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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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彼にとってはちょっと危ないテーマパーク



 ワイアットは早々に合流する形となった仲間たちと共に島内を突き進んでいた。

 仲間と一応言ってはいるが、正直なところ取り巻きだと思っている。

 そもそも実力的な部分を考えれば明らかに釣り合っていない。ワイアットの強さに目をつけて、そうして纏わりつくようになった相手を仲間と言っているだけだった。

 多分彼らとは短い付き合いになるんだろうなぁ、とワイアットは思っているし、何かあったら平気で切り捨てるつもりでもあった。


 ウェズンがそんなワイアットの内心を知ったらちょっと前世の努力友情勝利をコンセプトにした漫画とか一通り読んでこいとか言い出しそうではあるが、仮に読んだとしてもこの男なら多分その努力友情勝利をとんでも魔改造する気しかしない。

 それ以前にそもそもウェズンがワイアットにマトモに話しかけにいく事もないだろう。

 直接話した事はないけれど、それでもウェズンは以前学園に強襲しにきた学院の生徒の中でワイアットの事だけは認識しているからだ。こいつには今はまだ勝てねぇ。


 そんなワイアットはといえば、島に仕掛けられた罠を率先して踏んではそれらを破壊していた。

 こちらが怪我をする前に魔術で破壊してしまえばいい。そうすれば後は壊れた罠の残骸が残るのみ。たまに巻き込まれた奴もいるけれど、そんなのは知らん。自己責任だ。

 大体罠がたっぷりあるとわかりきった場所にやってきているのだから、対策を練るなり何なりするのは当たり前だろうとも。


 仕掛けられた罠は、今年学園に入った連中にしては中々のものであった、とワイアットは思っている。

 もしかしたら元々こういうのを仕掛けた事がある奴も新入生の中にいたのかな、と思う程度にはまぁそこそこ罠として機能しているというべきか。

 実際他の生徒が引っかかって大怪我をしたり死んだりしている。

 まだ生きている生徒は怪我を治したりして再び島を探索したりしているが、あまりにも酷すぎる怪我だと魔術も魔法もロクに上手く発動できそうにない。そういう時に仲間に助けてもらったりして生き延びたりしているわけだが、近くに自分の知り合いもいないような生徒で怪我をした場合は助からない事もある。

 運が良ければ別にロクに関わった事がなくても助けてくれる生徒と遭遇できるかもしれないが、ワイアットは弱者を救済しようなんていう意識はこれっぽっちもない。

 そしてそれは、ワイアットを仲間としている取り巻き立ちも同じであった。


 ワイアットが助けてやれと一言でも言えば、彼の周囲にいる取り巻きたちはそうしただろう。けれどもそれをわかっていてワイアットは何も言わなかった。ただ、今にも死にそうな状態で、かすれる声でそれでも助けを求めてくる生徒をただ見ていただけだ。死ぬまでどれくらいかかるかな、とか考えていたのはそういったものだった。


 ワイアットが助ける気もないうちから取り巻きが助けてあげようとしなかったのは、そうする事でワイアットの意に反する行動をとった結果ワイアットから見捨てられるのを回避するためでもあった。

 仲間だとはこれっぽっちも思っていないけれど、まぁそこそこ使えるかもしれないから一応周囲にいる事は許す。直接ワイアットが取り巻きたちに言ったわけではないけれど、雰囲気がそう物語っていた。


 とりあえず彼らの目的はこの島に隠されているたった一枚のコインを探す事だ。

 ワイアットからしてみれば別にそれはどうでもいいのだけれど、わざわざ参加した以上は見つけておきたい。交流会は時間無制限ではなく制限時間が定められているので、罠ばかりにかまけて遊んでもいられないのだ。


 なのである程度の罠を発動させ無効化。そうする事で島内の移動をある程度容易くさせるという目的もあった。

 コインは基本隠されている。目立つところにポンと置いてあるはずもない。

 そこだけは確かなので、ワイアットは隠し場所になりそうな場所を探そうとして――


「あからさますぎるよね」


 ちらりと見えた建造物に、ついそう零していた。

 いくつかの罠を無効化させて近づいてみれば、そこにはドドンと聳え立つ要塞がある。

 いかにもここにありますと言わんばかりの存在感。

 いやしかし、それがブラフである可能性も……とは思ったものの、どうやらまだ他の生徒たちはここまで辿り着いていないらしい。それじゃあ一番乗りで中を探してこようか、となったわけだ。


 まず近づいた途端に光が襲い掛かってきた。要塞に取り付けられていた武器。ワイアットは悠々と回避したが、どうやら一発撃ったらハイおしまい、というわけでもなさそうで次の一撃を放つためのチャージがされているのがわかる。音からして起動していますよとわかるし、小さな光が集まっていくのも見えている。これで次がないなんて思う奴は余程の馬鹿だ。

 次が来る前に速やかに要塞の中に入らなければならない。

 そう判断したワイアットは即座に行動を切り替えて踏み出していた。


 あっ、という声が後ろで聞こえたが立ち止まりも振り返りもしない。

 取り巻きの一人が他の罠にかかったようだが、それを助けようとすれば間違いなく次の一撃が発射される。そもそも助ける価値もワイアットの中には存在していなかった。


「まっ、たすけ……!」


 声は最後まで聞こえなかった。何かが発動する音はしたが、その後は静かなものだ。要塞の入口へ辿り着き中に入り込む直前でようやくワイアットは今来た道を振り返ったが、そこには既に生きた人間の姿はなかった。


 どうにかワイアットに遅れずついてくる事ができた取り巻きたちが複雑そうな表情を浮かべていたが、ワイアットはそれも気にする事などなかった。

 一歩間違えていたらあの場所にいたのは自分だったかもしれない……などと取り巻きたちが思っているのはその顔を見ればわかる。だが、だからなんだというのか。

 こいつらはワイアットが直々にスカウトして仲間に引き入れたわけではない。勝手に群れてくっついてきているだけだ。それが死んだから、何だというのか。

 ついてくるのは勝手だが、ついてこれなければそこまでの話。ワイアットの認識としてはそうだった。


 要塞の中に入ってみれば、思った以上に本格的すぎて思わず表情を引きつらせそうになった。故郷にあった砦とどこか似通った雰囲気。あの砦はもう使われていないただの廃墟になってしまったけれど。

 廃墟と似ている、というわけではない。かつて使われていただろうあの砦。それが現役であったならきっとこういう感じに違いない、そう思えるものだった。


 油断しているつもりはないが、移動している途中で結構な数の罠が作動していた。ワイアットはそれらをどうにか回避していたけれど、取り巻きは数名死んだ。何かの役に立つかと思ってついてくるのを許していたけれど、なんていうか何かに使う以前に勝手に全滅しそうだな……とワイアットは呆れたように嘆息する。


 こんな事なら最初からこいつら連れてこない方が良かったかな……


 そんな風にも思って。

 いっそあいつら連れてくるべきだったな、とも。

 流石にあまりにも早いうちから手の内全てを晒すつもりもないので今回は彼らには留守番を頼んでおいたけれど。いっそ連れてきてこちら側が脅威であるのだと学園の連中に心の奥底にまで叩き込むようにしておくべきだったかもしれない。

 とはいえ、そんなことを思ったところで今更で後の祭りなのだが。


 ほんの一瞬、回避のタイミングがずれたせいでワイアットの隣にいた生徒が細切れになる。白を基調とした制服なのでワイアットは一応汚れないようにと瞬時に距離をとった。別に、魔法を使って汚れを落としたりすればいいだけだし、そうじゃなくても学院に戻ってから洗えばいい話なのかもしれないけれど、戦ってついた返り血以外の血で汚す気分ではなかったのだ。


 今の今まで他の仲間――と呼んでいた者たち――が死ぬのを見ていたくせにここにきてとうとう我慢の限界に達してしまったのか、その場に蹲るようにして嘔吐した者も出た。

 別にちょっと数分前まで仲良さげに談笑していた相手がミンチになったくらいで情けない……と思ったがワイアットは空気を読む事ができたのであえて口には出さなかった。正直自分と戦ったならあれよりもっと酷い死に方だって有り得るのに。なんでこいつついて来たんだろう、冷めた眼差しをそいつに向けてそんなことを思う。


 そんな事よりも、学院の制服はそれなりに防御力が高い代物だというのに一瞬で肉を細切れにできる罠まで設置してあるなんて、以前学園に来て戦った時はロクな実力の持ち主がいないんじゃないかと思っていただけに、正直ちょっとだけ新鮮な気持ちにもなった。前回戦闘に関してはガッカリしたものだけど、今回は中々やるじゃないか。一体何目線だと言われそうだが、ワイアットの気持ちはまさしくそうだった。


 こんな取り巻き連中じゃなくて、どうせなら無理矢理に参加させたアレスと一緒に来ればもうちょっとマシだったかな……そう思うも、彼は確かに気乗りしないまでも参加はしたし、ついでにいうなら他の生徒と行動すると言っていた。生憎と自分が彼に良く思われていないのはわかっていた。わかった上で絡んでいる。

 その上でここでも一緒に行動しようね、なんて言ったとしてまぁ向こうはやる気なんて出さないだろうし、出さなきゃ死ぬような状況であったとしてもその場合こちらをどうにかして巻き込むかこちらだけを事故に見せかけようとした事だろう。


 本気で戦ってくれるならそれは望むべく、といったところだけど、足の引っ張り合いがしたいわけじゃない。


 とはいえ。


 罠満載で中々にスリルのある建物だけれど。


(ここにはコインなさそうなんだよなぁ……)


 根拠は、と問われると微妙だが、何というか己の直感がそう告げているのである。

 なので来た道を引き返して別のところを行きたいところではあったが、多分まだ生きてる取り巻き連中は納得しないだろう。ここまで来たならしっかりきっちり調べないと、見落としたところにコインがあったら……そう考えるのは当然だ。探しきった上でコインが見つからなかったなら引き返すのもやむなしではあるけれど、そうじゃないうちに引き返したりはしないだろう。ここに来るまでに少なくはない犠牲が出ているのだから。


(ま、こっちが見つけられなくても他の誰かが見つけてればいいだけの話。アレスあたりやる気がなくても参加した以上は真面目にやってくれるだろうし……それならこっちはもうちょっとここにいるとしようか)


 たった今またもや目の前で罠を回避し損ねて死んだ仲間がいるというのに、ワイアットにとってそんな事は本当に些細な事であった。仲間の死を悲しむ振りをするどころか、別行動をしている仲間――だとワイアットが一方的に思っている――アレスに想いを馳せる始末。


 同時刻、くしゃみこそしなかったがアレスは何となく嫌な予感というか悪寒というかな感覚に見舞われていたのは、間違いなくこいつのせいである。

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