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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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予定調和には程遠い



 アレスがウィルを友人であるレイのもとへ、と思っているのとまさに同時刻。

 ウェズンとレイもどうしたものかと頭を悩ませていた。


 この交流会の目的はやって来た勇者どもを罠にハメてひっどいめに遭わせる事である。

 相手の戦力を削るという考えで間違いじゃない。

 その次の目的としてこの島に隠された一枚のコインの発見を阻止する事。目的の度合としてはこちらが大きい。このコインは神前試合前に使用する事で、若干自陣営が有利になるとかどうとか。具体的にどう有利になるのか、をウェズンたちは知らないのでそこまで必死になって阻止するものか……? という考えになるが、それでも後々向こうが有利になるというのであれば避けておくべき事態なのだろう。


 仕掛けに仕掛け尽くした罠。時として直接攻撃しにかかる学園側の生徒。

 これである程度壊滅できれば言う事なしなのだが、そう簡単にいけば苦労しないわけで。


 学院の生徒たちが島を探索するのは時間無制限ではない。制限時間がある。

 とはいえ、それは学園の生徒にとってデメリットになるものではない。本来ならば。


 時間無制限なら、下手をすれば向こうを全滅させない限り、またコインが発見されない限り学院の生徒たちが島に居続ける事になってしまうが制限時間有りならば時間がくればどれだけこちらの罠が台無しにされたとしても、終わりはくる。

 コインも見つからなかったとしても、時間が来ればその時点で終わるのだ。


 そういう意味では学園の生徒にとって時間制限があるというのはデメリットにはなり得ない。


 だが、ウェズンたちにとって今その事実は若干のデメリットになりつつあった。


 学院の生徒たちが島に上陸する際、転移系の術によるランダムでという事もあり用がある生徒が必ずしも自分たちの近くにいるわけではなかったのだ。ちょっと落ち着いて考えればそれはもちろん当然の話なのだが、このランダム上陸がウェズンたちにとってある意味で最悪の状態になってしまった。


 ここでどうにかしてウィルと遭遇しなければならない。戦って決着つけるのか、それとも話し合いで終わるのかは二人次第であるものの、それにしたってまずは出会わなければ話にならないのだ。


 教室から島全体の様子を見ている他の生徒――ウェズンはイアからモノリスフィアで連絡をうけている――から確認してみれば、狙ったのかというくらいにレイとウィルの距離は離れていた。

 いくらイアがウィルと連絡を取れる状態であるとしても、この状況下では難しいだろう。

 仲間との連絡は取りあったとしても、ウィルにとってイアはたまたま知り合った学院だとか学園というしがらみ無関係の相手だ。実際はどうあれ。

 そんな相手の連絡は、恐らく今されたとしても後回しになるだろう。

 それに、ここでイアが学園の生徒である事を明かしたとして、そうなればレイと会わせるべく誘導しようとしたとしても、罠の可能性を疑われる。勿論こちらにそのつもりはなくとも、どうしたって疑いは生じるだろう。



 なのでウィルを誘導するというのは最初から諦めるしかない。

 かわりにレイをウィルがいる場所まで誘導しようにも、担当区画から大分離れているのでそこに移動させるとなると罠の場所が少々心配になってくる。いくつかの罠は壊されてしまったようだけれど、だからといってルートが安全かと言われればそんな事はない。


 レイは自分の担当区画内に関してはいっそ完璧なまでに把握したのでそこでなら他の生徒と戦闘になっても問題は何もないと言い切れるけれど、しかし他のクラスの担当している区画については正直怪しい部分がある。

 一応どこにどんな罠があるかというのは知らされているけれど、しかし今、学院の生徒たちがやってきてからいくつかの罠は発動し、そして壊されたものもある。

 パッと見であの場所にあった罠は壊れてるっぽいからここら辺は大丈夫そうだな、なんて思っていたら連動し損ねたやつが残っていた、なんて事は充分に考えられた。


 ウェズンはそれでもなんとなく把握できているけれど、レイはどうだろうか。野生の勘みたいなやつでパパッと回避しそうではあるけれど、不確定要素をアテにするのはよろしくない。


 制限時間はそう多く残されていないが、イアからモノリスフィアに連絡がきたのをウェズンはすぐさま確認した。

 どうやら仲間と合流して、そうして移動して何事もなければ十分後には要塞付近へ到着しそうである、との事。

 とはいえ、要塞に必ずしも辿り着くかは微妙なところだ。要塞の存在感がありすぎてあからさまにここにコインが隠されてそう、という雰囲気はぷんぷんしてるが実のところコインはこの要塞に隠されていない。完全無駄足コース。


 だが、それでもレイとウェズンは要塞にスタンバイしていた。

 そしてそれが裏目に出た瞬間でもあった。


 ウェズンが以前見かけて、あ、こいつには勝てそうにねぇや、と思った相手。

 それが今、しれっと要塞内にいるのだから。


 正直ここであの男を倒せば後々楽になるとは思う。思うのだが……果たして倒せるだろうか。

 あの男と一緒にやって来た連中の実力は大したことがないな、とウェズンから見ても思えるのだがそれらを引きつれている奴一人だけでもウェズンとレイと充分渡り合えるだろう。

 あいつのことを無視して要塞から出てレイをどうにかウィルのところへ、と思うがそんな事をすれば間違いなくこの要塞にコインなんてないと確証を与えてしまう。それは避けたかった。

 できる限り足止めしたい。

 こいつを野放しにするとなんというか、目についた学園の生徒バッタバッタと薙ぎ払われていく未来しか見えないので。

 とはいえ、ウェズン一人でこいつの足止めをしようとすればまぁ遅かれ早かれ負ける。それだけは断言できた。


 あれだけ殺す気と書いてやる気に満ちていたウィルなら、てっきり今日という日にレイをおびき出すためにそりゃもうありとあらゆる手段を用いてくれるだろうと思っていたし、その時にこっちもちょっと存在を主張しつつ邪魔が入らないように要塞におびき寄せるつもりでいた。

 仮に他の邪魔が入ろうとも要塞内部の罠は発動タイミングがオートではなく、こちらで選べる物も多数取り揃えている。ウィルだけを通して後は罠で足止めする、という方法もとれるからこそ、ここを選んだ。


 が、しかし結果は御覧のあり様である。


 目当ての人物は未だ要塞に辿り着かず、そしてかわりに放置してたらまずいだろう実力者が既にいる。


 モノリスフィアからの連絡を受けて、ウェズンはレイに「どうするよ?」と声に出す気力もないまま目で訴えた。


「どーもこーも、放置するわけにはいかないってんなら戦う一択だろ」

 コインを探しているのもあって、一部屋一部屋丁寧に探索してくれているので、罠が作動しっぱなしである。だがしかし取り巻きはやられているようだが一番ダメージを受けてほしい人物が無傷。

 彼を無視してウェズンとレイが要塞から出る事も考えたが、現状位置がとても悪かった。

 多分恐らく、次の次くらいには遭遇する。彼らが隣の部屋を探索しているうちに駆け抜けて要塞を出る、というのも考えたが間違いなく気付かれるだろうし、そうなった場合罠を相手にしてばかりで飽きた、なんて考えがあるかどうかはさておき、まぁ見逃してくれたりはしないだろう。


 足止めのために戦えば、ウィルとの遭遇は難しくなる。

 かといってウェズンは一人で相手してレイに先に行けとは言えなかった。その場合自らに待ち受けているのは死であるので。

 正直レイと二人がかりで挑んでどうにかギリギリ互角に持ち込めるか……? というのがウェズンの見解である。


 残りの制限時間は三十分を切った。あとちょっと持ちこたえればまだこの島のコインは発見されていないので、こちら側の勝利と言える。言えるけれど、しかしそれだけだ。

 レイとウィルの問題をどうにかして解決するためにイアが学院に潜入までしてきたというのに、ここで顔を合わせる事なく終わってしまったら、次に二人が会う機会は果たしていつになる事やら。


 イアからの情報でウィルが実はレイは自分の事をどうにかするつもりはなかった、という考えに偏っている今なら話し合うことも可能だろうけれど、今回を逃してしまったら。

 どういう思考の変化を辿るかはわからないが、折角どうにかなりそうなのがどうにもならなくなる可能性はとても高かった。


 仕方ないな、と思ったウェズンはイアのモノリスフィアにメッセージを飛ばす。

 もうこうなったら手段を選んでいられそうになかったのだ。


「おい、この期に及んで何やって」

「問題ない。今済ませた」

 言ってモノリスフィアをしまう。


 そうして武器を構える。


 隣の部屋の探索が済んだらしい一行は、どうにか部屋から出て次の――つまりは、ウェズンたちがいる部屋へと向かっている。


「タイミング全部お前に任せる」

「わかってる。レイは好きに動けばいい」


 二人がこの部屋を陣取ったのは、単純に罠の仕様によるものだ。

 他の部屋と違ってここだけは、ほとんどの罠が任意で発動できるようにしてある。本来はウィルと話し合いの場としてここを使うつもりだった。他の邪魔が入ってもその時に罠を上手く使えばいい、と思っていたので。

 勝手に踏んだら発動するような罠だと足運びの仕方次第で相手にも罠の場所を知らせてしまうけれど、こちらの好きなタイミングで発動できるならそういった心配はしなくても済む。ウィルが来たなら罠を発動させなければいいし、邪魔が入るようならその時に使う。今までそこにいても何の罠も発動しなかったとなれば、まず間違いなく油断は生じるだろうし邪魔者を仕留めるだけなら案外どうにかなりそうだと思っていた。


 結果としてそこに至る以前の話になってしまったけれど。


 規則正しい靴音と、わずかに乱れのある足音がいくつか。

 間違いなく、彼らはこの部屋に近づいていた。

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