表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/466

帰還のための



 夏の思い出、と言われても正直ウェズンにはピンとこない。

 前世、アニメやドラマで季節が夏の時によく取り上げられていたシチュエーションは夏祭りだっただろうか。浴衣、花火大会、そこら辺は恋愛ものや青春ものだととても扱いやすいのかその手の話にはよく出てきたように思う。


 実際自分たちが夏に体験したもの、と言われても案外何をしたか、というのがすぐに出てこなかった。

 前世のウェズンの家庭は、ウェズンを長男としその下に弟や妹がたくさんいた。大家族スペシャル、みたいなテレビ番組に出てきてもおかしくない程度にはいた。

 だがしかし、そういった番組に出た事は実際は無い。


 というのも、確かに家族は一杯いたが、それだけなのだ。

 あの手の番組は多少、貧乏そうな雰囲気がちょっとでも感じられるがそれらを家族の創意工夫でどうにかし、貧乏ながらも楽しい我が家、みたいな感じで話を持っていきがちであったように思う。ウェズンはその手の番組を見たのが一度か二度なので、もしかしたらたまたまそういう回の時だった、という可能性もあるけれど。


 ところがウェズンの家は両親ともにバリバリと働いていたので金に困ってはいなかった。


 共働きなら子育てとか大変そうなのになんでそんなに子作りしたんだ、と前世のウェズンも勿論疑問に思ってそこそこ幼い頃に親に聞いた覚えがある。

 両親は幼い頃兄弟がいない事で寂しい思いをする事が多かったらしい。両親の両親、ウェズンから見ての祖父母も父方母方共に仕事に出ていた人たちらしく、学校から帰ってきても家に親がまだ帰ってきていないだとか、夜遅くになっても帰ってこなくて一人でいる事の方が多いだとかで、まぁ、寂しい子供時代を過ごしていたようだ。


 そんな、似た境遇の父と母は出会った時に意気投合し結婚したら子供は一杯作ろうね! となったらしい。

 じゃあせめてどちらか子育てで家庭に入るのかと思いきや、その頃お互いどちらも仕事が楽しい時期で、またちょっとしたプロジェクトを任されたりしたらしく、子育てどころじゃなかったらしい。

 だがしかし金だけはあったので、お手伝いさんを雇っていた。正直親の顔よりお手伝いさんの方が顔を見る機会はあったように思う。


 幼少期にお互い寂しい思いをしたから、大勢の家族に囲まれて過ごしたい、というのであればウェズンもまだ理解はできるのだが、子育てもお手伝いさんにほぼ任せていたし、いくら子供が一杯いても関わる事が少なすぎてウェズンだけでなく、他の弟や妹も親に対しての感情は希薄だったように思う。

 一応、顔を合わせて話をする機会がなかったわけではないが、自分たちが寂しくないように沢山家族を作った、というよりは生まれてくる子が一人だと寂しいだろうから一杯家族を作っておこう、というふうにウェズンは感じていた。


 別に前世のウェズン含め、弟や妹たちは兄弟が欲しいと言った事は一度もないのだが。というか、これ以上増えましても……という気持ちはあったと思う。流石にそこら辺の話題は家族間でも気を使ってしまって弟や妹たちとした事はないけれど。万一いらないなんて親に言い放った後で、実は新たに子が、なんて展開になってみろ。生まれてきた妹か弟は兄や姉にいらないと生まれる前から言われてしまったも同然で、流石にそれはちょっと……と思えてしまう。文句を言いたいのは親にであって、生まれてくる子ではないのだ。


 ちなみにそんななので、ちょっと思春期迎えたあたりでグレた弟や妹はもちろんいた。

 といっても、犯罪になりそうなグレ方はウェズンがさせなかったので比較的マシなグレ方であったけれど。


 お金はバリバリ稼いでくれた両親だが、仕事で休みが中々とれないので家族で旅行へ、なんて事はほとんどなかった。ある程度ウェズンやその下の弟や妹が大きくなって自分たちで働くようになってから、兄弟姉妹だけで日帰りか一泊二日程度の旅行は行ったけれど、親に連れられて、というのはウェズンの前世の思い出には少なくとも存在していない。


 悪い人達ではないけれど、なんというか物理的な距離感があってどう接していいのかわからない。

 それが、前世のウェズンやその弟、妹たちによる自分たちの両親への思いだったと思う。


 夏の思い出、と言われてギリギリで体験したのは縁日だろうか。とはいえ兄弟や姉妹全員で一緒に行くとなると大所帯が過ぎるので、それぞれ気が向いた者同士で組んで出かけていた。ある程度の年齢になったら友人といく約束をして家族と行動しない、なんてのも普通にあったし。


 なのでまぁ、夏祭りまではともかく、アニメでよく言われる水着回、みたいな海へお出かけだとかはほぼなかった。成人して車を運転できるようになってからならともかく、交通機関を使ってわざわざ皆で海に行くなんて事はなかったのだ。

 なので夏の季節に題材として使われる肝試しも同様であった。


 お話の中だけのイベントだと思っていたそれが、まさか今になって体験する事になるとは思ってもいなかったのだ。


 正直前世の両親に関しては、子供産んですぐ職場復帰する母親のバイタリティに恐れおののいたくらいだろうか。というか父もそこら辺もうちょっとこう……なんかあっただろ、という思いはあったけれども。

 そりゃあ弟たちもグレたりするのが出てもおかしくありませんわ、というのだけは間違いのない本音である。


 ともあれ、お祭りだとか海水浴だとかプールだとか、夏になったら取り上げられるシーンやシチュエーションの中でそれなりに登場するキーワード、肝試し。

 夏かどうかはさておき、一泊二日とか二泊三日の臨海学校だとかのレクリエーションでも行われるらしきそれ。

 男女ペアになって暗い夜道を移動する、実際に怖い体験をするかどうかはさておき吊り橋効果からの恋愛に発展するかもしれない系イベント。

 前世のウェズンからすれば全く縁のなかったイベントである。ちなみに前世、どちらかといえば肝試しとか大学生あたりが山奥の廃墟とかに行く系のやつという認識の方が強かった。


 そこそこに楽しく過ごしていた前世ではあるけれど、二次元にありがちなイベントを体験したかと言えばそれはまた別の話なのである。

 だがしかし、転生してまさに今、肝試しを実行しようという流れになっているという事実に。


 えっ、マジで言ってる……?


 浮かれるよりもドン引きの方が強かった。

 正直もうお腹いっぱい美味しい物食べて気分転換というかリフレッシュは完了したし、あとはもう帰って今日は早めに風呂入って寝るとかでいいんじゃないかとウェズンは思っているし、そう思っているのはウェズンだけではなかった。今日一日をほとんど何もしないで終わらせたようなものだから明日からはまた大変な事になるだろうけれど、でも美味しい物食べて気力とか体力とかそういうの回復した気がするし、バッチリ気分転換できたなと生徒たちのほとんどはそう思っていたのだ。


 少なくともほぼ全員が明日から頑張ろッ☆ と思える程度にはバーベキューの効果は絶大であった。何より食材がよかった。


 だが、それだけでは終わらぬとばかりのテラが肝試しをするなんぞと言いだしている。食後の軽い運動、という言葉に嘘はないのだろう。軽い散歩、そんなノリで言っているのはわかる。

 しかしウェズンたちの脳裏に、本当にそれは軽い散歩ですか……? という疑問が生じるのも無理はなかった。何せ今までのテラの行いを思い返してみれば、こいつに容赦って単語搭載されてんの……? となるのは当然だったからである。


 勿論授業であるなら教師として手を抜くわけにはいかないのはわかっている。

 けれどもそれら授業でのあれこれで体験してきた事こそが、生徒たちを疑心暗鬼に駆り出しているのもまた事実であった。というかプライベートでまでテラと親しく関わる事がないからそちらが標準での基準になるのは当たり前であり仕方のない事でもある。


 もしプライベートでのテラが人に対してドロドロに甘やかすタイプである、という情報があれば生徒たちの反応もまた違ったものになったかもしれないが、生憎そういった噂は一切聞いた事がないのでテラのいう軽い運動が授業仕様であったなら、と考えてしまうのはむしろ普通の事ですらあった。


「あの、ホンット~にやるんですか?」

「まぁそうだな。とりあえずルートとしてはここから少し行くと森になるだろ」

 砂浜に背を向けるようにすれば、確かに鬱蒼とした森が見える。バーベキューに夢中になっていてそちらをあまり注視する事がなかったが、こうして改めて見るといかにも何かが出ますよ、といわんばかりの雰囲気があった。この島に来た直後のまだ明るいうちであったなら、きっとそうは思わなかったのかもしれないが。


「その森突っ切って更に行くと丘があるんだが。一応そこに別荘がある」

「へぇ、別荘」


 まぁ、あってもおかしくはない。そう思ったので別段そこまで驚きはなかった。


「で、そこに戻るための転移方陣があるから、ゴール地点に着いた奴から各自帰っていいぞ」

「えっ、来た時と同じで先生の転移とかじゃないんですか!?」

「俺様は今日ここで一泊して明日帰るつもりだが」


 なんだお前らも泊まってくのか?

 と言いだしたテラに、数名は即座に首を横に振った。

 学園に居た時よりはやや涼しく、夜寝る時も暑苦しさで眠れない、なんて事はなさそうだけれどあまり長居をするとテラに一体どんな無茶振りをかまされるかわかったものではない、と思ってしまったのだ。まぁそれ以前に学園の寮の部屋は空調だとかがきちんと動いているので暑さ寒さで眠れない、という事はないのだが……

 けれどもテラの無茶振りに関してはいくらなんでもそんなまさか、と笑って切り捨てるにはテラの普段の行動を思い返すと難しいものがあった。


「大勢の転移ってそこそこ疲れるからな。帰りは各自で、って思ってたんだが……俺様の術で帰るなら明日になるぞ。一応別荘の部屋はそれなりにあるから寝る場所がないとは言わんが」


 正直別荘という言葉に何となく気にならないといえば嘘になる。

 なるのだが……


 寝る場所がないわけじゃないだけで、マトモな寝具が果たしてあるかどうか。


 そもそもここはテラが自分のために用意してもらったらしき島だ。普段から誰かをよく招いているというわけでもなさそうだし、となると友人の一人や二人が泊まりにくる、くらいは想定されていてもそれ以上の人数を寝泊まりさせる事まではきっと考えられていないだろう。


 最悪床で雑魚寝とかいう可能性も出てくる。


 折角美味しい物を食べてご機嫌状態であっても、この後床で雑魚寝、とかであれば翌朝は間違いなく身体はギッシギシである。その逆でマトモに寝る場所が整っていたとして、寝心地良すぎた場合の事も想像してみるがそうなると今度はここから離れたくない……とか言い出しそうな気がしてくる。

 つらい現実が待ってると思うと人は簡単に逃避しがちであるのは、どの世界でも変わらないのだろう。


「わーったよ、やるよ、やればいいんだろ肝試し」

 諦めたように言ったのはレイだった。

 居心地が良ければそれだけ離れがたくなる。残る日数も少ないというのにずるずるとここに居座るような事になるのは避けたい。そういう考えが透けてみえるかのようだったが、テラはその言葉に満足したらしい。


「とりあえずオーソドックスに二人一組のペア作るところから始めるか」


 オーソドックスってなんだっけ……などと言ってはいけないやつだな、と全員が察したので生徒たちは諦めた目でテラが作ったクジを引いた。


 ところでこのクラス、現時点男女の数は決して同一ではない挙句、男女でクジを分けるわけでもなかったので。


 男同士でのペアは言うまでもなく女同士のペアも当たり前のように出来上がった。


 ほんのりと淡い恋の予感に期待していた男子生徒は密かに泣いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ