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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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肝心な部分を思い出せないので原作小説が来い



 さて、そんなこんなで交流会当日である。


 ここに至るまで長いようで短かった……と言えればいいのだが、結構な長さを学園の生徒たちは感じていた。長いと思っていながらもしかし罠を仕掛けたりする時間は足りないと思っているのだから、何というか業が深い。

 島全体を通しての罠チェックの時などは、学園の講堂を使ってやったが探索ゴーレムくんが罠に引っかかり死ぬたびにさめざめと泣きだす生徒と、逆に罠の威力にひゃっほうする生徒で分かれた。

 この頃間違いなく生徒たちの情緒は不安定通り越して混沌を極めていた。

 後で正気に戻ったひゃっほうしていた生徒たちの動揺っぷりからもそれは窺える。


 とりあえず、お互いが仕掛けた罠がお互いに邪魔をするような事にはなってなさそうだったので表向きの問題はなさそうだ、というところまではどうにかこぎつける事に成功していた。


 ちなみに探索ゴーレムくんの罠チェックは新入生たちだけではなく、二年などの上級生の担当している島も見せてもらうことができた。

 魔導罠に関しては結構参考になるものがあったとだけは述べておく。とはいえ、今からそれらを活かせるはずもない。来年に期待。ただし、生きていればの話だが。



 交流会、といってもテーブル囲んでお茶とお茶菓子でワイワイキャッキャするわけではないのは言うまでもない。そんな和やかな交流会だったらむしろ良かったんだけど……と思わなくもないが、それだって最初の強襲イベントが無かった場合の話だ。既に友人や知人を殺された者がいる以上、今からそんなお茶会紛いの事をしたって水面下で虎視眈々と狙いあうだけでしかないだろう。


 基本は罠任せ。

 囮として出る生徒もいるが、全員ではない。

 だからこそ大半の生徒は島の様子を確認できる遠見の魔法とやらで教室から見物する形となった。

 最初から囮だとか直接戦闘を仕掛けるだとかで参加する生徒だけが、今は島にいる状態である。


 学院の生徒たちの上陸場所は特に決められていないようだった。

 というか、決まっているなら最初からその周辺にこれでもかと罠を仕掛けた事だろう。

 学院の教師側の転移魔術の応用か何かで、それぞれの学年の生徒が攻略すべき島にランダムに転移される。


 罠の上に直接転移、という不幸な生徒はいなかったようだがほんの一歩ずれた途端罠が発動した生徒もいたので、罠の位置を完全に向こうが把握しているというわけでもないらしい。

 運の悪かった生徒の近くにいた学院側の生徒は咄嗟に警戒態勢をとるも、周囲に学園の生徒はおらず無駄に構えて警戒しているだけの様が学園の教室で放送されたりもしていた。

 向こうは敵の奇襲を警戒しているだけだというのに、こうして安全な場所で見ているととても滑稽に思えた。


(あ……!)

 教室でそれら島の様子を見ていたイアは、思わず声を上げそうになった。

 見知った顔がいたからである。

 ウィル。

 ランダムな術で島に上陸する事になったウィルは現状たった一人で島の端の方にぽつんと佇んでいた。

 モノリスフィアで兄にメッセージを送る。


 交流会中のモノリスフィアの使用は禁止されていない。

 学院の生徒たちもそれぞれがモノリスフィアで連絡を取り、早いうちに合流したい仲間との合流地点を決めたりしているようだし、合流できそうにない場合でも情報のやりとりをしているのだろうな、という場面が窺えた。むしろモノリスフィアを手に取る様子もなく島を散歩気分でうろついている生徒などほとんどいない。


 ウィルが現れたのは、このクラスが担当した区画からは少し離れていた。

 担当区画以外の場所にこちらが行く事もできなくはないが、罠の場所を完全に把握しているわけでもないので危険が伴う。ウィルが無事にこちらに辿り着く事ができるかは彼女の運と実力にかかっているが、しかしこちらから迎えに行くわけにもいかない。


 ウィルはモノリスフィアを手に、誰かと連絡を取っているようではあった。

 生憎教室で島の様子を見れるとはいっても、音声まではわからなかった。唇の動きを読めば多少は何を言っているかわかるかも、と思ったが、そこまではっきりと近い位置から見れるものでもない。教室の壁にいくつかのスクリーンが浮かび上がるようにして色々な場所を映しているが、常に一人だけをピックアップしているわけでもなかった。


 大抵はモノリスフィアで連絡をとりながら周囲を警戒しつつ移動している。適当にそこらで拾った小石を目の前に投げて罠がないかを確認してみたりだとか、攻撃のためではないが周囲に罠がないかを確認するために発動させてみたりだとか。

 そうこうしているうちに、いくつかの生徒たちが合流して二人になっていたり三人になっていたり、というグループが目立つようになってくる。


 ウィルもどうやら仲間と合流したらしく、その隣には一人の少女がいた。

 それがファラムであるという事は、ウェズンが見れば一発だったが生憎ウェズンはレイのサポートとして島にいるのでわかるはずもない。ヴァンもファラムと面識がないわけではなかったが、彼は彼で別の画面を見ていたのでそちらに気付く様子はなかった。


 いくつかの罠を危なげなく掻い潜り、ウィルと少女は更にもう一人仲間と合流した。


「あ」

「どしたん?」

「いやなんでもない」


 思わず声を出してしまったからか、アクアに怪訝そうな顔を向けられたが咄嗟にイアは首を横に振った。


 銀色の髪の、片眼鏡モノクルの男。その顔にそこはかとなく覚えがあった。


 あれは。あの人は。


 小説やゲームの中でのウェズンのライバルとしての立ち位置にいた相手だ。間違いない。

 あれっ? どうして学院に?

 いや、魔王を目指す少年のライバルが勇者側の学院にいるのは何らおかしな事ではないのだが、しかしイアの記憶でそんなだったか? という部分があるせいでとても違和感。

 原作にいたのは確かだ。

 けれど、彼はそもそもこちら側の人間ではなかったか……?

 あれ? 違ったっけ? 勇者側だった? いやでもうーん……?


 そんな感じで首を傾げてしばし考え込んでしまったけれど、結局のところ答えなんてでなかった。

 答えがハッキリするのであれば、それはイアの目の前に原作小説でも突然出てこない限り無理だろう。


 限りなく原作に近いけれど原作とは別である、と考えるのが普通だとは思う。

 あの原作に限りなく近い道筋をこの世界が辿っているだけ、という可能性は普通にあり得るし、似て非なる世界であるとも言い切れる。ただ、似ている部分がそれなりにあるから、あの小説やゲームの中の展開と同じ状況がこちらで発生したとして、それもまたおかしなことではないかなとも思うだけで。

 そして勿論異なる展開が起きたとしても、それはおかしな事ではないはずなのだ。


 転生という意味での異分子を取り込んでいるので、もし原作通りの展開になる世界であったとしてもここは既にパラレルワールドとなってしまった可能性もある。最初からパラレルワールドであるかもしれない。


 難しい事をぐるぐると考え込んだ結果、イアは「わからん」と考えるのをやめた。今ここで考えたとしても、自分の中でそれっぽい結論が出そうになかったのだ。

 以前ウェズンが神の楔の転移事故で転移した場所で会った、という話は聞いていたがあの時はまだはっきりと原作に関してハッキリと思い出していたとも言い難い。ふわっと何かあったような気がする、くらいの曖昧さだ。


 彼がこちら側である事が正しいのか、それともあちら側にいる事こそが正しいのか。


 わからないなりにイアはウィルたち三人の様子をただ眺めていた。


 学園側の生徒として見るならば、この三人は後々強敵になりそうだぞ……!? と思える程度には凄いのだと思う。罠が発動したとしても慌てず騒がず無効化し、無効化が無理そうであったとしてもすぐさま障壁だとかを展開し身を守る。場合によっては魔術で相殺するなんて事もしていたくらいだ。


 探索ゴーレムくんが酷い目に遭い続けていたあの一連の出来後を見続けていた身としては、お前らもああいう末路を辿れよ、と言いたくなるかもしれないがしかしウィルたちはこちらの味方になるかもしれない相手だ。たとえ立場が異なろうとも、最後にお互いの命を賭けて戦う事になろうともその瞬間までは味方でいてくれそうな相手である。


 正直何をどうすれば最終的にハッピーエンドになるのかもわかっていない現状で、味方は一人でも多い方がいい。

 凄い実力があろうともそれを使う機会がなければ無意味だし、世界を救うだろう方法が判明したとしてそれがウェズンやイアの手に余る案件であるならそれらをどうにかできる人材は必要である。

 彼らが本当に役に立つかという問いにはこたえられないが。


 ウィルはレイと間違いなくここで決着をつけるつもりなのだろう。慎重に罠を回避し移動している。


「ね、イア、あの人たち凄い」


 隣にいたアクアに袖を引かれてアクアが見ている方へ視線を向ける。


 ウィルたちも罠を回避して現在ほぼ無傷の状態であるからこそ、凄いなと思っていたのだが。


 アクアが言う凄い人たちというのはその更に上をいっていた。


 あえて罠を発動させて、そうしてそれらを魔術で相殺。これを立て続けに行っている。罠がどんなものであるのか、またどれくらいの威力かを瞬時に判断できなければ相殺しようとしても失敗するのは言うまでもない。ウィルたちだって相殺する事はあったけれどそれだって数える程度だ。狙ってやろうとしても失敗する確率の方が高いのだろう。


 けれども彼らは。

 まるでゲームでもするかのような気楽さで軽率に罠を踏み抜き、そしてその罠をしれっと魔術で打ち消しているのである。



 小説の中ではライバル的立ち位置にいたであろうあのウィルと共にいる男が最終的に立ち塞がるのだと思っていた。けれども、どう見ても。


(あっちのが完全にライバルっていうか、ボスキャラじゃん)


 流石に声に出す事はできないけれど、イアは紛れもなくそう思っていた。

 えっ、下手するとあの人たちとレイとおにいは戦う事になるかもしれないんです??


 大丈夫だろうか……そう不安になるのも仕方のない事だった。

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