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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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終わりが見えない



「うああああああもうやってられっか毎日毎日莫迦みてぇにくっそ細けぇ魔法陣追加で描かされてよぉ! そりゃ絵とか! 図柄とか! 描くのそこそこ得意とは言ったよ!? けどだからってこれはないんだわ!

 眼精疲労きついし手とか何もしてないのにガクガク震えてくるし何これ別に怪しいお薬とかやってもいないのに! のに!! あーもーやだあああああああああ!!」


 両手で目のあたりを覆いながら叫び、地面をゴロゴロとルシアが転がっている。


 右に転がったかと思えば左に転がっているので、叫びながら移動しているわけではないがそれにしたって誰がどう見ても限界であるのは明らかだった。


 光を放つ魔法陣にサラサラと何らかの粉末を注いでいた生徒はそんなルシアを見ながら、

「そんな大きな声出せたんだ……」

 とどこかぼんやりしながらも感心していた。

 ちなみにその生徒の目の下にはドギツイ隈が存在している。


 魔法陣に注いでいく素材の効果を更に上げる役目を果たす魔法薬を精製してばかりなせいか、目を閉じてもその作業が目に浮かぶ事で寝ても覚めてもずっと同じ物を見ている気がしてきた結果である。

 正直ずっと同じ作業やってるの飽きるよなぁ、とか思っていたけれどしかしでは代わりにルシアの作業と交代しろと言われたら流石にそれはイヤすぎるので、ならばと文句も言わずに延々と粉末を精製していたがふと周囲を見れば案外ほとんどの生徒が限界を迎えつつあった。


 休みなく働いているわけではない。

 休憩は取れている。勿論食事だって。

 だがしかしやる事が多すぎるのだ。

 正直担当区画が振り分けられているからこの程度の地獄で済んでいるが、もしこの島全体を担当にされていたら間違いなくもっと凄惨な地獄が形成される。

 振り分けられている部分だけでもこれだけ修羅場になっているのだ。他の区画はどうなっている事やら……


 他の区画に下手に足を踏み入れて折角仕掛けた罠を発動させるわけにもいかないので、彼らは決まったルートしか歩かない。一応どこそこに罠を仕掛けていますよ、という連絡はされているけれど、疲れ切った頭にそれらの内容が入ってくるはずもない。だからこそ近道などせずに来た道を律義に引き返しているのである。

 それが多少なりとも時間の無駄になっていると言われれば否定はしない。だがしかし、うろ覚えの他の区画の罠を回避して移動できるかと聞かれれば自信なんてこれっぽっちもない。下手に引っかかって怪我をする程度で済めばいいが、万一死んだらそれこそ笑い話にもならないし、人員が減れば他の者の負担が増える。

 安全策第一でいくならちょっと移動時間が増えるくらいは許容範囲である、とほぼ全員の中で決定されてしまっていた。


 当初、更地にされてすっかり見晴らしがよくなっていたウェズンたちクラスの担当区画は、今ではそれなりに形になってきた要塞がどどんと存在感を主張していた。


 というか、外側だけならむしろ完璧に見える。だがしかしあくまでもガワだけで中身はさっぱりであった。

 中とか必要な道具を運び込んだりして設置するものなのでは? と思っていたが中身も外観と同じように作っていくらしい。

 へー、魔法ありきの世界の物作り事情とかさっぱりなんだな……とウェズンはサクッと受け入れる事にした。下手にあれこれ突っ込んでじゃあ魔法なしでやるか? なんて言われても労力が増えるばかりで減る事がないのは明らかなので。

 むしろ外観だけほぼ完成している要塞を、魔法なしでこれだけの物を作れと言われていたら間違いなくサマーホリデー期間に終わるはずがない。それだけはウェズンも断言できた。


 連日交代で休みを取ったりしていたけれど、それでも本当に期間内に終わるかどうか疑わしくなってきたぞ……? という危機感によってクラスメイト達は空いた時間があればそれぞれ自主的に作業をしていた。

 たかが学校の催し物であるなら、別に最終的にちょっとくらい手抜きな何かが仕上がっても、時間内目一杯頑張りました! と言い張ってしまえばいい。

 だがしかし、ここでそれをやるのは悪手であると誰もが理解していた。


 これが本当に単なる学園祭のようなお祭りイベントであるならば、手を抜けるところはそれこそ抜いただろう。それが許されるものであるならば。


 だがここでそれをやれば後々困るのはこちら側である。

 あえてこの交流会に参加を決めた勇者側の生徒たちをいかに減らすか。それで今後が決まると言っても決して大袈裟な表現ではないのだ。

 それに、ここで温い結果しか出せなかったら来年はもっと侮られる。

 去年こいつらロクな出来じゃなかったし今年も余裕余裕♪ なんて感じで押し寄せてくる可能性はとても高かった。

 勿論今年そうやって油断させて来年一網打尽にする、という作戦がないわけではないが、果たしてそれが本当に有効であるのか。成功する確率はどれくらいなのか。そこら辺を考えるとあまりにも博打が過ぎた。

 それにテラに確認をとってみれば、そういう一年越しの作戦やった奴は既に存在しているし、だからこそ去年しょぼかったという感想を持たれているなら今年はもしかしたら、と逆に警戒されている可能性が高いとも言われてしまった。

 前年度の様子だとかを連絡しあえるのであれば、傾向と対策だとかも勿論出されているだろうし、そうなればそこであえて油断するのは余程自分の実力に自信がある奴か、余程の馬鹿かだ。


 そんな話を聞いてしまえば、ちょっとくらい手を抜いたって……と思えるはずもない。

 むしろ何が恐ろしいかって、全力で作ったにも関わらず今年は随分しょぼかったな、来年に向けての布石か? なんて更に警戒される場合である。

 こっちはこれが全力なのに来年は更なる何かを想定されて警戒されて初っ端からクライマックスのノリで全力でやってこられたらたまったものではない。


 そんな最悪の想像をしてしまうと、ちょっと手を抜いても大丈夫だよね、とはとてもじゃないが思えるはずもない。ウェズンたちのクラスだけではない。他のクラスの生徒たちも同じような感じで空き時間は全て島の改造に勤しんでいた。


 例えば、前年度の参加者が全員死んでいるとかであれば去年の様子を聞こうにも……という事になりえるが、まぁそういった事実はないらしいので。

 とはいえ、根を詰めすぎて精神に色々限界が訪れているのは否定できなかった。


 正直ウェズンもここ最近ちょっと日付の感覚がなくなりつつあったので。

 あれ? 今日って何日? とかそういう風にちょっとでも思えばまだマシな方だ。

 毎日毎日馬鹿みたいに面倒な作業が続くせいで、もしかしてサマーホリデーって終わりのない罠か何かなのでは? とか思い始める始末。


 終わらない夏休みとか言葉だけ聞けばとても魅力的なのに、しかし実際はいい加減終わってくれと思う地獄のようなナニカ。

 建築素材に関してやたら詳しくなったけど、将来これが何の役に立つのか、と聞かれればちょっと言葉に悩む。建築関係の仕事に就くならこの夏でとても有意義な経験を詰めましたとか言えるけれど、そうじゃなかったらひたすら無駄知識を詰め込んだだけである。


 将来的に自分の家を新しく建てる、とかであれば素材にこだわりたいとかである程度役に立つかもしれないけれど、間違いなくこの場にいる全員が役立てる事ができる知識かと言われれば、まぁ、そうとはとてもじゃないが言い難い。


 つまり何が言いたいかというと、だ。


 いい加減生徒たちの精神は限界に近づいていた。


 そもそも少し前からルシアは限界を訴えていたのだ。目が疲れるだとか、手が痛いだとか、結構頻繁にグチグチ言っていたし、確かにちょっと見ただけでも素人が気軽に手を出していいようなものじゃない図形というか魔法陣を延々描かされていたのだから、言い分としては理解できていた。

 だが、そこまで深刻に捉えられていなかったのもまた事実であった。


 普通さぁ! こういう精密な図形ってもっとこう、複数名で担当して描くべきじゃないのかなァ!? なんて叫びも聞こえてきていたが、あまりに細かすぎて手を出せる生徒の数が極端に少なかった。

 雑に描いて失敗されるよりは、出来る者たちだけでコツコツ描いた方が明らかに無駄な時間を消費しなくて済むのだ。その分できる者たちに負担がかかるのは言うまでもない。


 そしてその結果、いよいよ限界に達したルシアの魂からの叫びである。


 髪や服に砂だとか土だとかがつくのも厭わず――冷静になったら後悔しそうであるが――ひたすら内に溜め込まれていた不平不満を吐き出すように叫んでは転がるルシアをその場にいた生徒たちはただひたすらに死んだ目で眺めていた。


 元気だなぁ……そう思ってもそれを声に出す者はいなかった。いや、声に出せる程の気力がなかった、と言うべきだろうか。ただ、作業をしなくてはならない、と思いながらもルシアがこんなんなので彼が落ち着くまでは、という名分でもって一同は作業の手を止めてただルシアを眺めていた。

 正直異様な光景である。


 一歩間違えたら生贄に選ばれた一名が駄々をこねてるのをじっと見ているそれ以外、という光景に見えなくもない。


 ぎゃんぎゃん喚いていたルシアであったが、しかし突然黙り込んだかと思うとそのまま動きを止める。

 ぱた、と腕が地面に落ちて、それきり動かなくなったからか突然訪れた静寂はこれまた異様な雰囲気に感じられた。


 あ、力尽きたな、とか思う間もなく。



 おびゃああああああああ!


 という叫びが今度は別の場所から聞こえてくる。

 つい今しがたの騒音はルシアが発生源であるとわかっていたから別段驚く事もなく皆死にそうな精神でそうだよねわかるわかるー、とかまだ暴れる余裕があるなら元気だなとか各々思いながらも眺めていたが、この叫びは別の担当区画から聞こえてきた。

 そのせいで何の心の準備もされていない面々は何事かと驚いて――しかし驚いたというリアクションをする気力もないせいか、ほとんどの生徒は無表情無反応のままである――数秒経過してからのろのろと音が聞こえたであろう方向へ視線を向けようとした。


 みょああああああ!


 再び聞こえる奇声。先程のとは別の声。そして聞こえてくる方向も違う場所からだった。


 一体何事だと思いながらも、しかしそれを口にする元気もない。だがしかし、何となくではあるがこの奇声の原因に薄々彼らは気付き始めていた。


 何もウェズンたちのクラスだけではないのだ。罠を仕掛けているのは。

 レイの発案でここの区画に要塞を作るなんて事になって、そりゃもう面倒極まりない事になってはいるが、しかし他のクラスだって手の込んだ罠を仕掛けたりしているのだ。


 割と限界が訪れていたそれぞれの区画の生徒たちの中には耳の良い者もいるだろうし、そういった者がルシアの叫びを聞いてそれに連鎖するような形で発狂したのであれば。


 先程の奇声は更に他に飛び火するのでは……?

 なんて思い始めたわけだが。


 その予想は正解ですと言わんばかりに他の場所からもちらほらとなんとも言えない奇声が響いてくる。


 そっかぁ、限界なのってうちらだけじゃないんだぁ……なんて部分で共感したものの。

 結局のところ何の解決にもなっちゃいなかった。

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