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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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貴方こそが希望の光



 やはり、諦めるしかないのだろうか。

 諦めてどうにか神前試合に参加して向こうにいるだろうレイを殺さずに勝利するしか道はないのだろうか。

 いや、自分が勝つつもりで話を想像しているけれど、しかし自分が逆に殺されるかもしれない可能性だってあるのだ。


 もし、レイの手にかかって死ぬなら、悲しいけれどそれはそれで有りなのかもしれないな……とウィルは全てを諦めるようにそう思おうとした。そうでも思わないと折り合いがつけられそうにない。

 いや、つけたくはないのだこんな折り合い。

 けれども、イヤだイヤだと言ったってどうする事もできないのであれば、どこかで自分を無理矢理にでも納得させるしかない。どれだけ心が納得なんてしたくない! と叫んだとしても。


「いいえ。いいえ。方法はあるのです」


 けれども思った以上に力強くファラムがそんな事を言うものだから。


 ウィルはうっかり泣きださないように目に力を入れたまま、学院で初めてできた友人を見た。

 他にもウィルと仲の良い相手はこの学院にいるけれど、それでもどちらかといえば一定の距離感はあった。けれどもそんな事を感じさせないくらい仲良くなれたのはファラムだけだ。


 レイと殺しあうような事はもうしたくない。

 けれど、だからといってファラムと戦う事も嫌だった。


 皆と仲良くしたいと思っていても、立場や状況が許してくれない。


 あの時、神の楔をあの島に出現させた神の事を救いだと思っていたウィルだけど、今となっては救いの神だとは思えなくなっていた。身勝手だろうとどうだっていい。

 ウィルにとって重要なのは、大切な人同士で殺しあう事になるか否かだ。

 自分にとって大切じゃないそれ以外まで意識を向ける余裕はなかった。もし仮に神前試合で向こうにレイがいないのであれば、ウィルだってこうも悩まなかっただろう。

 まだレイが参加すると決まったわけでもないけれど、それでもウィルはレイならばきっと参加すると確信していた。


 ファラムは。

 ウィルにとって大切な友人であるけれど、神前試合に選ばれる可能性は半々といったところだった。


 決して弱いわけではない。けれども魔法や魔術に関してはやはりエルフであるウィルの方に軍配が上がるし、武力的な意味での強さはアレスやワイアットと比べればむしろ比べる方が酷というものだろう。

 けれどもファラムは相手のサポートに回るのが得意であった。ウィルより劣るといっても魔術の腕はそれでもかなり凄いのだ。

 選ばれない、という可能性はかなり低い。

 学院に入った当初は魔術のコントロールが若干苦手であったようだけれど、それだってウィルと一緒に練習をしていくうちにあっという間に克服したのだ。

 おかげで学園に強襲しに行った時もそこまで苦戦をする事がなかった。


 そう、魔術の制御が上手くなった事でファラムが神前試合の参加メンバーに選ばれる可能性は上がってしまった。

 もしあのまま、制御が苦手で威力の高い魔術を暴発させるように発動させる事があったままであったなら。

 流石に敵も味方も巻き込むかもしれない危険な状態では選ばれなかっただろう。

 けれどもその不安材料は解消されてしまったために。


 そのせいで、ウィルが学院と学園、どちらを選んでも友人と戦う可能性が発生してしまったのである。


 ウィルにとってはレイもファラムも大事な友達である。

 どちらかを選べと言われたって、そんなのは無理だった。

 選ぶならどちらも。どっちかなんて選択は理不尽なもの。



 思いつめた結果ファラムに相談すれば、では学園に転入というのはどうでしょうと提案された。

 そうすれば確かにレイと一緒だ。

 けどファラムは?

 そう問えばそれならわたしも、とファラムはなんて事のないように言ってくれて。


 ファラムと一緒なら、何も問題が無いような気がしたのだ。


 勿論学院には他に友人と呼べる相手はいたけれど。しかしウィルの中ではそこまで大きな存在ではなかった。もし戦う事になったなら、その時はなるべく苦しまないように……と思う程度である。

 戦いたくない、と思って悩む程の関係ではなかったのだ。



 けれどもファラムは本当にそれでいいのだろうか。

 彼女には彼女なりの目的があって学院に来たのではないのだろうか。

 気になった事を聞けば、ファラムは些細な事ですから、学院も、学園も。なんて笑ってこたえる。

 とはいえ、転入するにしても具体的にどういう事をすればいいのかウィルにはわかっていなかった。


 ファラムはある程度わかっていたようだけれど、しかし二人だけでは少しばかり難しいからとアレスに協力してもらおうと言い出した。

 けれどそのアレスが、難しいと言うのだから。


 やはり、学園に行ってそちらの生徒になる事は無理なのかもしれない。



 落ち込むウィルをしかしファラムは諦めるなとばかりに見つめる。

 目は口程に物を言うというけれど、ファラムの目は決して諦めなんてなかったのだ。


「方法はあるのです。ただ、わたしとウィルの二人だけでは到底無理でしょうけれど。

 アレス、貴方がいればこの方法は可能になります」


「……買い被りすぎだ」


 落ち込んだ様子を見せていたウィルには申し訳ないなと思いながらも、しかしアレスの中では相変わらず学園に転入するというのは難しいと思っている。その考えが覆るような何かがあるとは思えない。

 けれどもあまりにもハッキリと言い切るファラムの様子に、もしかして自分は何かを見落としているのか……? と考えられそうな可能性とやらを模索してみたが、自分の中の結論は変わらず。


 戦力的な意味で言えば、アレスは新入生の中で二番目くらいに強いと思う。一番はワイアットだ。

 正直ワイアットの実力はちょっと常識を無視しているような部分がありすぎて、あれとの明確な実力差というのがアレスにも読み切れない。

 全力で勝負をしたとして、勝率がゼロではないとは思えるがしかし決して高い勝率があるとも言い切れない。勝てたとして、それは恐らく相当運の要素が絡んだ場合だろう。


 そしてそんなアレスが学園に行ったとしよう。

 そうなると学院側はそれなりに優秀な生徒を失う事になる。ワイアットがいたとしても、ワイアット一人だけいればいいというものではない。

 使える戦力が向こうに渡れば、学園側としても多少有利をとれる、とは思う。


 けれども、それですべて良しとなるはずがないのだ。


「いいえ、買い被ってなどいません。この作戦に重要なのは間違いなくアレス、貴方なのです。

 そしてもう一つの鍵は――ワイアット。彼にあるわ」


 そう言ってファラムは話し始める。

 この三人が学園へ転入するための作戦を。


 手続きなどではない。作戦である。



「――正気か?」


 だからこそ、その話を聞いてアレスは真っ先にそう問いかけた。

 いや、確かにその方法なら一応向こうに行ってもわからんでもないな……と思われなくもないのだ。

 普通の手続きをして向こうへ行く場合、どうしたって学院の生徒に友人を殺された者たちの悪感情はあるし元学院の生徒という事で恨みを持つ本人でなくとも怒りの矛先を向けられる可能性は充分にある。


 けれども。


 この方法だとそれが完全になくなるわけではないが、それでも。

 まぁ、多少は? まだマシ。

 そう思えなくもない。


 完全に仲間として受け入れられるわけでもないが、常時敵とみなされるわけでもない……ギリギリの部分で受け入れられなくもない……という危うい状況ではあるけれど。


「えっと、でもそれって」

「勿論危険が伴います。けれど、一番無理のない展開ですよ」

「そうなの?」


 正直ちょっと無茶苦茶だ、と思ったのだろう。ウィルが危険性を指摘しようとしたものの、ファラムはわかっているとばかりに頷いた。


「だってアレス、貴方、勇者お嫌いでしょう?」

「――っ」


 その言葉に、どういう事? とばかりに首を傾げたウィルはさておき。

 アレスは本心を言い当てられて思わず息が止まるかと思ったのだ。


 別に誰かにそんな事を言ったなんてのは、無いのだ。


 授業の一環だろうとも積極的に学園の生徒を殺しに行くような事はしなかった。けれどそれ以外の授業は全部真面目にやっていた。

 ただ積極的に出向く気がしない、と言っておけば周囲はそれで納得していたのだ。

 最初はそうでもそのうち参加するんだろうな、とか思っていたかもしれない。


 どう足掻いても参加しなければならないものであれば諦めるけれど、参加は任意であるものは全て欠席していた。いや、交流会に関してはワイアットが勝手に参加書類を出してしまったので出る事になってしまったけれど。


 けれどもそういったイベント行事以外の通常授業はきっちりとこなしていたのもあって、教師からも特に目をつけられたりはしていなかった。

 もうちょっと積極性を持った方がいい、というのは言われたけれどしかしそれだって、入学早々ワイアットという歩く災厄に絡まれていたので、一応教師として指導名目で言いましたよ、くらいの軽いノリだった。

 どっちかというとワイアットの相手するだけで精一杯で……って困ったように言えば教師もワイアットの事は扱いかねているらしく、あぁ……となんとも言えない顔と声で意味のない音を出すだけだった。


 勇者なんて真っ平ごめんだ、と啖呵を切ったわけでもない。


 むしろ積極性が少しばかり足りていないが概ね優秀な生徒。それがアレスに対する周囲の認識だろう。


 冗談ではない、とアレスは常々思っていたが。


 仮にこのまま神前試合に勇者側のメンバーとして選ばれたとして。

 ワイアットやその他の仲間たちと共に戦って、まぁ無様を晒すような事にはならないと思う。


 だが、その結果それが神の目にどう映るかは不明であるが仮に、何か凄いと讃えられるような事になったと仮定しよう。正直遠慮したいが。


 その場合、まぁ一応記録には残る。


 学園や学院で過去の魔王と勇者の戦いなどの資料が保管されているというのはアレスも知っているのだ。


 あまりぱっとしない戦いだった時などの資料はそこまでしっかり残されてたりしないけれど、それなりに凄い戦いの場合は割と厳重にそれらも保管されていると聞く。


 そう、いっそ伝説と称されている魔王ウェインストレーゼの戦いなどは間違いなく学園・学院両方にその記録が残されているのだ。


 そしてその魔王が唯一腹心と認めていたファーゼルフィテューネも。

 あと一人いたような気がするけどそちらは……生憎アレスの記憶の中にあまり残っていなかった。


 今までの魔王の中で最強は? と問われれば間違いなくこの名が出るだろう。


 実際に直接お目にかかったことがなくたってそれでもかの人物の事を知っている、という人物はそれなりにいるのだ。



 では、もしそういう感じでアレスの事が記録に残ったと仮定して。


 冗談ではないと思った。

 それならいっそパッとしないまま戦いが終わってこんな記録残すだけ無駄だと破棄してくれた方がマシな程に。


 勇者として知られるなど冗談ではない。ましてや記録に残り後世にその存在を知られるなど。


 自分は勇者になどならないと、あの日確かに誓ったのだ。



 だからこそ、勇者という存在を嫌悪している事を悟られないようにしていたというのに。


 それを見抜いたファラムにアレスは、

「どうして……」

 とようやくかすれた声で問うのが精一杯だった。

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