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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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良心にくる



 島そのものをトレースして仮想空間化させ、そこをゴーレムに歩かせる、という正直一歩間違ったらもうそれ何がなんだかワケわかんねぇな、みたいな術を発動させたテラは、ゴーレムに簡単に指示を出した。

 なんてことはない。

 担当区画として割り当てられた部分を適当に移動せよ、という指示である。

 指示を与えられたゴーレムもその命令に反論も反対もする事なく言われるままに歩き始め――


 一歩目から罠を踏んだ。


 ぼぎゅっ、というなんとも嫌な音を立ててゴーレムの身体が捻じれる。それはまるで水を切ろうとして絞った雑巾みたいな捻じれっぷりだった。

 ゴーレム、ではあるけれど見た目は小学校高学年程度――まぁ大体十歳前後の年齢にしか見えない人の形をしているので、幼い子供がいきなり無残な死に方をしたようにしか見えなかった。


 ひっ、という小さな悲鳴が上がったのはほぼ同時だったと思う。


 確かに学院側の生徒を倒すために、殺意高め威力高めの運が良ければ生きてるとは思うけど最悪死ぬ、みたいな罠を仕掛けた自覚はある。

 けれども、それを目の当たりにすると何というか別の意味で心がキュッとなってしまった。


 学院の生徒であるならば、向こうは既にこちらに襲い掛かってきてるし被害も出たしで、いっそ敵討ちじゃあ! みたいなノリでいけたかもしれない。

 けれども今目の前で酷い死に方をしたのは幼い少年の姿をしたゴーレムである。いたいけなお子様がいきなり身体捻じれるような死に方して血は飛び散るし肉もぶちぶち千切れるしで、そりゃもうビジュアルからして最悪な死に方をしているわけである。ぎゅっと絞った雑巾ならまだしも、人体でそれをやると内臓だとかが零れ落ちたりもするのだ。突然の凄惨な光景に数名の表情がざっと一瞬で青く変わる。


 あのゴーレムがせめて学院の制服でも着ていてくれてたなら、もしかしたらここまでうわ酷い可哀そう……! なんて思わなかったかもしれない。可哀そうも何も、仕掛けたのは自分たちなのでなんて酷いことをしてしまったんだ……みたいな罪悪感が酷い。


 あ、あ……あの罠仕掛けたの自分だ……なんて小さな呟きが聞こえた。


 自分のせいで小さな子が死んだ、となればそりゃまぁ顔色も悪くなるだろう。


 むしろ罠を仕掛けた事を後悔するまである。


 だがしかし、酷い死に方をしたと思ったゴーレムは次の瞬間淡い光に包まれて、何事もなかったかのように元の状態に戻っていた。


「へ……?」


「死んで毎回別のゴーレムあの空間に送るわけにはいかないからな。あのゴーレムにはあの空間にいる限り破壊されても元に戻る魔法がかけられている」


 テラの説明は淡々としていたが、しかしそれで良かったと思うわけがない。

 確かに最初の元気な姿に戻ったかもしれないが、つまりは先程の指示に従ってゴーレムは再び歩き始めるわけで。そしてほかの罠に引っかかるわけで。

 更に酷い死に方をするわけで。

 そのたび何事もなかったかのように復活されても、また死ぬのがわかりきった状態であちこち移動するのだ。


 たまに運良く罠を回避したりもしたけど、そこはつまりゴーレムですら回避可能という事で後でまた設置の見直しだとか別の罠に変えたりしないといけない部分だ。駄目なポイント、という事になるがしかしそれでも、ゴーレムが罠にかからないだけでとんでもなくホッと安堵の息が漏れるのである。


 ゴーレムがほぼ無事に担当区画を移動しているというのはつまり、罠の仕掛け方がとんでもなく甘いという事だ。つまりその後でやり直したりしないといけない箇所が沢山あるという事にもなってしまう。

 後のことを考えるとそれはよろしくない事であるのは確かなのだけれど、しかしこうやって見ていると罠に引っかからないで無事に通過してくれ……! と思ってしまう。


 そうこうしているうちに、ゴーレムは要塞に辿り着いた。

 辿り着いてしまったのである。


 それも要塞の両端に設置された魔導キャノンの射程範囲内にふらっと無警戒でやってきてしまった。

 結果、敵の接近を察知したキャノンがゴーレム目掛けて光線を放ち、ジュッという音を立ててゴーレムは身体の大半を焼かれる。

 ゴーレムの見た目がほぼ人と同じであり、また血といったものも先程からぼたぼた流していたのだが、あの液体実際何なんだろう……と数名の生徒は意識をどこかに飛ばすようにそんなことを考え始めていた。

 エネルギー的な何かを循環させてるんだろうな、という結論に至るのは言うまでもないのだが、しかしそれにしたって何故色が赤いのか。あれのせいで余計人間にしか見えなくて、ゴーレムが罠にかかるたびに罪悪感をザクザク抉られてる気しかしないのに。


 光線で焼かれた結果、身体の大半を消失したがその部分は焼かれた事で思っていたより出血はしていない。だがしかし、それが果たして何の救いになるというのか。

 傷口が焼かれた状態で、出血死はなさそうってだけでも既に身体の大半を失ってるのだから、最早絶望しかない。

 もうちょっと当たり所が悪ければ肉体全部消失していた。


 復活したゴーレムは射程範囲に何度か入り込んでは光線で焼かれるを繰り返していたが、これは仕方のない事だった。要塞の中に入ろうとすればどうしたって射程範囲内に入る事になってしまうのだ。

 そこから逃れつつ無事に要塞に入ろうとするなら、光線が撃ち出される前に凄い素早さで要塞に駆け寄って入口に飛び込むしかない。だがゴーレムは走るでもなく普通の速度で移動しているのでほとんど光線の餌食になりっぱなしである。

 光線も常時撃ちっぱなしというわけではない。次の照射までに多少のタイムラグはある。ある程度の魔力をため込んであるとはいえ、一瞬の空き時間もなく次々に連射できるようにはなっていないので、ほんのちょっとのチャージする時間が必要になるのだ。


 なのでそのほんのちょっとの間でゴーレムは要塞へ近づいていき、光線の洗礼を受け、復活しまた移動する。


 あの空間内では残機が無限にある、みたいな感じだからまだしも、普通であればあんな攻略法はあり得ない。威力だとかは申し分ないな、と思えるからそこら辺これ以上改良しようとかしなくて済みそうだけど、あまりにもあまりな光景を見続けるのは流石に精神的な疲労が半端なかった。


 ようやく要塞の中に足を踏み入れたゴーレムだが、それはもう様々な罠に引っかかってくれた。中には引っかからずスルーしてしまったものもあったが、そちらは別の罠を回避しようとして飛びのいたりでもしない限りは発動しないやつだったので、設置の見直しだとかはする必要がなさそうだった。


 このゴーレムはただ散歩でもするような気軽な足取りで移動している挙句、罠には当たり前のように引っかかるので回避するというアクションが存在していないのかもしれない。


 そうして一通り回り終わった後、テラは再度指示を出した。

 今度は本格的に移動して罠を回避する行動も含めろ、と言われていた。


 ゴーレムは先程よりも機敏な動きになり、罠に引っかかっても回避しようという行動をするようになったり実際ギリギリで回避したりもしたが、それでも引っかかる時は引っかかる。


 既に一度発動させられてしまった罠などの位置は覚えているのではないか、と思ったがテラ曰く一通り回った時点で空間内の罠もリセットされて一度しか発動しないやつも復活してるし、ゴーレムの方も思考パターン切り替えた時に前回のデータそのまま完全に残してるわけじゃないから、基本初見でやってるような感じになる……らしい。


 確かに先程と比べれば動きに大きな違いがある。

 それでも引っかかって悲惨な死に方してたりするけど。


 ギリギリ回避して腕一本持ってかれたまま他の罠のところに行って回避しきれず死んで復活して腕が戻ったなんて時は、もういっそどこか欠損したら一度死んで復活した方が早いのでは……なんて考え始めたほどだ。

 まぁあくまでこれはゴーレムにだけできる事だろうなとは思うけれど。


 ただの人間であったなら果たして何度死んだであろうか、もう数える事すらしなくなるくらいには死んでいると言ってもいい。

 そうして要塞内部も一通り巡った後で。


「ちなみにこのゴーレムの耐久度は基本的な人と同じくらいだ」


 テラが思い出したように言った。


 この世界の人が純血種たる人でなくなった事はもう随分昔の話である。

 なので、まぁ、頑丈さという面でも個人差がとても大きいのは言うまでもない。

 エルフの血を引いた者であれば魔力は高いが身体能力的にそこまで頑丈ではない、だとか逆にドワーフの血が流れているなら身体の頑丈さは折り紙つきだとか。

 そもそも自分の過去のルーツをどこまで把握できるか、由緒正しい家の家系図とか作ってるようなとこならともかく、そうでもない家庭はそういうのがからきしであった。


 それでも一応、何となく標準値というのがそれなりに昔に出されている。どこまで信用できるかはわからない。

 あのゴーレムの耐久度が一般的なそこら辺の人と同じであろうとも、かつての人間と同じであろうとも。

 どちらにしても、罠の威力が凄いというのだけは確かな事だ。


 まぁ、学院の生徒の中に何かすっごい種族の血とか持ってるタイプがいた場合は罠に引っかかってもああまでいかないかもしれないけれど。


 だがしかし、仮にゴーレムがめちゃくちゃ耐久度の高い状態であったなら、きっと罠にかかってもピンピンしていただろう。そうなると見ているこちらの精神衛生上、良い事かもしれないが罠に引っかかった所でノーダメージだと、えっ、威力全然足りなかった……!? となるので、そうなったらこの後の調整がとんでもない事になりかねない。そう、一つの罠で島丸ごと吹っ飛ばすくらいの威力まで上げてしまう可能性すら出てきてしまう。


 なのでまぁ、テラの言うようにゴーレムの耐久度がそこまで高くない、というのはある意味で仕方のない事ではあるのだけれど。


「後日、島全体を通してのチェックもするからな」


 そう言われてしまうと。

 えっ、またあの子が酷い目に遭うのを見ないといけないんですか!?

 となってしまうわけだ。


 終わりが見えない細かい作業も大概地獄であったけれど、何というかまた別の地獄が待ち構えている。

 そう判断した途端、生徒たちの目はすっ、と静かに死んでいったのであった。

すいませんがここから不定期更新になるので毎日更新はここまでになります。

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