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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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フラグブレイカー



 ヴァン曰く、

「遠くから見る分には、ウェズンがアクアに言い寄っているように見えた」

 のだそう。

 だがしかし、おっと恋の始まりか? それとも一方的な言い寄りか!? 場合によっては助けに入る事も考えないといけないな、なんて思ってそっと足音を消して近づいてみれば、聞こえてくる会話の内容から色恋とは全く思えないような内容。

 むしろ言い寄ってるように見えたウェズンの方が止めようとしているような事を言っているのだ。


「正直脳内で情報を処理しきれなくて危うく色々バグるところだったよ」

 ははっ、と爽やかな笑みを浮かべて言うような事ではない。


「ところでさっきの鳥はなんだったんだい?」

 ヴァンと今回ペアを組む事になった男子生徒――ハイネが問う。


 ハイネ・アラリア。

 緑色の髪と目を持つ、穏やかな雰囲気の生徒である。木漏れ日の中で小鳥とか指に止めてても何も違和感がない奴、といえばいいだろうか。クラスの中でもおとなしめな方で、アクアのように一人で本を読んでるような事が多い生徒でもあった。

 とはいえ、別に誰かとの交流を拒んでいるというわけでもない。


「実は――」


 アクアが訳の分からない事を言い出す前に、早々にウェズンは説明する事にした。

 そうでないと、貴重な素材を取り逃しただとかでウェズンの方が戦犯扱いされそうな予感がしたので。


「……メディ鳥。聞いた事はあるけど、まだ存在してたんだね」

 一通りウェズンの話を聞いたヴァンは先程までメディ鳥が止まっていた枝を見て呟く。

 とっくのとうに飛び立ってしまったのでそこを見たところで何の痕跡も存在しないが、まぁ気分の問題だろう。


「コールラート大陸にしか生息してない、って話らしいんだけど」

「そうだね。アクアの言ってる事は事実だよ。ただ、生息している、という噂である、というのが実際のところかな」

「噂?」

「あぁ、メディ鳥の毒っていうのは嘴からなんだけど、その毒は相手の皮膚を硬化させる」

「硬化……?」


 ヴァンの言葉にそうなの? とばかりにアクアを見れば、彼女もまた深く頷いた。


 皮膚が硬くなる、というのであればそこまで酷い毒には思えない。だがしかし、きっとそれは錯覚だろう。

 視線だけでヴァンに言葉の先を促せば、ヴァンは困ったように眉を下げた。


「皮膚が硬くなるだけ、なら聞いてる分には大したことがないように思えるよね?

 けど実際はとんでもない毒なんだ。ちょっと硬くなるだけならまだいいけど、石のように硬くなってしまった、なんていう被害者もいるんだ。軽度の毒ならそこまでにはならないし、健康であれば自浄作用だとかで快方に向かう。けれどもそうじゃなかった場合、つまりは悪化した場合だね。

 世間で出回ってる解毒薬は、あまり効果がない。いや、まったく効果がないわけじゃないんだけど、飲み薬を飲んだ場合多少の症状の緩和はできても完治には至らない。

 直接患部に注射すれば、効果はもうちょっと期待できるけど……石のような硬さになってる皮膚にマトモに突き刺さる注射がない。

 症状が進行すると神経も固まるのか腕や足が患部であったなら、そこが徐々に動かせなくなる。恐ろしいのは内臓があるあたりかな。そこが動かなくなれば……わかるだろ?」


 毒、皮膚が硬くなる、それだけを聞けば大したことがないのでは? と確かにウェズンも思ったけれど、しかしヴァンの説明を聞く限りでは下手な毒よりも厄介だった。

 というかだ、石のように硬くなる、ってそれもう石化では?

 実際に石になってないだけで、ほぼそうなってるじゃん! そう言いたかったが、事実がどうかはわからないし、石のよう、というのと石になる、のとでは似て異なる。冷静にヴァンからその違いを説明されたらそれはそれでなんというか……居た堪れない気がするのでウェズンはやっぱりさっきのメディ鳥逃がして正解だったんだな……と思う事にした。


 腕や足が石のように硬くなって、挙句マトモに動かせなくなったらそれはそれで大変だけど、内臓だとかに毒が回れば一巻の終わりである、と知ってアクアが下手に近づいた時点でもしそうなっていたら……と考えると、やはり止めて正解だったとも思う。

 というか、頭に嘴の一撃を受けてしまえば、脳みそとかが硬くなったりするのだろうか。

 ……間違いなく死ぬ。


 何が恐ろしいって、ちょっと聞いただけではその危険性が即座に伝わらない事だ。ウェズンだって最初に聞いた時、なんだその程度か、と思ったのだから。

 危険性を理解できず楽観的な相手であれば、なぁんだその程度なら外部からの衝撃に強くなるって事よね? なんて解釈をしてしまいかねない。


 上手い事その毒をそういった方向性で薬にできればいいが、毒をそのまま利用しようとなれば危険である。


「その危険性で駆除対象になってしまってね、随分昔に大量に乱獲されたって話さ。

 ただ、まぁ、その後メディ鳥を研究していた学者がメディ鳥は自分に襲い掛かる相手にのみ反撃するから手出ししなければ問題ない、と言った事で何が何でも根絶しようとまではいかなくなった、ってところかな」

「へぇ、ん? 襲い掛かったら反撃?」

「そう。だから駆除する時にも犠牲が大勢出ている」

「あぁ、それで」


 人によっては襲わなかったら大丈夫って言ったって信用できない! なんて言って強硬して根絶やしにしようと思う者もいただろう。だが実際に駆除しようとした相手にも被害が出ていて、それでいて攻撃をしなければ無害であると専門家が言うのであれば、被害に遭った人間は手を出したからそうなった、という認識にもなる。


 そしてそれが知られてしまえば、わざわざ自分から危険に突っ込もうとする者も減る。

 自分が死んでもいいからあいつらを……! という考えの奴が自滅したとして、その後を継ぐ者が出るかどうかは微妙なところだ。

 ある程度周知されてしまえば、犠牲が出てもほっときゃいいのにいらん手出しするから……と周囲からは思われるだけで終わる。


「全く……それじゃ結構危ないところだったんじゃないかアクア」

「む、別にこっちだって何の考えもなしにいこうとしたわけじゃない」

「でも嘴引っこ抜くつもりだったんだろ? どうするつもりだったんだよ。魔術でブチ倒すとか言うつもりか?」

「嘴に余計な傷をつけたら上手く抽出できないかもしれないから、魔術で意識を混濁させるつもりだった。眠らせるとか、感覚麻痺させるとか」


「あれ? 知らない? メディ鳥ってその手の魔法とか魔術ほとんど効果ないよ」

「え……?」


 ウェズンに対してむっとした様子で反論したアクアだが、ヴァンが小首を傾げて言った言葉に思わずきょとんとする。


「駆除する時にさ、まぁ最初は威力高めの魔術とかで一掃しようとしたんだけど、火に包まれてもそのまま突っ込んできて反撃に出たりした個体がいたとかで、そういうのに精神的な鎮静魔法とか使ったらしいけど、効果がほとんどなかった、っていうのが文献に残ってる。攻撃されて興奮状態だったから効果がなかったのかと思いきや、別のところにいたメディ鳥の集団に攻撃前に眠りの魔法とか仕掛けても全く効果なし。どころか、それも攻撃とみなされて魔法をかけようとした一団は壊滅。

 これもやっぱり後日専門家が言ってたけど、メディ鳥は非常に高い魔力抗体を持ってるんだってさ」


「つまり、アクアがあのまま突っ込んでったら間違いなくヤバかった、と」

「そうじゃないかな。人の言葉を理解できる程度には知能も高いらしいし」

「ヴァンも詳しいね?」

「っていっても文献で読んだくらいの知識しかないよ。それにはメディ鳥の姿は描かれてなかったから、あれがあの……って感じだったし」


 実物を見た事がなかったからこそ知識としては知っていたヴァンと、実物を知ってはいたがそこまでは知らなかったであろうアクア。

 二人の知識の偏りは、恐らくその文献を読んだかどうかの差だろう。


 学園の図書館にあったっけ? とウェズンが聞けば、文献はヴァンの実家で保管されているのを見たのだとか。どうにも専門家が遠縁にあたるらしい。成程、それならヴァンがその文献を読めた事も、またアクアがその文献の存在を知らなかった事も頷ける。


「あゎ、わぁ……危うく命拾いした……?」

「そうだと思うよ」


 人語を理解できる程度の知能があるという事は、つまりは先程の会話もきっと理解できていたのだろう。

 アクアは堂々と嘴引っこ抜くと言っていたし、その上で実際の所効果のない術をかけようとしていた。

 言うだけだからまだメディ鳥も反撃に出る事はなかったけれど、しかしもし魔術を発動させたりしていたら。


 間違いなくメディ鳥はアクアを攻撃しただろう。彼女が目当てとするその毒を用いて。


「存外心の広かったメディ鳥に感謝するべきだと思うよ。あんな目の前で堂々と素材扱いしてたのに向こうから立ち去ってくれたんだから」

 そう、まだ攻撃されてないけどそのまま逃げるのは不服である、みたいな気持ちをあのメディ鳥が抱いていたなら、アクアはやはり危険な事になっていたかもしれないのだ。むしろこいつ危険だから先に攻撃して沈めとこ、みたいなタイプだったら飛び立つ手前に足で蹴られてもおかしくはなかった。

 毒が嘴だけであるなら足の爪で蹴られようともそこまで酷い事にはならないかもしれないが、嘴からの毒しかない、とはウェズンは聞いていないのでもしかしたら爪からも毒が出る可能性は捨てきれない。



「お、おぉ……わたしの命の恩人、感謝する」

「いやお前それ何キャラなの?」

 ははー、と平伏でもしそうな勢いではあるが、ウェズンとしてはそんな事されてもワッハッハ、苦しゅうないぞ、などと言えるノリは持ち合わせていないので、半眼でアクアを見下ろした。


「とりあえず、いくら貴重な素材を見つけたからっていっても、その場のノリと勢いでホイホイ突っ込んでいかない事。この前の盗賊の件についてはもう仕方ないけど、動物とかはホント近隣の迷惑になってる駆除対象とかそういうのだけにしときなよ」

 希少な素材だから、でホイホイやらかした結果、それがそこの地域で崇められてる動物であった、とかだと割と危険である。

 ご近所が荒らされて迷惑しているから倒してほしい、というのであれば、やっちゃっても問題はないと思うが。倒す時に近隣に被害が出るような倒し方さえしなければ。


 盗賊? とヴァンが首を傾げていたが、それについてはスルーした。流石にイアとアクアがフィンノール学院に行ってきたとかいう話題をここでするつもりはなかったので。


「そろそろ次のペアもやってくるかもしれないし……先に進まないか?」


 一応事態は落ち着いたとみていいだろう、と判断したらしいハイネの提案に反対する必要はどこにもなかったのでウェズンたちはそのままテラの別荘があるという方向へ移動を開始する。


 流石にもう他に素材になるような動物とかはいないと思いたいが、もしまたそういうのを見つけたらふらふらっとアクアが行ってしまうのではないか、と思ったウェズンはアクアの手を掴んでおくべきか悩んだが、それより先にアクアから手をつないできたのでそのまま移動する事にした。


 きゅっとかすかな力をこめて握られた手を見て、ヴァンとハイネはおや? という表情をしてそれから微笑ましいものを見る目を向けるが、先を行くウェズンは後ろにいる二人のその視線に気づくこともなかった。


 アクアが自分から手を繋いだ理由を直接口にだしたわけでもないのでウェズンは知る由もないし、正直とっとと帰りたい、の精神が大きかったので。


 隣にいるアクアから向けられる視線にも、ウェズンは気付いていなかったのである。



 色々と台無しだった。

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