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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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迷走



 さて、そんなクイナであったけれど、学校の中での成績はかなり優秀だった。

 魔法学校といっても実際魔法を覚える事ができるかどうかは……といった部分もあった。なにせ魔法は精霊の協力が必要なものだ。

 精霊と契約できなければ使えない。

 だからこそ、実際学校で教えてくれるのは魔力の扱い方や、魔術の使い方である。


 テレーズ魔法学校ではなく魔術学校に名前を改めるべきではないか、クイナはそう思った。


 一応魔法に関しても教えてはいるのだ。

 精霊との契約ができれば魔法は使える。特に魔術では実行すれば最悪命を削る行為にもなりかねない浄化魔法に関しては、覚える事ができたなら神の楔の転移で見知らぬ土地に行くのも大分気軽に行ける事になる。


 今まで結界に閉じ込められていた事があったクイナからすれば、もしうっかり知らない土地に行くにしても、かつての故郷でもある集落があったような場所に行ってしまったら、もう外に出られないとわかっていた。浄化魔法がなければ。体内を瘴気が汚染しつつあれば。

 神の楔はそれらを外に出そうとしない。その場に留める。

 それは学校に入ってから教わった事。

 だがクイナは数年前までは結界に閉じ込められていた土地に暮らしていたのだ。だからこそ、それらを知って「あぁ、そういうことか……」と納得もしたのだ。


 瘴気が身体に及ぼす影響も学校で教わった。

 言われて確かに、と納得するしかないものばかりだった。


 一瞬、本当に一瞬自分の性格が悪いのは瘴気のせいじゃないか、なんて思いもした。

 けれども集落で暮らしていた時にクイナを蝕んでいた瘴気は今はもうすっかり抜けている。体調はすこぶる万全。瘴気による精神不良もない。

 だからこそ、あれはもうクイナに染みついてしまった人間性なのだ。変えたい、変えよう。そう思っているからこそ完全に最悪なところまで辿り着いてはいないけれど。


 瘴気のせいじゃない。

 結局はクイナのせいなのだ。


 弱者を踏みにじる事が当たり前であると思ってしまったが故の現状。



 せめて、どうにかしたい。


 そう思ってクイナは一生懸命に学んだ。今まで迷惑をかけた人の分まで誰かを助けたりすれば、ちょっとは自分の中の駄目な部分もどうにかなるんじゃないかと思って。

 浄化魔法を覚えるための精霊との契約は、そもそも精霊がいなければ契約どころではない。だが大半の精霊は目に見えるものではない。いるかどうかもわからないなりに、クイナは時間を見つけては学校やその近所で精霊と契約しようと頑張っていたのである。


 その努力が精霊に認められたのか、ある日本当に突然に契約は成功してしまった。


 テレーズ魔法学校では基本的に魔術を教えているけれど、精霊と契約できた生徒には勿論魔法も教えている。けれども、精霊は土地によって大きく存在する数が異なるため学園や学院であればまだしも、それ以外の場所で契約を結べる者は極わずかである。


 だからこそ、滅多にない精霊との契約成功者であるクイナは学校中で褒め称えられた。凄いと称賛された。

 称賛がとても心地良かった。


 まぁ? 貴方たちとは違うのよ。


 そんな風に、気付けば調子に乗ってとんでもない言葉を吐いていた。


 だからこそ、クイナを褒めてくれた他の生徒たちは徐々に彼女から距離をとった。

 確かに凄いよ? でもさ、あんな風に言わなくたってよくない?

 こっちだってできるものなら精霊と契約して魔法使いたいよ。

 どうしてあんな奴が精霊と契約できて俺にはできないんだ。一体何がダメなんだろう。

 そんな風にひそひそされながら。


 あの時そんな言葉を吐かずにもっと謙虚になれていれば。

 そうしたら今回同じくテレーズ魔法学校からグラドルーシュ学園に留学にやって来た生徒たちとももうちょっと仲良くできたと思う。

 けれども今からクイナが歩み寄ろうとしたところで。

 同じ学校の生徒たちはとっくに歩み寄るつもりも何もないので、クイナが声をかけても話はやんわりと切り上げられて学園についた時には離れた位置でクイナと同じ学校の生徒だけど彼女とは関係ありませんよ、と言わんばかりに物理的にも距離を取られていた。



 さて、そんなところにかつての集落で過ごしていた時の、自分が万能で全能であると思える程に何をしてもいいと思っていた相手とそっくりな人物を見つけてしまったのである。


 クイナが覚えているのは、生贄として逃げられないように足を折られてそうして集落の外に連れていかれたところまでだ。

 けれどもその後すぐに結界は解除され、ニナは誰かに助けられたと聞いていた。

 死んでいなかった。その事実にクイナは特に何も思わなかった。

 あぁそう。それくらいの感情だった。


 けれども、ある日ふと思ってしまったのだ。


 クイナが新しい場所で人間関係に困っているのに、もし引き取られていったニナがどこかで幸せになっていたら、と。

 あんな何もできない子が幸せになってるはずはないと思いたいけど、でもあんな状態のニナを助けるようなお人好しがいて、しかもそれを引き取ろうとするお人好しもいる。

 もしそんなところで幸せそうに暮らしていたらと考えると、何故だかやたらと苛ついた。


 だって自分は幸せじゃないのに。

 あの子が幸せだなんておかしいじゃない。


 クイナは本気でそう思っていたのだ。


 そういった性根の部分がダメなのだと、本当の意味でクイナはわかっていなかった。勿論今まで指摘された事もあるから、自分は嫌な性格の人間なんだと理解はしている。けれども、指摘された部分は勿論駄目だとわかっているけれど、それ以外の誰かに心情を吐露したわけでもない部分の駄目さ加減については、指摘されていないからこそ問題ないと思い込んでいたのである。


 ニナそっくりの生徒は学園内を案内する役として他の生徒たちと一緒になって移動していた。

 学園の制服を着て。クイナは最初、勇者役を選出するフィンノール学院に行くつもりであった。けれども適性が足りないという事で入学以前の話だった。

 なら、魔王側のグラドルーシュ学園はどうだろう、そう思ってそちらの入学資格でもある適性検査をしてみれば、こちらも引っかからなかった。そんな状態で入学しても下手をすればすぐに死ぬだけなので、とやんわりお断りされて、まぁ? 寮生活って聞いてるし!? 家族から離れるのもねぇ!? と無理矢理強がってみせたけれど。


 テレーズ魔法学校に不満があるわけではない。

 ただ、あの学校で自分は凄いのだと思えたクイナを適性なしと判断して入学させなかった二つの学校の生徒たちは、じゃあどんなものなのよと思ってしまった。


 仮に凄かったとしても、今の自分より凄いと思えるかどうか。

 クイナは本気でそう思っていた。


 だがそこに、かつて落ちこぼれの象徴だったニナそっくりの少女である。しかも学園の制服を着ているので彼女は最初からここに入学したのだとわかる。他の制服を着た留学生たちと違うのだ。


 少女は普通に歩いていたし、案内の途中で近くの留学生と楽しそうに会話もしていた。

 ニナだったら。

 あんな風にマトモに歩けたりしていないだろうし、あんな流暢に言葉だって喋れるはずがない。

 けれども、もし、と想像する。


 もし、あのニナが普通に歩けるようになって、そうして皆と変わらない感じで話せるようになったとして。そして親切な人に引き取られて幸せに暮らしていたのであれば。

 あんな風に成長を遂げてもおかしくはないんじゃないか……?


 もし、もしニナ本人だったら。


 そしたらすんなりこの学園に入学できてしまうくらいにあのニナが凄かったという事……?


 クイナの中で、ニナのくせに、という思いが生まれていた。まだ本当に本人かどうかもわかっていないのに。ニナだったら、きっとクイナの事を覚えているはずだ。だって、集落の中では一杯一緒にいたのだから。

 ニナじゃなかったら……それでも、自分はあの子より優れているはずだ。負けたくなかった。


 だからこそ寮にやってきて、今日はもう部屋で休むようにとなった時に他の生徒たちが寮の中に行くのを見送って、それから声をかけた。


 少女の名はイア。


 ニナによく似ている。

 けれども名前は異なっていた。


 けれど、引き取られた先でもし別の名前を与えられていたならば。

 そう思ったからこそ食い下がるように確認したけれど、彼女を妹と呼んだ近くにいた男子生徒は最初からその名前で、ニナなんて名前であった事など一度もないと言ってきた。


 兄。間違いなく集落にいた頃のニナには存在しない家族。

 髪や目の色から似ていないけれど、どちらかが父親似でどちらかが母親似なのだと言われればそれ以上は突っ込めない。家庭の事にあまり踏み込むのはよろしくないとクイナだってわかっている。


 あまりしつこく関わろうとすれば、イアと名乗った少女だけではない、間違いなく彼女の兄もこちらを敵視してくるだろう。

 それは、よろしくない事だと思えた。


 だから素直に寮の中に逃げ込んだ。

 でもどうしても、イアがニナなんじゃないかと思えてしまって、彼女が寮に戻ってくるまでそこで待ち構えてしまった。


 もし、もしニナがどこかに引き取られて、お名前は? なんて聞かれたとして、ニナがマトモに話せるはずもなくて。

 もし、ニナって言ったつもりでイアって言ったなら?

 名前が似ているからそういう事だってあるかもしれない。


 クイナはそんな風に考えてしまったからこそ、もう一度確認しようと思ったのだ。

 それでもし本当にニナなのだとしたら。

 クイナは自分が何をしたいのかよくわからなくなっていたけれど、胸の中のもやもやをまずどうにかしようと思って、そんな風に芽生えた疑問をとにかく解消しようと思ったに過ぎない。


 けれども、あれから少しして戻ってきたイアに不機嫌さを隠しもせずに言われた言葉に。


 ここでようやく彼女は自分の知るニナではない、と認めるしかなかったのである。

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