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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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案内、恙なく



 案内役なんて面倒だ、とのたまっていたものの、別に常に張り付いて行き先をナビするわけではない。

 最初に大まかに使う教室と寮へのルートだとかを教えれば、滅多に利用しそうにない場所は案内する必要もない。とりあえず何も考えずに近づいたら危険な場所だとかは事前に知らせておくつもりだが、初日にふわっと案内しとけばそれで終わるのだと考えれば、罰則としては緩い方であろう。


 そう考えたイアは、他の学校からの子かぁ、と思いを馳せてお友達になれるかな? なんて考えたりもした。それ以前にどんな相手が来るかも知らないのだけれど。

 仲良くなれそうな子だといいな、とふわっと考える。

 そんな事を言えば、アクアはどうだろね、とあまり歓迎している様子でもなくそう言った。


「イアはいい子ね。でも考えて、最初にここに来ようと思ってなかったから適正検査されてないだけだったとしても、他の学校って大分平和なのよ? そんなとこからここに留学してお試しでここでの生徒体験したとして、上手くやってけそうな人ってもしかしなくても少ないんじゃないかと思うの」


 そう、アクアは知っていた。

 他の学校に通う知り合いが――近所のお姉さんとかお兄さん的な存在がいたのである。

 そしてそういう学校に通っている人の話を聞く限り、初っ端から生徒同士で殴り合ったりなんてしないし、ましてや他の学校から道場破りよりも物騒なカチコミをかけてきたりもされないのだ。

 恐らく学園や学院と比べれば圧倒的ぬるま湯。

 そんな所で優秀な成績をおさめたからとて、ここでやっていけるとは限らない。


 いきなり難易度の高いところに行くんじゃなくて段階踏んでステップアップしよう、とか考える者も中にはいるかもしれないが、ステップアップするならそれこそ学園だの学院に行こうと思うのはやめておけ、とアクアは思っていた。

 勿論この学園に入ってから固まった考えである。

 アクアだって学園に入る前はもうちょっとふわっとした考えであったのだが、現実を見たら流石にステップアップでここに来るとかマジやめといた方がいい、としか言えない。


 それこそ生まれも育ちも暗殺教団です、みたいなところからくるならここでも全然問題ないのでは? とか思うけれども。普通に生活していて何となく自衛手段を身に着けようと思って、そのついでにちょっと上を目指してみよう、くらいの考えなら間違いなく学園や学院には行くものではない。


 この学園に通う生徒の大半は、それこそ割と本気で魔王を目指している者か、はたまたそんな魔王に選ばれる相手と共に切磋琢磨しようと思う上昇志向高めの奴か、あとはもう普通の生活の人間と価値観が合わずとかいうアウトローな連中か。

 正直真っ当な相手がここでやっていけるとは思っていない。


 現にアクアの目から見て、真っ当そうに見えるけれどイアもウェズンもどっかおかしいと思う部分はあるのだ。どこがどう、とまだはっきりとは言えないけれど、それでも。

 普通の生活に溶け込むくらいはするだろうけれど、けれどもあえてそうしているだけで実際は普通じゃない。


 これがアクアのウェズンとイアの兄妹に対する評価である。


 まぁアクアとしてはそんな二人の事はむしろ好ましく思っているのだけれど。


 だがそれはそれとして、他の学校からやって来た相手がここで馴染めるかどうかは話が別だ。

 実力もついてきて手が付けられなくなってきたからこっちに送るね、みたいな流刑扱いならもしかしたらここでやっていけるかもしれないけれど、そうじゃなかったら。

 ただただ勇者だの魔王だの神の前で戦う事を栄誉な事だと思うようなお花畑であったなら。


 最悪この学園に来て早々に命だって落としかねない。


 そこら辺を語って聞かせれば、イアはうーんと呻いて首を傾げた。


「そういうものかなぁ」

「そういうものよ」

 大分アクアの偏見も混じっているのだけれど、それでもアクアは概ね間違っていないと断言できる。


「それから」

「まだ何かあんの?」

「相手のためを思うなら、初っ端からフレンドリーに接するのはやめておいた方がいいと思う」


 それはアクアなりに本心からの忠告だった。


「……なんで?」


 だがイアにはよくわからなかったらしい。こてん、と首を傾げられてしまう。


「お互いのため。留学生はこのクラスの生徒にならない。イアが本当に仲良くなりたくてお友達になりたいって思うならいいけど、もしその留学生がここに馴染めなかった時、常時イアがお世話係みたいな事になるかもしれない」

「ん? うーん、わかっ、た……?」


 あこれわかってないなとアクアは思ったけれど、まぁいいかとも思った。

 一応アクアはイアの事を友人だと思っているし、そのため忠告めいた事は今した。


 実際に本当の意味でアクアの言葉を理解した時に困っているようなら、その時はまた改めて手を貸してやらんこともないかな、と思う事にして、アクアはそれ以上は何も言わなかったのである。


 ま、そもそもこれからくるであろう留学生とやらが、一体どんな人物なのかもまだわかっていない状態なのだ。

 イアがお友達になりたい、とのたまったとしてもやって来たのが自分より年上の野郎だとかであった場合、お友達になれるかどうかは微妙なところだろう。同年代の同性の友人とかならともかく、そうでなければあとは恋愛が絡むようでもないと異性とべったりするわけにもいかないだろうし。


 それに、とアクアは視線をちらっと移動させる。

 少し離れた席にいるイアの兄。

 彼がいるなら、なんだかんだイアに何かあったとしてもまぁ、どうにかなるだろう。



 ――というわけで、あっという間に留学生がやってくる当日である。


 朝一番で、というわけでもなく留学生たちは昼を過ぎたあたりでやって来た。


 今日は簡単な案内をして、マトモに授業に参加するのは明日かららしい。

 まぁ、朝一でやって来たとして案内をしたりするとなると、それなりに時間がかかるのもそうなので、その場合案内役が授業に参加できないだろう事を考えれば、午前中で授業が終わった日の昼から来てもらうというのは妥当であろう。


 留学生はたった一人というわけでもなく、いくつかの学校から数名ずつがやって来たようだ。

 思っていたよりも人数が多い。


 成程、彼らは彼らで留学生クラスとして授業を受けて、その上でこの学園でやっていく事になるのであればその時に他のクラスに振り分けられるという事か、と何となくイアだけでは不安に思って一緒についてきたウェズンはそんな風に考えていた。


 他のクラスからも案内役を頼まれた生徒がいたらしく、じゃあ案内しまーすという声が上がる。


 少数であればイア一人で案内もできただろうけれど、流石に人数が多すぎるので他のクラスからも案内人が駆り出されていたのは良かったのだろう。

 案内しつつ途中であれこれ質問されたとしても、一人であったならまず間違いなくさばききれなかっただろうし。


 それに最終的に案内する寮に関しては男性と女性で分かれている。

 案内役が一人しかいなかったら、無駄に距離を歩かせるかはたまた一時的にどちらかを待たせる事になるのは言うまでもなかった。複数名の案内人がいるなら最後に男女で分かれてそれぞれ案内すればいい。

 これは自分がついてこなくても大丈夫そうだったかな、と思いながらも、しかし何かあった時の事を考えてウェズンは自分も案内人ですよみたいな顔をして一緒に学園内を回っていった。

 実際は案内人でもなんでもない、ただの冷やかしである。



 案内自体特に何があるでもなかった。

 普通に授業を受ける場所だとか食堂の場所だとか、トイレだとか。

 比較的よく使う場所はちゃんと案内したし、あとはじゃあそれぞれ寮に案内するよという事になって案内人たちは大きく二つに分かれた。

 男子寮と女子寮に向かうためである。


 とはいえ、男子寮の案内をする中には女子の案内人も混じっていたし、女子寮へ案内する側にはしれっとウェズンもいた。何せ彼はイアの付き添いなので。


 建物内部に空間拡張魔法が施されているのはウェズンたちにとっては当たり前の事だったが、留学してきた他の学校の生徒たちからするとそうでもなかったようで、広い、大きい……という言葉が度々聞こえてきていた。

 寮もそんな感じの反応になるんだろうか、と思いながらも寮へと辿り着く。


 一応事前にテラに確認したところ、留学生たちの部屋もウェズンたち生徒と同じ仕様らしいので、部屋のカスタマイズは自らの魔力でやれ、という事になるらしい。

 ただ違うのは、最初にこの学園に入学した生徒たちは部屋の管理役とも言える存在を自分たちで選べたが、留学生たちの部屋はそうではないらしく既に部屋に待機しているらしい。


 生徒たちが選ばなかった者たちが、とりあえず振り分けられたといったところか。


 まぁ、大半はラビぽよとかバニぽよあたりだろう。

 正直あれが見た目的に一番無難なので。あれらを選んだ生徒は多くいるらしいけれど、それでもまだまだラビぽよもバニぽよも数に余裕はあるらしい。一体どれくらい用意されているんだあのホムンクルスたち……と疑問に思ったウェズンだが、流石にそれは聞けなかった。というか聞いてもテラが教えてくれなかった。


 ともあれ案内は一通り無事に終わり、あとは留学生たちが寮の自室へ行くだけである。

 うっかり乱闘騒ぎとか発生するだとか、誰かしらの確執に巻き込まれるだとかの可能性も考えていただけに本当に何事もなく終わった事について、ウェズンはホッと安堵の息を漏らしていた。

 そもそもこれからしばらくは強襲にきたりしないしお外で遭遇してもなるべく戦闘吹っ掛けるなよと言われていてもだ、生徒が皆従順に教師の言う事をきくとは限らない。

 だからこそ、こういう時にここぞとばかりに仕掛けてくる学院側の生徒がいても不思議ではないとすら思っていたのだ。

 一度の過ちなら誤差とか言い出すだろう相手がいないとも限らないし、ましてややらかした後でお叱りを受けたとしても「あ、すません聞いてませんでした」でしれっと謝罪して終わった話にしようとする奴がいても何もおかしくはないのだから。


 いや、仮にも勇者として育てられている側の生徒たちがそんな雑な事を仕出かすか、と言われるとウェズンとしてもやっぱないかな……となるのだが。



 まぁそんな懸念も無意味に終わったと思って、後は寮の部屋でそれぞれのホムンクルスからの説明を聞けば充分だろうと判断しイアに小声でそれじゃ戻ると伝え立ち去ろうとしたその矢先に。



「ねぇ、貴女ニナよね?」


 留学生の中の一人が、イアに声をかけてきたのである。

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