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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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ヒントはもっと出していけ



「今すぐじゃなくてもいいのだけど」


 そう前置いて女はウェズンに一つの頼みごとをしてきた。


 そもそも名前も知らない女だ。

 神出鬼没で別段親しい間柄というわけでもない。

 けれどもウェズンはそんな、知人と言うにも微妙な関係の女の言葉をただじっと聞いていた。


「もし、鍵を手に入れたのならば」


 一歩、女がウェズンに近づく。


「その時は。どうか彼女を解放してあげて欲しい」


 一歩、また近づく。


 すっと伸ばされた手はウェズンの頬に添えられた。

 両手で顔を包み込むように触れられるが、しかしそこに触られているという感触はなく。

 触れているはずの手の温度は、冷たいとも温かいとも感じられなかった。


「鍵は二つ。いずれ貴方の手元にくる一つと、もう一つは――」


 瞬間、ざぁっと強い風が吹いて近くの木々が大きく揺れる。

 砂が目に入ったようで、思わず目を閉じたウェズンは女が言おうとしていた最後の部分を聞き取れず、また目も閉じてしまっていたから唇の動きで何を言ったかを判別する事もできなかった。


 若干涙目になりつつも目を開けた時には。



 女の姿はそこになかった。


 ぱちぱちと何度か目を瞬かせる。

 とりあえず目の中に入っただろう砂は取れたようではあるけれど。


「肝心な部分聞き取れなかったんですが……?」


 しかもこっちの返事を待たずに女は既にいなくなっている。


「えぇ……どうしろってさ……」


 必ずしも叶えられるかはわからないが、それでもできる範囲の頼まれごとならやってもいいかなと思っていたのだ。

 小説やゲームの中であれば、間違いなく何か重要そうなイベントっぽかったし。

 けれども肝心の内容がわからなければ、どうしようもない。



 肝心な部分は聞こえなかったけれど、それでもその前までに聞いた話だけでも考えてみるのであれば。


 まず彼女を解放……彼女って誰だ。

 初っ端からこれである。


 どこのどなたかも存じ上げない存在を解放しろとはこれまたいかに。


 その彼女を解放するために必要な鍵は二つ。


 一つはどうやらそのうちウェズンが入手する事になっているらしい。

 なんでそんな事知ってるんですかねぇ……


 え、何これからその鍵とやら送り付けたりするご予定?

 直接渡せ。


 そもそもその鍵とやらが本当に鍵なのかもわからない。

 セキュリティを解除するためという意味での鍵なのか、謎を解くための鍵という意味合いに近しい意味での鍵なのか。


 とりあえず考えてみたところで現時点でウェズンにできる事なんて何もない。

 近いうちに自分のところに来るらしい鍵とやらがどういった物であるかにもよるけれど、とにかく二つあるうちの一つを入手する事ができたならそこから何らかの情報を得る事はできるはずだ。

 ゲームだったらよくある展開。

 そう言い聞かせてどうにかなぁれと投げやりに祈る。


「結局未だに名前もわかってないんだよな……」


 次に会ったら聞こう、と前も思っていたような気がするのだがいかんせんいつどこで出会うかもわかっていないせいで、その次が来た時に名前を聞くタイミングを逃してしまうとまた次の機会を待たなければならない。自分から直接出向くにも、あの人普段どこにいるんだ……? という疑問が出るしテラに報告したところで調査中という言葉しか返ってこない。


 教師ではない、というのだけは確定している。


 最初に出会った時、彼女は半透明だった。普通のヒトでないという事だけは確かだ。

 テラは精霊ではないか、と疑っているようだが……だとしても学園で昔から力を貸してくれている精霊とは異なるらしい。

 よそから来た精霊だとしても、ちょくちょく姿をウェズンの前に見せている割にそれ以外の誰も彼女の事を認識できていないのもあって、本当に精霊かどうかもまだわかっていない。

 精霊だとしても、そうじゃなかったとしても。


 学園にそんな不明の存在が滞在しているという状況はテラたち学園の教師やその他関係者からするとあまりよろしくないというのだけは確かだ。だからこそ他の教師たちも一応気にかけてはいるらしいのだけれど、今のところ誰も彼女の事を目撃した様子はない。


 ウェズンから見て特に害はなさそうだけれども、ウェズン以外にそうでないとも限らない。

 故に放置などできるはずもなく。


 次に会ったら名前もそうだけど、学園内を移動するならもうちょっとこう、学園の関係者に連絡だけでもしておいたほうが……と伝えておくべきだろうか、とも思い始めた。

 とはいえ、次に会うのが果たしていつになるかはわからない。

 次に会った時にそもそもそういう話ができるかどうかも謎だ。


 一応心の片隅に留めておこう、と思いながらもウェズンはこれ以上外をうろつく気分にもなれず自室へと戻ることにした。



 さて、父から手紙が届いたのはその二日後の事である。


 妙な重さを感じつつ封筒を開ければそこには紙に包まれた鍵が入っていた。


 鍵。


 少し前に鍵がどうこう言われたばかりなので、安直にこれはもしや……!? と思ってしまう。


 しまうのだが。


 父と前に話した内容を思い返す。

 何故か母のモノリスフィアを所持している相手。色々と事情があるらしく、出来れば手を貸してほしいと言っていたのも記憶に新しい。


 そもそもモノリスフィアって魔力認証式だから他人が誰か他の人のモノリスフィアを奪ったりして使うのってできなかったんじゃなかったっけ……? という疑問もあるのだが、何らかの抜け道みたいな使い方があるのかもしれない。物事って複雑になればなる程その分付け入る隙も増えたりするわけだし。

 とはいえ、じゃあどういう方法があるのか、と問われてもウェズンには思いつかなかったけれど。



 謎の女が言った鍵がもしこれであったなら、と考える。

 確かに近々手に入れると言っていた。そこにこの鍵だ。

 安直であろうとも繋げて考えてしまうのは仕方のない事かもしれない。


 しかし。


 では、あの女と父とは何か関わりがあるのだろうか……? と考えて。

 考えてはみたけれど、正直さっぱりだった。


 仕事の付き合いで、だとか関係性はまぁいくつか想像できるけれど。

 そのどれもが正しいかもしれないし間違っているかもしれない。

 正解は結局のところ父の口から聞かない限りわからないだろう。母も知っている可能性はあるけれど、教えてくれるかどうかは微妙だ。


 流石に、浮気相手だとかそんなオチではないと思いたい。

 浮気相手に自分の妻のモノリスフィアを渡しておくとかどんなだ。

 母のモノリスフィアを代理で所持しているらしき女と母が知り合いであるならば、流石に父の浮気相手ではないだろう。何らかの事情がある知り合いと考えて間違いはないはず。


 自分の父があまり賢くないタイプであればやらかしててもな……とは思うが、ウェズンから見て父がそこまで愚かな人間であるとは思えなかったが故の結論であった。

 もしこんな事を実の息子が考えていると知ればウェインは間違いなく泣いただろう。あまりの信用の無さに。いや、ある意味で信用されているから浮気はないなと思われているのだけれども。


 ウェズンの手の中にある鍵は、なんというかそこらにありそうな形状というよりは、それなりにありそうな形をしているけれど日常使いで用いられているタイプとは異なる見た目の鍵だった。


 ウェズンの前世、マンションやアパートなどで使われているようなタイプの鍵というよりも、どこかアンティークのようにも見える見た目なのだ。ゲームなどでは普通に見かける形状と言えるかもしれない。


 鍵穴に差し込むべき部分はさておき、鍵穴に差し込まない部分には細やかな紋様が刻まれている。鍵の大きさは全体的な長さで二十センチ前後だろうか。そこらのご家庭の鍵と比べると明らかに大きい。ゲームアイテムなら間違いなく大事なものとかそういうカテゴリに属してすらいそうである。

 そこらの家に使うような鍵ではない。では一体どこで使うものなのだろう?

 何と困った事にこれを送ってきた父は、一切それを明記していないのだ。ふざけてんのかと言いたくなっても仕方のない事だろう。



 とても安直に結びつけようと思えば、結びつかないわけでもない。謎の女が言っていた彼女。父の知り合いらしき、なんだか手助けが必要らしい女性。結びつけるだけなら可能ではある。


 だが、では彼らの関係性は? となるとさっぱりわからない。


 母のモノリスフィアを持っている女性と父。あの女性は父のモノリスフィアの連絡先を知っていた。ここが無関係でないのはハッキリしている。

 だが、学園内で見かけるあの謎の女と彼らが知り合いか、となると……いや、父はこの学園の卒業生でもあるのだから、もしかしたら知っていてもおかしくはない。


「……聞くだけ聞いてみるか……?」


 思わず声に出して呟いてみる。

 モノリスフィアの向こう側の女性については教えてくれなさそうでも、学園で見かけた彼女の事は。

 もしかしたら何らかの情報が得られるかもしれない。


 もし彼女が学園七不思議みたいなやつ的な存在だったらどうしよう……なんて馬鹿な考えも浮かんでしまったけれど。


 それならそれでいいとも思ったのは確かだ。


 何せこの学園にいるだろう存在のはずなのに、ウェズン以外彼女の存在を誰も知らないようなので。

 テラには一応報告してはいるけれど、しかしイアはその存在を知らず、また他の生徒にそれとなく尋ねてみても返ってきた答えは皆同じ。

 恐らく精霊だろうと思うのだけれど、下手をすると自分にだけ見える幽霊みたいなやつなのでは? と思ってしまっても仕方がないような気さえしてくる。



 だからこそ、この鍵は何に使うやつなんだ、という質問が来るだろう事を予想している父に鍵の事はさておいて、まずは学園内で見かけた謎の女性について質問する事にしたのだが。



 知らん。



 何度目を擦ったりして見直しても、モノリスフィアにてやってきたメッセージの返答はそれだけだった。


 おいこの学園不審者が侵入してるんじゃないか大丈夫か。


 危うくそんな事を口走りそうになったのは言うまでもない。

 ついでにこちらが更に質問を重ねる前に、鍵については向こうから連絡がきた。


 曰く。


 その鍵が必要になる場所は多分そのうち学園の授業で行ける先にあるとの事。


 ざっくりしすぎてもうちょっとヒントが欲しいと追撃メッセージを送ってみたが、その後父の返信は一切無かったのである。


「丸投げにも程がある!」


 そりゃあウェズンとてそんな風に叫ぶというものであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 創作あるある、意味深なこと言っておいて肝心な事を説明しないやつ。 知ったら駄目なヤツでないならちゃんと説明しろ! なお、リアルでもわりとよくある模様。クソが!
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