表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/469

目の前にあるもの



 サク、と草を踏む音を聞きながらウェズンは歩いていた。時折虫の鳴き声も聞こえているが、事前に虫除けの魔法をかけてあるので顔面目掛けて飛んでくるとかいう事もなければ、知らないうちに露出している皮膚部分を刺されたりという事もない。

 だからこそ結構呑気にウェズンは少々暗い道を一歩半、先導する形でアクアの前を歩いていた。


 テラが言っていた動物に関しては、ほとんどはもう眠りについているのではないか? と思える程に静かだがそれでも時折こちらの様子を窺うように木の上だとか木の幹に姿を隠しつつだとかで、視線を感じないわけではない。が、あくまでも様子を窺っているだけで襲ってくるとかそういう雰囲気はない。こちらが余計な事をしなければ、向こうもこちらを窺うだけで終わるだろう。


 ペアを組む事になった時に一言「よろしく」とだけ言ったアクアはそれきり何も言わなかった。ただ黙ってウェズンの後ろをついてくる。

 ウェズンとしては別にそれで構わなかった。

 そもそも共通の話題もロクにないのだ。無理矢理話を弾ませようとしたところで、そういうのは空回るのがオチ。それならさっさとテラの別荘とやらへ移動して、そこから早いとこ学園に戻った方がいい。


 しかし後ろからついてきていたはずの足音が突如として止まったため、ウェズンもまた足を止めて振り返った。


 やはりというかなんというべきか、アクアは足を止め何やらじっと一か所を凝視している。


「……どうかした?」


 まさか幽霊とか言い出さないよな……そもそもいるか? いわくもなんもなさそうなこの島に? と思いながらも、流石に無視して先に行くわけにもいかない。アクアが見ているらしき場所へウェズンも視線を向けてみたが、別に何か気になるようなものがあるわけでもなかった。

 ただ、やや上の方、アクアが見ているだろうなと思える木の枝に小さな鳥がいるのが見えただけだ。


 夜行性なのか起きていて、こちらをじっと見下ろしている。


「あれ……コールラート大陸にのみ生息してるはずのメディ鳥だ……」


 すっと指をさして言うアクアはやはりあの鳥を見ていたらしい。


「じゃあこの島その大陸に近いって事?」

 転移の術でやって来たため、この島が果たして世界のどの位置にあるのか、というのを知らない。一応学園の図書室に世界地図がないわけではないが、テラの言うような神が新たに作った、なんていう土地が本当にその地図に記されているかは不明だ。地図にも載ってないけれど、しかしそこに確かにある、なんていう土地はきっとこの島だけではなく他にもあると考えても間違っていないように思える。


 とはいえ、そのコールラート大陸とやらからあまりにもかけ離れているなら、そこで生息している生き物がここにいるはずもない、とは思う。

 他所から持ち込んだ結果、そこの土地に馴染んだという可能性もゼロではないが。

 だがしかしここは神がテラに与えた島だ。生物を果たして神が用意したか、と問われるとそこまではしないような気がする。かといってテラ本人が他の場所から動物を捕まえて島へ持ち込んだ、というのも考えにくい。


 それならば近くから縄張りを広げようとしただとかでこちらの島に動物の方から勝手にやって来た、と考えた方がまだありそうな気がした。


「それはわかんないけど、でも、珍しいの」

 暗くてアクアの顔なんてほとんどわからないのだが、それでもその弾んだ声でアクアがどんな表情をしているかなんて想像するまでもなくわかってしまった。

 きっと今、彼女は目をキラキラさせているのだろう。もしかしたら頬も紅潮しているかもしれない。


「この島で見るとは思わなかったから珍しい、って話じゃなさそうだね」

「それはそうよ。だって、コールラート大陸でももうその数は激減してほとんどいないって話だもの」

「つまり、絶滅寸前って事か……」


 確かにそんな生物を見たらテンション上がるかもしれない。

 生きてた! 絶滅してなかった! という気持ちになるか、はたまた捕まえて売れば金になるぞ! というクソみたいな発想になるかはさておき。


 一度絶滅した生物が復活を果たす、というのはまずないと思っていい。

 絶滅したと思われてたけど実は密かに生きていて何十年、何百年ぶりに人の目に触れて、というのは前世でもニュースでやっていたけれど、そう何度も頻繁に起きる現象でもない。

 生物が進化を遂げて別の種へとなった結果、かつて滅んだ種と似たようなものになっていた、という可能性も勿論ゼロではないと思いたいが、限りなくゼロに近いと考えていい。


 足を止めてメディ鳥とやらを見上げているアクアを見て、それからもう一度ウェズンもメディ鳥へと視線を向けた。


 大きさはそこまでではない。片手に乗るにはちょっと大きいような気がするが、しかし両手に乗ったらそこまで大きくも見えないような、そんな大きさ。暗いので色合いはハッキリとわからないけれど、しかし派手な色をしているとかでもない、と思う。


 じっとこちらを見下ろしていて逃げる様子がないところから、結構どっしり構えてるな……と思ったがしかしこちらが不用意に近づけば恐らくはすぐに飛び立ってしまうだろう。


 正直、ウェズンが見る限り、絶滅寸前と言われてもあまりピンとこなかった。

 例えば羽が美しいだとかで乱獲された、だとか、肉が美味しいが故に獲物として狩り尽くされた、とか、そういう理由があるならわかる。

 けれどもメディ鳥、色合いはそこまで綺麗な感じでもない。どちらかといえば地味な色合いだ。正直似たような色合いの鳥なんてほかを探せば絶対いるだろ、としか思えない。


 そして実は美味しい説を考えてみたが、仮に美味しかったとしてもそこまで目の色変えて獲りにいくような見た目には見えないのだ。

 こう、なんというかウェズンの知る鳥の見た目で似たのを述べろと言われれば多分ウズラかな……とは答えるけれど、そのせいでウズラそこまで目の色変えて捕獲するか? とも思う。目の前にいるのはウズラではなくメディ鳥だが。


 ウェズンの中のウズラに対する認識は、精々卵を八宝菜だとかに使うくらいだな、というものでウズラそのものを食べた事もないためテンション上げて観察しろと言われてもこれ以上はなぁ……といった気持ちであった。

 あまりじっと見ていたら向こうが自分を狙っているのでは? と思ったりするだろうかと思い始めて、そろそろ目を逸らすべきかと思えばアクアがそっとメディ鳥のいる木へと近づこうとしているところだった。


「アクア?」

「静かにして。多分捕獲できるから」

「まて。捕まえてどうする気だ」

 食べる、と答えるのであればまぁ、弱肉強食とかそういうアレで一応見逃すつもりではあった。

 いたずらにちょっかいだけかける、とかであれば止めてさしあげろと思うが、大自然に生きる者という点から考えれば食料を調達するための狩りであると思えばアクアの行動は止める程のものでもない。

 いやさっきお腹いっぱい食べたんだから別に今ここでそいつを捕獲しようとしなくても……とは思うが、満腹だろうとそれでも食べたいくらいに美味、とか言われたら流石に止められない。


 だがしかしアクアの答えはウェズンの想像とは別であった。


「メディ鳥の嘴には毒があるの。いい素材になるのよ」

「アウトー!」

 思わず叫んでウェズンはアクアの肩を掴んで引き留めた。

「ちょっと!?」

「毒を素材って何する気なんですかねぇ!?」

「えっ、今度の交流会で」

「いやそれはそれで問題ないのか? って思ったけどでもアウトだから! 勇者側にどんな被害が来ようともあいつら望んで参加してくるからそっちは自業自得かもだけど、数も少なくなってるらしき鳥を犠牲にするのはどうかと思う!」


 ウェズンが叫んだからか、木の上のメディ鳥はピク、と一瞬身じろぐような動きを見せたが飛び立つまではいかなかった。いっそ逃げてくれた方が良かったのに。


「念の為聞くけど、その嘴にあるらしき毒ってどうやって抽出するの?」

「嘴引っこ抜いて」

「やっぱアウトー!」


 それ鳥さん死ぬやつでは。


「いやあの、てっきり珍味とかで食べると美味しいから、とかいう理由なら弱肉強食ってのもあるし見逃そうと思ったよ!? 思ったけれども!」

「メディ鳥の肉は美味しくないらしいから飢え死ぬ寸前でも食べたくはないかも」

「毒の抽出で殺される方がよっぽどだよ!」


 えっ、つまり、このメディ鳥の数が減ったのって、アクアみたいに素材としての乱獲のパターンと、毒があるから危険生物として駆除されたとかそういう……?

 向こうが狂暴で毒もあるから仕方なく駆除……とかいうのならまぁ、仕方ないのかなとは思うよ。共存できなきゃある程度の線引きしててもさ、その境界って基本人が作ったもので向こうには関係ないから。

 山で餌が少なくて人里に下りてきちゃったクマみたいなものだと思えば、そこら辺はわからんでもない。

 餌が無いから人里に下りてきて、そこでうっかり人襲って人肉の味を覚えたクマを野放しにしてたら今度は人側が危険極まりないもんな……


 けど、こうしている限りメディ鳥はそこまで狂暴そうでもない。むしろアクアの肩を掴んで引き留めているウェズンをじっと見ているあたり、危機感がないのか肝が据わりすぎているのか……といった具合だ。

 肩を掴まれて微動だにできなくなったアクアだが、それでも諦める事なく前進しようとしているので、ウェズンはとうとう木の上の鳥に向けて声をかけた。


「ちょっ、そのままそこにいたらマジでヤバイんだって……逃げて、マジで逃げて。嘴引っこ抜かれるから!」

「む、邪魔をしないでほしい。折角の貴重な素材をゲットできるチャンスなのに」

「数少なくなってるらしい動物を更に殺そうとしてどうするんだ。ここがそのコールラート大陸じゃないなら、こいつもしかしたら安住の地を求めてここまで来ちゃっただけかもしれないんだろ!? そこで嘴引っこ抜きエンドはあまりにもあんまりすぎる……!」


 毒に関しては他の素材もあるだろ、と言えばアクアは一瞬それは確かにそう、とばかりに納得しかけた。

 だがしかし、アクアからしても貴重な素材という部分は見過ごせなかったのだ。というか、目の前にある以上簡単に諦めがつかなかった。


 だがしかし、メディ鳥はそんな二人を見て何を思ったのか。


 すっと身体を持ち上げてパサ、と羽を広げたのである。


「えっ、うわ長ッ!?」


 ウェズンが想像してたのより二倍くらい羽が長かった。絶対普通に折りたたんだら収まらないだろそれ……二段変形でもしたんですか? と言いたくなるような形状。

 そこまで大きくない、と思っていたが羽を広げた途端結構なデカさになっていたのでウェズンもアクアも思わずたじろいだ。


 そしてその様子をメディ鳥はちら、と一瞥すると飛び立ったのである。


「あ……」

「良かった、行ってくれた……」


 残念そうなアクアと安堵するウェズン。

 二人の反応は正反対であったが、流石に飛んで行った鳥を追いかけるまでする気はないのかアクアの身体から力が抜ける。そうしてウェズンもアクアの肩から手を離した。



「……なんでか歩みが止まってるなぁ、と思ったけど。何してたんだい親友」


 そしてウェズンたちの後に出発したヴァンとそのペアである男子生徒たちにそれを目撃されていたと知ったウェズンは、

「もっと早くに声かけて!? あとどうせなら止めるの参加して!?」

 思わず八つ当たりのような叫びをあげてしまったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ