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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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作業の大詰め



 さて翌日である。


 お腹いっぱい美味しい物を食べて、肝試しっていうか何かよくわからない夜の散歩を強制的にさせられテラの別荘とやらに辿り着き――ちなみに結構な広さであった――そこから転移方陣で学園へ戻り、寮の自室にて就寝。


 寝る前に風呂に入るべきだったのだろうけれど、疲れ果てたので起きて早々にシャワーを浴びてさっぱりしたところで。


 現実は、ようやく追いついてきたのである。

 つまりは、再び延々と終わりが本当にあるのか、と思い始める程に面倒な作業の始まりである。


 そろそろ作業は大詰めを迎えていると言っても過言ではない。

 ない、のだがその分面倒な作業が目白押しである。もっとこう、別のワクワクするような何かが目白押しとかだったらよかったのに。

 そう思ったところで現実に変化はない。


 今日も今日とて細かな作業だの調整だのを繰り返すのである。


 担当区画と隣接している区画付近の罠の位置を確認し、それならうちはここら辺に仕掛けておくか……といったお隣さんとの兼ね合い。そちらに関してはまだ相手と相談しようがあるが、完全にこちらだけで何とかしないといけない部分に関してはクラスメイトとの話し合いにしかならない。だが、もうずっと延々と作業してると今更別視点で物事を見ろと言われても……となってしまうのだ。


 案外うまくできてるんじゃないか? そう思う事もある。

 これで本当に大丈夫だろうか……? そう不安になる部分だって勿論ある。


 実際ちょっとあれこれ発動しているのを確認しないとこれ以上はハッキリとわからないのではないか。

 そんな風に思い始めてもいた。

 だがしかし、じゃあちょっと誰かテスターとして罠とか軽く引っかかってみて、というわけにもいかない。


 学院の生徒を最悪仕留めるための罠だ。

 そんなの気軽に体験しようなんて、下手したら死ぬ案件。


 だがしかし、このままでは本当にこれでいいのかどうかもわからない……

 困り果てたヴァンは昨夜は別荘で寝泊まりして、本日昼過ぎに悠々とやってきたテラに相談することにした。


「あぁ、それじゃそろそろお試しでやってみるか……」


 なんだか意味深めいた雰囲気で呟かれたものの、何を言っているのかわからない。聞き返すべきだろうか、と思う間もなくテラはちょっと待ってろ、と言ってさっさとその場を立ち去ってしまった。


「え、何どしたん?」


 たまたま近くにいたイアが声をかけるも、ヴァンもよくわかっていないのでさぁ? としか言いようがない。明らかに困惑した様子のヴァンとか、てっきり作業に何かおかしな点でも……? としか思えないので手が空いた他の生徒たちも気付けばヴァンの周囲に集まっていた。

 もし何か不具合でもあるのなら、早急に直さなければならない。

 要塞に関してはほぼ完成したといってもいいが、まだ何か追加するなら新たに素材も確保しなければならないし、そうなった場合は誰が取りにいくかで話し合いが必要になってくるかもしれなかった。



「えっ、なになに何で皆して集合してんの怖い。なんかあった?」


 作業の合間に昼食をとってこい、と言われていたウェズンとハイネが戻って来たのは、まさにそんな時だった。

 何かあった時必要になるのは人手で、だからこそ少人数を時間差で食事休憩に回していたのだが、今回一番最後になってしまったのがウェズンとハイネであった。


 特に話が弾むでもなかったけれど、それでも昨夜の出来事があったせいで全く会話がないなんて事もなく。

 お互いがお互いに手をかけている部分の話をしたりして、思っていたより和やかな食事の時間を過ごしてきたばかりであった。

 だが帰ってきてみれば何故だかほとんどの生徒が集合しているという状況。

 何かあったと思うのは無理のない事であった。


 どう見ても何かあったとしか思えない雰囲気なのに、しかし明確に何があったかを説明できる生徒がいない。


 えっ、何、どういう事……?


 とウェズンとハイネが困惑するのも当然であった。


 だがしかし、それからすぐにテラが戻ってきた事でようやく事態は進展する。


「お、なんだ全員で集合して。そんな楽しみにするようなものかこれ?」


 渾身のきょとん顔をしている、と言ったら恐らく誰もが納得するだろうくらいの表情。

 まさかテラもこんな大勢で待機されてるとは思ってもいなかったのだ。


 いるなら精々ヴァンとあと数名程度、そう思っていたのに実際は全員集合状態。まぁそりゃ困惑してもおかしくはなかった。


 教師も生徒も困惑しているといってもいい状況。原因は明らかにテラなのだが、そのテラもわかっていないとか、おいおい大丈夫か? と事情を知ってる第三者がいたなら間違いなくそう突っ込んでいただろう。


「いやあの、先生がお試しで何かやる、みたいな事言ってそのままいなくなったので、何をするつもりなのかなって……」


 最初にテラに相談したヴァンがそう言えば、事情がよくわからなかった他の生徒も何となく事情を察し始める。


「あぁ、本当だったらもうちょっと後にやる予定だったんだけどな。

 まぁほらあれだ。交流会まで残り期間はあとわずか。最終調整に入っているといっても過言ではないが、隣接しあった区画との罠の兼ね合いだとかはまだこれで本当に大丈夫なのか、とかそういう疑問はあるだろ。

 これでヨシ、と思ってもいざ当日になって罠が発動したら微妙に惜しい感じになった、とかだと手直しする余裕もないしな。


 だからまぁ、これからちょっとしたテストとして罠の動作確認をする」

「えっ、あの、動作確認って……仕掛けた罠作動させられたらまた仕掛け直さなきゃいけなくなるんじゃ……」

 イルミナが咄嗟に声を上げた。

 イルミナが担当した罠は結構面倒なタイプの魔法罠であった。なので、正直そう何度も設置したくないのである。それをちょっとしたお試しで作動させられたら、また仕掛け直さなければならなくなってしまうではないか。

 そりゃあ勿論、本当にこのままの状態でいいのか、という疑問はある。

 あるけれど、しかしそれを試して大丈夫であったなら、何というか無駄な手間をかける事になったな……という気持ちになるのは間違いない。

 どうせならもうちょっとここはこうするべきだったな、みたいな改善点とかがあるような状況ならまだしも。むしろそうであってくれた方が諦めはつく。


「あぁ、大丈夫だ。直接罠を発動させたりはしない。えーっと……ここだと見づらいな。

 よし、折角だから要塞の中使うか」


 何をするのかよくわからないうちに、テラはさっさと物事を決定してしまったらしくさっさと要塞へ向かってしまう。

 確かに日差しのある中で何かするよりは、まだ室内の方がマシに思えてくるのだが……


 一応要塞の中にも罠はある。あるけれど、そちらは少し複雑な罠になっているので、今はまだ発動するようにしてはいなかった。というか、ただ罠がある場所を通ったくらいで発動するようにはしていない。

 だからこそ、まぁ、ウェズンたちが間抜けにも引っかかるなんて事はないけれど。

 だがしかし、だったらじゃあ安全だね! と言い切るには微妙な気持ちであった。

 通っただけでは罠は発動しないけれど、しかしある条件下になった場合は発動するので。

 仕掛けた生徒たちは勿論引っかかるようなヘマはしないが、他のクラスの生徒がうっかりやらかす、という可能性は有り得た。


 自分たちの区画についてはほとんど把握できているけれど、しかし他のクラスの罠に関して全て理解できているかというと……という話だ。正直ウェズンは他のクラスが担当してる区画の罠を全て把握しているかと聞かれたらしていないと言える。


 一応要塞の中の一室、そこまで広くはないがいかにも何かありますよと見せかけて実は何もない部屋、というのが存在する。

 あまりにも何かありそうすぎて、ここにもしかしたらコインが……!? という感じで無駄に時間を費やしてやろう、だとかあからさまに罠がありそうな気がする……近寄らんとこ……みたいにさせて実は何もないのであいつビビってやがるぜプーくすくす、みたいな感じでやっておこうと思ったのだ。


 何も物理的に殺傷能力が高いだけが罠ではない。

 時に精神的に揺さぶる事も重要だと思っている。


 まぁ、何もないイコール安全な部屋、という事にもなるのでそこに気付かれたらここ休憩スペースにされそうなんだけど。

 とはいえそこまで広くもないので、くつろげるかと言うと……まぁこんな場所でくつろごうとかしてる奴は多分どっか精神的にイカれてるので、その時は諦めるしかない。


 正直クラス全員が入るには微妙に厳しいが、それでもここ以外の部屋だと何かの拍子にうっかり折角仕掛けた罠を台無しにしてしまうかもしれない。そう思うと、文句は言えなかった。


 とはいえ、これからテラがするであろう何か次第ではとんでもないブーイングが巻き起こるかもしれないのだが。



「で、先生何するつもりなんですか」


 そう問いかけたのはテラに相談をもちかけたヴァンであった。

 そもそも罠がちゃんと動作するかどうかだとか、ここに仕掛けて正解だったと思えるかどうかだとか、まぁそういう事を聞いたのが事の発端だ。

 流石にテラが罠を仕掛ける場所を全部ああしろこうしろと言えるはずもないが、ちょっとしたアドバイスくらいは……と思っての事だった。

 だがしかしアドバイスどころか、何でか全員でこんな微妙に狭苦しい室内に入っている次第である。


 一応皆と密着しっぱなしで身動きがとれない、という事はないけれどそれでもちょっと体勢を変えようとすると隣の人とぶつかるかもしれないくらいには狭い。


「何って、現在の罠がどういう感じで発動するかのチェックだろ。

 とはいえ、直接生身で確認するのも危険すぎる。最悪死ぬからな。

 それでだ。

 現在この島に仕掛けられている罠だとかを記録した状態で、仮想空間を作りそこに生徒の代わりにゴーレムを投下する」


 ん? と数名が何言ってるかわかりません、みたいな反応をした。


「えぇとつまり、疑似的に現状を確認できる、という事ですか?」

「そういうこったな」


 とはいえウェズンは意味を真っ先に理解していた。


 それってつまり、VRゲームみたいなアレって事……? という程度の認識でしかないが。


「とりあえずその仮想空間にぶち込むゴーレムは学園にいる奴らとはまた違うタイプでな。あまり大量に用意はされていない。だからまぁ、もうちょっとしてから島全体を確認させるつもりでいたんだけどな……ま、一応許可はおりたからいいだろ。

 そのうち学園の方で今回と同じような感じでチェック入るから、それだけは覚えておけよー」


 授業をサボるような生徒は少なくともこのクラスにはいないが、しかし時折居眠りする奴はいる。今は誰も眠っていないけれど、当日にやらかす可能性を考えたのかテラは妙に迫力のある笑みを浮かべてそう告げた。


「とりあえず部屋が狭いから前っていうよりは天井見てもらうけど、まぁ仕方ないよな」


 そう言うとテラは室内の照明を限りなく暗くする。

 まるで映画が上映される直前のような雰囲気すらあった。足りない物はゆとりのある空間とポップコーンとコーラだろうか。


 言われるままに天井を見上げれば、そこにはテラの言うゴーレムなのだろう存在が島に降り立ち歩き始めるところが映し出されていた。

 ところでそのゴーレム、テラの言う通り学園のあちこちで働いているタイプとはまた異なる姿をしているのだが。


「うわ気まず……」


 誰かが思わず声を漏らした。

 それも仕方のない事であった。何せそのゴーレムの姿は、いかにもそこら辺の町の子です、みたいな何の変哲もない人の姿をしていたのだから。


 えっ、下手に罠が発動したらこの子どうなっちゃうの……!?


 思わず、クラス全員の心境がまさしくそんな感じになってしまっていた。


 罠がちゃんと動作するのかどうか、そこら辺確認したいなんて言ってたヴァンですら、うわ余計な事言ったかな……みたいな気まずそうな表情をしていた。いくらゴーレムとはいえ、ほとんど人の姿と変わらないとなれば、ましてや幼い感じの容姿である。流石にそんな相手が罠で吹っ飛んだりしたら……と考えたらそういう表情にもなるよな……とヴァンの近くにいた生徒たちもつられるように似たような表情になっていた。

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