかは不明である。



 というか、こんなに早い時間からもし祭りが始まるのなら終わるのも早いかもしれない。

 ふとそんな風に思った。


「そう。この祭りは準備をするところから既に本番と言ってもいい」


 ヴァンの言葉にハイネは真剣な顔をして深く頷いてみせた。

「準備……?」

「あぁ、準備だ」


 なんだろ、飾りつけとか?

 なんてウェズンは思った。

 いやまぁ、飾りつけから皆で始めて終わってから食べ物を振舞って食べる、みたいなのであればそれなりに時間もかかるだろうし、そりゃ早めに準備をしようってなるのかもしれないけれど……

 とは思ったものの、果たしてただの飾りつけでハイネがこんな真剣な表情をするだろうか。

 これ絶対そこら辺飾り付けるのに頑張ろうねって顔じゃないんだよな……


 もう少し詳しく話を聞いておきたいと思ったけれど、しかしハイネはそれよりも早く「じゃ、行くぞ」なんて言って神の楔を起動させてしまったのである。



 ――ゴーントの村がある近く。森の入口に神の楔はあった。

 この森を抜けた先がゴーントの村らしい。

 村の入口に神の楔がないのか……と思ったものの、森の規模はそう大きなものではなく通り抜けるだけなら一時間もかからないらしい。

 森の中も道がある程度整えられているのでそこを逸れさえしなければ迷う事もなさそうだ。


(大体徒歩三十分くらいで二キロくらいだったかな……歩く距離。一時間なら四キロ、と考えて……まぁ、森の規模なら確かに小さいのかもしれないけど。でも四キロって交通機関使わなかったらそれなりにあるよなやっぱ……)

 神の楔で転移するのが当たり前みたいなこの世界でも徒歩での移動は普通にある。

 だから別にそれくらい歩くのはなんとも思わないけれど、前世だったらどうだっただろう。

 正直ちょっとの距離でも交通機関を使う地域だってあったのだから、徒歩一時間はかなり大きいのではなかろうか。勿論それくらいなら歩いていくけど? なんていう人もいるかもしれないが。


 森を真っ直ぐ抜けるだけなら一時間もかからない、とは言うがほぼ一時間と思って間違いないだろう。


 あぁ、だから早めの出発だったのか……なんてウェズンもヴァンもそんな風に思っていた。


 いた、のだが……



「大イノシシがそっちに向かったぞー!」


 気付けば森の中で狩りに興じている。興じるとかいう以前に何か強制的に巻き込まれたと言ってもいい。

 恐らくゴーントの村の人だろう声がかけられて、思わずそちらを見れば大イノシシという言葉から嘘は言ってないけど大きさマジで規格外だろ……と言いたくなるサイズのイノシシが木々をなぎ倒しながら突進してきたのである。


 いやあんなん突進食らったら普通の人は死にますが……!? と思ったのもあってウェズンは咄嗟に回避していたし、手を繋いだままのアクアもそれに引かれるように回避した。

 一体何事? え、あれ大イノシシ? 乙事主とかじゃなくて?

 どう見たって大型モンスター。一狩り行こうぜ系ゲームで出てくる大型のやつ。人の何倍もの大きさすぎて、下手すりゃ小山が動いてると勘違いしたっておかしくはないくらいだ。


 そんな軽率に言っても危ないサイズの大イノシシが突進してくれば、そりゃあウェズンとてひぇっ、とか小さくとも悲鳴を上げようというものだ。


「よし狩るぞ! 皆、頑張ろう!」

「いやちょっと!?」


 そんな状況だというのにハイネはよし来た! とばかりにノリノリで大イノシシを倒す気満々である。

 そこで思い出した。

 そういえばこのゴーントの村の収穫祭とやらに誘った時、なるべく腕の立つ相手を誘いたいとか言ってたな……と。


「え、つまりそういう事……?」


 そんなウェズンの呟きに、しかしハイネは既に大イノシシ相手に武器を片手に襲い掛かっていったので当然返事などなかったのである。


 なお大イノシシを仕留めるまでにかかった時間は精々十分前後といったところだろうか。ウェズンたちだけで戦ったわけではなく、恐らく村の人であろう方々も参加していたので協力して倒す事ができた。

 倒した後はその場である程度解体してえっさほいさと村があるだろう方向へ肉を運んでいく。

 リングに収納とかすれば持ち運びは楽だろうと思いつつも、どうやら運ぶ作業も祭りの一環らしいのでウェズンたちはこれ使えと言って渡された台車に肉を乗せガラゴロと台車を引いて村へ行く事となった。


「僕の知ってる収穫祭と違う」


 ウェズンが思わずそんな事を呟くのも、まぁ、無理はなかった。

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