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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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その出会いは偶然か



 結局魔晶核ってなんなんだろう、とウェズンは思ったものの父の様子から深追いして聞くのはやめておいた方がいいんだろうな、と理解はした。藪蛇になりそうな気配がぷんぷんしていたのだ。


 前世でも、妹たちがコソコソしていた時に何かよからぬ事でもしているのでは……? と思って問い詰めた事があった。

 結果として別に何か悪事を働こうとしていたわけではなかったのだけれど。


 というか、弟の誕生日が近かったからそれのお祝いをしようとサプライズっぽい感じでパーティーをしようと計画していただけ、という蓋を開けてみればそれなりに微笑ましい出来事だったのだけれど。


 まぁ妹たちに非難されたわけだ。


 普段そこまで関心持たないくせにこういう時ばっかり! だとか。

 誕生日にお祝いしようと思うんだけど、なんて言えばどうせ気恥ずかしくなっていいよそんなの……とか言うだろうけど、実際しなかったらしないでうちなんて誕生日祝うとかした事ない、なんて友人に話したりするくせに、だとか。

 そういうのやられたらこっちだって祝う気なくすってなるから、じゃあもう自己満足だろうとなんだろうと勝手にやろうって話してただけなのに、だとか。


 妹たちの言い分は、理解できないものではなかった。


 ちょっと思春期拗らせていた渦中の弟は、確かになんというか言葉が足りないというかたまに余計な一言を言っては妹たち――弟から見て姉もいたけれど――に叱られたりもしていた。

 なんでもいいって言っておきながら本当になんでもいいわけではないという、大変面倒くさいメンタルの持ち主でもあった。

 ごはん何食べたい? って聞かれて何でもいいって言うから納豆ご飯出したら明らかに不機嫌になるタイプ。マトモな食べ物が出てるというのに一体何が不満なのか。


 普段こっちの事なんて気にしたりしないくせにこういう時ばっかりコソコソ嗅ぎまわって、とかそれはもうボロクソに言われていたのだ。

 なお渦中の弟は泣いた。メンタルズッタズタにされて泣いた。

 弟から見て妹と姉たちの口撃こうげきはどれもこれも鋭すぎるナイフのようだった事だけは確かだ。



 まぁ、そんな前世の思い出がふと蘇った事でウェズンは時と場合によっては知らないままの方がいいって事もあるよな……と納得している。

 前世の家族に関する話と今回の魔晶核とはなんぞや? というものが同カテゴリになるか、と問われるととても微妙ではあるけれど。


 だがあの父が、知らないままの方がいい、という事は何か知った場合、その情報を欲する相手がいてしかも性質の悪い相手である可能性が高い……かもしれないという事だ。

 下手に知っている風を装ったらそれだけで面倒事が舞い込んで来る可能性は否定できなかった。


 武器の所持を認められていてなおかつ魔法だの魔術だのが平然と存在している世界で、自衛手段はあるけれどだからといってわざわざ危険だとわかるような事に首を突っ込んだり足から全身ダイヴするつもりもない。そんな事をしなくたって、面倒事や厄介な事というのは大抵向こうからやってくるのだから……



 というわけでウェズンは正直ちょっと気になりはしているものの、後日ルシアにそういやあの魔晶核ってなんだったん? わかった? とか聞く事すらしなかった。


 ゲームだったらフラグは積極的に立てていってイベントを起こしてなんぼだと思っているが、現実でそういうのは大体死亡フラグなので。


 それでなくともイアの話からしてこの世界、既に死亡フラグというか世界滅亡フラグが立ってるわけだし。

 勇者になって世界を救うんじゃなくて魔王にならなきゃいけないとかいうのが今でも意味がわからなすぎるとウェズンは思っている。


 自分の役割ってなんなんだろう。そういうのがあるから、魔王にならなきゃいけないって事なんだよな……? じゃなきゃ別に誰が魔王になろうと問題ないはずだし、勇者との戦いの結末だってどうでもよいのでは……?


 イアが肝心のラストシーンとかその後のエピローグ的な部分をすっかり忘れてるのが痛い。

 途中がすっぽ抜けててもラストがある程度ハッキリしてればそこに辻褄さえ合わせればどうとでもなりそうなのだが……


 と、果たして何度目だろうかと思える無駄な考察を重ねて、ウェズンは何事もなかったかのように今日もまた学舎と寮とを往復するのである。


 大体原作に思いを馳せたところで小説とゲームがあってそのどちらの要素もあるっぽい時点で、原作に無い展開があってもおかしくないのだ。考えたところで……という風に考えるのもいい加減数えるのが面倒なくらいやらかしている。


 考えても意味のない事を考え始めるという事はつまり、暇を持て余しているからだろうと結論付けてウェズンは自室でごろごろするのをやめてとりあえずもう一度外に出た。


 適当に身体動かしとけば無駄な考えもしなくなるだろうと思って。


 季節は秋から冬へと移り変わろうとしている。

 夏の間はまだ明るい時間だったけれど、今はそうでもなくなっていて遠い西の空を見れば茜色に染まっているのが見える。頭上へ視線をやればそこはすっかり夜空としか言いようのない色が広がっていた。一つ二つと星の輝きが目に入る。日が沈みつつあるからか昼よりも少し肌寒く、吐く息がかすかに白く見えた気がした。


 外を歩いている人の姿は全くと言っていいほど見なかった。


 生徒の大半はとっくに寮に戻っているだろうし、教師も学舎かはたまた自分たちの私室がある建物にいるのだろう。時折遠くで何かが動いているのが見えて、そちらを注意深く観察してみれば人ではなくゴーレムであった。


 恐らく何らかの仕事中なのだろう。わざわざ邪魔をするつもりもないのでウェズンはゴーレムがいる方向とは別の方角に歩みを進めた。


 そうして適当にあちこち移動してみたものの、別段忙しくしていたわけでもない。

 またどうでもいい考えが頭の中を埋め尽くしそうになって、わざわざ外に出た意味がなかったかもしれないな……と思い始める。

 寮からも学舎からも離れて流石にもうここまでは誰もこないだろう……と思える場所までやってきて、これ以上先に行くのもどうしようかと悩み始める。


 行くのは構わないが最終的には寮に戻るのだ。

 あまり遠くに行くのも帰るのが面倒になる。


 まだ明るいうちだったなら、この辺りには他の生徒もいたかもしれない。

 けれども、暗くなってからはわざわざこんな場所まで足を運ぼうという生徒はいかなったようだ。

 教師もこの辺りに特に用事がないのなら、来る事だって滅多にない。


 そう思っていたけれど、遠目に見えたその姿に。


「あれ?」


 ウェズンは一瞬だけ足を止めて、それからすぐに歩き出した。


 ほんの先程までまだ西の空は赤く染まっていたはずだけど、とっくに太陽は沈んでいる。

 そのせいで余計に夜の闇が濃くなって、しかも今日は月も出ていない。上を見れば多少星が見えるけれどその明るさは気休めにもならなかった。


 闇の中、一際濃い闇のような影。それが人であると理解できなければ意味もなく無駄に恐れただろう。

 けれどもウェズンはそれが誰であるかを知っていた。知っている、と言うのはいささか不適切かもしれないが。


「こんなところで何をしてるんですか?」

 ある程度近づいて、その背中に声をかければ。


 彼女は声をかけられる事をわかっていたとばかりに振り返った。


 名も知らぬ女。

 突然現れたり消えたり、更には夢の中にまで現れる謎の存在。

 泣いていたならまたハンカチの出番だろうか、とも思ったけれどそもそも泣いていたのは最初だけだ。

 実際今回も泣いてはいなかった。


「貴方なら来てくれるって信じてた」


 そして、夜を体現したかのような女は。


 いやホントたまたま外に出ただけなんですが。と言いそうになったウェズンに対してとても真剣な目を向けたので。


 あっ、これもしかして真面目な話か。


 そう判断してウェズンはそっと佇まいを正した。

 正す程別に崩していたわけではないが、まぁ気分の問題である。


 ひゅう、と吹き抜けていった風は季節柄かやけに冷たかった。


 ウェズンの髪や服を撫でていった風は、しかし女の髪も服も一切何も揺らさず。


 まるで幻でも見ているような気分だな……なんてウェズンは現実味を感じさせない彼女を表向き真面目な表情で見ていたのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何でもいいと言われたからって、納豆ご飯だしたらそら年頃の女はキレるわwww
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