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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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やだ、この世界もしかして詰んでる……?



 ざっくりとしてはいるものの、世界の歴史の重厚さを無視するようにテラはサクサクと話していく。


「んで次。ここから歴史は急展開を迎える。

 魔王が死に、勇者と呼ばれた者も死んだ後だな。ある日世界の全てが隔絶された。お前らも見た事はあるだろ、神の楔と呼ばれる転移門」


 転移門。

 それ自体は別に珍しいものではない。

 門、と言われているがその形はさながら槍のような物で。

 ウェズンの家の近くにはなかったけれど、町には確かに存在していたしある日そこを通りがかったらいきなり人が現れて驚いた記憶もある。叫んだりはしなかったけど、ビックリしすぎて一緒にいた母の手を思い切り握りしめてしまったし、母はそれに気付いて微笑ましいとばかりに笑っていた。

 まだイアが来る前の話である。


 そしてその時に母が教えてくれたのだ。

 あれは転移門で、そこから色々な場所に行けるのだと。けれども使うにはいくつかの条件があるから、ウェズンは勝手に使ったりしないように、と。最悪家に帰ってこれなくなると言われてしまえばちょっと試しに……なんて思えなかった。

 一応前世の記憶があるとはいっても、その当時のウェズンはまだ小さなお子様で、下手にどこか遠くへ行って帰ってこれないなんて事になったら最悪見知らぬ土地で野垂れ死にコースだ。

 好奇心と興味本位で自らの命を危険に晒すのはいくらなんでも……となったので度々転移門を使ってどこかへ行くだろう人やどこかからやって来た人を見るだけであった。


「神の楔はそれぞれの大陸の町や村といった場所以外にもある日突然空から降ってきて、それぞれに結界を張った。今でこそある程度転移して各地に移動できるけれど、あれが降ってきた当初は転移できたとしても同じ区画とみなされた場所だけだった。悲惨だったらしいぞ、仕事で隣町に移動していたらそことは別の区切り扱いになって家に帰れなくなった奴とか出たらしいし。

 結界はほぼ透明で向こう側が見えてるのに、決して通してくれない。行きたいのに行けない。そんな感じで突然家族と生き別れになったなんてのも結構な数出たらしい」


 転移門って便利だなぁ、とか思ってた矢先にそんなことを言われると、一体どういう反応をするべきなんだろうか。

 その光景を想像したのか数名から「えぇ、可哀そう」「突然そんな事になったら泣く」なんて言葉が漏れ聞こえてくる。


「目の前に愛する恋人がいるのに結界に阻まれて決して触れ合えない、なんてのもあったようだ。恋人ならまだしも、親子で引き離されたとかってのもあったみたいだな。

 結界の内部だけしか移動できない、ってのも中々に最悪だが結界の中に留められたのは人だけじゃない。瘴気もだ。土地に根付いていたとしても瘴気は基本大気中に広がって一か所にだけ固まってるって事は滅多にない。だが、結界内部に留められた結果、地中から発生した瘴気は結界内部を循環し、魔道具の不調により発生した瘴気だとか、魔術を失敗した際に出た瘴気だとかと合わさってどんどん増していったわけだ」


 普段は風に乗って遠くに流れていくだろう瘴気がずっと同じ場所に、ってそれはそれでシャレにならない気がするんだけど……と思いつつ周囲をちらっとウェズンが見れば、何名かはすっかり顔を青ざめさせていた。あ、やっぱ問題しかないんだなとそれで理解する。


「浄化機もあまり頻繁に動かせるわけじゃない。何せ随分昔にもたらされた代物だ。ぶっちゃけアーティファクト扱いって言っても大袈裟じゃない。一定期間ごとに動かして浄化してるわけだが、瘴気がとどまった事で汚染速度も上昇して、一時的に浄化機をかなりの頻度で動かした所もある。

 結果浄化機に不調が生じて逆に瘴気が、なんて事にもなったらしい」


 どう聞いても負のループだった。


「人間にもある程度瘴気耐性はあるが、それだって絶対じゃない。むしろ汚染されすぎると体調が優れない通り越して最悪異形化する。お前らの中で異形化を見た事あるやついるか?」


 その質問には誰も首を振らなかった。

 異形化という言葉から、決して良い物ではないだろう事はわかるしそれなら見た事がないのは幸運だろう。


「異形化すると魔物に近い形状になる。とはいえ、魔物と全く同じになるわけじゃなさそうなんだよな。軽度であれば浄化さえすれば元に戻る。魔物に浄化したところで意味はない。もっとも、異形化もあまりに進んでしまえば浄化しても手遅れになるんだが。

 結界で封鎖された当時は各地で異形化が発生したらしい。

 正直今でも瘴気耐性低い奴は異形化の可能性あるから気をつけろよ」


 その言葉に瘴気耐性って何? とか耐性つってもどれくらい? だとかの声があがった。

 視線を動かせば少し離れた席でイアが首を傾げていたし、もしかしたら既に低いというのを自覚しているらしいのは顔を真っ青にしていた。

 ウェズンも自分の瘴気耐性なんてものは把握していないが、イアの言うとおりここが小説かゲームの世界であるなら、主人公だというウェズンの耐性は悪くても平均からちょっと下くらいで全くないとかではないだろう。主人公だとすればその手の耐性が高い事を願いたいが、実際どうかもわからないうちから高いものだと思って実際は平均でした、じゃいざという時に困りそうなので楽観的に考えたりはしなかった。まさか瘴気耐性ゼロとかではないだろう。流石に。もしそうならちょっとした瘴気で体調を崩していた事が過去何度もあるはずだろうし。



「神の楔ってくらいだからそれ実行したのはこの世界の神だ。世界中にある日神の声が響いたらしい。

 神曰く、この世界にはもう期待をしていない。故に滅ぼす事にした、だそうだ」


 そう言ってテラは「ははっ」とか笑っているが正直笑いごとじゃない。

「またまた冗談キツイぜ」

 だがしかし中には冗談だと思った者もいたらしく、半笑いでそんな事を言った者がいた。

「冗談だと本当に思っているのか?」

 しかしテラは真顔で返す。

 さっきまで笑っていたはずの男がいきなり真顔になったことで、途端教室内は静寂に満ちた。


「冗談だったら良かったんだけどな。残念ながら本当の話だ。

 さて、話を戻そう。結界によってどこにも行けない状態になって人類は隔絶されたまま瘴気か魔物かによって死ぬ運命が定められた――が、一か所だけ神の楔による封鎖を受けなかった地があった。

 ここだ。元々ここには神の眷属が暮らしていたらしくてな。だからこそここを封鎖する必要はないと判断されたのか、それとも他の理由かは知らん。生憎神の考える事なんてわかるかって話だからな。


 眷属たちは突然の決定に素直に従えなかった。一応抗議してくれる程度には眷属の好感度は高かったらしい。これで人類は皆愚か、滅ぼすべき……みたいな事になってたら今頃ここにいる連中全員生まれてなかったぞ。喜べ」


 先程とはまた違った意味で生ぬるい笑みを浮かべられたけれど、その言葉のどこに喜べる要素があるというのだろうか。もしかしてこの男情緒不安定か? なんてウェズンは考え始めていた。もしそんなことを考えていると知られたら一発ぶん殴られていたかもしれない。


「神は恐らく眷属たちを引き上げてどっか安全な場所に連れて行く算段だったのかもしれないが、眷属たちがそれはもう必死にお願いをしてくれて、何とありがたい事に慈悲を賜ったわけだ。

 曰く――勇者と魔王の戦いを再現してみせろ、だとさ。

 勇者と魔王の戦いなんて直接見た奴はいない。いや、見た奴がいたとして、既にそいつらは死んでるから実際どういう戦いをしたかはわからない。

 しかも再現という事は魔王側になった相手は死ぬ。

 眷属が更にあれこれ交渉してくれた結果、どちらが勝っても構わない。ただ、死闘を演じてみせろとなった。


 神も中々いい趣味してるよなぁ、人間だってコロシアムで命がけの戦いしてる事もあるけど、まさか神と呼ばれる奴までそんな娯楽に興じるとは思わなかったぜ。

 さて、そんなわけで最初、運よくこの島にいた人間たちでその舞台は行われる事になった。演技でお粗末な事したら今度こそ間違いなくすぐさま人類は滅ぼされる。それがわかってるから当時の彼らも必死だったらしい。

 そりゃもう壮絶な死闘が繰り広げられたらしいぞ。

 で、一応お気に召した神はある年数ごとにそれを行う事を示した。

 そこで交渉した結果が、戦いの結果如何にかかわらず勝負がついた時点で結界の解除を約束されたわけだ」


 つまり、とテラは疲れ果てたように言う。


「この学園は魔王側の演者を育てる学園ってわけだ。魔王だなんだと言ってても要は神様のご機嫌取りってわけだな。クソだと思った奴。正解だ」


 その言葉が終わると同時に。


 これまたタイミングよくチャイムが鳴った。

 案外いい加減な感じがしているテラだが、時間配分だけは驚く程に正確であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今作、猫宮作品とは思えないほどテンポがいいな。 しかし酷い世界観。まあ楽しませたらいいよ、と猶予くれるだけ聖書の神とかよりはマシか。
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