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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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藻掻いて足掻け



 考えてみればおかしな話ではないかな、と思う。


 そのおかしいな、がウェズンに前世の記憶があるから余計にそう思えるだけなのか、それとも他に何か引っかかる部分があるからなのかはまだわからないけれど。


 そもそも、こういうアレコレは基本的にある程度成果がでてからではなかろうか。

 何の話だ、と言われそうだが学園と学院の戦いに関してである。


 確かに右も左もわからないような状況下で、しかし突然の危機的状況に陥った時に咄嗟の判断だとかで生き延びることができるポテンシャルを求めているのはわからないでもない。

 学園も学院も求めている生徒はマニュアルだけをこなすのではなく、どんな状況にも柔軟に対応できるタイプだろうし。


 だから新入生としてやってきて間もないうちにあれこれやらかすような事をしていた、と言われれば、まぁ、わからなくもないのだ。

 前世に当てはめると新入社員でバトロワさせて生き残った社員だけを昇進させますみたいなとんでもねぇ話だが。そんなデスゲームが身近に転がってる社会とか冗談ではない。そりゃあニートさんだって働いたら負けって言いますわ。いや実際の社会はそこまでではないはずだけれども。


 だがしかし、そうやってどうにか生き残った生徒たちを秋冬の季節の間何事もなく過ごしてね、というのはどうにもおかしいと思えてくる。

 何かあるのかと思って他のクラスの先輩にあたる生徒に話を聞いてみたりもしたけれど、彼ら彼女らは皆「ごたごたしてたのがそれなりに落ち着いてはいたよ」としか答えてくれない。


 これは……入って早々にあった学院からの襲撃イベントのように何か口裏を合わせろとか言われているのでは……と疑ってレイやイルミナ、ヴァンあたりもそれとなく他のクラスに探りを入れてきたようだが、しいて言うなら校外学習みたいなのはあったかな、とか言われた程度だ。


 校外学習。

 学外授業とどう違うんだ。今までと同じじゃないのか。


 違いを問いただしたところで恐らくテラはマトモにこたえてはくれないのだろう。

 どちらにしてもウェズンたちにできる事は、与えられた課題をこなしていくしかないのだ。


 それもあって、ろくに顔を合わせる事もない留学生たちの事など早々に意識の外になるのはある意味で当然の流れだった。


 それはウェズンたちだけではない。他のクラスの生徒たちも同様で。

 だからこそ、気付けなかった。厄介な事になりかけているという事実を。



 ――学園に留学したとはいえ、やるべきことは半分以上魔法に関する事で、それ以外は実技の訓練や座学といった他の生徒もやっている事ではあるのだけれど。

 思った以上にハードな授業に、留学生たちの大半はついていくだけでやっとであった。


 学園に入学した生徒にはいくつか伏せられたりしている情報も、留学生たちには割と早い段階で開示されたりもしていたが、知れば知るほど闇が深く感じられて一部の生徒たちは留学期間が終わったら前の学校に戻ろうとすら思っていた。

 勇者や魔王として神の前で力を示して、そうして運が良ければ神が願いを叶えてくれる。

 その話は本当かどうかはわからなくても、他の学校に通う生徒たちの間でも広まってはいたのだ。

 ただの噂か、真実か。

 それを確かめるチャンスだと留学を受けた生徒もいれば、噂かどうかを自らが確かめるべく神前試合に選ばれるのだと野望に満ちた者もいた。


 だが、他の学校は精々学校がある区域に発生する魔物退治などに行く事はあっても、神の楔で他の土地へ行ってまではやらない。何故って浄化魔法を覚えていない生徒が大半だからである。

 何かがあっても自力で帰ってこれなければ、学校側としても困るのだ。


 だがしかし、定期的に魔物を退治しているとそこまで強い魔物は出てこない。瘴気が浄化されるからだ。

 弱い魔物の体内に取り込まれた瘴気は魔物を倒せばその分浄化される。

 強くしてから倒したらその分浄化される瘴気の量も増えるとはいえ、倒せなければ悪戯に死人を増やすだけだ。だからこそ、弱いうちに、倒せるうちに倒すのが学校のやり方であった。

 だがしかし、弱い魔物であろうとも数を倒せばその分瘴気は浄化される。


 浄化されれば魔物が発生する事も減る。


 そうなると、戦闘訓練などは本当に学校で生徒同士の訓練しかする事がなくなってしまう。

 お金に余裕があるのなら冒険者たちに依頼として模擬訓練を頼む事もあるけれど、学校側もそう資金が豊富なわけでもないのだ。

 何をするにも金がかかるのは仕方のない話である。


 故に、下手すりゃ死ぬ事も普通にある、なんていう学園や学院の授業は留学生たちにとってはとんでもないものだった。

 学校での戦闘レベルは高い方だと評価されていた生徒もいるけれど、しかし学園の中で見ればまぁ普通くらいじゃない? と言われる程度。

 一応留学生という時点である程度配慮はされているようだけど、このまま上に行けそうになければ留学だけにしておいて期間が終われば学校へ戻る方がいいと言われる生徒も出てきていた。

 無理をして居続けても、来年の春になればまた学院側との戦いが始まるのだ。その時に生き残れそうだと思われていない生徒は恐らくその見立て通りに死ぬだろう。



 クイナの実力は、学校では凄いと言われていた。他の皆が中々覚えられない魔法を、それも浄化魔法を覚える事ができたのだ。

 一応浄化魔法以外の魔法なら使える……という生徒もいたにはいた。けれども浄化魔法だけはどうしても契約ができないと落ち込んでいた。使える魔法の数ならその生徒の方がクイナよりも多かったけれど、それでも浄化魔法を覚える事ができなかったが故に、その生徒は留学生にはなれなかった。


 誰でも覚えられそうな魔法をいっぱい覚えたところで、アタシの覚えた浄化魔法の方がレア度が高いんだからまぁ当然よね。


 そんな思い上がった気持ちすらクイナは当初抱いていた。

 魔法に関する実力はきっとあの生徒の方が上だった。けれども、あの人よりも選ばれたのはアタシなのだと、優越感に浸っていた。そのままこの学園の生徒となって、いずれは魔王に選ばれてそうして、神前試合に出て、神に認められて願いを叶えてもらうのだ――と、夢物語のような妄想をする程度には浮かれていたのだ。


 多分、そういう妄想はある程度の一定数が一度はした事があるとは思う。


 だから別にただ妄想しただけのクイナが悪いとは言わない。

 最初は日の目を見ない場所でくすぶっていた主人公が、日の当たる場所へ出て注目を浴びてトントン拍子に成りあがっていく――立身出世的な物語はいつの時代であっても人々の中でそれなりに受け入れられるものなので。

 自分もこうなれたら、と現状に不満を抱く者が憧れるには充分である。


 だからクイナも留学の話が出た時に、思わずそんな風に妄想してしまっただけだ。

 まるで自分が物語の主人公にでもなったような気持ちで。

 これから学園に行き、そこで実力をメキメキ発揮させて――そうしていずれは。


 その気持ちは最初のうちはモチベーションとして成立していた。


 けれども今は。

 学園の授業についていくだけでもやっとであった。


 魔法に関しては確かに学校にいた時よりもスムーズに精霊と契約できたから、あの学校にいたクイナよりも魔法を覚えていた生徒を超える事ができたと思っている。

 けれども、それ以外にこれといって目立つような何かがあったわけじゃない。


 使える魔法は増えた。けれどもそれを活かしきれない。

 実戦経験が少ないが故、と言ってしまえばそれまでなのだが魔法や魔術なしでの実技や座学の成績は平凡と言ってしまえる程度のもので。


 こんなはずじゃなかった。

 今頃もっとアタシは成長して、皆から注目されるはずで――


 理想と現実がどんどん剥離していく。

 そのせいで余計にクイナは焦っていた。


 初日に案内をしてくれていたニナそっくりのイアについて、あれ以来関わる事もない。

 いや、話しかけに行こうと思った事はあるのだ。

 あるのだけれど、クラスが遠く気軽に足を運べるものでもなく、また授業内容がハードなので実技の後に出向く体力はないし、座学の後は頭を沢山使ってぐったりしているのでそんな余裕はどのみちなかった。


 けれども時折遠くから眺める事ができる程度には見かける事があった。


 彼女はとても楽しそうだった。

 よくあんなハードな授業を笑顔のままこなせるものだなと思いもした。


 いや、当然かもしれない。

 ここでの授業を、それも留学生相手だから今はまだそれなりに配慮されて多少緩くされてるだろう授業でもついていくだけでやっとなクイナと違って、イアは最初からこの学園に入学できているのだ。そもそものスタート地点が違う。


 イアはニナじゃないと言っていた。

 クイナももしかしたら違うんだろうなと思い始めている。

 けれど、それでもどうしてもちらつくのだ。

 かつての何もできなかったニナの姿が。


 あの子があんな優秀な扱いを受けてて、アタシがパッとしないなんて嘘でしょ――!?

 そんな気持ちがどうしたって消えてくれなかった。


 だってニナはあんなにも何もできなかったのに……!!


 違う、ニナじゃない。

 そう思おうとしても、ふとした瞬間ニナだと思ってしまう。


 思い通りにならない現実に苛立って、それで余計にクイナは焦りや苛立ちから小さなミスを連発し、授業の評価にいくつものマイナスをつけていくようになってしまっているのだが、それでも中々気持ちが切り替わらない。このままじゃ学園に正式な生徒として編入なんてとてもじゃないが無理かもしれない。

 けれど、それもイヤだった。


 留学する前、クイナはまたもや大口を叩いてしまったのだ。

 このまま向こうで生徒になってもっと上に行くから、なんて。

 それで学校に戻る事になってみろ。

 上に行くんじゃなかったの? なんて聞かれでもしてみろ。


 言われなくても、陰でコソコソ噂はされるのだろう。

 それを考えると戻れるはずもない。


 いやだ。ここに残るんだ。

 そう思っていても、まるで底なし沼にでもハマったかのように中々現状からは抜け出せない。



 けれども、そんなある日クイナは運命の出会いを果たすのである。

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