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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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休日の誘い



 ハイネ。


 ハイネ・アラリア。

 ウェズンと同じ教室の生徒であり、性格はどちらかといえば穏やか。

 緑系統の色合いの髪と目の、見た目からしても目に優しい感じの人物。

 ウェズンがハイネという人物について述べろと言われたら、まぁこういう答えになるだろうか。


 正直な話ウェズンはハイネと関わった事があまりないので、これ以上詳しく何かを言えと言われてもまずそもそも言いようがないのだ。

 何度か学外授業の時に一緒になった事はあるけれど、その時に何かあえて言わなきゃいけないような何かがあったわけでもない。

 意見が衝突したわけでもなければ足を引っ張ったり引っ張られたりしたわけでもない。

 当たり障りのないままに課題を行って、そしてさらっと終わっている。


 そういう意味ではハイネという人物は当たり障りのない人物であり、強烈に印象に残るというわけではない。

 もっと酷い言い方をするならば、この学園で早々にリタイアしていてもおかしくないと思われる程度には、特徴らしい特徴がない人物でもあった。


 まぁ、ちょっと我の強い相手が多いこの学園では緩衝材のような役割になるタイプだろうか。

 あまり印象に残らなくとも、いなくなられたらそれはそれで困る。

 恐らくはそう思われていそうな人物。

 良い言い方をするならば、きっと縁の下の力持ちとかそういう感じになるのだろうか。


「何、どうかした?」


 そんなハイネに声をかけられたウェズンは、はて何かあっただろうかと考える。

 授業に関わる事以外でハイネが個人的に話しかけてきた覚えはない。

 雑談をしないわけではないが、本人から積極的に話題を振ってくる事もあまりなかったので用がなければ話す事なんてほとんどなかったのである。


 一応、サマーホリデー期間中にそこそこ親睦を深めたような気がしないでもないが、僕とハイネはずっ友だよ! とか堂々とのたまえる程仲良くなった覚えはない。

 かといって別に仲が悪いわけでもない。可もなく不可もなく。

 休みの日に頻繁に連絡を取り合う程ではないが、年に何回か近況報告したりする程度の関わりで、気付けば年単位でそんな付き合いが続いてそうな……細く長く、というやつだろうか。

 実際知り合って一年も経過していないけれど、付き合いが続くならばきっとそんな感じになるのではなかろうか。なんとなくだがそんな気がした。



「あぁうん、その……今度の休み暇かな?」

「え? まぁうん。暇といえば暇だけど」


 実のところ先日ちょっと面倒な感じの学外授業を終え、更に座学のテストも終わらせた事でまとまった休みをもらえる事になっている。

 何せサマーホリデーは夏休みとは名ばかりの要塞と罠を仕掛ける日々だった。一応時間に余裕を作れば休めなくもなかったかもしれないが、そもそも罠を仕掛けるにしても要塞を作るにしても、色々な事が初めてだった一年生だ。スケジュール管理が上手にできるわけでもない。来年はもうちょっと上手くやれる気がするけれど、今年は無理だった。


 結局のところ休めた日なんて片手の指で数える程度だ。それだって作業効率が落ちるとよろしくない、とかいう理由で順番に与えられたようなもの。

 休みだヒャッホイ、と浮かれるようなものではなかったのだ。


 流石にそこら辺を見かねたのか、テラ先生はとりあえず次のテストが終わって、まぁそこそこの成績だったら休みをくれてやろうと大変慈悲深いお言葉をくれたわけだ。

 逆に言えば成績が悪かったら休みなんぞ与えねーぞ、という意味でもあるのだが。


 とはいえ、普段からテラのクラスの生徒たちは比較的真面目に授業を受けているので、皆一律に休みを与えられる事となっている。この中で一人だけ不真面目すぎて休みがもらえない、なんて展開になってたらそれはそれで……と思ったものの、そんな心配は杞憂だったわけだ。


 とはいえ、その休みだって長期的なものではない。けれども休みは休みという事で、その間にあれこれ予定を立てている者はそれなりにいた。


 ウェズンも一応悩みはしたのだ。

 少し前に届けられた鍵について、実家に戻り父か母を問い詰めるべきかどうかを。


 だがしかし、用途を説明してくれるならそもそも手紙に一緒にそういった文を同封していてもおかしくはないわけで。

 あの後モノリスフィアで連絡をとってもうんともすんとも言わなかったので、まずあの鍵についての質問は答えてくれないのだろうな、とわかってしまう。

 なので直接出向いたとしてもマトモな返答がくるかと問われると……まぁ、ないだろうなという結論に至るわけだ。

 それでもぐだぐだ鬱陶しいくらい絡んで質問すればもしかしたら根負けしてくれるかもしれないけれど、あの両親がそうなるまでの猶予を果たしてウェズンに与えてくれるか、というと……いやないな、とウェズンは大まじめにそう結論付けてしまったのだ。


 自分が親の立場で我が子からそんな状況になるだろうとわかっていて、何の手も打たないとかある? ないわ。自分よりも親の方が考えなしで、とかいうならまだしも、あの親が何も考えてないとか有り得ないだろう。そうなると、まぁ、折角の休みを利用してまで帰ってもな……と思うわけだ。


 さっきまで考えていた、もうちょっと色々と自分でも動いてみるべきなのかもしれないな……というのを次の休みにとりあえず実行しようと思い始めていたわけだが、ここでハイネに声をかけられたというわけだ。


「良かった。もしよければ、ゴーントの村まで行かない?」

「ゴーントの……村?」


 ゴーント村ではなく『の』が入るの何で? ととてもどうでもいい事を疑問に思いつつも、これっぽっちも聞き覚えのない言葉をウェズンは初めて言葉を喋った時みたいなたどたどしさでもって口に出した。

 幼児がなんとなく声を出してそれが言葉になったとかいうよりは、感情がほぼなかった生物が今ここで自らの感情を認識した、みたいな感じだと言えばいいだろうか。

 そういうのは若干ミステリアスさを醸し出すヒロインがやるならまだしも、自分がそれをやると途端になんだか別物にしか思えなくて、なんだかよくわからない感情に振り回されつつも「どこそれ」と誤魔化すようにウェズンは問いかけていた。


「少し北の方にある大陸の小さな片田舎なんだけど。この季節になると収穫祭やるんだよね」

「収穫祭」

「そう。で、そこで振舞われる料理が美味しい」

「へぇ」


 収穫祭、という言葉は前世でも聞いた事がある。

 とはいえ、直接そういったものに参加した事はないのだが。

 いや、参加したと言っていいのだろうか?

 秋頃になると、とりあえず秋の収穫キャンペーン、みたいなバーコードを集めて応募しよう、みたいなやつから食料品売り場でのちょっとした催事だとか、一応それっぽい感じがしなくもないわけだし。

 明らかにそういった言葉通りの祭りというものに参加した事はないけれど、まぁそれなりに聞き馴染んだ言葉である事は間違いない。


 なおこちらの世界に転生してから今の今までそういったお祭りとは無縁である。家の近所の町でもしかしたらそういう催しがやっていたかもしれないけれど、生憎記憶に残っていなかった。収穫祭じゃない祭りみたいなのにはイアを連れて参加した覚えはあるのだが……あれ? もしかしてあれ収穫祭とかだった? とかいうレベルの記憶である。


 夏に何か肉フェスとかやってた覚えはあるけど、秋ってなんかあったっけかなぁ……ハロウィン? でもあれ、完全に仮装メインで収穫祭とはまた別ベクトルのものだったし……

 なんて考えて、とりあえず折角の誘いだしなと思ったからこそウェズンは「行く」と頷いた。

 ハイネは「良かった」なんてちょっとホッとした様子で言うものだから、もしかしたら断られるのを前提で話しかけてきたのかもしれない。


「他にも誰か誘う感じ?」

「え? うーん、そうだな……行ってもいいって言う人が他にいるならもう二、三人誘っておきたいんだけど……」


 できればそれなりに強い人がいいんだよね。


 そんな風に言うハイネに。


「え、あの。行くって言っといてなんだけど。

 それ、安全なお祭り?」


 ウェズンは思わず問いかけていたのである。


 収穫祭という言葉から、そしてお祭りで振舞われる料理が美味しいという情報から、何となく平和なものを想像していたけれど。


 他に誘うべき相手の条件に強者を選択している時点で。


 安全だよ、と言われたとして信用できそうにない。


 そしてそんなウェズンの質問に対してハイネは、

「…………………………うん、安全だよ」

 それなりに間を開けてから、いっそ清々しいまでに胡散臭い笑顔で言ってのけたのである。


 もしかして、誘いを受けたのは失敗だったかもしれない。

 そう思ったけれど、今からやっぱ無し、というにもハイネの笑顔で黙殺されそうな雰囲気を感じたので。


 ウェズンは「そっかぁ、安全かぁ……」と何かを諦めたような声でとりあえず言うのであった。

 自分に言い聞かせるにしても、ちょっとどころじゃなく無理があったせいか、その声はとても乾いていた。

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