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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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お悩み相談



 最近は平和だな……アレスがそう思ったのは授業が終わった後、本当にふとした瞬間であった。

 特に怪我をする事もなく毎日が平和である。

 なんというか、授業そのものが簡単に感じるとかそういう事ではない。

 ただなんて言うか本当に平和だと思えるのだ。


 原因は察している。


 ワイアットが最近絡んでこないからだ。


 前は授業が終わった後暇をつぶすようにこちらにちょっかいをかけてきたのだが、最近はそうじゃない。ただそれだけで、やけに平和に感じる。


 いい加減アレスに飽きたのだろうか。もしそうならそれはそれでとても嬉しいのだが。

 寂しい、という感情は間違っても出てこない。

 むしろまた唐突に以前のようにやって来られたら嫌だなぁ、と思っている。


 この平和がこれから先も続くのか、それとも束の間であるのか。


 そこはさっぱりわからないけれど、しかし無駄に考えすぎて折角訪れた平和を無駄に消耗するつもりはない。

 このままもうしばらく平和であれ、そう願いながらアレスは図書室へと向かう事にした。

 ワイアットが絡んでくると落ち着いて本も読めないので。



 座学のテストが近い、という事もなく図書室は閑散としていた。


 勿論誰もいないというわけではない。ぽつりぽつりと人の姿は確認できる。密集しているわけでもないので、図書室に誰かを探しに来たというのであれば判別はすぐに済みそうだな、と思う程度だ。


 読書をしている者、恐らく次の授業の予習か復習をしている者、個人的な趣味での調べ物をしている者。

 目的は恐らく異なるだろうけれど、その誰もが静かに自分の世界に入り込んでいた。

 しんとした空気がいっそ心地よくさえ感じられる。

 ワイアットに絡まれている時は静寂とか一切無縁だったのだ。

 下手をすれば自室にまで押しかけてくるので油断も隙もあったものではない。


 前々から気になっていてそのうち読もうと思っていた本を棚から引っ張り出して、アレスは空いている席――周囲に生徒もいないような所を選んで座る。

 椅子を引いた時にカタッと小さく音が鳴ってしまったが、周囲はそれぞれ集中しているからかこちらに視線を向ける事もなかった。静かな空間では小さな音といっても思った以上に大きく聞こえる。それもあってもしかしたら睨まれるかとも思っていたが、そうはならなかった事に内心で安堵した。



「あっ」


 とても小さな声が離れたところで上がる。


 恐らく今しがたの椅子の音を聞いてこちらに視線を向けた誰かだろう。

 そう思ってアレスはとりあえず声には出さず謝罪の意を示そうとして、そちらに顔だけ向けて頭を下げておこうと思った。振り向いた先で、しかしアレスは次の行動に移る事はなかった。


 そこにいたのはウィルだった。

 そもそもあまり会話をする仲でもなかった。

 だがそれが少し前の交流会の時に声をかけられて共に行動する流れになっただけだ。

 共に行動するにあたってそれなりに会話をしたくらいで、交流会が終わった後は特に話をする事もなかった。その時に話をした雰囲気から、悪い人ではないとアレスは思っているがそれ以上の何かがあるでもなければ、それ以下に思うような何かがあったわけでもない。


 何かキッカケがあれば仲の良い友人くらいにはなれるかもしれない。

 けれども、特にそういったものがないのでウィルとアレスの関係は精々が顔見知りといったところか。


 椅子が立ててしまった音の方向を見て、そこに知った顔がいるから思わず声を出してしまった……というところか。アレスはそう判断するとウィルは別に自分に用があったとかではないのだろうなと視線を戻そうとした――のだが。


「あの、ちょっといい……?」


 すっとやって来たウィルに小声で声をかけられてしまえば、無視するわけにもいかなかった。


 読書はまた次の機会になりそうだな……


 とりあえずそう思ったのは確かだ。

 気になっている本であるのは確かだが、別段借りてまで読もうとは思っていなかった。そもそも借りたとして返却期限内に返せるかも疑わしい。

 今までの経験上、そういう時に限って途端忙しくなると相場が決まっていたので。


 なのでアレスは表紙を開く事もないまま、本を棚に戻す事にしたのである。




 ウィルとはそこまで親しい間柄ではない。

 ファラムとはまぁ、何度か会話をした事がある、といったところだっただろうか。

 どちらにしてもこの二人とはそこまで仲が良かったわけではない。


 ただ、成績がそれなりに優秀で自分と同じかそれに近いくらいの――ライバルというつもりもないが、それに近い何か。


 だからこそ一応個人として認識はしていた。その程度だ。

 困った事にどちらかと言えばワイアットの方がよく接する回数があったくらいだ。自分から関わろうと思った事は一度もなのに。


 けれども交流会を前に声を掛けられ協力を申し込まれた。


 ウィルの友人とどうしても話をつけなければならないのだ、と言われ事情を聞いて、思うところがあったのは確かだ。


 今までは友人に裏切られていたと思っていたものが、しかし周囲の大人たちの思惑によるものだと聞いて共感できる部分があったから。

 アレスだって昔、周囲の大人のせいで友を失う事になってしまったのだ。他人事には思えなかった。

 殴り合うなり罵りあうなりして思っていた事全部出してしまってスッキリ、という事にはならなかったけれど。何せウィルがその友人と出会えたのは交流会が終わりに近づくまさにあとちょっとというところで。


 けれども、多くを語る事はなくともどうやら蟠りは溶けたのだろうな、とは思えたから。


 協力を、と言われて実際自分が役に立てたかはわからなかったけれど、それでも良かったとは思えたのだ。


 その後は特に関わるような事もなかったので、ここにきて話がある、というのがアレスには不思議で。

 もう自分が役に立てるような事はないだろうと思ったけれど、それでも自分の助けが必要だというのなら。


 まぁ、話を聞くくらいなら……


 そう思っただけだ。



 図書室を出てウィルが向かった先は空き教室だった。

 人目を避けるようにしてするりと入り込んだウィルの後に続いて教室内に入れば、そこにはファラムも待ち構えていたのである。


「……一体何の用かな?」


 放課後。人気のない教室。そこにいる異性。


 ときてもまぁ告白とかはないだろう、とアレスは冷静に判断していた。


 二人きりであるなら可能性は捨てちゃダメだろ!? と他の男子生徒あたり言いかねないが、しかしこの場にはファラムもいる。まぁ、友人を伴っての告白とかないわけじゃないだろうけれど……とアレスは過去に見た光景をふと思い返してみたが、それにしたってウィルかファラムのどちらかがアレスに告白をするというのはないなとやはり冷静に判断した。


 アレスは二人の事を別段異性として見た事もないし、恐らく二人もそうだろう。

 仮に淡い恋心を持っていたとしても、そういった反応は一切なかったとアレスは断言できる。

 むしろウィルとファラムという仲の良い友人同士の間にちょっとお邪魔しているだけの存在。


 アレスには意味がわからなかったが、交流会前に協力を持ち掛けられてそこから一緒に行動するようになっていた時、突然違うクラスの男子に話しかけられたのだ。


「百合の間に挟まってんじゃねーよ立場わきまえろ」


 あまりに一方的に言い捨てられた挙句言った本人はこちらの反応を待つ事なく立ち去ってしまったので、何を言われたのかもよくわからなかったけれど、まぁ、なんていうか、確かに傍から見れば仲良しな友人の中に特に仲が良いでもない奴が一人いれば異物に見えてもおかしくはない。

 とはいえ、二人から手伝ってほしいと頼まれたからいるだけなので、文句があるならむしろ協力を要請した二人に向けて言ってほしいなとも思っている。


 いっそ拳で語り合おうぜ、みたいな相手なら叩きのめして終了なのだが。

 以前のアレスであればそんな血の気の多い決断をしなかっただろうはずなのに、最終的に面倒になると暴力に訴えた方が早いと気づいてしまったが故だった。

 大体ワイアットのせい。



 ともあれ、大抵の男子が想像するような甘酸っぱい青春の始まりだとかではないな、とそこだけはハッキリ理解しつつアレスは二人のどちらが口を開くのかを待つのだった。

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