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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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僕たちの教師が突然夏をぶっ込んできた



 空き時間全てを最終調整へつぎ込む、とばかりに根を詰めまくり肉体的にも精神的にも限界を迎えていた生徒たちをとりあえず一か所に集めたテラは、あれうちのクラスの生徒ってこんなツラだったっけ……? と困惑していた。

 普段はもうちょっと生気があったと思うんだが……えっ、これ生きてる? 危うくそんなことを口から出すところであった。


 一応顔を見れば間違いなく自分の担当している生徒であるのだが、なんというかビフォーアフターが酷い。

 ちょっと前まではもうちょっとこう、生きる事に希望を持っていたであろう顔だっただろお前ら……と言いたくて仕方がないくらいに、今の生徒たちはボロボロであった。

 正直締め切りを三日程過ぎてしまった漫画家よりも酷いツラをしている。


 一応食事と睡眠は最低限とらないとダメだとわかっているのでそこら辺は上手く回してやっていたようだが、風呂とか入ってるかこいつら……と失礼だと思いつつもそう考えてしまった程だ。


 ちなみに生徒たちはきちんと風呂に入ってはいた。

 ただ疲れすぎて危うく浴槽の中で寝落ちしそうになったりして、部屋の管理者が慌てて引っ張り出したりした生徒もそこそこいた、という事はあったが。

 然程大きくない部屋の管理者にとって、人間一人を風呂場から引っ張り出すのは中々に苦労していたが、生憎その苦労は周知されるものではない、というだけの話だ。


 要塞の外観はほぼ出来上がっているし、今は大詰めとして中身をあれこれやっているところであった。

 内部に設置する罠だとか、いかにも使われている施設ですよ感を出すための道具であったりだとかを作ったり用意したりしているところだ。

 外側だけならまだしも中でも魔法陣を使ってあれこれ作る物があるらしく、ルシアに至っては簡単な魔法陣ならもはや目を瞑っていても描けるまでになったらしい。

 まぁ、簡単な魔法陣とは初歩中の初歩なので、既にこいつらには必要ないだろ……という気しかしないが。

 レイが伝手を使い持ってきた要塞の設計図にはここでこういった魔法陣を描いてこれこれこういった素材を使って、みたいな指示も書かれていたが、まぁその見本になる魔法陣がエグイくらいに細かすぎたのがルシアを追い詰めた原因だろう。


 展開させる規模によって魔法陣の大きさは変わる事がある。

 つまり設計図に描いてあるサイズの魔法陣でやったらできあがるのはミニチュアサイズ。

 必要な大きさに拡大して描かなければならない。大きく描くならそこまで難しくはなかろう、と素人は思いがちだが実際は逆だ。拡大して描こうとも面倒なものは面倒。むしろ中に書かなければならない精霊言語だとかの一文字ごとの空白にまで気を使わないといけないレベル。設計図のやつはぎゅっと文字が詰まってるけど拡大するとなると文字の間隔は若干開いてしまう。その文字のバランスが悪いと魔法陣が上手く起動しないのだ。


 最初の頃は上手く起動できるか別の紙だとかで練習して、なんてことを繰り返していたが、いい加減何度も練習している余裕もないとなってからはほぼ一発勝負。それで成功できてるルシアは案外凄いのでは、とテラは内心でルシアの評価を少し改めた。

 なんというか全体的にパッとしない印象だったのだ。いいのはツラだけ。成績は悪くないけれど、すごく良いというわけでもない。可もなく不可もなく。まぁ、緩衝材みたいな扱いはできるか、と思ったりもしていたがそれくらいだ。


 戦闘に関して期待はできないけれど、しかしそれ以外の――そこそこ平和なところでたまに出る魔物を倒すくらいなら充分に生きていける。


 テラのルシアに対する評価はそういったものであった。


 今回の件で魔法陣を描くスキルがやたら上がった事もあって、魔物退治以外の道も選べるようになったが、しかし今それをルシアに告げたところで彼はきっと頷かないだろう。

 やってられっかと泣き喚き叫ぶような状態だ。それで将来食っていけるとか言われても今この場でやったー! なんて喜ぶはずもない。


 他にも薬品調合の腕がやたら上達した生徒や、素材集めに関していい素材を見る目を養ってきた生徒もいるのだが、そういう点を生徒たちに今伝えたところで……という話である。


「じゃ、さっきも言ったけど気分転換するぞー。別に配置転換とかじゃないから安心しろ。いや、気分転換した後でまた作業に戻るなら安心できないかもしれんけど。

 まぁともあれ、お前ら煮詰まりすぎ。時間がいくらあっても足りる気がしないってのはわかるけどな、今のお前らの状態で頑張った所で効率落ちてんだよ。

 かといって休めっつっても休めないだろ。なので強制的にお前らには別の事をしてもらいます」


 つまり仕事が増えるって事……!?


 と慄く生徒の呟きなどあっさりとスルーしてテラは高らかに詠唱を開始した。

 別にしなくてもいいのだが、今回に関しては気分の問題である。

 大体魔法だとか魔術なんて使うのは基本戦闘中だ。そんな時に詠唱とか馬鹿の所業。これから自分はこういった術を使いますよ、と敵に宣言するようなものである。手の内をわざわざ晒すとか、どうぞ対処してくださいと言っているようなもので。


 なのでまぁ、ある程度学園で過ごすようになればそこに気付いて詠唱をせずに発動できるようにするのが普通である。


 勿論まだ魔術や魔法が使えない幼い子供相手にちょっとしたパフォーマンスで魅せる時は詠唱した方が雰囲気でるのでそういう時はするけれど。


「あれその詠唱……ちょっ、テラ先生!? 一体どこに転移するつもりですか!?」


 まだ転移の術は授業で教えていないのに、これがそうだと気付いたウェズンが裏返った声で問う。

 とはいえ、こたえるはずもない。詠唱中だ。


 どこかに転移する、という事実だけを認識した他の生徒たちもざわつきだしたが――


 転移する前に遠くへ逃げる、なんて行動に出る間もないまま、術は発動した。



 ――さて、テラが発動させた転移の術によって辿り着いた先は、これまた小さな島であった。


 青く澄んだ海と白く輝く砂浜がなんとも目に眩しい南国リゾートとかの写真に出てきそうな光景が生徒たちの目に飛び込んでくる。


 気分転換、からの転移、なんて言ってはいるが、これもしかして別の区画に出ただけじゃね? なんて一瞬思った生徒もいたが、見回せばそうではないとすぐに理解した。

 もし先程まで作業していた島の別の区画に出たのであれば、見回せばちらっと要塞が見えてもおかしくはないのだ。

 けれどもあの物々しさを放つ要塞はその先端すら見当たらない。


 次に他の学年の担当している島を見学して、比べるなり参考にできそうな何かを見るなりしろ、というやつかと思ったものの、しかし周辺にはテラを除けばクラスメイト達しかいない。他のクラス、他の学年だろう生徒の姿は一切見えなかった。


「え、どこここ」


 先程までいた島と比べると、若干風が冷たく感じる。空気は明らかに夏であるけれど、しかし吹く風の心地よさに何となく肩の力が抜けるのを感じた。


「どこって言われるとまぁ、なんだ。

 俺様の避暑地的な」


「は?」


「この島俺様の所有物な」


「は?」


「あぁちなみにこれは俺が勝手に言ってるとかじゃなくて、正式に認められてるから。神公認」


「はぁぁあああああ!?」


 生徒たち一同の悲鳴じみた叫びが響く。

 無理もない。


 それでなくともこの世界、神の楔で各地が分断されたようなもの。分断している結界を解除さえしてしまえば、あとは瘴気汚染度合で自由に行き来できるとはいえ個人で所有できるような土地などあるはずがないのだ。

 だがしかしテラはなんて事もないようにけろっと言ってのける。


「簡単に説明すると、かつて俺様が神前試合に参加した時の褒章みたいなものだな。本来ここに島はなかったが、神が新たに作った。そしてこの島は俺様が自由に出入りできて、それ以外は俺様の許可がなければ立ち入る事ができないようになっている。それ故神の楔はここになく、船だとかでここにたどり着いたとしても、許可なくして上陸はできないようになってる、ってわけだ」


「あ、親父が言ってたなんでか上陸できない島」


 思い当たる事があったのか、レイが呟く。


 へぇそんな島が……とウェズンは納得しかけたが、今現在まさにその島にいるというわけだ。


「えっ、というかテラ先生神前試合にかつて参加した事あったんですか!? しかも神様からの褒章!? えっ、先生実はすごい人なの……!?」


 ルシアが困惑したような声を出す。

 確かにテラは身長の割に態度がでかく、実力もあるのは確かだがまさかかつて神前試合に参加していたなどとは思っていなかったのだ。本人が自己紹介の時にそこら辺を語ったりはしなかったので知りようがなかった、と言ってしまえばそれまでだ。


 魔王と勇者の命がけの戦い。それが行われるのが神前試合である、という事は生徒たちもいい加減理解している。結果として命を落とす者も現れるという話もたくさん聞かされてきた。

 だが全員が死ぬわけではない。中には生き残りもいる。しかしその生き残りが自分たちの身近にいるだなんていう想像はした事がなかった生徒が大半だった。


 神前試合を生き残ったからとて、必ずしもその相手に褒章が与えられるわけではない。あくまでもそれは神の気まぐれである。

 なので、神から賜った、というそれがどれだけ凄い事かは想像するまでもないだろう。


 ウェズンはふと、自分の両親はそういうのもらった事あるんだろうか……? と疑問を浮かべたが、その疑問を解決してくれそうな人物はといえば、ほへー……とか言い出しそうな顔のまま目の前の光景を眺めていたのであまり期待できそうにない。


 いや、イアももしかしたら知らないのかもしれない。

 そう思う事にして、ウェズンは再びテラへと視線を戻した。


「それで、気分転換つって何させる気だよ」


 物理的にあの島から遠ざかってしまったので、作業に戻るも何もあったものではない。しかも神の楔がないのであれば、生徒たちが学園へ戻るにはテラが転移の術を使わない限り戻る事もできない状態だ。

 いや、今から転移の術を習得すれば戻れるけれども。だがしかしそれは現実的とは言えなかった。


「まぁそう焦るなって」


 言いつつテラはすっと腕を振る。すると目の前にいくつかの道具が出現した。


「あの、これ……」


 別に何かわからない道具を出されたとかではない。むしろ見覚えはある。


「材料はこれからとってくるから、お前らその間に火を熾しておいてくれ」

 そう言うとテラは生徒たちに背を向けて、海へと歩いていく。


「えっ、何、これからバーベキューでもするの……?」


 そうとしか言いようのない道具一式が置かれているので、まぁそうなのだろう。


 ちょっと先生ー!? とまだ見えている背に向けて声をかけた生徒もいるが、しかしテラが振り返る事はなかった。


「材料、とってくる、向かう先は海……えっ!?」


 なんとなくこれからの展開に想像がついて、ウェズンもまたテラを呼び止めるべきだろうか、と一瞬悩んだが結論が出るよりも先に、テラは歩いていた速度を徐々に上げて小走りから今では完全に走っているとしか言えない速度で海へ向かって――跳躍し、そしてざぱぁんと飛沫を上げて海へと飛び込んでいった。


「魔術とかではなく、まさかの素潜り……?」


 先程までの作業疲れでまだ完全に頭が働いていないせいか、状況を理解するまでに時間がかかっているのは明らかだった。

 というか、その方法で本当に材料調達できるものなの……? と疑問に思う生徒たちではあったが、それはそれとして言われるままに各々が準備を始めて火を熾し始める。


 仮に何も調達できなかったとしても、テラが戻って来た時にこちらの準備が一切整っていなければそれはそれで何か言われると思ったので。

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