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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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困惑ワンクッション



 そもそもの話。

 モノリスフィアが瘴気汚染度の高い場所では使えない、という時点ででは魔力由来の魔法の道具みたいな物ではなく、ウェズンが知るような前世の――それこそ電話だとかが何故この世界で広まっていないのか。


 という疑問は勿論ウェズンだって少し前に抱いた事がある。

 けれどもそれはテラ先生の授業であっさりと判明した。


 答えはとても簡単。

 瘴気が原因である。


 モノリスフィアだろうと普通の電話だろうとまず瘴気がある以上どのみち使えない時は使えない、というのが答えであった。


 まず電線を各地に張り巡らせたとしよう。

 電信柱を各地にまず立てたとして。

 町中は問題ない。問題はそれ以外――つまりは人が暮らす事のない外だ。


 まず魔物が壊す。魔物じゃなくたって大型の動物が壊す可能性は充分にある。

 電線の上にとまるのがスズメやカラス、ハトくらいの前世ならともかくこちらの世界もっと大きな鳥が普通に空を飛んでいるのだ。トンビや鷹くらいならともかく、それよりももっと大きな鳥が。


 そんなのが電線に止まれば負担は言うまでもなく。

 そういった動物にも負けないような強度の物を作るにしても、ではその資金はどこから……となる。


 各地の国で作ってくれと言っても、そのための資金を調達するために税金を上げるとなれば国民は当然不満を抱くだろう。確かに電話があれば連絡が便利になるかもしれないが、しかし今の状態でもそれなりに困っていないのだ。そこかしこに電柱を作って電線を張り巡らせて、しかし外では魔物が破壊するかもしれない、という懸念が生じる。そして本当に壊された場合、それを直さなければならない。直さないと使えないから。

 一部分の地域だけ電話がつながらなくなる、くらいなら、最悪そこの地域と連絡とれなくても別に困らないし……となれば放置されるだろう。

 だがそうではない場合。

 毎回魔物に壊されて修理をするとなると、その分の費用も当然掛かる。

 そのたび税金を使われるとなれば、国民の懐もじわじわと痛手を負うのだ。そうなれば勿論不満は溜まる。


 前世のウェズンがそこそこの年齢になったころ、電線は空ではなく地中に埋めて街の景観を良くしよう、みたいな感じの流れになりつつあった。

 確かに電線がある場所は鳥が止まってその下が糞だらけという事もあったのでその流れは別におかしいとは思っていない。

 それに場所によっては電線の上にずらりとカラスが並んでじっとこちらを見下ろす、なんて光景が当たり前の地域もあった。前世のウェズンも仕事で出向いた先で一度そういうのを見てしまって、結構迫力あるなぁ……と内心で恐れ慄いた程だ。一羽二羽ならまだしも集団はやはり怖いものがある。


 こちらの世界で仮に電線の上に止まる鳥がカラス以上に凶悪なタイプであったなら、何かあった時がやはり恐ろしい。

 今まではそこらの森の中だけで生息していた鳥だとかが、電線が普及される事で人が暮らす町や村の中にまでやってこないとも限らない。

 そこから生態系が崩れていく可能性も考えると、まぁ現状そこら辺対処できる余裕があるでもなさそうなので無いままでいいのかな、とも思えてくる。


 というかこの世界かつて色んな世界から人がやってきてるんだから、恐らくその辺はもうとっくにやらかした後なのではなかろうか。

 なんとなくそんな気もする。



 では、地中に電線を埋めた場合はどうだろう。

 と考えて、これも駄目だなと秒でウェズンは察した。


 何故って瘴気が原因である。


 基本的に瘴気は結界の中などで閉じ込められた場合地中などに溜まっていく。地中にじわじわ浸透していく瘴気は場合によっては作物にも影響を及ぼすくらいだ。

 最初の数年は問題がなくとも時間をかけてじわじわと地中に埋められた電線に影響を及ぼさないとも限らない。動物だとかが地中に埋められた電線を掘り起こす可能性は低いと思うが、しかし瘴気汚染からはどう足掻いても逃れられない。


 瘴気汚染が酷いところでは通じなくとも、そういった電波だとかがなくとも魔力由来のモノリスフィアが一部とはいえ普及している以上、電話の普及は難しいだろう。

 電線だとかに拘らず電波塔を建てたとしても、場所によっては魔物に破壊されるだろうし、結局然程の変わりはないのだ。

 そもそも前世の電話だって山の近くとか電波が届かなくて圏外とか普通にあったし。それ考えると瘴気のせいで通じないとかもうそれ大体電話なんよ、としか言えなくなってくる。


 結局のところ瘴気問題をどうにかしないといけない、というところに戻ってくるわけだ。



 ――などと、割とどうでもいい事を考えながらもウェズンは自宅と連絡を取る方法が手紙というとてもアナログな手段しかない事にとても遠い目をするしかなかった。

(っていうかさ……父さんも母さんも学園の生徒だったならモノリスフィアを持ってるだろうし、僕がここでモノリスフィアを支給されるのはわかってるんだよね……? だったら事前に連絡先教えておいてくれても良かったのでは……?)


 教えてもらっていれば、今こうしてあえて手紙を書く必要もなくモノリスフィアのメッセージ機能でのやりとりが可能だったのに。


 そう思ったところで今更である。

 書いた手紙を封筒に入れて、とりあえずナビに渡した。直接ナビが届けに行くわけではないが、そういう役目のゴーレムがいるらしいし、ゴーレムが行くにはちょっと……と言うところは場合によっては冒険者に仕事を依頼する事もあるらしいけれど、ウェズンが暮らしていた家にゴーレムが手紙を届けに来た事はない。そもそもあの両親に誰かから連絡がきたという事がまず記憶にないのだが。


 ナビ曰く、ウェズンが暮らしていた家へはその近くの町の郵便に出せばいいだけなので楽との事。


 確かに近くに町はあった。あの町からならウェズンの家に手紙を届けにくるのは問題ないだろう。

 神の楔があるので手紙を届けるだけなら時間はそうかからない。家の近所の町の郵便に出して、そこからウェズンの家に手紙が届くまで……今日届く事はないだろう。

 既に日も落ちている。

 手紙を出そうと思ったのが朝の時間であったなら、今日中に届いたとは思う。

 けれどもこの時間では既に町の郵便は業務を終えているはずだ。


 だからこそ手紙が届くのは明日の朝だと思っておいた方がいい。そこから返事がすぐに届けば明日。そうじゃなければ明後日以降。


 便利なものもあるけど不便な部分もいっぱいあるのは前世とそう変わらないなと思う。


 ウェズンの予想通りというべきか、手紙の返事は翌日に届いた。

 とはいえ、その内容はとてもシンプル。


 恐らくは誰かのモノリスフィアの連絡先と、そうして一言。

 登録したらこの手紙は速やかに処分しろ。これだけだ。


(……何かのスパイものみたいな手紙だな。とても親からの手紙とは思えない)

 連絡先は一つだけ。

 父か、母か。

 流石に全然知らない人の連絡先なんて事はないだろう。

 そう思って登録して、早速連絡をしてみる。


「――誰だ」

「えっ!?」


 不機嫌そうな低い声。かろうじて女だと思える声ではあるけれど。

 その声は自分の知る母の声などではない。


「あ、あの、父か母の連絡先だと思ったんですけど……ごめんなさい、間違えたかもしれません」


 こっちが誰だと聞きたかったが声があまりにも不機嫌極まりないものすぎて、下手にあんたこそ誰、なんて言おうものなら何かとんでもない事が起きてしまうのではないかと思ったウェズンは当たり障りのない事を言ってそっと通話を切ろうとした。

 別にここでそんな問いかけをしたから何があるはずもないのだが、それでも心臓のあたりからなんだか嫌な予感がしたのだ。下手な事は言わない方がいい、とでも言うように鼓動がやけに早まっている。


 間違った覚えはないが、それでも謝って通話を切ろうとした直前――


「まて、お前ウェズリアスノーデンか」

「へぁっ!?」

「違うのか?」

「いえ、そうです僕です」


 随分と頭の悪い答え方をしたな、とは思っている。

 思っているのだが、何というか久々にその名前を聞いたのだ。

 自分の本当の名前。普段は長くてウェズンと縮めて呼ばれているだけに、本名はまったくこれっぽっちも馴染みがない。何せこの名前だって学園に入る時に知ったくらいだ。馴染みがないというのも当然だ。


「そうか。一度しか言わないよく聞け」


 不機嫌さを相変わらず隠しもしないその声は、そう言うとすらすらと誰かのモノリスフィアの連絡先を口にする。ちょっ、えぇっ!? と困惑したい気持ちになりながらも一度しか言わないと言われていたし、これで聞き返したらなんだか恐ろしい事になりそうで、ウェズンはとにかく必死に暗記――だけでは心許なさ過ぎて手近にあった紙にメモをしていく。なかったら多分詰んでた。


 そうして言い終わると女はそれ以上何を言うでもなく通話を切った。


「……え?」


 いや、あの、待って?


「どういう事?」


 というか、そもそもあの人は一体どちら様……?


 おかしい、自分は両親の連絡先を手紙で尋ねたはずなのに。何故こんなわけのわからない事になっているのだろうか。


 ちょっと理解が追い付かなくて、ウェズンはしばらくモノリスフィア片手に呆然と立ちすくんでいた。

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