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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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限られた時間



 時間割というものがまったくわからないまま授業が開始された感じしかしなかったが、ずっと座学とか面倒だからというとても雑な理由で次の授業からは運動場らしき場所に移動してそこで身体を動かす事となった。

 さぼってもいいけど後がつらいぞ、と言い残してテラはさっさとどこかに行ってしまったので、残された生徒たちは困惑しつつもとりあえず適当にそれぞれ身体を動かす事にした。

 見てないならさぼったところで問題ないだろ、と思った者も勿論いたのだが、いかんせん魔法とかで監視してそう……なんて呟きを誰かがして、そしてそれを否定しきれなかった事で面倒だからさぼろうと思っていた生徒もとりあえず形だけでも……という事で各々柔軟だとか軽く走ったりだとかしていた。


 ちなみにウェズンはイアと組んでひたすら柔軟をしている。


「イア、さっきまでの話ってどうなんだ?」

「確か原作もそんな感じだった気がする……」


 あまり大きな声で話すわけにもいかず、二人そろって小声である。さっきまでの内容程度なら別に周囲に聞かれても問題はないが、原作だとか今後の展開だとか、そういった部分を聞かれるのは流石に問題になる気しかしない。


 小説にしろゲームにしろイアはほとんど忘れてしまっているけれど、しかし先程のテラの話を聞いているうちに、なんとなくそうだった気がするな……と思ってはいたのだ。

 全く覚えのない話だったらともかく、聞いているうちに確かそんな描写があったような……と思えるという事は多分あったのだろう。


 サポートデバイスがないだけで思い出すだけでこうも苦労するとは……と今でも時々思うが、無いものは仕方がない。

 というか、仮に今サポートデバイスをつける事ができると言われたとしても、前の生では生まれた時には既にあったものとは言えそれを今からとなるのは少しばかり……いや、かなり恐ろしく感じてしまう。いくらナノマシンといえども、それを脳に上手くいれるとなると……流石にこちらの医療技術レベルがどれほどかもわからないのだ。転移魔法で脳に、とかできるかもしれないが、それだって絶対大丈夫とは言えない気がする。


 前世では、肉体に苦痛を伴う事がほとんどなかった。

 けれども転生して集落で暮らしていた時に、痛みというのを知った。

 映像で見ていただけの暴力的なシーンを直接体験した時点で、それがいかに恐ろしいかを知ったのだ。


 そして前世で見た映像の中には、体内に異物を埋め込まれそれが原因で死ぬなんていう場面もあった。


 あの時はよくわかっていなかった。ただ知識として理解はしていたけれど、それが実際どれくらい恐ろしい事かなど。

 あれば便利だっただろう。あったなら、今頃はこの世界そのものとも言えたあの本のタイトルも、内容も、何もかもを覚えてこれからの出来事を事前に対策を練って安全にやり過ごしていたかもしれない。


 けれども無いのだから、諦めるしかない。



「どうせ世界を滅ぼすつもりなら、人間がどれだけ死んだって構わない。だから、減らすためにあえて戦わせるように仕向けている、だったかな?」

「減らすったってなぁ……この戦いとやらは何年単位でやってるんだ?」

「確か十年に一度だったはず。次の戦いは三年後になるんだったかな?」

「……あぁ、それで」

「? どしたのおにい」


 イアに背中を押されながら、ウェズンは恐らくそれがあっただろう時の事を思い出していた。


 七年ほど前の事だ。

 一人外で遊んでいた時に、本当に一瞬だが空にパッと光が散った。小さな光であったなら気のせいだと思っただろう。だがしかしかなりの広範囲だったのだ。それこそ見上げた空一面に広がっていたと言っても過言ではない。


 何が起きたのかわからなかった。けれども、その後特に何が起きたわけでもなさそうだったので異世界だしそんな事もあるかな、と流してしまったのだ。

 家の中に戻って母に聞いてみても、あぁ今日だったのね、なんて言われてそれ以上何を言うでもなかったから多分何かの風物詩だとばかり思っていた。


 その後、父がイアを連れて帰ってきた。


 あれは今にして思えば、イアがいた場所の結界が解除されたのではないだろうか。


 父は当時、各地の調査をしていると言っていた。一体何の調査かまでは詳しく聞いていなかったが、初めて父と会話した日、ごっつい台座の上に水晶玉が乗っかってる遠くにいる人物と話ができる道具で最初父が発した言葉は、

「瘴気濃度が上昇でもしたのか?」

 という疑問だった。


 母は恐らく普段自分から連絡を入れる事はなかったのだろう。だからこそ父は緊急事態が起きたと思ったに違いない。実際は前世の記憶を思い出してからというものこれっぽっちも父の影も形もなさすぎて、我が家は母子家庭なんだろうなと思っていたウェズンにそんな事はないと、ただそれだけのための連絡だったのだが。

 そしてその後初めましてと元気よく挨拶したウェズンに父が撃沈するに至る。


 イアを連れて帰ってきた後は、父はほとんど家にいた。

 どこぞの調査が一段落したから、と言っていたけれど、つまりそれは。


 次にどこの結界が解除されるかを知っていて、その周辺を調査していたのだと考えれば割とつじつまが合う。結界の中に閉じ込められた状態の者たちは結界の外が見えていてもそちらへ行く事は叶わず、じわじわと瘴気に蝕まれていく。浄化機が定期的に浄化したとしても追いつかない事だってあるのだ。だからこそ、いっそ一思いに……とまではいかずとも、少しずつ蝕まれていったところで、架空の神様作って生贄を用意せよ! なんてやっちゃった集落の連中がイアを生贄にして集落の外へ放り投げた。それをたまたま近くを調査していた父が見つけて連れ帰った。

 実際どうかはわからないが、ウェズンの中ではかなり正解に近いのではないかと思っている。



「……いや、つまりあと三年しか期限がないって事か」

「そういう事になるね」


 三年と聞けばそれなりに猶予がある気もするけれど、意外と短い期間でしかない。

 苦手科目ばかりを勉強し続けろと言われればきっととても長い時間だと感じられるだろうけれど、その魔王として選ばれて神とやらの享楽のために戦いあまつさえ満足させなければならないわけだ。

 たった三年でそこに至るレベルになれるか、と考えるとかなり無謀に思えてくる。


 これが騎士選抜だとかそういうやつならまだしも、割と世界の命運を左右する代物だ。

 もうちょっと前からこの学園に入った方が良かったのではないか……? どうしてもそう思えてしまう。


 魔王に選ばれるようなレベルに至らない者であるならば、精々近所に出る魔物を退治できる程度だとか、自衛程度に力をつけたいだとかでこの学び舎へやってきて、そしてそこそこになった時点で故郷へ帰るという事もあるのかもしれない。

 そこそこレベルだろうと冒険者ギルドに登録して己の実力で倒せる範囲の魔物を倒す事も、全くの無駄にはならないだろうし。


 だが中にはきっと、次の十年後の事を想定して早々に入学しひたすらに鍛錬を重ねる者もいるのだろう。


 先程のテラの授業で聞いた、この世界に純血の人間はいないというのもそういう意味では理解できる。

 ただの人間が十年も生徒やってればなんというか、前世基準でどうかなと思わないでもないのだ。

 十年あったら余裕で義務教育は終わっているわけだし。大学あたりなら留年を繰り返せば十年……いや、どうだろう。流石に退学勧められそうな気がしてくる年数じゃないだろうか。

 入学前に浪人繰り返してその後入学したけど留年を、みたいな感じのトータルなら余裕で十年超えてる相手もいるかもしれない。


 だがそれはあくまでも前世のイメージであってこちらの世界の人間にとっては十年など然程大した時間ではないのかもしれない。


 ウェズンの両親は見た目だけなら二十歳半ばくらいにしか見えない程に若々しいが、しかし二人の話を聞いていると見た目以上の年齢である事が窺えた。

 というかだ。

 もしかしてあの二人、かなりの長寿種族なのではないか、と思えるのだ。

 ただの人間だと思っていた頃は、なんかの冗談ではないかと思っていたが、この世界の人間と呼ばれている人たちが実際ウェズンの知る人間と同じものではない、というのであれば。


 あの二人に人間以外の種族の血が流れていたとしても何もおかしくはない。


 そしてもし二人がそうであるのなら、その子供であるウェズンも本来の人とは異なる寿命でやたら長生きする可能性が出てきてしまった。

 まぁそこはさておくとして。


 ちょっと身体能力が高いかなと思っていたのも恐らくは何か、別の種族の血が流れているからなのかもしれない。てっきり若さからくるものだと思っていたのだが。



「大丈夫、おにいなら、きっと大丈夫。途中で手を抜いたりしなければ多分」

「きっと、とか多分、とか含んだ時点でとても不安になる発言だな」

「そんなつもりはないんだけど、うーん、不確定要素がないとは言い切れないからさ」


 確かにそうだ。

 イアが知っているという原作、それと比べれば小説・ゲーム版主人公両名が転生者である時点で乖離しているといっても間違いじゃない。

 小説の方にはウェズンに妹なんていなかったらしいし、だがしかしゲーム版の内容は原作ラストまでいくわけでもない、というか方向性は同じくウェズンが魔王になる、という点で一致しているがそこに至る道筋が異なっているらしい。


 原作が完結する前にできたゲームで、最終目標だけがわかっているならある程度その方向性に寄せてそれっぽい終わらせ方をさせる事はできる。だからそこまで大きく話がかけ離れていない、と言えなくもなかった。


 だがもしこの世界が小説版の方なら妹がいる時点で原作崩壊は確実だし、最終的にウェズンが魔王に選ばれるにしてもどこに落とし穴が潜んでいるかわかったものじゃない。

 魔王に選ばれたとして、そこで終わりではないのだ。

 恐らくその後、何かをしなければならない。


 勇者側と戦うのは確定しているだろうけれど、今までも繰り返されてきたその催しをただなぞるだけで果たしてちゃんとしたエンディングへ辿り着けるのか――ウェズンが疑問に思っているのはそこだった。



 正直な話、ウェズンが魔王にならずとも別に問題はないのではないか、と思わないでもないのだ。

 ウェズンが魔王に選ばれずとも、他の誰かが魔王になって勇者側の連中と戦う。

 神にとっての娯楽、こちらにとっては世界の楔を解き放つ儀式。

 けれども、それをそっと問いかければイアは「んーん」と首を横に振った。


「ゲームのバッドエンドだとね、おにいが魔王に選ばれなくて、別の人が選ばれるんだけど。

 結果として神の怒りを買うのか世界は崩壊するの。ゲームとしてその可能性が示唆されてる以上、避けておくべきだと思う」


 そう言われてしまうと、別に僕じゃなくてもいいんじゃないか、とはこれ以上言えるはずもない。


 何がどうなって神の怒りを買うんだ、とも思うのだが。

 余程ふざけた戦いでもしたというのか。

 事前に勇者側と結託しての八百長試合でもしたのだろうか。それとも、両者で手を組んで神に挑んだのか。


 ……どちらの可能性もないとは言えない。


 なんて考えているうちに、チャイムが鳴る。

 結局この時間はウェズンがひたすら柔軟するだけで終わってしまった。

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